──メジャーデビュー10周年、おめでとうございます!

「ありがとうございます」

──メジャーデビュー10周年記念アルバム『Beyond the Rainbow』をリリースされますが、制作に向けて最初に着手したのはどんなことでしたか?

「実は、メジャーデビュー10周年コンサートを712日に開催することが最初に決まったんです。そのライブタイトルが“Beyond the Rainbow”になって、その後にアルバムのリリースが決まったという流れです」

──そうだったんですね。前作『Brand New Rainbow』のインタビューでお話を伺った際、“ウクレレでやることが音楽的なのかを考えたときに、そうでもないなと思ったら潔く引いて、他の楽器で盛り上げることも考えている”とおっしゃっていました。そんな記憶を辿りながらアルバム『Beyond the Rainbow』を聴くと、どちらかというとウクレレにこだわるというか…原点回帰しているような印象を受けました。

「…言われてみると確かに(笑)」

──(笑)。ご自身ではそこまで意識していたことではなかったんですね。では、アルバム『Beyond the Rainbow』ではどんなことを大切にしながら制作に臨まれていましたか?

「ウクレレという楽器のポテンシャルをどうしたら活かせるのか?に注力した作り方が前作でしたが、そう言えばばそんな気持ちは今作には微塵もなくて。今、“原点回帰”とおっしゃられて気がつきました(笑)。今回はそうだな…なんだか漠然とした答えになってしまいますが、自分の心の声に従って、残したい音を残していった感じです」

──なるほど。アルバム『Beyond the Rainbow』にはご自身で書き下ろされた新録楽曲が3曲収録されています。個人的な意見になってしまうのですが、名渡山さんのソングライティング力を持ってして、周年にリリースするアルバムに書き下ろしが3曲というのは意外と言いますか…逆に、曲数を絞ったことに意味合いがあるようにも感じました。

「…参ったな、どうしよう…」

──というと?

「実は今回、『Beyond the Rainbow』=“虹を越える”というたいそうなタイトルを付けてしまったので、アルバムを作るに当たって立派な虹を探すためにいろんなものを犠牲にして取り組んでいました。もう正直にお伝えしてしまいますが、今回の創作期間はもう思い出したくないくらい、ものすごく苦しくて。光が見えないトンネルの中で彷徨っているような苦しい制作期間でした」

──そうだったんですか…。いわゆるスランプというものでしょうか?

「そうだったと思います。曲は書けるんです。“こういう曲を書いてほしい”と言われたら、すぐに書けるんです。でも、“自分の作品として作る”となったときに、“これは違う、あれは違う”となってしまって…。それまで日常生活の中で心が揺さぶられたり、感動したりしたときに頭の中で音楽が流れていたのが、流れなくなってしまったんです。そうなると焦るじゃないですか。だから、能動的に感動するほうに進んでみようと思いました。“景色のいいところで曲を書きたい”とか、“静かなところで書きたい”とか考えているうちに、少し間違った方向に行ってしまって。自分の思い描いている理想と日常生活のギャップを、“自分は音楽を書かないといけない”と正当化して、日々忙しなくやってくる家事や育児、その他もろもろを避けて、音楽が鳴る方に進んで行ってしまったんです。わかりやすいエピソードで言うと、僕、曲を書くために今年の2月にイギリスの湖水地方に行っているんです」

──感動や静かな環境を求めてですか?

「はい。そこでずっと湖を見ながら曲を書いていました。40曲くらい作ったんですけど、“なにか違うな…”って。その最後のピースを探して、足掻いて、苦しんで…」

──曲は書けるのに、書いても書いても何かが足りない、と感じていたのでしょうか?

「んー…“曲は書ける”というのとも違って…納得いく曲が書けないんです。だから、例えばきれいな景色とかを見れば曲が書けるのかな?と思って、そういう写真集とかを見て想像を巡らせていました。“こうかな?、ああかな?”と何時間もイメージして、“おっ、頭の中で音楽が流れてきた”って。それで、やっとの思いで起こした火種に着火剤をつけて炎を大きくしようというときに、日常という風がふーっと吹いてきて火を消してしまうんです」

──なるほど…。

「当時はそういうメンタルになってしまっていたので、ありふれた日常の音ですら全てがノイズに聞こえて、自分の仕事部屋のドアを閉め切って誰も入れないようにして、耳を塞いで“うわー!”って一心不乱に書いていました」

──そういう状態になってしまったのはウクレレを手にされて以来、初めてのことだったりしますか?

「間違いなく初めてです」

──書き下ろし曲の中にはイギリスで書かれた曲も入っていますか?

「イギリスで書いたものも含めて準備を進めていた曲を、レコーディングの1週間前に全部捨てました」

──え? 捨てたんですか!? しかも全部!?

「はい、全部捨てました。自分が作った曲ですけど、何の説得力もないと思ったので。目の前のことをやらずに丁寧に生きていない自分が作った曲なんて何の価値もない。そう思ったので」

──とはいえ、レコーディングまでに残された時間は1週間ですよね? そこからどのようにして立て直していったのでしょうか?

「もちろん焦る気持ちはありましたが、そこで焦って曲を作ると同じなので、そこからは子供たちの送迎をしたり、たくさん一緒に遊ぶようにしたりしました。それから家の掃除。床や壁、水回りを毎日掃除するのを日課にしました。そうすると指が乾燥して、爪の状態も良くなくなるんです。でも、何が幸福につながるかってわからないですね。そんなふうに過ごしていたら、「Nemophila」が最初に書けました」

──曲の片鱗が生まれたときのこと、覚えていますか?

「忘れもしないのが、タンポポです。ある日、娘が小学校でもらった卵の形をしたお菓子を持って帰ってきたんです。そしたら息子がそれを“食べたい”って言うんです。“お姉ちゃんがもらってきたものだからお前の分はないんだよ”と言っても、もう、“食べたい、食べたい”の一点張りで収拾がつかなくなってしまって。そんなとき、いつもだったら妻に全部任せて(仕事部屋の)ドアを閉めて、“静かにしてくれ!”という感じなんですけど、そのときの僕は改心しているので(笑)一緒に買いに行くことにしたんです。でも、お店を何軒回ってもなくて。その度に息子は泣き出すし、僕は僕で改心したと言いつつ、2日後にプリプロを控えていたので“早く帰りたい”というのが正直な気持ちで…」

──その時点ではまだ1曲も完成していないということですよね?

「そうです(笑)。だから気持ちは焦っているんですけど、“こんなふうに過ごしてこなかったな”と思って、とことん付き合いました。結局そのお菓子はどこにもなくて、最終的に駄菓子屋さんで別のお菓子を3個くらい買ったら息子も納得してくれて。それで手を繋いで帰っている途中、息子が道端にタンポポを見つけたんです。うちで飼っているリクガメの好物がタンポポなので、息子が今度は“タンポポを摘んで帰る”と言い出して。“また帰れないなぁ”と思ったんですけど(笑)、一緒に摘んでいたらすごく幸せな気持ちになって、ぶわぁっと涙が溢れてきました。そして、頭の中でキラキラと音楽が流れて「Nemophila」という曲が生まれました。途中、ちょっとハーモニクスになって曲調が変わるところは“タンポポ”と名付けています。その部分が流れてくると、息子が“これ、タンポポだね”って言ってくれます。結局、そういうことなんですよね。普通に、丁寧に生きいてたら、曲が書けるんだと思いました」

──その出来事が他の2曲が生まれる突破口になったのでしょうか?

「はい。「Treasure」や「Iris」も、そこからパタバタと生まれてきました。「Treasure」は、それまでずっと“最後のピースを探している”って言っていましたけど、それはもうとっくにこの手にあったんです。さっきのお菓子を買いに行った帰りに、繋いでいる息子の小さい手を見て思いました。だから、最初は「Last Piece in My Hands」とか「Always There」という仮タイトルだったんですけど、あまり自分のエピソードをタイトルに込めても限定してしまうから、もっといろんな心境の人に寄り添えるものになるようにシンプルに「Treasure」にしました。ちなみに「Treasure」はレコーディング当日の朝4時に、「Nemophila」はプリプロ当日の朝4時に完成しました。もう、泣きながら作りました」

──その涙にはいろんな想いが込められていますよね、きっと。

「“何、やってるんだ!?”っていう(笑)」

──(笑)。そして「Iris」は…読み方はアイリスですか?

「僕は“イリス”と読んでいますが、“アイリス”という意味も込めています。まず“アイリス”からお話しすると、うちの近所に湧き水を使ってアヤメを育てているおじいちゃんがいたんです。すごく笑顔が素敵な方で、どうしてアヤメを育てているのかというと、近所の人に配るため、人を笑顔にするために。うちの妻もよくもらってきていました。その方は34年前に亡くなられてしまったんですけど、今でも湧き水のところにアヤメの花が咲くんです」

──その花を見るたびに、近所の方々はそのおじいちゃんのことを思い出しますよね。

「そうですね。笑顔もですけど、心もすごく素敵な方でした。あまりにも心が綺麗すぎて、僕みたいな人間が気軽に近づけないというか…。でも、僕もあのおじいちゃんみたいになりたいです。そんなふうにアルバム『Beyond the Rainbow』の制作を通して思いました。それから、これは妻が言ったことですけど、今作には“Rainbow Fish(※絵本『にじいろのさかな』)”という裏テーマがあって。簡単に説明すると、虹色の鱗を持った魚がいて、世界一美しい魚ですけどプライドが高くて、ある日、小さな魚から“鱗を1枚ちょうだい”と頼まれたのを断ってしまうんです。それがきっかけでみんなが自分から離れていってしまい、悩んだ魚が賢いタコに相談すると、“その美しい鱗を他の魚に1枚ずつ分けてあげるといい。そうすると、世界一綺麗な虹色の鱗はなくなってしまうけれど、そこで大切なものに気づくだろう”っていう絵本の物語です。その作品を、たまたま娘が幼稚園の最後の発表会でやったんです。これもなんかすごいタイミングだと思って。“Iris(イリス)”というのは虹の女神の名前ですけど、僕がずっと探していたもので、でも実は、それは一番近くにありました。そういうところからこの曲を書き上げました」

──書き下ろしの3曲を生み出すために、名渡山さんはいろいろな経験をされたんですね。

「すごく遠回りをしました(苦笑)」

──でも、だからこそ辿り着いたんですよね。逆を言えば、最短距離では辿り着けない場所だったのではないでしょうか?

「僕の口からそうとは言えないです。家族にたくさん当たってしまったので…。だけど、家族もそう言ってくれていますし、僕自身もそうだと思います」

──冒頭で“ウクレレを弾くために指先を綺麗に”とおっしゃっていましたが、今のお話を伺って、日常生活をして傷ついた爪や指先から生まれる音こそが、名渡山さん本来の、血の通った音のように思いました。

「本当にそうなんですよ。ずっと、綺麗な音が正義だと思っていたので。それを考えるがあまり神経質になって、一番大切なものを置いてきぼりにしたり、傷つけたりしてしまいました。そういう中で何十曲と作りましたけど、何の説得力もありませんでした」

──日常を泥臭く生きていくことでしか生まれない曲があるんですね。

「そうですね。数日前の出来事ですけど、年長さんの息子が外に出て行ったと思ったら、すぐに戻ってきて“パパ! 虹が出てる!”って叫んで。天気がいい日だったので、“こんなに晴れているのに虹が出るわけないじゃん”と思いながら外に出ると、やっぱり虹はどこにもなくて。僕が思う虹って、いわゆる空にかかっている大きな虹で。ずっとそれを求めて、たいそうな虹ばかりを求めて、間違えてしまったというか…。息子が言っていた虹は、僕の自転車の足元に何かの反射によってできた小さなものだったんです。息子はそれを僕に見せたかったみたいで、地面を指差して“虹だ!”って」

──名渡山さんが探していた虹は足元にあったんですね。

「そういう虹の存在をわかっていたつもりですけど、気づけなくなってしまっていました。でも今、“イリス”はすぐにそばにいますし、探していたものは手にしています。それが明確にわかりました」

──これまでのお話を伺って、“アルバムが完成して良かった!”と心の底から思いました。

「本当に良かったです(笑)。自信を持って世に出せるアルバムになりました」

──そして、アルバム『Beyond the Rainbow』はメジャーデビュー以降の作品からセレクトしたコンピレーションのDisc.2との2枚組です。コンピレーションの選曲でポイントにしたことを教えてください。

「この10年間にリリースしてきた中で自分にとって大事な曲であり、初めて聴いた人にも“名渡山遼とは?”というのをわかってもらえるような選曲を心がけつつ、蓋を開けてみれば、自分の想いが一番込められていました。最初の4曲は自分も含め、11曲が家族のための曲ですし、5曲目は家族全員のための曲で…。やっぱり自然とそうなってくるんだと思いました」

──そしてアルバムリリース後、7月12日には冒頭にお話しされていましたが、実はアルバムよりも先にこのコンサートが企画されたという10周年記念コンサート『Major Debut 10th Anniversary Ryo’s Uke Journey ~Beyond the Rainbow~』を開催。既にDEPAPEPEの三浦拓也さんがスペシャルゲストとして発表されていますが、どのような内容になる予定ですか?

「三浦さんは僕のメジャーデビュー記念ライブのときにも出演していただいたり、メジャーデビューアルバム『Made in Japan,To the World.』の1曲目、「Angel」のアレンジをしてくださったりと、節目節目でご一緒させていただいていて。大好きな先輩で、節目の10周年ということで、一番に顔が思い浮かんでオファーさせていただきました。あと、バンド編成が今回のアルバムと同じ、ウクレレ、ピアノ、バイオリン、チェロ、コントラバス、ドラムの6人編成です」

──そうなんですね! となると、バンド編成ならではの演奏というのも期待してしまいます。

「そうですね。まだ考え中ですけど(※取材時)、例えば「Iris」はアルバムだとウクレレのソロでやっているものを、ライブではチェロとバイオリンとウクレレでリアレンジしてみるのも面白いかな?とか、いろいろイメージが膨らんでいます。アルバムを制作してきた延長線上でアレンジしていけたら、すごくいいライブになるはずです。しかも、この日限りのためだけにアレンジするので、楽しみにしていてください!」

(おわり)

取材・文/片貝久美子

RELEASE INFORMATION

名渡山遼『Beyond the Rainbow』

2026年624日(水)発売
KICS-4253~45,500円(税込)

名渡山遼『Beyond the Rainbow』

LIVE INFORMATION

Major Debut 10th Anniversary Ryo’s Uke Journey ~Beyond the Rainbow~


日時:2026年7月12日(日)開場15:00/開演15:30
会場:よみうり大手町ホール(東京都千代田区大手町1-7-1 読売新聞ビル内)
出演:名渡山遼
スペシャルゲスト:DEPAPEPE 三浦拓也

Major Debut 10th Anniversary Ryo’s Uke Journey ~Beyond the Rainbow~

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