犬の散歩をしている人もデート中の人もランナーも、家族旅行中のインバウンド客もいる。そして空はどこまでも遠くへつながっている……3rdアルバム『Unspoiled』リリース後初、そしてリリース記念のライブは横浜赤レンガ広場でのフリーライブとなったKroi。もちろん、バンドのライブを見るために集合したファンがほとんどだが、音楽は風に乗って聴こえてくる。武道館アーティストとなり、テレビ露出などマスメディアに乗っかることが増えたKroiの次なる一手がフリーライブというのはものすごく腑に落ちる。この日はライブだけでなく、スポンサー企業のブースやフードトラックも出店し、ちょっとした夏フェス気分を味わうファンで一帯が満たされた。

意外に登場SEもなく淡々とステージメンバーが現れたものの、拍手と歓声の大きさにキャパシティの規模を改めて知る。梅雨入りしたばかりの関東地方だが、なんとか空は持ち堪えてくれたのがラッキーだ。オープナーはムーディな千葉大樹(Key)と長谷部悠生(Gt)のウワモノ隊のフレーズが夜の横浜にしっくりくるイントロダクションから、「Network」でスタート。強風でライブPAが不安定ではあるけれど、関将典(Ba)と益田英知(Dr)のリズムセクションの力量、長谷部が前方に出てのギタープレイで大いに沸く。すかさずギターからハンドマイクに持ち替えた内田怜央(Vo/Gt)が自由に動き出す「Drippin’ Desert」でも関のジャズ的なフレーズがノリを下支えしている感じだ。そして早くもニューアルバムのリードトラックである新曲「Green Flash」へ。千葉のオルガンをはじめ、全ての楽器がリフを刻むようなバウンス感が腰を揺らすファンクチューンだが、柔らかなソウルフレーバーのセクションも挟む展開がまさにKroiらしい。“思い出にならない今日の終わりに奇跡が起きたら”という歌詞の一節にも内田の意思が光る。さらにファン待望のナマ“あー、もう一回”が発された際のリアクションは「待ってました」と言わんばかりだった。

「始まりました!“Kroi Room Festival”ですか?すごい光景が広がっています」と、内田がGREEN ROOMをもじって嬉しそうにしているのも納得。街と境界線のない空間に音楽を解放する嬉しさを感じる。MCの後はニューアルバムの1曲目で挑戦的な長尺ナンバー「Stellar」をライブ初披露。肩の力の抜けたKroi流AORといった感のヴァースは夜の野外にあまりにもしっくりハマる。ゴリゴリに踊るのも楽しいが、ただ音に任せて揺れるこの曲にすでに6,000人が酔いしれているのは壮観だ。さらにライブ定番の「risk」では内田のファルセットのロングトーンが決まり、増していく熱量に沿ってライティングの光量も上がるような演出にファンの興奮もリンクしていった。すっかり音響も安定したところで、今のKroiの音楽的な振り幅をキャッチーに詰め込んだ「Sesame」がプレイされたのだからたまらない。ピアノとギターがエスニックな旋律を奏でながら、リズムはフュージョンライクな疾走感を持ち、しかもアウトロ近くになってリズムチェンジし内田のラップが呪文のように発される。渋いのにジェットコースター級の体感を与える意外性がKroiらしい。

改めてオーディエンスを一望して「何人いるの?」という内田に冷静に「5,500人ぐらい」と関が言えば、「にゃにゃ万人!」と不意に可愛くなってしまった益田にメンバーもファンも突っ込む。7万人は嘘だが、それぐらいの喜びなのだろう。長谷部は今日のライブ限定の“赤レンガ”デザインのタオルを広げて見せるが、残念ながら完売したそうだ。「Kroi単体でフェスみたいなの初めてなんで、みなさん今日は最高の1日にしてください」と優等生的発言をした内田だが、次の瞬間には「赤レンガでフリーライブやるなんて、俺らどんだけ太っ腹だっちゅうの!」と、笑わせてラテンな「Amber」に突入。益田のリムショットをはじめ、ラテンとアフロビーツを行き来するリズムに揺れるオーディエンスのスタイルは各々自由だ。終盤、メジャーキーに転調したタイミングで心地よい風が吹いたのは最高の演出だった。さらに内田のロングトーンからねちっこいグルーヴに突入した「Pixie」では無性にビールが飲みたくなる。長谷部と内田のチョーキング合戦も酒が進みそうである(妄想)。さらに歌い出し前にフェイクをふんだんに盛り込みつつ、ビートで「Balmy Life」と察したファンから起こる大きなクラップ。歯切れのいいラップにも歓声が上がり、サビの盛り上がりに接続していく。千葉のトークボックスの調子が危うかったが、その分彼のパートを1回増やして無事に達成。ステージ上手に設置されたビジョンがこの時ほど有用だった場面はない !?。端正な千葉の表情で絵が成立するパワーたるや。その盛り上がりはセッションに引き継がれ、「Fire Brain」に突入。内田のシャウト気味のボーカルがさらに熱を煽り、大きなうねりとなってフィニッシュを迎えた。

そのタイミングで花火も打ち上げられ、お祭りムードも最高潮。「今回のアルバム、自分たち的にヤバいものができたと思うので!」と、さらなる敷衍を進める内田。ラストは現状、ほぼライブでしか楽しめない「Shincha」をチョイスし、序盤で和ませながら、ところどころで再び今日のライブに感謝する言葉を挟む。「ほんとにもう1回やりたいですよ。めちゃくちゃ楽しかった!」と嬉々とした表情を浮かべる内田にオーディエンスも同調。“また一緒に踊りたーい!”と、歌詞をアレンジして再会を願う姿、優しいピアノのフレーズで締めたことにも開かれた今のKroiの人間力を見る思いだった。

メンバーがステージから捌けるとビジョンにはアルバムツアーの追加公演、そして初の海外単独公演である12月の台北、さらに2025年2月1日には過去最大キャパとなる、ぴあアリーナMMでのライブも発表された。なお、この日のライブの模様は6月29日23時59分までYouTube公開中。

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/TAGAWA YUTARO(CEKAI)

LIVE INFO

Kroi Live Tour 2024-2024 "Unspoil" at PIA ARENA MM
2025年2月1日(土)ぴあアリーナMM

Kroi Live Tour 2024-2025 "Unspoil"
2024年8月23(金)KT Zepp Yokohama
8月29日(木)Zepp Nagoya
8月31日(土)Zepp Fukuoka
9月1日(日)BLUE LIVE HIROSHIMA
9月6日(金)仙台PIT
9月8日(日)Zepp Sapporo
9月12日(木)Zepp Osaka Bayside
9月13日(金)Zepp Osaka Bayside
9月15日(日)香川 festhalle
9月21日(土)新潟 LOTS
9月26日(木)Zepp Divercity Tokyo
9月27日(金)Zepp Divercity Tokyo
10月3日(木)CRAZYMAMA KINGDOM(岡山)
10月4日(金)米子 laughs
10月24日(木)NAGANO CLUB JUNK BOX
10月25日(金)甲府 CONVICTION
11月16日(土) DRUM Be-0(大分)
11月17日(日)B.9 V1(熊本)
12月7日(土)桜坂 セントラル(沖縄)
12月8日(日)THE WALL(台北)


Kroi

Kroi『Unspoiled』DISC INFO


2024年6月19日(水)発売
CD+Blu-ray/PCCA-6293/6,050円(税込)
CD+DVD/PCCA-6294/6,050円(税込)
CD/PCCA-6295/3,080円(税込)
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