“時代が求めていた歌声の持ち主”、シンガーソングライター・荒谷翔大が、7月19日、東京・BLUE NOTE PLACEにて、「ひとりぼっちツアー」ファイナル公演を開催した。本ツアーは、2024年4月よりソロアーティストとして活動をスタートした荒谷にとって、初の弾き語りツアー。6月6日の地元・福岡come es公演を皮切りに、全国16ヶ所にて、弾き語りならではの真っ直ぐな歌が届けられた。

東京公演の会場は、食事を味わいながら生演奏を楽しめるBLUE NOTE PLACE。ステージとフロアが比較的近い会場であるが、その特性を活かすように、荒谷は一人ひとりと心の距離を縮めるステージを繰り広げた。

登場するやいなや、すでに食事を楽しみ始めているオーディエンスに向かって、「みんな楽しそうやな。美味しそうに食べよるなあ」と福岡弁を交えたフランクな言葉で、笑い声が起きるくらいの和やかなムードを一瞬にして作ってみせた。そんな挨拶をしながらギターを掻き鳴らし始めて、そのまま歌ったのは“caffè e llatte”。まるでエスプレッソとミルクが混ざるラテのように、食事と音楽、会話と歌、そしてオーディエンスと荒谷が、自然と混ざり合っていくような始まり方だった。

2023年12月に4人組バンド・yonawoを脱退後、“ひとりぼっち”で歌っているように、荒谷は〈倒れても足掻いても馬鹿にされても〉、ひとりで世間からの期待も批判も背負いながら自分の歌を届けることに懸けてきた。そして弾き語りツアーの16公演を経験した今、荒谷の歌はますます研ぎ澄まされている。彼が敬愛する玉置浩二や、この日ステージ上でも名前が出た尾崎豊や井上陽水のような、大衆の喜びも寂しさも受け入れるような深い器が熟しつつある。

1曲目“caffè e llatte”から、歌声だけでグルーヴを生み出す表現力を発揮。それでいて、間奏などはとびっきりの笑顔で人懐っこさを放出するのだから、荒谷翔大という存在やその歌に魅了される。2曲目“雨”では、低音を重たく響かせた色っぽい歌声で新宿の情景を浮かび上がらせた。囁くような声や、心の底から訴えかけるような声を交ぜながら、混沌とした都会に呼び寄せられた人間の複雑な心情を描いていた。

続けて「福岡の曲をやります」と、yonawoの“天神”を弾き語りで届けた。〈誰かが君を罵ろうと/誰かが君を裏切ろうと/そっと貴方を褒め称えよう〉という歌詞が、荒谷から聴き手に対する優しい言葉のように聴こえてきたかと思えば、福岡弁の「よか」をスムースなメロディで繰り返しながら「だいじょうぶ」「おつかれさま」と温かく伝えてくれる“よか”へ。

その後、荒谷はグランドピアノの前に座った。ここまでの「ひとりぼっちツアー」公演はギター1本で回り、ピアノ演奏を披露するのは今年4月にBillboard LIVE TOKYOで行ったライブのアンコール曲以来。歌い始めたのは、椎名林檎“丸の内サディスティック”のカバーだ。一つひとつの言葉を丁寧に表現する荒谷の歌を通して、改めてこの曲の歌詞の凄味を思い知る。そして、ピアノ弾き語りで“Focus”。ここまでは、会場のある恵比寿から、音楽の中で新宿、天神、御茶ノ水、銀座、後楽園、池袋、表参道とトリップするようなセットリストだった。そのあいだステージの向こう側に窓越しで見える景色はだんだんと暗くなり、夜の世界へと突入した。

休憩を挟んで後半は、“らぶ”からスタート。“らぶ”は、「心もとないときも、嬉しいときも、帰る場所があるって素敵だなと思う。そういうふうに帰ってこられるような、おうちのような歌があったらいいなと思って作った曲」だという。その前には「みなさん、お元気ですか?」と挨拶をして、一瞬の間のあとに「井上陽水さんみたいだな」と自分でつっこみ、大好きな曲だという“リバーサイド ホテル”を口ずさむシーンがあったことも書き記しておきたい。

人はみな傷を抱えていて、孤独であるが、それでも分かち合えたり愛を感じられたりする瞬間を得られる人との出会いを求め続けている――“らぶ”は、そういった荒谷の音楽の核が見られる一曲だ。そのあと歌った“涙”は、ソロとして出発する際にリリースした曲。自分が感じたことや見たものを偽りも誤魔化しもなく音楽に昇華し、誰かの孤独や愛、つまりは生活に密着する歌を届けたいという、彼の想いが存分に乗せられているように思う。〈ほんの少しだけ/おれにくれないか?/その涙の訳を〉〈この声が/遠くまで 届くまで/君のとこまで〉と、この声を通して、誰かの涙を受け入れると同時に自分の心も潤すために、出会うべく「君」と出会いたい、という想いまでが聴こえてくるようだった。

そのあとは、ノスタルジーを感じさせる匂いが立つ2曲が続いた。まずは「ここの雰囲気に合うんじゃないかな」という理由から、荒谷が大好きな尾崎豊の“ダンスホール”カバーを披露。そこから“ピーナッツバター”を、ロックやブルース色を加えるような弾き語りアレンジで演奏した。

再びグランドピアノの前に座ると、沢田研二の“TOKIO”の一部をものすごく楽しそうに弾いてみせた。このあと演奏する“tokyo”(yonawo feat. 鈴木真海子、Skaai)と“TOKIO”をマッシュアップできることに、ツアー中に気づいたそうだ。2020年代シティポップを代表する曲に“TOKIO”を忍び込ませてみたり、ロングトーンを響かせたりと、アレンジを加えたこの日限りのピアノ一本の“tokyo”はあまりに特別だった。

最後は「真夏にぴったり」である最新曲“真夏のラストナンバー”をピアノバージョンで演奏。映画のストーリーに没頭してしまう感覚に似た引力があり、アウトロはまさに映画のエンドロールのような壮大さと切なさを伴って聴こえてきた。

アンコールに呼ばれて再びステージに上がった荒谷は、まずは会場中一人ひとりの顔を見渡した。そして、“ひとりぼっち”でクライマックスを迎えた。この日のように、歌も演奏も繕わず丸裸にして、自分の心を乗せた音楽を大切に受け取ってくれる人との距離を縮めたい、という荒谷の想いがたしかに伝わってきた。そしてもう1曲、まだリリースされてない新曲も届けられた。観客全員が初めて聴く状態であったにもかかわらず、2番の途中から自然とクラップが湧くほどのキャッチーさがある一曲。J-POPの系譜を踏んだ、荒谷にとって新基軸を打ち立てるようなポップスだ。荒谷いわく「もうすぐ出せそうなので楽しみにしていてください」とのこと。

11月には、東京・代官山UNIT、大阪・心斎橋JANUS、名古屋・新栄Shangri-Laを巡る、バンドツアー「ONE MAN LIVE TOUR 2025 “Last Number”」を開催する。荒谷翔大はまた、その“時代が求めていた歌声”を通して、目の前にいる一人ひとりを大きな愛で包み込むのだろう。



テキスト:矢島由佳子

カメラマンクレジット:Toyohiro Matsushima (松嶋豊裕)

SET LIST

1. caffè e llatte

2. 雨

3. 天神

4. Yoka

5. 丸の内サディスティック(cover)

6. Focus

7. らぶ

8. 涙

9. ダンスホール

10. ピーナッツバター

11. tokyo

12. 真夏のラストナンバー

ENひとりぼっち

EN未発表曲

ONE MAN LIVE TOUR 2025 “Last Number”
11月10日(月) @ 代官山UNIT (東京) 開場18:00 開演19:00
11月21日(金) @ 心斎橋JANUS (大阪) 開場18:30 開演19:00
11月22日(土) @ 新栄Shangri-La (愛知) 開場17:30 開演18:00



*チケットオフィシャル二次先行受付(先着) 7月31日(木)12:00〜8月10日(日)23:59
https://w.pia.jp/t/aratanishota/

〈LIVE〉
7月26日(土) 新潟 JIM BEAM SUMMER FES 2025 in NIIGATA
8月16日(土) 福岡 PRALIVA 6CKIN’ LIVE【solo set】
8月18日(月)-19日(火) 東京 CUEW SHOWCASE & CONFERENCE TOKYO 2025 SUMMER【solo set】
8月28日(木) 東京 LUCKY TAPES × 荒谷翔大
9月7日(日)愛媛 荒谷翔大 live at Monk【solo set】
9月13日(土)-14日(日)香川 shima fes SETOUCHI 2025 〜百年つづく、海と森の音楽祭。〜【solo set】
9月27日(土) 福岡 Buzz Dream FES 2025【solo set】
9月28日(日) 長野 りんご音楽祭2025
11月16日(日) 和歌山 PICNIC JAM【solo set】

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