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2021.06.02

ビームス 青野賢一&アーバンリサーチ 齊藤悟、ファッション業界人による音楽談義 Vol.2──「ファッションと音楽と」(後編)

ファッション業界の中でも音楽が好きな人に聞く、音楽とファッションの話。 クラブやカフェなどでもDJをされているビームスの青野賢一さんとアーバンリサーチの齊藤悟さんの2人。自身の音楽人生の話とともに、ファッションについて語り合っていただいた[後編]。

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──今はデータで持って行けるので、曲数自体は無限大に近い時代になりましたが、DJとして気持ち的な部分で何か変わりましたか?

齊藤 悟(以下、齊藤)
「単純に荷物は減りましたが、サブスクはDJ向きではないかなと思います。新譜に関していえば、DJすることへの愛着は薄れますよね。PCやUSBだと、お客さんに曲名やアーティスト名を聞かれても、ジャケットで買ってないので分からないことが多いですし、結構困ったりします。とはいえ、ずっと”Serato DJ”とUSBは使っていますが、やはり便利なので(笑)」

青野賢一(以下、青野)
「USBやデータでDJをやるということは、基本は整理術だと思うんですよね。いかにセンス良く整理が出来るか、そういう人がデータでも上手くDJが出来る。雑多に2000曲入っていても、瞬時には曲目を見られないし、曲名やアーティスト名が探せない。そんなだと、曲の確認をやっているだけで前にかけていた曲が終わるよね(笑)」

──レコードとデータとでは、何か違いを感じていますか?

青野「レコードだと出音が個性になっているということですね。データだと基本的には誰がどんな状況でかけても、理論上は同じ聞こえ方のはず。もちろん、ボリュームとか、細かいイコライジングなんかで、厳密に言えば変わるけれど、まったく同じ条件で鳴らした時は、誰がかけても同じ出音なはずなんですよ。一方、レコードでは入り口のカートリッジ(針)で聞こえ方が、がらっと変わるんです。基本的に、DJの人は自分のカートリッジを現場に持って行って、付け替えている人が多いですから。みんなそれぞれ音に個性があって面白いんですよ。あとレコード盤そのものにも個体差がある」

齊藤「アナログレコードでのDJと比べて、PCやデータだと突発的なことは起きにくいのかなと思います。PCだと、曲を整理した時点で、必然的にシナリオを考えてしまう。あと、レコードだとたまに他のジャケットに別のレコードも入っていたりして、場の雰囲気に合っていればそのレコードをかけるときもあったりするんですよね。データではそういう良い意味のパプニングは起きづらいです。そこまでの技術がないといえば、ないだけかもしれませんが(笑)」

青野「持ってきたと思っていたレコードが”ない”という場合もあるし、そうなった時の瞬発力だよね。”だったら、これいけるかな?”とか、そういう瞬時の判断は楽しいし、その人の持っている力が試される。 でも、僕はレコードでもデータでもどちらでも良いと思っていて、それも含めてのスタイルだと思う。選択肢が増えて、いろんな人がDJを始めるきっかけになるのは、悪いことではないかなと。それは洋服も一緒で、今ってそんなに必死に探さなくても、それなりなムードの洋服が揃えられる。そういう意味では、いろんなことが民主化されている時代ではあるよね。ただ”その民主化が良いことなのか?”という考え方もあるし、齊藤くんの”排他的なものに惹かれる”という話は、まさにそういうところではあるのかな」

齊藤「大事なのは”そこにエントリーする人がどういう波に乗るか”ですし、そこは人それぞれの自由かなとは思っています」

──お店のBGMに関しては、どのように考えていますか?

青野「僕自身、USENさんの選曲の仕事もやっていますが、そちらでは契約しているお店の業種もバラバラですから、季節感を重視した選曲をしています。究極、全然気にならない音楽の方が良いと思っていますね。 これってテクノロジーに対する考え方と一緒で、”すごい技術なんです”というこれ見よがし的なものよりも、例えばシャンプーや洗剤の詰め替えのソフトボトルが傾けると真空になっていく技術にふとした瞬間”おー、すごい!”って思う。あれなんかはあまり意識していないけれど、とても重要な役割を演じている技術ですよね。BGMもそういう部分があるといいと思っていて、だから、お店に入っても気にならない方が良いかな。ある時、ふとした瞬間に気づいた人が、次のアクションに進めば良いですし、店舗という空間における音楽の役割って、空気とかほのかに漂う香りみたいなものでいいと思います。 これがファッションショーであれば全然話は違っていて、視覚と聴覚、いろいろな角度からコレクションを作り上げていくので」

齊藤「僕自身はBGMの選曲はしてませんが、青野さんと一緒で空気の一部的な存在でいいと思ってます。音楽を聞きたい人は、自分で聞いているでしょうし。そこに馴染んでいる音楽であれば何でもいいかな。例えば、モッズカルチャーの洋服を売っているからモッズ的な音楽を流すとかは、個店であってもいいですが、ビームスさんも、アーバンリサーチも特定のジャンルのお客さんがいるわけではないので、ある程度の邪魔しない良さ、居心地が悪くならなくて、抑揚はあってもなくてもいいという感じですね。BGMとして機能しているのかが重要。”アーバンリサーチのカルチャーを見せたい”とかであれば、イベントでやればいいわけですから」

青野「お客さんも一日中そこにいるわけではないし、いついるかも分からないしね。そういう話の一方で、”ビームス ジャパン”の音楽は、すべて日本のアーティストでまとめていて、もちろん気にならないトーンのものとか、はやりすたりのないものが中心なので、別に誰も気づかなくていい。それこそ僕がひとりでニヤニヤ出来ればいいかな(笑)。でも、それは遊びの余地で、それが主役でもないですから、ことさらそれを声高にいうのはあまり格好の良いことではないですよ。お店は、物と販売スタッフ、あとお客さんがいて成り立つものですので、BGMは店舗内装とかと一緒」

齊藤「よほどの大音量でかかっているところに行かない限りは、こういう曲が流れていたという記憶はないですよね。自宅近所のハンコ屋はいつもINXSが流れていて、多分そこのオーナーが好きなんですよ。そういうお店は心に残りますよね、こんなところで聞くはずのない音楽が鳴っているって(笑)。でも、僕らにそういう部分は求められていないと思うんですよ」

青野「我々みたいな業態だと”そこではない”という感じはありますよね」

──インターナショナルギャラリー ビームスは、BGMが無音の時代がありましたよね?

青野「いまはBGMを流すようになっていますが、無音の時代は2005年に今の場所に移転してから、けっこう長かったです」

──無音で起きた事象はありましたか?

青野「居づらい人は居づらいという感じですかね。でも、あのお店は音楽が流れていた時代も、えも言われぬ居づらさ、入りづらさはあったみたいで、僕が働いていた頃も階段でくるっと回って帰る方がたくさんいました。かつては東京一入りにくいお店と言われていましたから(笑)。 ただ、一歩踏み込んで来ていただいた勇気あるお客様に対しては、最大のサービスや商品を提供したいという思いはあったので、それはそれで成立していた部分があったと思います。僕は無音の方が良いと思っていたので、BGMはあってもなくてもという感じですよね」

──特別感を出すには無音も良いのかもしれないですよね

青野「それももはや伝わりにくい状況にあるかなと思います。今だとイヤホンやヘッドホンでパーソナルに音楽を楽しんでいる人が多いから、その場所で音楽が鳴っていようが、鳴っていまいが関係ないのかもしれない。独善的に考えて”これだから格好いい”みたいなのは、もはや通用しないでしょうね」

──BGMでのブランディングという点に関しては、難しい状況になっているということでしょうか

青野「80年代にインターナショナルギャラリー ビームスでバイトしていた時代のBGMはカセットテープ。スタッフそれぞれが好きなものを作って持って来ていたわけです。当時はそういう個性的な選曲の面白さは重要でした。ただ、お店の数も人も増えはじめて、やはり人が増えると任せておけないというか、それぞれの好きをやっても誰も得しないということもあり、ある程度の最大公約数を提示するという形になりましたよね」

──音楽は個性であり、パーソナルであるということですよね

青野「今ってみんな、他人のことを気にするじゃないですか。トレンドやランキング、ちょっと気にしすぎなのかな。自由に情報にアクセスできる時代なのに、見ているのはごく一部の狭い範囲。出来れば、そういうのを気にしないで、ユニークで、自分が一番しっくりくるものを素直に選べると良いですよね。それは、音楽だけではなく、ファッションもですけれど」

齊藤「元々は仕事と遊びと趣味が一緒になった入り口から入っていたのですが、徐々に切り離されてしまった現状ですよね。音楽は、仕事とかと関係なく、自分が聞きたいものを聞いている感じになっていて、それはファッションに関しても一緒。だから、洋服を探していく面白さをお客様に提案出来ているかというと、現実的には難しい現状ですよね」

青野「ブランドやトレンドにとらわれず、古着なんかを可愛く着こなしている人を見ると”何でもそういう選び方をすればいいのに”って。それなら楽しく朝が迎えられるんじゃないかな(笑)」

齊藤「いまのZ世代の人たちが古着屋さんに行って、それがメンズだろうがレディスだろうが”欲しいから着る”みたいな感じは、昔からあって。世代を超えてそういう状況になっているんでしょうね」

青野「まったく現実的ではないけれど、Eコマースでも、メンズ、ウィメンズ、キッズみたいなカテゴリー分けなく選んでもらえたら面白いよね。人間って合理的じゃないじゃない。そんな一面を素直に出せるEC。提供する側も自由に”好きなものを着たい”という気持ちをサポートしてあげられるような器を作れると、服を着ることをもっと楽しく思ってもらえるかもしれないよね。実際、そのためにオムニチャネルで試着サービスなんかもあるわけだし」

齊藤「まさにおっしゃる通りです。僕は2年前くらいから現在のEC事業の部署に移動しまして、EC系セミナーに行って話を聞く機会も多いのですが、売り方がファッション的ではないかなと(笑)。”自分のやりたかったファッションはこれじゃない”と、そこに行って余計気づくんですよね。そこに対しては、パンクな気持ちがあった方が面白くなるのかなという気持ちはあります」

青野「どうしてもマーケットインだと、策に溺れてしまう感はあるよね。もちろんそれで数字を作ってくれることもあるけれど、それが全部になってしまった時に、果たして面白いか、楽しいか、というとちょっと違うのだとは思う。気分が上がらないような服を毎日着ていたら僕は嫌だし。かといって、変わった服を着ているおじさんにはなりたくないけど(笑)。トレンドとかではなく、好きな服を楽しく格好良く着たいよね、という感覚と、マーケットインでのものづくりとか、マーケティングデータありきの施策を作っていく人たちとで、服を選び取る価値観が違っている気はするかな」

齊藤「”洋服が好きではないのかな?”という人の洋服の売り方に対する意見って、なんとなく信用できない感じがあるんです(笑)」

青野「服好きからしたら説得力がないのかもね(笑)。 なんでもバランスだと思うんですよ。スケールに対してやらないといけない部分をやりすぎるとピンと来ない人も多い。洋服屋の矜持みたいな感覚を持っている人はいるので、そこのバランスの難しさはあるよね」

齊藤「僕も懐古主義で言っているわけではなく、ニューウェイブなスタイルとして、そういう提案をされているのなら分かるのですが。社内でもそういう合理的な販売方法の人たちの意見に流れていく風潮もあるので、色々と難しいと感じています。僕自身、その渦中の真ん中で糸を引いていると言うジレンマもありますが(笑)」

青野「自分の中での違和感は大事にした方がいいと思うよ」

齊藤「DJに例えると、僕自身がまずそのDJを”上手いと感じるか?”という切り口の話なんですけれどね」

青野「ファッションが好きだからというのはあるよね。服を効率良く、合理的に売るというのと、服を好きに思ってくれるお客さんに買ってもらうのは別のアプローチが必要でしょう。今や合理的に売るという部分には目をつぶってはいけないわけで。でも、さっきのメンズとウィメンズの垣根を無くす話は、合理的ではないからECだと絶対に出来ないと思うんだけれど、もしかしたらリアルのお店なら出来るのかもしれない。そういう提案が出来るのは、リアルな売り場の一番強い部分だし、着る人の個性をうまく引き出してあげたり、お手伝いをお店がやるのはいいのかも。一方で”合理的に数字を取りましょう”という部分はEコマースでしっかりやる。そういう切り分けはせざるを得ない。だけど、問題なのは店がどんどん合理的になっていくことだよね」

齊藤「僕らもメディアからお店の意義を聞かれることが多いのですが、装置として生かすことを求められる風潮なんですよね、個性には行かない。装置なら新しい装置が出てきたら入れ替わってしまうので、何年も続けられないケースになってしまっているんですよ。僕らも課題になっています」

青野「このコロナの事情もあって、どこもお店の数を見直す傾向があるけれど、もしかしたら店舗数が減って、個性のあるサービスが提供できるサイズ感になって、良い方に作用する可能性はあるのかも」

齊藤「いま古着を買っているような人たちが、今後、その価値を求めてくる可能性はありますよね」

青野「”その価値をどう伝えていくか?”という課題はあるけれど」

齊藤「今は洋服が好きと言う一点だけではなく、仕事として選ぶ方も多いと思いますね。それがダメとは言わないですが、そのモチベーションのまま続けるのは厳しいのかなと言う気もしますね」

青野「拡大、成長を続けながらもその世界を維持するのと、二律背反になってしまっている部分はあるよね。成長させないといけないのは分かるけれど、”その気持ちは持っていたい”という人もいるし」

──最後に音楽とファッション、どのように付き合っていけば良いと考えますか?

青野「個人的には、服も音楽も仕事にはなっていますが、本来はパーソナルなもので、模範解答みたいなものは出しづらいし、それを求めるのもナンセンスかな。 だから、みんな好きに音楽を聞けばいいし、好きな服を着ればいいと思います」

齊藤「音楽はパーソナルなものだと思うので、”音楽に影響されて何かをしたか?”と言われると答えられないんですよ。他人から見られた時に、もしかしたらそう感じてもらえる部分はあるのかもしれないですが。個人的には音楽は音楽としてしか考えていないのが基本です。でも、それで友達が出来たりしますよね」

青野「時代によっても捉え方が変わるしね。僕はYMOで音楽もファッションも能動的に好きになったというのはあるけれど、それが音楽だから、ファッションだからではなく、ただ”格好いい”という大風呂敷な概念に包まれたみたいな感じでした。YMOのファーストアルバムのB面のほとんどがゴダールの映画タイトルで、そこからヌーベルバーグを知ったりと、たまたまいろいろな方向で格好いいものに出会ったという話なのですが。という感じで、大体僕の対談は結論がないんです(笑)」

齊藤「結論なんてないですよ(笑)」

青野「結論を出すような話でもないよね(笑)」

──ありがとうございました

(おわり)



「サブスクはDJ向きではないかなと思います」と齊藤さん、「USBやデータでDJをやるということは、基本は整理術だと思うんですよね」と青野さん。

「Eコマースはカテゴリー分けなく選んでもらえたらいいよね、人間って合理的じゃないじゃない。」と青野さん。

「お店の意義を装置として生かすことを求められる風潮なんですよね」と齊藤さん。

「音楽で友達が出来たりしますよね」と齊藤さん、「音楽とファッションは格好いいという大風呂敷な概念に包まれたみたいな感じなんだよ」と青野さん。



青野賢一

ビームス ディレクターズルーム クリエイティブディレクター
ビームス レコーズ ディレクター
1968年東京生まれ。大学1年の時に「インターナショナルギャラリー ビームス」でアルバイトを開始、卒業後、販売職、プレスなどを経て、現在は個人の資質をクライアントワークに生かす「ビームスディレクターズルーム」所属。また、音楽部門「ビームス レコーズ」の立ち上げに携わり、レーベルディレクターを務める。DJ、選曲家、ライターとしても知られている。USENの店舗向けBGM配信アプリ「OTORAKU」にキュレーターとして参加、定期的にプレイリストを提供している。

齊藤 悟

株式会社アーバンリサーチ
デジタル事業本部デジタル営業部部長
1976年横浜市生まれ
株式会社アーバンリサーチでEC・プレス・マーケ・CRM・業務システムなどの部署を統括。
趣味はサーフィンと同じ靴を何足も買うこと。たまに料理。
好きな料理は:火鍋全般

写真/野﨑慧嗣
ナビゲーター・取材・文/カネコヒデシ





カネコヒデシ
カネコヒデシ メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。そのほか、紙&ネットをふくめるさまざまな媒体での編集やライター、音楽を中心とするイベント企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、モノづくり、ラジオ番組製作&司会、イベントなどの司会、選曲、クラブやバー、カフェなどでのDJなどなど、活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に掛けめぐる仕掛人。









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