――「白と黒」はドラマの主題歌の話を受けて書き下ろした曲なんでしょうか?
「曲自体のアイディアは数年前から温めていたもので、この話をいただいた時に、その曲にこのドラマが合いそうだなと思って提案させてもらった感じです。言葉は全部書き下ろしました」
――オファーを受けてのファーストインプレッションはどんな感じでしたか?
「シンプルにうれしかったです」
――ACIDMANはこれまでタイアップはかなり少なかったですよね。
「そうですね。なぜか」
――バンドを追ってきた人は、ある種の美学としてタイアップを遠ざけてきたのではないかと思っているかもしれませんね。
「テレビにも出たいタイプではなかったんですけど、呼ばれたら出させていただく。でも慎重に考えつつ、みたいな姿勢があったので、結果的にですね。でも全然別に頑なに距離を取ってきたわけではないんですよ」
――じゃあ改めて、これまであんまり質問したことがなかったんですけど「ACIDMANにとってタイアップとは」というテーマについて聞かせてください。つまり、聴いてきた人なら知っていることですが、ACIDMANにはデビュー以来ずっと変わらないテーマやモチーフがある。貫いてきている世界観がある。一方で、ドラマなど何かの物語に対して曲を書くというのは、そもそもあまり相性が良くないんじゃないかと思ったりするんです。この辺りってどうですか?
「そうですね。自分たちの世界観を曲げてまでやらなきゃいけないタイアップも世の中にあると思うんですけど、それは絶対やらないです。だけど、過去に吉田恵輔監督の『犬猿』という映画の主題歌「空白の鳥」(11th アルバム「Λ』収録)を書かせていただいたのは、吉田監督が僕らのことを好きでいてくれたからです。アニメ『あひるの空』の主題歌「Rebirth」(12thアルバム『INNOCENCE』収録)は、作者の方が好きでいてくれたんです。そういうところに対して応えるのは楽しいし、ありがたい気持ちでいっぱいだから、全部捧げたい思いでできるんです。そういう意味でのタイアップはめちゃくちゃやりたい。だけど、商業的なことだけで、かつ僕らの世界に関係ないものは絶対にやらないですね。前回の『ゴールデンカムイ』もプロデューサーさんからの熱い思いがあったし、あと僕が好きな漫画だったので、是非やりたかった。今回の『ダブルチート』も、プロデューサーさんが僕らのファンでいてくれたし、作品も面白かったから。シンプルにやりたいことはやりたい、やりたくないことはやらないと決めているので。分かりやすいんですよ」
――逆に言うと、キャリアを重ねてきて、ACIDMANがこういうバンドであるっていうことを踏まえた上で、 それでもお願いしたいっていう志しのあるオファーくるようになったってことなんですね。
「そういう方たちが何かを決める役職に就くようになって、物事を動かせるようになると、僕らみたいな尖ったバンドにもオファーしてくれるようになったんだと思うんですよね。でも誤解はされてると思うんですよ。やりたくないことはやらないって言ってるだけで、実はそんなに尖っていないし。さらに言うと、誰かのために、作品のために曲を作るっていうことが、今回の経験でさらに楽しく、やりがいのある感じになってきたので。こういうタイアップっていうのは、僕らにとってもいい刺激になるし、それで作品がより良くなれば、ウィンウィンなことだなって思いますね」
――『ゴールデンカムイ』主題歌の「輝けるもの」に関しての話も改めて聞かせてください。振り返って、あの曲を今どう捉えてますか?
「まず、このキャリアでこのような話をいただけることは奇跡的なことだと思っていて。 僕たちの知名度が上がったのは肌でも感じました。映画自体も面白かったし、ずっと大事に思える作品だと思うので、そういう作品に携われることができたっていうのもよかったです。あの曲はライブでやるとものすごいエネルギーが宿っていて。まだ10回もやってないんですけど、毎回、風圧を感じるぐらい、風がすごく吹いてるような、その中でグワーって演奏してる気分になるんです。すごいパワーのある曲だなと思いますね」
――バンドとして追い風を受けた感覚があった?
「そうですね。ただ、感じるのは追い風というより、向かい風なんですよ。グワーって向かい風が吹いている中で倒れずにいるのが精一杯みたいな。そこが心地いいというか……」
――「白と黒」については、最初にどんなアイデアがあったんでしょうか。それがなぜドラマに合うと思ったんでしょうか。
「最初はイントロ、A、B、サビだけが、僕のストックの中にあって。それは何十曲か常にパソコンでも頭の中でも引っ張りだせるようにしているんです。で、このお話をいただいた時は、 最初は僕らの楽曲「FREE STAR」(6th アルバム『LIFE』収録)のような曲をイメージしてますというお話だったんです。でも、いただいた台本を読んでみた時に、詐欺師が出てくるようなストーリーに「FREE STAR」が合うかな?と思って。もうちょっとダークな、ヒリッとするような、やさぐれたというところまではいかないけど、善と悪を問いただすようなイメージが僕の中にあって。それがストックしている曲とハマりそうだという感覚があったんです。ジャズっぽい雰囲気の方が、怪しさとか、悪さとか、主人公の多家良さんが抱えている闇とか悲しみとかみたいなものが、全部ぴったり合うような気がして。 逆提案させてもらったという感じです」
――大木さんの提案がなければ「FREE STAR」のような曲になる可能性もあった?
「サビが明るくて、前半部分で悲しみがあるような曲というのがオーダーだったんです。でも、僕はドラマにもっと寄り添いたいと思ったんでしょうね。それは『ゴールデンカムイ』の経験があったからで。あれは、映画を観終わって主題歌が流れたときに、すごくハマった感覚があった。とってつけたような“何のための主題歌なのか?”みたいなものじゃなくて、終わった後のお客さんの気持ちが最後の歌によって締まるような、合点がいくような、作品の一部になれた気がしていたので。だからこのドラマに対しても、もっと寄り添いたいなと思ったんです。もちろんオファーはありがたいし、この世界観って言われたのは分かるけど、僕はこっちだと思いますって、監督さんとプロデューサーさんにスタジオに来ていただいて、デモを聴いてもらったんです。ドキドキしたんですけど、そこで一発OKをいただいた。“むしろこっちの方がいいです”って言ってくれました。僕が思い描いたものと作品の世界観がハマったというか、それが勝手な思い込みじゃなく届いたので、良かったなと思います」
――曲調としてのジャズって、これまでのACIDMANのキャリアでも要素としてあるものだと思うんですが、ジャジーなテイストによって、どういうイメージが引き出されてくる感じがありますか?
「今回の感じは、ジャズの中でも、怪しさというか。アバンギャルドとも負の部分とも違うんですけれど、言葉でなかなか言えない感じがあって……」
――これ、僕が感じたもので言うと、都会っぽさだなと思いました。東京で言うなら新宿みたいな、夜の汚い都会のイメージ。
「ああ、なるほど。まさにそういうことです。夜の街だったり、人間の欲があふれているようなもの。お酒で言ったらウイスキーみたいな。ジャズってビールじゃなくてウイスキーだなっていうイメージがずっとあるので、この曲は特にそういうのが濃い曲だったと思うんですよね。ふだんアルバムの中で使っているジャズは、もう少し有機的で、ウッディーで落ち着いていて、柔らかで。でも、飲み物はウイスキー。今言っていただいているように、今回はまさに都会の欲望にあふれたところで、青年が思い悩んで、善と悪と戦い、善と悪に区別をつけられない。人間としての矛盾に悩んでいるというのがハマるんじゃないかなと思いましたね」
――そういうイメージの中で、ブラスセクションというのも、必要な要素として最初からイメージがあった?
「ありました。最初に作った時から、ホーンが合うなと思っていて。SOILのタブ君が吹いてくれる映像が頭の中にあったので。今年は「輝けるもの」で僕らをロックバンドとして初めて知ってくれた方も多いと思うので、その方たちに見せるのは、また違った側面がいいなと思って。そういうのも含め、今回のドラマにはぴったりな気がしました」
――歌詞に関しては台本を踏まえて書いていったということですが、どういう風に膨らませていったんでしょうか。
「僕のテーマとしては“生きるとはなんぞや”というところが究極なので、そこは変わってないんです。ドラマの主人公の多家良さんは、警察官でもあるけど詐欺師でもある。悪い人を裁くための詐欺であるから、じゃあそれは善なのかと言えば、でも法律に違反している。結局、善も悪もない世界観だなというところは、よく扱われるテーマではあるけれど、それは必ず伝えるべきだなと。あと、白と黒をはっきりさせたくない。善と悪をこちら側で決めることではないという。善と悪というのはグラデーションであり、立場や時代によって急にそれが反転することもある。そこに明確な答えを出すのではなくて、悩み続けている、答えを探そうとしている。ストーリーとしては、愛する女性が闇を抱えていて、その人をずっと探し続けているという場面も出てくるんですけれど。その心情とともに、でも結局、奇麗事というものに悩まされながらも、その奇麗事で生きるということしかないんだという、それが一番美しいという覚悟のある歌にしたいなと思いまし」」
――二面性がモチーフになった?
「そうですね。ただ詐欺は犯罪だ、犯罪者に対して最悪だというのは簡単なんだけど、それだけだと、なぜその人がそこに立ったのか、詐欺師の奥の人生、裏側の人生は分からない。僕らにも白の部分と黒の部分もあるし、二面性もあるし、悪い人にも良い一面があったりする。それを決めているのは、僕らが作った法律であって。でも法律も、戦争になったら価値観が変わってくる。人を殺しちゃいけないのに、戦争になったら人を殺せと言うようになってくる。大きな矛盾がある。そういうところまでこの曲から発展していけばいいなというのはありますね」
――ドラマに寄り添う楽曲でもあるわけだけれども、ドラマが終わっても、自分たちがライブで歌い続けるし、聴かれ続ける楽曲である。なので、自分たちの言葉、自分たちが描くものと重なり合うものもあったという。
「そうですね。きっかけとしてドラマと多家良さんに寄り添った心情は描くけど、そこからこの楽曲を一人歩きさせて、善悪とは何なのか、黒とは何なのか、白とは何なのか、生きるって何なのか、みたいなところを問いかけられたらいいなという。それはどの曲も常にテーマであるので」
――実際放送されて、自分の楽曲が主題歌として使われたのを観て、どんな感じでしたか。
「うれしかったです。1話の最後に流れてきたときは、ドキッとするくらいのタイミングでハマっていたので、よかったなと思います。むしろこの曲に寄り添ってくれたような編集になっているような感じもあって。作品をより輝かせるための曲を作れたんだなと思いました」
――ドラマの作り手とリスペクトしあったクリエイティブだった?
「そうですね。この間、第4話を観させてもらったんですけど、使っていただいているところがまた新たな切り口で。間奏のところから使ってくれて、そこもすごくうまくハマっていました。それは僕もミュージシャン冥利に尽きるというか。相乗効果が生まれている気がしますね」
――ツアー「ゴールデンセットリスト」についても聞かせてください。『ゴールデンカムイ』と「輝けるもの」を受けて、ツアーのキーワードは“金”になっているということですが?
「最初はある会議の中で、雑談レベルで“ゴールデンセットリストっていいじゃん”という提案をうちのレーベルヘッドから頂いて。そこからですね。で、うちのマネージャーが“金色という歌詞の曲を集めるっていいじゃないですか”と。僕が今まで作ってきた楽曲の中で、金というワードを使っている曲を集めたツアーという、かなりニッチなツアーが出来上がったという感じです」
――現時点でセットリストに「赤橙」「ある証明」「ミレニアム」「金色のカペラ」「輝けるもの」が含まれることが公開されていますが、これらの曲には全て金色という言葉が歌詞にありますね。
「結果としては12曲ありました。「赤橙」は少年が夕日の黄金色に輝く世界で砂を撒いて、それが光に反射して、そして世界を変えようとしている世界観。金色には昔から天国で降り注いでいるみたいなイメージがあって。金の粒子が手に触れられそうな桃源郷のようなワードとしていつも描いています」
――最初はちょっとしたアイデアだと思うんですけれど、ACIDMANって特殊なバンドなんだなっていうのを、来ている側も実感するツアーなんだろうなと思います。
「そうなんです。そんなことができるんだっていう」
――「白と黒」にも「金色」という言葉はあるわけですが、歌詞を書いている時に「ゴールデンセットリスト」の構想はありました?
「ありました。半分は、それで入れようと思っていたんですけど、でも、途中であっ!って気づいた感じですね。この主人公は、白と黒を不器用に混ぜていて。悲しいこと、間違ったことをやって生きていくっていうのは、白と黒を混ぜていくようなものなんです。で、最後、召されて、金色に輝く世界に行く。それは、誰しもが経験することだと僕は思っているんです。この現世では、あらゆる色を混ぜたら黒になっちゃうんですよね。でも、死後の世界は金色に満たされていた、僕がやってきたことは間違いじゃなかったんだ、みたいなところがゴールなんですね。その時に“あ、そうだ、これも使える”って思いました」
――20年以上前の「赤橙」にも最新曲の「白と黒」にも同じ「金色」という単語があるし、何かしら共通する、桃源郷のイメージのひとつの要素としてある。そういうバンドはなかなかないと思います。
「これだけ変わってないというか、ある意味進化しない。バンドというよりは個人ですね。僕個人に最初から明確に描きたいビジョンがあった。当時は自覚的ではないですが。でも僕が憧れる世界がそこにあって。普通だったらもっといろんなやり方で手を変え品を変え、今までやってきた表現は繰り返さないんですけど、僕はそこに嘘があると嫌なので。どんなに使い古された、同じようなワードでも、その言葉が浮かんでいるならそれを使う。だから昔から今まで変わらない世界観でやれているんだと思うんですよ。そういう世界を描こうとしていて本当に良かったなと思います」
(おわり)
取材・文/柴 那典
写真/野﨑慧嗣
LIVE INFO
ACIDMAN LIVE TOUR “ゴールデンセットリスト”
6月16日(日)金沢市文化ホール
6月28日(金)日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール(愛知)
7月12日(金)トークネットホール仙台(仙台市民会館)
7月19日(金)岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場
8月11日(日)LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
8月16日(金)ももちパレス(福岡)
This is ACIDMAN 2024
10月30日(水)KT Zepp Yokohama