愛とは何か?を追求しだすと、話はつい難しくなってしまいがち。
しかし、その根底にある“好き”という気持ち自体はとてもシンプルで、誰にとってもわかりやすい。
今年で結成27周年を迎えたうえ、6月にはシングル『愛の唄』で3度目のメジャーデビューを果たしたMUCC。
彼らは現在、今年初のツアー[MUCC TOUR 2024「Love Together」]で全国をまわっている最中となる。
ちなみに、今回のツアーはキズ、NoGoD、甘い暴力、vistlip、ΛrlequiΩ、DEZERT、JILUKA、MAMA.、CHAQLA.といった後輩たちが各地にてサポートバンドとして共演するものとなっており、このたび東京キネマ倶楽部での2デイズ公演にてその任を果たすことになったのは色々な十字架だった。
「歌詞とかむちゃくちゃ面白いけど、演奏はめちゃうめーじゃん。そこなのよ。いやー、色々な十字架はほんとに選んで良かった!
まぁ、僕がただ好きでファンだったっていうだけなんですけど(笑)。今の時代に必要でしょ。こういうバンドは」(ミヤ)
音に対してとにかくシビアなことで知られている、MUCCのリーダー・ミヤにのちの MCでここまで言わしめた存在だけあって、色々な十字架はイマドキの流行りとは一線を画するやけに耽美な音と、不条理かつシュールな歌詞で受け手に困惑とヤミツキ感を同時に与える不可思議な魅力を持ったバンドと言えようか。
まさに“嘘から出たまこと”の言葉よろしく、ソロミュージシャンのティンカーベル初野が2020年のエイプリールフールにネタとして企画した90sV系リヴァイヴァル・バンドとしてスタートした彼らは、その楽曲クオリティの高さが方々で絶賛されたことを受け活動続行を決定。
それでいてメンバー5人のうち、tinkを含めた3人は今現在も社会人としての仕事をこなしながら有休休暇をフル活用して地道に音楽活動を続けている、という点が堅実で素晴らしいではないか。
かくして、この日の彼らはDay1の7月26日がミヤの誕生日だということで、まずは舞台上のスクリーンに“Happy Birthday ミヤ様”と映し出しつつ、スティービー・ワンダーの「Happy Birthday」にあわせてスキップをしながら颯爽と登場することに。
最高にトンチキな歌詞(褒め言葉)たちを、過剰なほどにV系らしく歌いあげるtink。
ノスタルジー漂うクリーントーンのアルペジオを得意とするロリータ系女形の風体とは裏腹に、エンジニア兼作詞作曲家としての顔も持つkikato。
ソリッドなカッティングから、エモいフレーズまで表情豊かに弾きこなすtacato.。
曲ごとorセクションによってピック弾き、フィンガリング、スラップを自在に使い分けるmisuji。
パワフルで頼もしいだけではなく、繊細な歌心をも感じさせるリズムワークでサウンドの土台を固めるdagaki。
とはいえ、ライヴの途中には不意の謎茶番劇(褒め言葉)を織り込んでくるところも色々な十字架の世界を楽しむ醍醐味のひとつで、この日は「機械じかけの変態~ラケット女王様~」にてmisujiとdagakiがバドミントンラケットを手にし、楽器演奏は敢えて放棄した状態で2.5次元ミュージカル的パフォーマンスを展開する、という一幕で我々を楽しませてくれた。
この類いのエンタメ要素はワンマンでの方がより色濃くなるため、来る11月23日に決定している4thワンマンライヴ[車の上にスノボとかサーフィンの板を乗っけられるようにしてある車]で、ぜひみなさまには色々な十字架のフルコースをとくと味わい"しし者†"となっていただきたい。ちなみに、会場は今回と同じ東京キネマ倶楽部也。
「さぁ、今日のセットリストは攻撃力が凄いぞ!」(逹瑯)
「今日は20年ぶりにここでライヴします。ってことは、壊しに来ました!!いいか、夢烏(MUCCファンの総称)ども!!!」
ミヤによるアグレッシヴなヴォイシングが映えた「睡蓮」で口開けし、逹瑯が履いていた靴を脱ぎすてて裸足になってから歌いだした「娼婦」では、早々にフロアでモッシュとリフト~クラウドサーフ(コロダイ)といった現象が発生。
そうした状況を受けつつ、3曲目の「茫然自失」に入る直前に逹瑯とミヤが前述した言葉を客席に向けて投げ掛けたのはある意味で当然のことだったのかもしれない。
なお、このときMCでミヤは“20年ぶりに”と言っていたのだが、公式サイトに掲載されているバイオグラフィによると厳密には2005年6月9日「ムックの日」に、新宿アルタ前ステーションスクエアにて18:09よりDVD6,969枚を無料配布するイベントを行ったあと、同日21:06より東京キネマ倶楽部で公演をしたとの記載があるため、言い方としては“約20年ぶり=19年ぶり”というのが正しかったことになる模様。
なんでも、MUCCは2004年の6月9日にもアルタ前でのライヴをしていたそうなので記憶が混同していたのだろう。
些細なことではあるものの、念のためここでは情報を整理しておこうと思う。
ところで、MUCCにとっての最新シングル『愛の唄』をライヴで聴かせていくのにあたって、その前の「サイレン」のエンディング部分にあたる歌詞を〈愛に死のう〉ではなく〈愛の唄を〉と逹瑯が歌い替え、そこから実際に「愛の唄」へと繋げてみせるくだりがツアー初日同様に踏襲されていた点はやはり印象的で、音像の面でもミヤのランディーVシェイプのギターが放つ太く歪んだ波動、YUKKEの貫録あるプレイから生まれる気怠い空気感が、ますます曲中に漂う澱んだ色気をブーストしていたと言っていい。
這うような動きをみせながら、逹瑯が〈君に跪いた〉と歌い綴った場面も初日と比べてさらに“得も言われぬ圧”を生みだしたていたように感じられた次第だ。
演出的な面では、この「愛の唄」から最新シングルのカップリング曲「Violet」まで計4曲の間は、[MUCC TOUR 2024「Love Together」]のためだけに特注されたのであろう、レトロなネオンサインがムーディな色合いで光り続けるところも特徴的で、現代的LEDサイネージとは全く異なる趣というものがそこには在った。
そもそもシングル『愛の唄』は1990年代をモチーフにつくられた作品であるというだけに、こうした見せ方にもしっかりとこだわるMUCCというバンドの姿勢は、それこそ本当の意味で“ヴィジュアル系”然としていて実にカッコいい。
「先ほどは色々な十字架を観させていただいたんですが、ほんとに思ったのが「ヴィジュアル系っていうジャンル、懐が深けーな」っていうことでした。
あらためて素晴らしいカルチャーだと再認識しましたよ。これはうちらもますます迷走し甲斐があるな、と思いながら観てました(笑)。
ありがとうございます。で、色々な十字架のファンの人のことはなんて呼ぶんだっけ?あぁ、"しし者†"ね。じゃあ、今日のライヴではその方たちも含めてみなさんに思い切りヴィジュアル系を楽しんでいただきつつ、うちのリーダー・ミヤの誕生日ということでミヤにも心の底から楽しんでもらいたいと思ってます!」(逹瑯)
ここからの本編後半では、YUKKEの鳴らすベースがうなりまくった「塗り潰すなら臙脂」、逹瑯が「久しぶりの曲やろうか」と前置きしてから演奏を始めた「オルゴォル」や、ミヤが突然のギタートラブルをものともせずハジけ切った「前へ」、そして2015年に発表されたミニアルバム『T.R.E.N.D.Y. -Paradise from 1997-』に収録されていた「TONIGHT」が奏でられることにより、再度このライヴ空間は1990年代へとタイムワープすることに。
昭和の頃にグランドキャバレー・ワールドとして営業していた時期もあった東京キネマ倶楽部は、古めかしい内装がそのまま残っているため懐かしい時代感を漂わせた楽曲が格別に似合うのである。
ただ、今宵については何時までもそうした余韻にひたっているわけにもいかなかった。何故なら、アンコールでは予想以上の事態が待ち受けていたから。
まずは、最初にミヤが記事の前半に書きだしたような「色々な十字架に対する気持ち」を吐露したあとに、逹瑯が合流して今度は色々な十字架の「TAMAKIN」という曲の歌詞内容についてふたりで考察談義を開始。
タイトルがタイトルだけに多少の下ネタもまじえることになったとはいえ、ふたりが必要以上?とも思われる深掘りをしていると…
「パパー!お誕生日おめでとう!!ボクお祝いに来たよ!!!」 という声をあげながら、チャッピー・ラビット(ミヤ考案ムックランド公式キャラクター。CV:YUKKE)がステージへと乱入。
2023年のFC旅行やミヤ誕生日ライヴに登場し、最近ではFCアプリコンテンツ『チャッピーTV』でもお馴染みのチャッピーは、なんとこの日“保育園で出来た新しいオトモダチ”として竜の姿のりゅうくんをミヤに紹介することになったのだが、どうもミヤはそのりゅうくんの“中身”が気になる様子。
「なんかヘンなオーラを感じる。もしかして先輩???怖いんだけど(苦笑)」(ミヤ)
しかし、逹瑯はかまわず場を進行させ[MUCC TOUR 2024「Love Together」]恒例のアンコールセッションをすべく、色々な十字架からtinkとdagakiを召喚。
「色々な十字架って、スタイル的にはどのバンドに1番影響受けてんの?」(逹瑯)
「90年代リヴァイヴァルと掲げてるんで、トップに来るのはLUNA SEAさんで、僕らにとってはロールモデルですね。曲とか出で立ちとか学ぶことが多いです」(tink)
「だよね。俺、初めてライヴ観た時「令和のLUNA SEAだ!」って思った」(YUKKE)
「それは、さすがにSLAVEとかLUNA SEAに怒られるだろ(笑)」(逹瑯)
「いやでも、りゅうくんが「怒んない、怒んない」っていう感じのジェスチャーしてるよ!」(YUKKE)
「は?なんで??隆一さんが入ってるわけないよね???」(ミヤ)
にわかに会場内がどよめき出したのを確認したYUKKEが、次に発した言葉はこれだ。
「じゃあみんな、ここでりゅうくんの声聴きたい?しゃべれないけど、お歌は得意なんだって!ではどうぞ!!」(YUKKE)
おもむろに、りゅうくんが歌いだしたのは保育園児でも知っている方の「Happy Birthday」で、声色はかなりのRYUICHI風??
さくっとタネアカシをしてしまうと、ぬいぐるみの中に入っていたのはモノマネ芸人・たむたむ氏。
「ミヤ…誕生日おめでとう(RYUICHI風口調)」(たむたむ)
「うわー。俺、おんなじ動画を何回も観ちゃうくらいたむたむさん大好きなんだよ。俺がたむたむさん好きだって知ってたの?!」(ミヤ)
「わかるよー、なんでも(笑)。半年前にこのライヴが決まった時点から、たむたむさんにオファーしてたの(笑)」(YUKKE)
このあとにはお約束なケーキとの記念撮影をはさみ、逹瑯とtinkとたむたむ氏がMUCCの「最終列車」を歌うというサプライズが実現。
ミヤ情報によると、ドラムを叩いたdagakiは学生時代にこの曲をコピーしていたそうで、
逹瑯は「リハの時からめちゃめちゃちゃんと叩けてたよね!」と太鼓判を押していた。
くわえて、たむたむ氏の歌唱がRYUICHI風のクセツヨであったことは言うまでもない。
「今日は最高の45歳、初日になりました。ありがとうございます!25周年を終えて次のスタートを切ったところなんですけど、今回“Love Together”を始めてからいろいろまた新しいところに火が灯った感じがしていて、その火を絶やさないようにこのまま来年再来年、そして30周年に向けて楽しんでいけそうな気がしてます!だから、またヘンなこととかやるかもしんねーけど付いてきてくれよ!!」(ミヤ)
最後の最後に選ばれていた「蘭鋳」の曲中煽り部分で、ミヤが言っていたこの言葉を耳にしながら思ったことはひとつ。
愛とは何か?を追求しだすと話はつい難しくなってしまいがちでも、
その根底にある“好き”という気持ちに忠実であればあるほど、きっと人は幸せをたくさん味わうことが出来る。
このあと、8月10日と11日には[「Love Together」追加公演]として2デイズのワンマンライヴを控えているほか、「Love Together」がさらに発展した[LuV Together 2024]にて、アンティック-珈琲店-、キズ、YUKI-Starring Raphael-、lynch.が9月16日のEX THEATER ROPPONGIに一同に会する。
まだまだ楽しみなイベントが予定されている中ではあるが、このたび誕生日を迎えたミヤはもちろんのこと、我々もまた“好き”という気持ちに対してもっと純粋になって人生を思い切り謳歌した方が、愛の真実というものにも近付ける気がする。Let's Love Together, More!
MUCC TOUR 2024「Love Together」SET LIST
<色々な十字架>
1.凍らしたヨーグルト
2.蜜
3.花言葉がうまれる会
4.機械じかけの変態~ラケット女王様~
5.TAMAKIN
6.かなり耽美(仮)
<MUCC>
1.睡蓮
2.娼婦
3.茫然自失
4.サイレン
5.愛の唄
6.G.G.
7.ガーベラ
8.Violet
9.レインボー
10.ニルヴァーナ
11.星に願いを
12.塗りつぶすなら臙脂
13.オルゴォル
14.前へ
15.TONIGHT
En1.最終列車 with たむたむ、tink・dagaki(色々な十字架)
En2.蘭鋳