「彼女たちの人生そのものが、音楽なのかもしれない」。そんなことを思わせてくれた、なきごとのライブ。ライブ時間は約2時間 。

恵比寿・LIQUIDROOMに集った観客たちの心を、水上えみりのボーカルと岡田安未のギターがこれでもかというほど揺さぶり続けていた。

6月から行われていた『初心にかえるman to manワンマンツアー』の追加公演として、東名阪3カ所をまわった『これからもよろしくお願いしman to manツアー 2025』。その最終日、10月12日に伝えられたのは彼女たちの人生が垣間見えるかのような音楽と、ニンゲン’s(なきごとのファンの呼称)への感謝だった。

「始めまーす!」と水上が高らかに宣言して、「愛才」でライブがスタート。「シャーデンフロイデ」、「ユーモラル討論会」と、ズキリとするような歌詞とは裏腹に思わず心が踊ってしまうロックナンバーで一気に観客の心に火を点けた。ちなみに、この日のチケットはソールドアウト。水上は「体調が悪くなった人がいたら周りが助けてあげて」と観客を気遣う。続く「隣の人の幸せを守ってあげてください。そうしたら、私はあなたの幸せを守るぜ!」という言葉には、間違いなくニンゲン’sへの愛が溢れていた。

「今日、初めて来てくれた人もいるかもしれないけど、あなたにもちゃんと届けるから」とライブを再開。「知らない惑星」では目覚めた時に夢か現実かわからなくなっていたという感覚を、「マリッジブルー」では誰にも言えない秘密を抱えている気持ちを、「Summer 麺」では「ひと味違ったなきごとを見せたい」という思いを、「0.2」では一目惚れに反論する一方で同曲には一目惚れしてほしいという二律背反を、「またたび」は「好き」という気持ちの正体を、水上の歌と曲、岡田のギターでエモーショナルかつポップに表現していく。

その歌詞に耳を澄ませていると、どうも水上の脳内を覗いているような気持ちになってくる。そして、その唯一無二の感性と日常のワンシーンを切り取った風景を熱く歌う水上と、それを引き立てるかのような繊細かつ情熱的なギターを弾く岡田の姿が脳裏に焼き付いていった。

改めて、「2025年1番大きなトピック」と7月9日にメジャーデビューしたことを報告する2人。ここまでの音楽に狂喜乱舞していた観客たちは、そのテンションのまま「フー!」と反応してみせる。

それを受けて、2人は「なきごとに、私に、岡田に出会ってくれて本当にありがとうございます」と深くお辞儀をして感謝を伝えていく。

そして、「どんなことを言葉にしてあなたに伝えたらいいのか。どうすればあなたに感謝が伝わるのか。何度も考えたんだけど、何よりも『あなたとずっとそばにいたい』と言い続けることが、私からできるあなたへの感謝」と、水上らしい言葉を紡いでいく。

「どんな日を過ごしたって、悲しい日も辛い日も夢を叶える日だって、あなたとずっと一緒にいたくて。まだまだ叶えたい夢があるから、その夢を叶える時にあなたが一緒にいてくれたらなという気持ちを込めて。次の曲を聞いてください」と、「短夜」で精一杯「そばにいたい」という感謝を伝えていった。

「あなたに会えない日々が続いたとして、その日々が退屈なのであれば、それはあなたが大好きな証拠で、大切な証拠」と始まった「退屈日和」は、「そばにいられないのが退屈だ。ずっとそばにいたい」ということをじんわりと、そして温かく響かせていった。

アーティストらしく曲という形で特大の感謝を伝えた2人。「まだまだイケる? ここから盛り上がっていけるね!」と空気を変えると、再び観客たちは大きな歓声を上げていく。

「安酒にロマンス」、「グッナイダーリン・イマジナリーベイブ」で一気にライブハウスは熱くなっていく。「ずっと大切にしてきた曲」と紹介した「メトロポリタン」ではサポートバンドメンバーも含め、とにかく楽しそうに演奏していたのが印象的だった。

続く「たぶん、愛」ではなきごとが発する愛が空間を包みこんでいく。途中の〈近いようで遠い〉の部分で水上は、岡田に近づいたり、離れたり。2人の間にも、しっかりと絆で結ばれた「愛」があることが伝わってきた。

「(バンドをやって)遠征に行って、いろんなところでいろんな景色を見た。車から流れる山、海を見たり、車から降りて実際その場所の息を吸ってみたり。東京とは違う空気がそこにはあったり」と語りだす水上。

「その場にいかないとわからないことだし、テレビで見た、教科書で見たあの場所が目の前にあって、そこで待ってくれている人がいて。東京にいても、その人たちは今何やっているのかなって考えたりする。その人が東京にライブに来てくれたりもする。当たり前じゃない、ありがたいことだなと思っています」とここまで応援してくれているニンゲン’sにメッセージを贈っていく。

「今日、10月12日をなきごとのために空けてくれて、なきごとにあなたの時間をくれて、本当にありがとうございます。いろんなところで見た景色があるからこそ、書けた曲を次に」という言葉でステージは青いライトに包まれていく。

披露されたのは「明け方の海夜風」、そして「ぷかぷか」。聴覚だけでなく視覚まで刺激されたかのように、脳内には水上が見たであろう風景が広がっていった。

最後に「また絶対にライブハウスでお会いしたいです」と、再び会う約束をしていく水上。「来年でもいいから、無理しなくてもいいから、音がなる場所であなたと出会えたらいいなと思っていて。あなたの心の一番奥の深い所に次の曲を届けたい。あなたじゃなきゃ受け取れない何かを、あなた自身が受け取ってほしくて。全力で次の曲をあなたに」と「生活」、続けて「ドリー」と、感情をさらけ出しながら届けていった。この2曲になきごとからの鮮烈なメッセージ、そしてじっくり聞き入る観客との絆のようなものを見た気がした。

アンコールは「ライブをしてあなたと一緒にこの空間にいて、なきごとのライブを見ている時は心が生きていると思えるような時間になってほしいなと思って、今日みたいにライブをしています。あなたとただ隣で生きている。その愛しさ、尊さをこの曲に込めました」と、新譜の「夢幻トリップ」が披露された。

最後は「憧れとレモンサワー」。水上の「あなたと一緒に今日最後に歌いたい!」というリクエストに応えるかのように、会場は大合唱! 観客もメンバーも楽しそうに歌って演奏しているのを見ると、このライブを見られて心底良かったという気持ちになってくる。実際、〈僕はあなたに 救われてしまったなぁ〉と思っていた人も多くいたはずだ。

こうしてライブは幕を下ろした。……と思いきや、まだまだアンコールが鳴り止まない。その声に応えるように「本当に欲しがりさんたちですね!」と登場するなきごととサポートバンド。「ちゃんとお家に帰るまでがライブだからね!」と「終電」でもうひと盛り上がり。

観客も演者も関係なく、ここぞとばかりに力を出し切っていった。最後は「ありがとうございました!」と去っていったなきごと。

愛と感謝と音楽が充満した幸せなこの空間は、そこにいた全員をハッピーにしたはずに違いない。

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