──tonunさんは小学生の頃から歌うことが好きだったそうですが、その頃はどういうものを歌っていたのでしょうか?
「テレビでよく流れているようなものと、あとは兄がいるので、その影響でRADWIMPSを歌っていました」
──RADWIMPSって小学生が歌うには難しくないですか?
「難しかったですけど、歌というよりもラップ調で、言葉を乗せるのが心地よかったんです。音の割に言葉が多かったイメージで…」
──確かにそれを真似して歌えるようになるというのは楽しく感じられそうですね。
「はい。しかも当時はそんなにRADWIMPSってメディアに出ていなかったから、クラスの人たちはみんな知らなくて。教室にあったラジカセを使って、“カッコいいから聴いて”って言ってみんなに聴かせていました」
──イケてる音楽を教えてくれる子だったんですね。
「いや、どうですかね…。みんな聴いていたかわからないです。迷惑に思っていた人もいただろうし。ただ、僕は自分の部屋みたいな感じで、教室でラジカセで好きな曲を流したり、好きな曲の歌詞を紙に書いてそれを見ながら歌ったりしていました」
──ちなみに歌っていたのは、どんな時間にだったのでしょう?
「授業中以外ずっとです。休み時間に廊下とか階段とか。当時から、歌うことをカッコいいと思っていたんだと思います。幼稚園のときにピアノを習っていたんですが、ピアノはそんなに好きにならなくて…。だから音楽が好きというよりも、自分がカッコいいと思ったものをみんなに広めたいという気持ちだったのかな?と、今振り返ると思います」
──当時は流行りの曲を聴いたり、お兄さんの影響でRADWIMPSを歌ったりしていたとおっしゃっていましたが、その後、自主的に音楽を聴くようになったのはいつ頃、どんな音楽を?
「中学生のときに、友達のギターを借りてギターを始めました。その頃くらいかな。いや…でも、そのときはそんなに音楽を聴いていなかったかも」
──聴くより弾くほうが楽しかった?
「そうですね。RADWIMPSや東京事変を聴いていて、それをギターでカバーしていました」
──これまた難しいものばかりを(笑)。
「だからよりのめり込んじゃって。そして、高校で軽音楽に入りました。そこからはギタリストに焦点を当てていろんなものを見たり聴いたりするようになって。海外のギタリストの動画とかを見ては“もっとすごい人がいっぱいいる!”と思ってギターを練習する日々でした」
──ギタリストを目指していたところから、歌も歌おうと思うようになったのは?
「ジョン・メイヤーと出会ってからです。ジョン・メイヤーはエレキも弾くけど、シンガーソングライターとしてアコギを弾きながら歌うこともしていて。それがすごくカッコよかったんです。それまではバンドでギターだけをやっていたんですが、そこからは“僕も歌いたい”と思って。シンガーソングライターだったら自ずとギターも弾けますし」
──ではそこからは弾き語りを?
「はい。バンドだとメンバーと一緒にやるのが難しくて…。だから弾き語りを始めてからはずっと一人でやっていました」
──それは軽音楽部で?
「それこそ教室で…」
──また教室で歌を歌うことに?
「歌っている姿とか、ギターを弾いているところを、見てほしかったんでしょうね」
──難しいギターを弾けるようになったら“見て!”ってなりますよね。
「多分、それに対して楽しさを覚えていたんだと思います」

──今の音楽性のベースになっているジャズが、今のところお話に出てこないのですが、ジャズはどこで?
「高校生のときです。楽器屋さんのギター教室に通っていたのですが、その先生がたまたまジャズが好きな方で。“ジャズを学んで損はない”、“何のジャンルにもジャズは繋がるから”と言われて。最初はブルースから始まって、ジャズも教えてもらいました。ただ…ジャズってすごく難しくて、“これ以上学ぶのは自分としてはちょっと違うな”と思ってかじる程度で終えました」
──バンド経験もそうですけど、突き詰めるものと、さっと手を引くものが明確なんですね。
「結局は、自分でいいと思ったものしか取り込めないんです。でもそれが個性になると思っています。嫌だと思ったものや学びたくないと思ったものを無理やり学んだところであんまり意味ないなって」
──しかも、そういうものってあまり身にならなかったりしますよね。
「そうなんです。全然入ってこなくて。だからすごい偏食なんですけど、それが個性になるからいいかな?って」
──tonunとして活動をしている今もそう感じていますか?
「はい。むしろ、今はより強く思います。音楽シーンの中にいて、以前よりもいろんな音楽を聴くようになって、“こんなに世の中に良い音楽がたくさんあるんだったら自分の個性を伸ばすしかないな”って。もちろん“大衆向けに”という考え方も大事ですけど、そっちに行くと競争率も上がりますし(笑)。視野には入れつつも、自分は個性を伸ばすほうが向いている気がします」
──tonunさんは楽曲提供などもよくされていますが、それこそ個性がないと楽曲制作の話もここまでこないでしょうしね。
「楽曲制作を始めたときにも、それは思いました。だって素晴らしい作曲家の方ってたくさんいるじゃないですか。プロの作曲家の方に、“tonunっぽい曲を作ってください”って発注すると、多分作れると思うんです。だけど、それでも“tonunに書いてほしい”と言ってもらうということは、僕が、作曲家さんにも劣らない曲を作り上げているからだと思うんです。かといって癖が強すぎると、みんなに聴いてもらえないですけど(笑)」
──その“みんなに聴いてもらうために”という感覚は、きっと小学生の頃から“みんなに聴いてもらいたい”という想いで歌を歌っていた経験が活きてくるような気がしますね。
「確かに。すごくマニアックな音楽も聴くけど、どこかに聴きやすさがある音楽が好きなんですよ。結局は、自分がいいと思っている曲を作って、それがどれくらいの人に刺さるか?みたいなことなんだと思います」
──tonunとしてはラブソングが多いと思うのですが、どういうことを音楽にしたいと思って活動を始めたのでしょうか?
「決めているわけではないですが、歌詞の内容的にはラブソングが多いですね。感情が一番乗せやすいからかも…。応援歌とかの選択肢もあるんでしょうけど、普段から人を応援しないですし…」
──というか、ご自身が音楽に応援を求めてこなかったんでしょうね。
「ああ、そうですね。音楽には元気付けられるとか、いろんな作用があると思うんですけど、僕は音楽に心地よさを求めるタイプで。音楽を聴くときは目を瞑って聴くんです…体で音楽を聴くというか。多分それに一番近いのが恋愛だったり、感情表現だったりするのかもしれません。僕自身、いわゆる“エモい”と言われるような歌詞が好きで。“こういう歌詞いいよね”、“こういうストーリーいいよね”っていうものを提供している感じなんです。ちょっと俯瞰しているんですよね」
──なるほど。
「でも、それが悩みでもあったんです。シンガーソングライターって自分の思っていること、メッセージを伝えなきゃいけない、って聞いてきましたけど、自分的には楽曲として曲を聴いてほしいんです」
──自分を見てほしいんじゃなくて、曲を聴いてほしい?
「そうです。メッセージを伝えるということより、曲を作ることが好きなんです。そこが難しいことでもあって…」
──それこそタイアップはすごく向いていそうですよね。
「はい。楽曲提供もそうですけど、求められている感じがして、すごく嬉しいです」
──ではここからはドラマ『『魔物(마물)』のOST(Original Sound Track)に書き下ろされた最新曲「触れていたい」について聞かせてください。作品のどのようなところからインスピレーションを受けて作っていったのでしょうか?
「今回は主題歌ではなくてOSTなので、BGMっぽい曲にしようと思いました。あとは、このドラマは、危うい恋がメインテーマで、切ない部分もあり、幸せなときもあるということだったので、ハッピーさもありつつ切なさもある絶妙なバランスの曲にしようと考えていました」
──“誰目線で”といったオーダーはドラマサイドからはあったのでしょうか?
「主役の2人(麻生久美子演じる華陣あやめと塩野瑛久演じる源凍也)が、恋愛関係になるときに流れる曲を、と聞いていたので、その雰囲気作りができるような曲に仕上げました」
──曲自体はほぼギターと歌だけで進んでいくシンプルな構成です。
「最初はもう少しいろんな音を入れていたんですが、“もっとシンプルでもいい”と言われて…シンプルでオーガニックな感じがいいと。だから1番は本当にギターと歌だけで、2番からはコーラスを入れて、最後のサビで音が増えていくという形にしました」
──空間を感じさせるような音像も印象的でしたが、特にこだわったところは?
「確かに空気感はこだわりました。ギターと歌だけなので、空間を感じられるようにギターを重ねて、リバーブのかかった包み込むような音にして。あと、普段あまりコーラスは入れないのですが今回はコーラスを入れました。そこはちょっと挑戦でした」
──普段入れないコーラスを今回入れたということは、コーラスに何か効果を求めたからだと思うのですが、どういう意図で入れたのでしょうか?
「“音を少なくしてほしい”と言われたときに、ボーカルだけじゃもったいないかな?と思って。普段コーラスを入れていないのも、難しくて取り入れられなかったというのが正直なところなんです。コーラスを入れて成り立たせるのが難しいからなんですけど、今回は効果的に入れられそうだと思ったので入れました」
──ボーカルの面で意識しことはありますか?
「張り上げすぎず、ちょっと優しさを入れて…このメロディだと、もっと強く歌いたくなるんですけど、あえて優しく歌いました」
──実際、「触れていたい」が使われているドラマはご覧になりましたか?
「はい。自分の曲がテレビから流れてきてちょっと恥ずかしさがありました。でも、確かに雰囲気を作れている気がしましたし、嬉しかったです」
──普段とはまた違う届き方をしているということも含めて、「触れていたい」という曲が出来上がってみていかがですか?
「とてもありがたいタイアップでしたし、いい作品になったと思います。それこそ今まで届いていなかった人に届くだろうし。その人たちには別の曲も聴いてほしいですね」
──ちなみに、tonunさんは映像作品と音楽の関係をどのように考えていますか?
「うーん…曲を作るときにかなり映像がリンクするんですよ。作っているときに、その景色が浮かんでくるというか。tonunを始めた頃、1枚の写真を使ってリリックビデオを出していたのですが、その映像のイメージが曲についているというか…」
──それは、その景色を思い浮かべながら曲を作っているということなのでしょうか?
「いや、それともまた違って…。不思議と作っているうちにリンクしてくるんです」
──先ほど、“こういうストーリーいいよね”というものを音楽にしている感じがあるとおっしゃっていましたが、そういうストーリーや景色がいろいろと思い浮かぶのはどうしてなのでしょうか? 例えば小説が好きとか映画が好きとか?
「そういうことではないんですよ。本は読みませんし、映画は好きですけどそんなにしょっちゅう観るわけでもなくて。それこそ本を読むのは苦手なので、読んだところで吸収されなくて…。“もっと本読んだら?”とか言われるんですけど、読むのに一生懸命になって吸収できなくて」
──まさに好きなものしか吸収できないというお話ですね。
「はい。見るものといったらアニメとか…NetflixとかAmazonプライムの恋愛リアリティーショーも結構見るかも。あと、ドラマもよく見ます。そういうものから、自然とストーリーが頭の中にストックされているんだと思います。あとは他の人の楽曲のストーリーを自分の中で解釈して、それを自分の曲にして発信したり。僕は洋楽の和訳を読むのが好きなんです。日本語の歌詞はちょっと小説に近くて、僕からすると難しいんですよ。“よくこんな表現を思いつくな”みたいな歌詞の曲があるじゃないですか。僕はそういう歌詞は書けないです。だから簡単な言葉になっちゃいますけど、洋楽の和訳は言葉もそこまで難しくなくて、ストーリーもシンプルで。意外とそこがインスピレーションのもとになっていると思います」
──そう言われてみると、確かにtonunさんの歌詞は、使われている言葉はシンプルだけど、しっかりとストーリーがあるので、読んでいても面白いですよね。
「そう、使う言葉はとても簡単です。だけどずっと頭の中でいろんなことを考えているから…。いろんなやり方を試行錯誤はしてみるんですけど、結局自分のスタイルでやったほうがいい曲が生まれる気がするんです」
──それが先ほどおっしゃっていたように、個性になっていくわけですしね。
「僕は頭の中でいろいろ巡らせているから、きっと真似できないんでしょうね。逆にこういうインタビューでうまく言葉でも説明できないんですけど。だからそこが武器でもあり、短所でもあり…」
──この先のアーティストとしての展望や、作っていきたい曲の理想などはありますか?
「活動を始めたときは、“みんなの生活に寄り添う曲を”と言ってきたんですけど、最近はそれを、より多くの人に届けたいとも思っています。だから自分がいいと思った曲を作って、発信し続けて、それをより多くの人に届けていけたらと思っています。実は去年1年間、曲を発表はしていましたけど、プロモーション活動はしなかったんです」
──tonunさんは、きっと音楽を作って発表することでやりたいことが完結しているんですよね。
「そうそう。だけど、せっかくだったらちょっと違うこともやってみようと思って。それが“多くの人に届けること”なんです。時間がかかるかもしれないけど、いいものは広がっていくと思うので。それを信じていい曲を作って発信し続けていこうと思います」
(おわり)
取材・文/小林千絵
RELEASE INFORMATION

tonun「触れていたい」EP
2025年6月18日(水)0時 配信リリース
M1 触れていたい
M2 触れていたい Acoustic Ver.
M3 触れていたい Instrumental
M4 触れていたい Acoustic Ver. Instrumental