「カク云ウボクモ」は、柄本主演で森山が兄弟役として出演した、阪神淡路大震災時に被災者の“心のケア”のパイオニアとして奮闘した精神科医の姿を描いた2020年放送のNHKドラマ「心の傷を癒(いや)すということ」を映画化した2021年1月公開の『心の傷を癒すということ <劇場版>』主題歌として配信リリースされた。
自身の出演作に初めて書き下ろし楽曲を提供した森山が紡ぐ「カク云ウボクモ」は、ストーリーに寄り添う歌詞と美しいサウンドに、優しい歌声を乗せた楽曲。
今回のリリース記念イベントでも仲の良さを見せるふたりは、柄本が出演していた2014年放送のフジテレビ系ドラマ「若者たち」の同名主題歌を森山が担当したことから続く縁だという。
森山の依頼によって「カク云ウボクモ」のミュージックビデオを撮影することになった柄本は半年をかけて「冬篇」と「春篇」の2バージョンを制作したが、その撮影はなんと全編スマートフォンでおこなわれたという。
この日のイベントで、柄本は「この曲を聴くと手の届く範囲の小さな幸せのことを思った。日常生きているなかで、僕が感じた光のきれいさ、花が咲いていることなどの一瞬のきらめきをそのときにカメラでまわしたものを編集して、この歌にのせれば、この曲を聴いた人たちも幸せになっていけば」という願いをMVに込めたと語った。
森山は「佑くんの日常や息づかいが感じられる作品なので、初公開できるこの日をずっと楽しみにしていた」と、披露する日が待ち遠しかった、同作は森山から柄本に対する恋文なのだと明かした。
さらに「ファミリーの雰囲気も似ている」と柄本に親しみを感じる森山が、しかし「その環境を選んだ自覚はないし、根っこは知っているけれどもっと奥の根っこは知らない」と自身が存在する意義、ルーツへの思いを吐露。そんな森山だけではなく、「みんなあまりルーツを追求しないから、無意識で感じることや輪廻の共有を音楽で表現できればという想いで作りました」と、楽曲の制作秘話を語った。
そして「カク云ウボクモ ~冬~」のMUSIC VIDEOを公開。すっかりくつろいだ様子の森山、柄本、クリスの3人。森山は「通り過ぎてしまいそうな景色をあえてカメラにおさめていて。感情は言葉にできないこと、でもみんなが知っているシーンでもあり、なんでもない時間や他愛のないひとときの積み重ねが人生。その心理がそこにあるから、この作品は柄本 佑さんが最期に見る走馬灯だと思う」と話し、会場の笑いを誘った。
続いて「カク云ウボクモ ~春~」の初公開。森山は「春篇と冬篇のどっちが好きかと聞かれたら、50.5対49.5ぐらいの僅差で春が好き」と話し、柄本は「上に向かって手を伸ばす最初のシーンが好きだ」とし、「春篇と冬篇と観てみると、観終わった後の余韻がちょっとずつ違う」と感想をのべた。
MVの注目ポイントとして、森山は「最後に佑くんが車に乗って頭を触るところがすごい好き」と告白しつつも、そのシーンについて「あとから聞いたんだけど、<チュルル チュルル>と歌うところを佑くんもつぶやいてくれるかな」と思っていたと語り、でも一見それがわからないため、「よーくあのシーンを観るとかすかに<チュルル>みたいなことをやっている」と、見どころをアドバイス。
あまりにもさりげなく口ずさむシーンだけに、一度観ても気づかなかったり、そのシーンを探したりしたい人は、この注目ポイントをじっくり観察してみるのもいいかもしれない。
そして、柄本は歌手としても活動し、いきものがかりの水野良樹が主催する5人の作家、5人の歌い手、5人の音楽家がそれぞれ5つの歌と小説を生み出す「OTOGIBANASHI」という企画に参加したという話題へ。
水野が作曲、重松 清が小説『星野先生の宿題』と作詞、トオミヨウがアレンジャーを担当した楽曲「ステラ2021」を柄本が歌唱。10月27日から配信、28日から小説と楽曲を楽しめるCD付属の書籍が発売される。
また、森山は「カク云ウボクモ」の他にも、現在放送中のテレビ東京系ドラマ24「スナック キズツキ」のエンディングテーマ「それは白くて柔らかい」を担当し、12月28日開幕の「第100回全国高校サッカー選手権大会」の応援歌として上白石萌音が歌う「懐かしい未来」の作詞作曲も務めている。
さらに、2020年より始動した公益社団法人日本芸能実演家協議会による「JAPAN LIVE YELL project」において、リアレンジされた森山の楽曲「花」が起用され、自身も出演するウェブムービーも公開中だ。リリースが続く森山は「ぜひ情報をキャッチしてください。よろしくお願いします」とカメラ目線でそう告げた。
この日のイベントを締め括るのは、「カク云ウボクモ」の生歌唱だ。ここで森山のライブではお馴染みのギタリスト、西海 孝が登場。そこで「クリスさんの家でパジャマパーティしているような気分」というぐらいリラックスした森山から、「せっかくなので」と、ラジオ番組での曲紹介のようにと頼まれたクリスが曲振りする。
ソファに座りながらハンドマイクで歌う森山と、西海が奏でるアコースティックギターの音色が、会場を染め上げていく。
「人前でマイクで歌うのが久しぶりで。ちょっとマイクをまわしちゃった」とおどける森山。クリスからも「マイクさばきが素敵」と拍手が。続いて、「もう1曲どうですか?」と勧められ、「花」を歌唱。場内そしてYouTubeを通して、視聴するファンひとりひとりに、しっかりとその歌が届けられた。
そばで森山の歌を聴いていた柄本は、「贅沢なものを見せていただきました。幸せでした」と話し、クリスも「いい時間をありがとうございました」と述べた。それぞれが「名残惜しい」と口にするなか、配信終了の時間となり、後ろ髪を引かれながら「さよならー!」と手を振る3人。
2022年でデビュー20周年を迎える森山の、これからの幅広い活動がさらに楽しみになる、スペシャルな一夜だった。
(おわり)
取材・文/かわむらあみり
写真提供/ユニバーサルミュージック
構成/encore編集部