――今回のEP「Next Chapter EP」はタイトルからも意思が感じられますが、すでに前作の『The Ordinary Road』も“次章”を感じる印象があって。前作で達成したことや気づきについて伺えますか。
「確かに前作、すごくいいアルバムを作れたなっていう実感があって。バンドの歴史を網羅できたような、いい意味で偏りのない作品ができたなと思ってて、バンドのストーリー的には通過点っていうよりはこれをこのバンドのスタンダードにしてもいいのかなっていうアルバムだったと思いますね。今までやってきたことも肯定しつつ、よりエモーションの部分と見せ方の部分がいいバランスで作れたなと思ってますね」
――最近のアルバムはホリエさんの歌が立ってるアルバムもあったし、歌詞の内容も以前に比べるとわかりやすくなった部分もあると思うんですけど、再び『The Ordinary Road』でそもそものストレイテナーらしさも全部集結してる感じがあって。
「歌っていうところに重点を置いた曲作りも挑戦して違うタイプのリスナーにも届けたいんだっていう意欲もあったんですけど、ロックバンドとしてやっぱり初期に目指してきたバンド像みたいなものを大事にしたいなと思って、肩の力抜いてバンドらしいサウンドだったり、"分かりやすくアップテンポの曲とかしばらくいいかな”ぐらいに思ってたのが『The Ordinary Road』で、今だったらもっと前向きにそういう曲作れるなと思って。歌詞面では英詞で曲書くときって曲のメロディが英詞向きでしかないとか、ストレートなメッセージを書くときに日本語だとちょっと恥ずかしいみたいなことが理由としてあったんですけど、英詞でもそこまでストレートじゃなくてもいいんじゃないか、自分だけしかわからない感情の表現も試したくなったというのは前作からの変化かな」
――ストレイテナーは常にミニアルバムやEPは面白いことを提示してると思うんですが、今回もそういう立ち位置にあると?
「まあ一曲一曲作ってできた曲を収録しようっていうノリで作ってるから、フルアルバムからの反動とかも今回特になくて。例えばアルバムが歌モノに偏ってたら、その反動でバンド感とかライブで盛り上がるための曲を作ったりするのかもしれないですけど。結構何も考えずにまずはメロディからっていう自分の中で当たり前の作り方でできた曲なので、アコギの弾き語りで作った新曲3曲をバンドのアプローチをして、1曲1曲に違うテーマで臨んだっていう。それも新たな試みっていうんじゃなくて、今のバンドが楽しんで音作りしてライブでどういう見せ方しようかっていう、4人集まったときの一体感が良い状態だと思ってるんで。それは前作のアルバムも同じなんですけど、僕がサウンドとかアレンジについてのアイディアを出して、それにみんなが反応してセッションしながら、手応えがあるものになったという感じです」
――曲の「Next Chapter」には最近の作品に比べてソリッドな時代認識を感じたんですが、その辺はどうですか?
「そうですね。この歌詞を書いたからサウンドはポップにしようと思ったんです。メロディが先に出来て自分ながらめちゃくちゃいいメロディだなと思ったので、歌詞を書くタイミングで、今年が戦後80年っていうのを意識して。10年前にも「NoO ~命の跡に咲いた花~」で平和へのメッセージソングを作ってたんで、この節目にも改めてメッセージしたいなと思って。で、このメロディアスでキャッチーな曲でストレートな反戦ソングを作ったらどうだろう?と思いました。自分の中ではちょっと照れもあるぐらいに素直な気持ちを言葉にして、この曲では特になるべくぼやかさずに、というかあんまり比喩的だったりオブラートに包まずに言葉を選んでいった感じですかね」
――しかも「The music is the magic, never hurts anyone(音楽は魔法であり、誰も傷つけることはない)」という歌詞が出てきますけど、そういう表現もすごい珍しいと思って。特に音楽が主語になるっていうのは音楽を作ってる人としては強い表明ですよね。
「うん。歌詞にしたことなかったんですけど……本当だったらMCなんかなくてもいいっていうタイプなんですけど、いろんなフェスだったりとかイベントに出てタイミングやその場でしか伝えられない言葉がやっぱりあって。そういう時になるべくシンプルに自分の思っていることを語るんですが、そういう時にいちばん思うのが音楽に自分たちも支えられて、音楽を作って発信する立場っていうのがすごく貴重でありがたいということで。そこで何ができるかって言ったら音楽は人を攻撃するものじゃないし本当にいろんな立場を越えて、境目を超えて一つになれるっていうか。いろんな人たちと出会って繋がりができて、素直に思うことっていうのはやっぱそれで。で、その気持ちを素直に詞に書けたと思います。万人が同じ音楽で楽しんで一つになることを目指すというよりは、一人一人が自分の好きなものを誇りに思って、違うタイプの人同士が自然と集まる場所だったり繋がるきっかけがあるっていうことは素晴らしいことだなと思うので。いまの世界に対して思うことに自分なりにメッセージできるとしたらこれだな、と」
――ホリエさんがこういう歌詞を書くっていうのは現実が相当ヤバいわけですよ。
「そうですね(笑)。戦争に対する思いをなんか悲観的にね、絶望感で書くんじゃなくて。一人一人の考え方一つで変えられる希望はあると思うので、違う思想に対して批判的になったり、低い方にみんな流れがちだけど、好きなものを共有し合えば肯定し合う気持ちが生まれて、そんな負のサイクルから抜け出す道は見つけられるんじゃないの?みたいなことを思ってますね」
――ストレイテナーがずっと持ってる、群れずに何か絶対自分が許せないことや逆に守りたいことを持っていて、迎合しないという勇気がファンの信頼の理由でもあると思います。
「若い時代は反骨精神が原動力になるじゃないですか。でもなんか今はそうじゃなくて、わかってくれる人たちを手に入れてきたっていうか。自分の人生においてもそうだし、ミュージシャンとしてもそうなんで、そこに自分も支えられて信じて一歩踏み出せるっていうのは今の良さですよね。その強さと言うか」
――「Next Chapter」は時代に対する姿勢?
「楽曲っていうかEPのタイトルになってるからバンドを表してるように見えるかもしれないですけど、どっちかっていうとメッセージですかね」
――この曲も「メタセコイアと月」もそうなんですけど、音像が前作までの音数を絞ってる曲ともまた違いますね。
「何か意図したっていうよりはやっぱり一曲一曲違ったものを作るっていう意識で、アルバムのレコーディングみたいに流れで作るのとはちょっと違うんですよね。一曲一曲のカラーも違うし、曲のモチベーションも違うので、音についても突き詰められる限りやる、みたいな。逆に「My Rainy Valentine」みたいな自分たちの持ってる引き出しで一瞬でできちゃうみたいな曲もあったから、「Next Chapter」と「メタセコイアと月」には時間をかけられたっていうのがあるかもしれない」
――「My Rainy Valentine」はもしやマイブラ(My Bloody Valentine)のもじりなのか?とちょっと思ったり……
「曲調はまったく違うんですけどね」
――タイトルもたまたまなんですか。
「タイトルは歌詞を書いてからつけたんですよね。音像的には「メタセコイアと月」の音像の方がマイブラみたいなね?」
――「メタセコイアと月」はベースサウンドも空間系で面白いです。
「シューゲイザーをテーマにしてたんで。ギターが印象づけてるんでリズムとかベースはあんまり上に行かないというか淡々としたプレイに徹してるところはあります。僕も新たにエフェクターも選んで。ファズのエフェクター普段使わないんですけど、むちゃくちゃ歪んだコード弾きっていうのをこの曲のためにエフェクター足してやってますね(笑)」
――最近シューゲイザー議論があるじゃないですか。何をもってシューゲイザーと言うか、音のことを言ってるのか、メンタリティやセンス、もしくは美学なのか……
「壮大になりましたね(笑)。そんなにシューゲイザーに造詣深くないんですけど、もちろん通ってきてはいて。でもここではサウンドの方向性で捉えてますかね。90年代にいろんなバンドがいた中でシューゲイザーはサウンドでもあり、同時にカルチャー、みたいなところではあるかもしれない」
――「メタセコイアと月」ってタイトルもそうですし描かれてる世界観もそうですけど、ストレイテナーの曲にある旅情というか情景が浮かぶ系の曲の一つかなと。
「EPのタイトルの「Next Chapter」とは反してるんですけど、言いたいこと言ってないというか内面に隠した狂気みたいなところを表現できているかなという感じ。自分でも自分をわかれないみたいな」
――鏡の中の自分に「私はあなたとは違う」って言ってる感じ?
「とかですね。捉え方にもよると思うんですけど。まあでもこの曲とこの歌詞っていうのは珍しいんですけど、「メタセコイアと月」はタイトルが先にできてて、自分で実際に散歩中に見たメタセコイアの後ろに月がかかってるのをそのまま曲にしようと思ったんで、独り言みたいな歌詞ですね」
――声のレイヤーで作る楽器とはまた違う感触もいいですね。
「歌をたくさん録るっていうのはやっぱり今のレコーディング手法というか、同じメロディのオクターブを変えて、オクターブそんなに出ないですけど(笑)、主旋律をオクターブ下でも歌ってみたり上で歌ってみたり。コーラスも下でハモるだけじゃなくて上に行ったり途中で上下が入れ替わったりを試したり、そこに時間と労力を使うのは惜しまないようにしようと」
――比較的なポピュラーな手法かもしれないですけど、ロックよりどっちかというとR&Bとか?
「R&Bとかエレクトロ系では何本も歌っていろんな声録って、みたいなのが主流になってるっぽいですよね」
――ホリエさん自身、最近のエレクトロニックなR&Bやアーティストは聴きますか?
「聴きますね。情報からと言うよりは割と受動でラジオとかで聴いて、「あ、カッコいい」と思ったら調べるし、直感的に「これ面白いな」と思ったら取り入れようっていう意識は常に持ってますね」
――それこそ90年代のUKの音楽ってダンスミュージックもロックと並行して入ってきてましたが、その頃聴いていたものの蓄積もあったりしますか?
「特に一番聴いてた90年代後期はロックとダンスミュージックの融合があって、ライブハウスとクラブがぐちゃぐちゃになって、お互いが刺激し合ってる感じがあったし面白かったんで、それがストレイテナーのサウンドにたまに出てくるというか。どっち側からでもないアプローチをしてみたいところはある。特に最近は打ち込みベースからバンドサウンドに置き換えていくようなレコーディングの仕方も取り入れるようになったので、より自然とやってるかもしれないですね」
――同世代のバンドの中でもそのカルチャーの影響は大きいですね。
「そうですね。ストレイテナーは「DISCOGRAPHY」とか「KILLER TUNE」とか、モロにやってたんで(笑)」
――強みだと思います。
「やり始めた頃って結構頭でっかちな洋楽リスナーから叩かれたりとかしてたと思うんですけど、あんまり気にしなかった。それを乗り越えて自分たちのものにしてきた感はあるかなと思います」
――ファン待望の「走る岩」のセルフカバーの収録も嬉しいところです。この曲を選んだのはなぜなんですか?
「これは前作収録の「COME and GO」の歌詞で言葉遊び的に持ってきて、「走る岩」「泳ぐ鳥」「叫ぶ星」って時代がバラバラな3曲の曲名を出したのがきっかけですね。「走る岩」はもともと2人時代の音源しかないし、3人時代も何回かはライブでやってるんですけど、ここで4人になって初めてアレンジし直して、歌詞ももともと2番はなかったんですけど2番の歌詞書いて、ちゃんと今の曲として作ったのでこれはレコーディングして残しておこうと。いいタイミングでした」
――今回のEP入ってるのがすごくしっくりくる感じがします。
「この曲も実は反戦の曲だったんで。戦禍で理不尽に傷つけられた場面を比喩的に書いてる、それがこの「Next Chapter EP」にも合うなと思って」
――ちょっとバンカラな感じもある。
「和なメロディを激情で歌い上げるのは完全にイースタンユースの影響ですね(笑)。同世代のバンドシーンでは青春パンクが席巻していた頃で、ストレイテナーは一切青春してないスタンスだったので溶け込めずにいて(笑)。和メロを真逆なド暗い歌詞で歌うっていうシニカルさが前面に出てるかなと」
――では最後に2026年に向けての計画はありますか?
「大きなプランはないんですけど、このEPの新曲3曲を作れたことで、これからまた新たに作っていく曲とか、このEPが出てからのライブのリアクションとか、ホールでのライブとして「Sad And Beautiful Symphony」をやってみて、心境の変化みたいなものもあるかもしれないんで、その時の気持ちが次の作品とかこれからのライブにつながっていくのかなと思います。あと2年でまた30周年イヤーに入っていくんで………ま、そこまで考えてないんですけど(笑)、今のバンドの良さをより強くしていきたいなという感じですかね」
――もう30周年なんですねえ……
「あと今年はART-SCHOOLとACIDMANのトリビュートにも参加できて。トリビュートでカバーした曲はもともと好きな曲なんだけど、ストレイテナーの曲以上にストレイテナーらしさを出せたような、すごくいいものができた手ごたえもあって。自分たちの曲をアレンジしたりライブで演奏する時とまた違う感覚で。同世代のバンドに対する友情とか尊敬し合えるっていう感情的な部分に熱いものももちろんあるけど、自分たちのバンドの今に自信を持てたような、ありがたい経験になりましたね」
(おわり)
取材・文/石角友香
写真/平野哲郎

Sad And Beautiful SymphonyLIVE INFO
2025年11月22日(土)NHK大阪ホール
12月9日(火) LINE CUBE SHIBUYA(東京)
12月10日(水)LINE CUBE SHIBUYA(東京)
ストレイテナー「Next Chapter EP」 DISC INFO
2025年10月29日(水)発売
TYCT-60254/7,480円(税込)
ユニバーサルミュージック
