──昨年7月にリリースされた『BONUS TRACKs 〜最後の雨2025』は中西さんにとって約15年ぶりとなる新作アルバムです。制作することが決まったとき、どのようなものにしようとイメージしていましたか?

「このアルバム制作のきっかけを作ってくれたのが、「最後の雨2025」でサックスを吹いてくれているユッコ・ミラーなんです。ユッコとは昔からの知り合いで、ライブも一緒に出演したりしていたんですけど、あるとき彼女の宣伝担当の方が“もしかしたらうちの会社からアルバム制作の機会を作れるかもしれません”とおっしゃってくれて。ただ、そういうのって“今度飲みに行きましょう”くらいの感覚だと思うじゃないですか(笑)」

──社交辞令だと思われたんですね(笑)。

「そう(笑)。だから、僕も軽く考えていたんですけど、すぐに連絡をいただきました。そこから何回か会合を重ねていくうちに、なんとなくアルバムの輪郭が固まってきました」

──ユッコ・ミラーさんとは中西さんの代表曲の一つ「最後の雨」を一緒にやられていますね。

「話がまとまってきた段階で、“おそらく「最後の雨」のセルフカバーは収録することになるだろう”とは思っていました。それをどういう形でやるか?ということについては、キングレコードから今回のアルバムの出発点でもあるユッコ・ミラーと是非というリクエストがあって、僕としては“願ったり叶ったりです”と。というのも、ただ単にセルフカバーをやるのでは、これまでとの差別化は難しいですし、“1992年の「最後の雨」を歌った人間がただ年月が経っただけというのはおもしろみにかけますよね”って(笑)。むしろ、ユッコみたいに新しい時代を象徴するようなアーティストとのコラボなら、絶対にやるべきだと思って、彼女込みでアレンジをするという条件で「最後の雨」のセルフカバーを収録することになりました。そこから、この1曲だけではなく、僕の34年間のキャリアの中で出会ったすごい才能を持った人たちとのコラボレーションをアルバムの軸にしていこうという発想が生まれました」

ユッコ・ミラー
澤田知可子

──ユッコ・ミラーさんをはじめ、コラボ相手には佐藤竹善(SING LIKE TALKING)さんや山根康広さん、澤田知可子さん、中西圭三さん、真園ありすさん、杉山清貴さんなど、そうそうたる顔ぶれが並んでいます。

「僕がデビューした頃は、彼らもまだまだ駆け出しの時期というか…杉山さんはちょっと別格ですけど、例えば佐藤竹善くんや中西圭三くんとかはデビュー前に一緒に三軒茶屋や下北沢で飲んでいた頃から知っているので(笑)。そういう年月の深さがこのアルバムに出ると、それはそれで面白いと考えました。あと、“この人、すごいな”、“一緒に声を合わせてみたいな”と思う人たちを並べていくと、結果的に割と世代の近い人たちだったんです」

──みなさんとはこれまでも欠かさず交流を持たれていたんですか?


「いえ、デビューして以降は接点がない時期が長く続いていました。その頃はレコード会社が違う、事務所が違うというだけで、なかなか交流させてもらえない時代だったので。山根くんは同じ関西出身ですし、同じような時期に出てきた印象をお持ちの方も多いと思うんですけど、デビュー後30年くらい彼との関わりはほぼありませんでした。ここ数年でジョイントライブに彼が参加してくれる機会ができて、そこからの付き合いです。山根くんって、直接言葉を交わして感じたんですけど、人間性と音楽性がまったく一緒なんです。ストレートで、力強くて、爽やかで。僕はもうすぐ気に入っちゃって…“必ず何か一緒にやろうって話をしていたら、このアルバムの話が突然持ち上がって。しかも、その話をまだ山根くんにしないうちに、彼から突然曲が送られてきたんです」

──そんなことが!?

「不思議な話なんですけど、ほんとうです。アルバムに収録されている「すれ違いの恋人たち」は山根くんがデビュー前から歌っている曲ですけど、実はそれ以外にも、何曲か僕を想定して作ってくれた曲があって。何も話をしてないのにそういうことが起こるって、接点がなかったとはいえほぼ同じ時期を過ごしてきたからこそ、何かしら共通する想いがあるのかもしれません」

──“共通する想い”をもう少し詳しく教えていただけますか?

「言葉にして話をしたわけではないですけど、僕たちは“CDを聴いてもらってなんぼ”の時代にデビューして…でも、今はSNSが主流で、そこから音楽を聴いてもらうという戦略に切り替わってきていますよね。僕たちみたいなスタイルがとんでもなく片隅に追いやられる時代になってきてるんだというのを、改めて感じることも多いです。そこに対する何かしらの想いですね。でも、だからこそ、こういう形で残しておきたくて。僕たちが過ごしてきた時代の良さのようなものを聴いてもらいたいです。そんな気持ちも、みなさんどこかに持っていると思うんです」

山根康広
中西圭三

──人選に続き、選曲も順調に進みましたか?

「そうですね。それも接点であったり、共通点であったりを拾っていく形で進めていきました。でも、例えば僕と中西圭三くんで「あずさ2号」を歌うって、面白そうな気がするじゃないですか(笑)。以前からジョイントライブで一緒に歌っているということもあるんですけど、とっかかりとしてはそれくらいでいいと思うんです。ただ、コラボするにあたって僕が気をつけたことは、相手のアーティストさんそれぞれの“らしさ”を、どこかに残したいということですね。例えば、佐藤竹善くんは今、僕とはまた違うアプローチで日本の楽曲のカバーを精力的にやっているんですけど、その文脈を辿っていくとアリスに当たるんですよ。で、僕と2人で歌うなら…「ジョニーの子守唄」になりました。澤田知可子さんとは一緒に曲をリリースしたこともあって(1999年「幸せのドア」映画『のび太の結婚前夜』主題歌)、ライブもずっと一緒にやっていて、そこでもこの「エンドレス・ラブ」は歌っています。今回は彼女のますます磨きのかかった歌声を聴いてもらいたかったのであまりアレンジをせず、敢えて原曲のまま歌うことにしました。とはいえ、アルバムのラスト曲、杉山清貴さんとの「バス・ストップ」は、杉山さんがこの曲が大好きで、有無を言わさずコレって感じでした(笑)。杉山さんは年齢が僕の2つ上の先輩で、デビュー前からお世話になっている方なので、ぜひ今回のアルバムに参加してもらいたくて。ただ、細かく打ち合わせをするというタイプの方ではないので、選曲も“ライブで歌っているアレでいいよね”って感じでしたし、レコーディング当日も、ほぼ何も決めていない状態で杉山さんがギターを手にスタジオに来て、軽くセッティングして、“行こうか”みたいな(笑)。ほぼ一発録りで、“じゃ!”って言って去っていきました」

──痺れますね! 音源からはその余韻も伝わってきました。

「いや〜、カッコよかったです。杉山さんはそのままハワイに行かれたそうです(笑)」

──(笑)。

杉山清貴
佐藤竹善

──さまざまなアーティストの方とのコラボ曲がある一方、このアルバムのために書き下ろした楽曲も収められています。新曲「溶ける愛」は、作曲が「最後の雨」と同じ都志見隆さんですね。

「そうなんです。都志見さんとは2015年に「秋日傘」というシングルで久々にご一緒して以来になりますが、僕が久しぶりにアルバムをリリースすることをお伝えしたら楽曲を提供してくださることになって。それはもう、素晴らしいメロディーでした。なので、“このメロディーに素晴らしい詞がついたらいい曲になるだろうなぁ。誰に頼むんだろう?”と思っていたら、待てど暮らせどレコード会社から連絡が来なくて。でも、締め切りはどんどん近づいてくるじゃないですか。あと10日くらいしかない段階で、スタッフの人が“中西さん書けますよね?”って言い出したんです(笑)。これ、本当の話です。ちゃんと(インタビュー記事に)書いておいてくださいね(笑)。僕からすると、“ええー!?”って感じでした」

──とはいえ、これまで中西さんが作詞された楽曲もありますよね?

「いや…それは僕がおおまかに書いたものをアレンジャーの方がそれらしくまとめてくれて、なんとか形になったというだけなので。都志見隆さんは、中森明菜さんとか郷ひろみさんとかに提供されて、大ヒットを飛ばしてる大作家ですよ。もちろん「最後の雨」も都志見さんなしではあり得ないわけですし、都志見さんがいなかったら僕・中西保志もあり得ないですから。そういう人といきなり(作詞家として)コラボだなんて、そのときばかりは正直な話、キングレコードに対して“何をしてくれたんだ!”と思いました(笑)」

──あははは!

「だから、(歌詞を書いていた)10日くらいの期間、自分が何をしていたか覚えていないです(笑)。で、なんとか完成した歌詞を送ると、スタッフからは“できるじゃないですか”って。これで終わりですよ(笑)。でも、(歌詞が)できたのは都志見さんのメロディーのすごさだと思います。やっぱり、良いメロディーには良い歌詞が埋まってるんです。僕はそれを素直に掘っていっただけです。そこまでの曲じゃなかったら、「溶ける愛」はできていなかったと思います。この曲のMVは加藤美紀さんという“美人画”を得意とされる画家の方のイラストで作らせていただいていて、僕としては100点を越えて150点の仕上がりです。この曲のメロディーやアレンジ、そしてMVのビジュアルによって、もしかしたら日本語圏じゃない方にも伝わるかも…という期待を抱ける楽曲になったので、大事に育てていきたいです」

──「溶ける愛」は秋の曲ですが、アルバム『BONUS TRACKs ~最後の雨2025』ではその前後の楽曲たちの流れで春夏秋冬を表現されているのが印象的でした。

「そうなんです。5曲目の「あずさ2号」が早春の歌で、その後に続く僕の曲「夏・海・恋・歌 1984 Summer side story〜」はタイトル通り夏の曲。そして「溶ける愛」が続くと次は冬の曲だろうということで、辛島美登里さんの「サイレント・イヴ」をご本人の承諾を得てカバーさせていただくことにしました。さらに、それに続く「1/52」も春の曲なので、春夏秋冬そして春と、1年が巡るというか…この5曲がアルバムの中の小さな組曲になっています。これを最初から考えていたのか?と言われたら、まったく考えていなかったんですけど(笑)。でも、自分のオリジナル曲も何曲か収録できたことで、単なるカバーアルバムではないという意味合いも生まれましたし、参加してくださった方々も含めて、結果的に豪華な1枚になったと思います」

──そんなアルバムを作り上げた2025年は、中西さんにとってどんな1年でしたか?

「まず、久しぶりにレコード業界とリンクさせてもらったというか…地方プロモーションにも行かせていただきましたし、テレビ番組でもたくさん歌わせていただきました。ただ、いつも思うのは、できれば「最後の雨」は歌いたくない…(笑)。ものすごく大変なんです、歌うのが」

──歌い続けているうちに慣れてラクになってくることは…?

「ないです! “もう誰か代わってくれ〜!”って感じです(笑)。歌い出しがすごく低くて、そのあとにハイトーンの状態がずっと続いて、何度も何度もその波が来るので。しかも、今回の2025年バージョンは原曲より長くて。1992年バージョンはテンポももっと速くてトータル444秒だったはずが、「最後の雨2025」は514秒。それを歌い続けるのはラクじゃないどころか…再現性が極めて難しい曲です。ただ、アルバムをリリースしたからには歌い続けざるを得ないだろうな、と。なので、健康第一でやっていかなきゃと、ほんとうに思います。膝が痛かったり、腰が痛かったりする年齢になってきて、いつまでみなさんに届けられるかわからないですけど、この形でリリースした以上はやるしかないと思っています」

──では、2026年もますます勢いが加速していきそうですね!

「今回、アルバムを作ってみて“もう1枚くらい作れるかな”と思いました。というのも、ありがたいことに90年代に生み出された曲を歌ってきた人たちの再評価が始まってるんだというのを、すごく感じたんです。僕はまったくそういうのを意識せず、昔からの付き合いから選んだつもりだったんですけど。でも、これは僕の勝手な言い分ですけど、やっぱり彼らがあの時代を代表していると思うんです。だから、今回のアルバムの意味合いは、僕を通した形での“90年代の音楽の良さを知ってもらいたい”ということになります。ただ、もう一度このアイデアでアルバムを作るためには、この『BONUS TRACKs 〜最後の雨2025』で実績を作っていかなければいけないですし、参加してくれた人たち一人ひとりに“やってよかった”と思ってもらえるようになるまでもう少し頑張らないといけないです。そこをモチベーションに感じながら、2026年も地道にしっかりとやっていこうと思います」

(おわり)

取材・文/片貝久美子

Age Free Music 富澤一誠のこんないい歌、聴かなきゃ損!
第41回 中西保志さん >>>

RELEASE INFORMATION

中西保志『BONUS TRACKs 〜最後の雨2025』

2025年723日(水)発売
KICS-4209/3,300円(税込)

中西保志『BONUS TRACKs 〜最後の雨2025』

LIVE INFORMATION

中西保志 with special guest 山根康広

ビルボードライブ大阪】 (1日2回公演)
2026/5/16(土)
1stステージ 開場14:00 開演15:00 / 2ndステージ 開場17:00 開演18:00

ビルボードライブ横浜】 (1日2回公演)
2026/5/31(日)
1stステージ 開場14:00 開演15:00 / 2ndステージ 開場17:00 開演18:00

中西保志 関連リンク

一覧へ戻る