──前作『EYES』は、WONKにとっても大きな挑戦だったと思うのですが手応えはいかがでしたか?

荒田 洸「『EYES』は作り疲れましたね(笑)。曲数が多い上に、色々なタイプの曲を作りましたから」

江﨑文武「引き出しを全部開けました、という感じだったね。打ち込みで出来ることはかなり網羅したなという印象」

井上 幹「自分たちのやれないことというか、得意分野ではないことにも挑戦したしね」

江﨑「アルバムを通してひとつのテーマが貫かれた歌詞を書くことも初めてだったから、作り終えて達成感のようなものもありました。もちろん荒田がリーダーとなって制作したファーストアルバム『Sphere』(2016年)や、2ndツインアルバムとなった『Castor』(2017年)と『Pollux』(2017年)にも、彼なりのイメージやコンセプトはあったとは思うのですが、それを歌詞という形で表したのが前作『EYES』だったのかなと思っています」

──その後に開催された、生配信フル3DCGバーチャルライブ『EYES SPECIAL 3DCG LIVE』は、アバターとなった4人が仮想空間で生ライブを行うという非常に先駆的な内容でした。

江﨑「初めてのことだらけで楽しかったです。もし世界中がコロナ禍にならなかったら、絶対に出てこなかった発想だと思うし、たとえどんな状況であっても自分たちは楽しむことができるのだという自信にもつながりましたね」

長塚健斗「大変でしたけどね。モーションキャプチャー用の、あんな全身ピチピチのスーツを着てライブをするなんて思ってもいなかったし(笑)。いい思い出ですけど」

──壮大なコンセプトアルバム『EYES』から一転、今作『artless』は「等身大の日常」を描く作品となりました。この変化はどのように訪れたのでしょうか。

江﨑「コンセプトやテーマを自分たちの外側に置くということを『EYES』でやってみて、次に何をやるべきか考えた時に、メンバーの総意というよりは、誰かひとりが持っている強い問題意識やテーマを反映させた作品にした方がいいのではないかという話になって。荒田を中心に曲作りを行うという、WONK従来のやり方にいったん戻そうとして出来たのが「FLOWERS」「Pieces」という2曲のシングルでした」

荒田「本当は1ヵ月に1曲くらいのペースで作ってリリースするつもりだったのですが、ちょっとスランプに陥ってしまって」

江﨑「しかも、ちょうどそのくらいの時期からメンバーそれぞれのソロ活動が忙しくなり、4人で集まって作業すること自体が難しくなってきたんです。アルバムの納期も迫ってきていたし、だったらどこかに合宿でもして全員で曲を作ろうと」

──それで行ったのが、山中湖での合宿レコーディングだったわけですね。

江﨑「はい。長塚さんにはあらかじめ歌詞の下書きを用意してもらい、それをもとにメロディやアレンジをほぼゼロからバンドで作っていくという流れでした」

長塚「『EYES』のときはある意味「脚本」というか、架空のストーリーをみんなで書いていく作業だったのですが、今回はまっさらなところから、自分の身の回りや関わっている人、目に映る景色などからインスピレーションを得ることが多かったですね」

──なるほど、セッションしながらバンドアレンジを固めていったと?

荒田「いや、そこは結局バラバラでした(笑)。朝、長塚さんや幹さんが作ってくれた朝食をみんなで食べて、普通だったらそのままみんなでスタジオに入ってセッション、という流れだと思うんですけど、僕らの場合はそこで一旦解散して各々でアレンジを考えていくというスタイル」

江﨑「長塚さんのアイデアを見せてもらい、“このテーマなら俺が曲をつけよう”“この歌詞は俺がアレンジしたい”みたいな希望がそれぞれにあって。一旦は持ち帰ってそれぞれがアイデアを膨らませてくるというのが最初の作業でした。行き詰まった時にはお互いの作業スペースに遊びにいって相談したり、ちょっとリビングで立ち話をしたり、そういうやりとりを気軽にできたのも合宿のいいところではありましたね」

──その名の通りアルバムのイントロダクション的なインスト曲「Introduction #6 artless」に続く「Cooking 」は、どのように作った曲ですか。

長塚「この曲は、僕があらかじめ用意したアイデアではなくて、荒田から“こんな内容はどう?”と提案されて書いた歌詞です。朝起きて、いい空気の中でコーヒーを飲んでいるうちにイメージが膨らんできて。“日常のささやかな喜び”をテーマにしました」

荒田「ログハウスみたいな合宿所の地下1階がスタジオで、1階が憩いの場みたいになっていたのですが、そこから見る景色がとにかく美しくて。それを眺めているうちに「Cooking」というタイトルが思いつきました。長塚さんは料理をするし、そういう雰囲気の曲を作ろうと」

江﨑「ローズピアノが基調となった曲で、ボイシングはネオソウルの流れを汲んだものになっています」

荒田「それでいてビートは強力でグルーヴィにしようと。ネオソウルっぽい曲はアルバムに1曲は欲しいですね」

──英語で渡り鳥という意味の「Migratory Bird」は、フォーキーでアーシーな曲調が印象的です。

井上「個人的に歌と簡単な楽器ひとつで成立するような、飾り気のない曲が作りたくて」

長塚「歌詞は完成形に近いアイデアがあって、ストーリーとかも色々とメモ書きがたくさんあったんですが、それを幹が汲み取ってくれました」

──現状維持というぬかるみを脱して渡り鳥のように新たな世界へと飛び立っていく、そんな旅立ちの曲のように感じました。

長塚「実はこの曲、以前関係のあった女性との別れがモチーフになっています(笑)。悲しい気持ちは時間が流してくれたり、忘れさせてくれたりするし、いつまでも浸り切っていないでいい加減に前を向かないとダメだなと。いつまで経ってもウジウジしてしまうのは嫌だから、“切り替えよう!”と思った時の心境を歌っていますね」

江﨑「ちなみに何個前の彼女ですか?」

長塚「それは言えません(笑)」

井上「この曲は、楽器を弾いて歌いながら色々模索しました。今作のひとつのテーマが“音楽に身体性を持たせる”というものだったし、前作では打ち込みを大幅に導入した曲もやったのですが、実際にスタジオに入ってみんなで音を出してみると、“もうちょっとテンポは速い方がいい”とか、“歌はもっとキーが低い方が伸びやかに聞こえる”とか色々な意見が生まれてきて。そう言うフィジカルな意見を交わしながら、自分たちにとってどういうアレンジが心地良いかを全員で探していく。それって対面でセッションしないと分からないところでもあるから、そういう面白さも感じましたね」

──ラジオボイスから始まる「Euphoria」も、WONKの真骨頂というか。レイドバックしたリズムが特徴のネオソウルっぽい楽曲です。

井上「この曲も「Migratory bird」と同じく健斗の歌詞がベースにあって、それに合うような曲調を目指しました。酔っ払いの歌だからそういうサウンドをイメージしつつ、そこに荒田と俺が大の得意なフィルをぶっ込んだという感じです(笑)」

荒田「ライフワークとしてね」

長塚「友人がコロナ禍でアルコール依存症になってしまい、そいつに何か偉そうな言葉を投げかけるよりも“大丈夫だよ”と言って側にいてあげたい、“なんなら俺も一緒に酒を飲むわ!”くらいの気持ちで寄り添いたいと思ったことを歌詞にしてみました」

──「Butterflies」は、シンセサイザーをフィーチャーした壮大な楽曲です。

江﨑「長塚さんの歌詞が「夜の街を舞う蝶」というテーマだったので、夜っぽい曲を作ろうと思って鍵盤を中心に構築していきました。歌詞の中で世界観がかなり作り込まれていたので、そこに音をはめ込んでいくというか、ちょっと劇伴みたいな気持ちで作った曲です。この曲は、幹さんがめちゃくちゃシンベを頑張ったよね。どう考えても鍵盤のキャリアが長い人しか弾かないであろうベースフレーズを弾いてもらいました

井上「ベーシストであんなフレーズ弾いている人、いないから(笑)」

江﨑「今回は“身体性を取り戻す”がテーマだったし、長塚さんがいかに気持ちよく歌えるかは長塚さんにしか分からないから、メロ作りもかなり任せました。例えばこの曲のサビの歌い回しは、長塚さんがずっと試行錯誤してくれてようやく出てきたものです。この曲はすでにライブでお披露目しているのですが、いつもみんなのエネルギーがグッと集まってくるような感覚がありますね。特にサビのところの歌い回しの部分は、本当によくできたなと。長塚さんにとっても、自信を持って歌と向き合えるような曲になった気がしています」

長塚「今回のアルバムには“無理をしない”“等身大”というテーマもあったし、これまでのWONKの曲はキーが高過ぎてしんどい場合もあったのですが、それが一切ないのも大きいというか、歌に入りやすい楽曲だなと思いました」

──アルバム最後を飾る、ゴスペルっぽい名曲「Umbrella」では日本語詞にも挑戦しています。

長塚「合宿に入る前に文武から“日本語の歌詞をWONKでも作らないか”という打診があって。この曲のデモが上がってきたときに“これは日本語の歌詞でもいけそうだな”という気がしたので書き始めました。最初はちょっとだけ日本語がでてくれば良いかなと思っていたのですが、気がつけば全て日本語になっていましたね」

江﨑「WONKとして、香取慎吾さんに「Anonymous」や、和田アキ子さんに「太陽に捧ぐ歌」と、楽曲提供をする機会があり、そのときに日本語詞にもチャレンジしていたんですよね。で、親しい友人から“香取さんの曲であろうが和田さんの曲であろうが、日本語歌詞で歌い手が違っていても、WONKのサウンドというのは通底して流れているよね”と言ってもらえて。もちろん、WONKのサウンドの中で長塚さんの歌はめちゃくちゃ重要な要素ですが、それと同じくらい楽器のサウンドでもWONKらしさが十分出せているから、別に言葉という部分で自分たちに色々と制約をかけなくてもいいんじゃないかとコメントをもらい、“そう言われてみれば確かにそうだよな”と思っていたんです。それをこうやって楽曲で示すことができて、本当によかったなと思っています」

──アルバムを作り終えて、今後の抱負や展望を聞かせてください。

江﨑「今回、集まって作る面白さみたいなものと、長時間かけて実験してみることの楽しさみたいなものの両方を再確認できたので、そういった機会なり場所なりを自分たちで用意して、次の作品作りに向かっていくことができればより面白くなりそうだなと思いました」

荒田「今作は20分ちょっとくらいのボリュームなので、もうちょっとこのスタイルでやってみたいよね」

江﨑「それに今回面白かったのは、個々人がソロでやっていることがちゃんと血肉になっていて、その状態でWONKとして再合流したときに、思いも寄らない化学反応を起こすみたいなことが結構あって。これからも、それぞれにいろんなことを引き続きやっていってほしい。今回、幹さんがゲーム業界にいなかったらなしえなかったこともあるし、荒田や僕がソロをやってなかったら出来ていなかったこともある。長塚さんが料理してなかったら、僕ら山中湖で空腹にあえいでいたかもしれないしね」

一同「はははは!」

江﨑「そういう個々の活動は、みんな本腰入れてやることに越したことはないんだなって」

荒田「全部がつながっているんだよね」

(おわり)

取材・文/黒田隆憲
写真/野﨑慧嗣

LIVE INFO

■LOVE SUPREME presents DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ, Chris Coleman, 古川昌義, 馬場智章、WONK(イープラスローソンチケットU-CONNECT
2022年5月26日(木)東京ガーデンシアター

■artless tour
6月17日(金) 札幌 cube garden
6月24日(金) 福岡 BEAT STATION
7月8日(金) 仙台 Rensa
7月10日(日) 東京 恵比寿The Garden Hall
7月15日(金)名古屋 E.L.L.
7月16日(土) 大阪 Billboard Live OSAKA
7月18日(月) 横浜 Billboard Live YOKOHAMA
8月5日(金) 東京 Billboard Live TOKYO

FUJI ROCK FESTIVAL '22(SMASH
7月29日(金)苗場スキー場(新潟県)

DISC INFOWONK『artless』

2022年5月11日(水)発売
POCS-23021/3,300円(税込)
ユニバーサルミュージック

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