──前回、3rdアルバム『愛編む』インタビュー以来3年ぶりのencore登場となります。当時、まだ行ったことのない海外ライブを早くやりたいとおっしゃっていましたが、その後すぐに中国ワンマンツアー(『majiko ONEMAN LIVE “LOVE LOVE LOVE” China Tour』)が実現しましたね。
「しました! すごく嬉しかったです。それから中国には毎年のようにツアーで行かせていただいて、台湾でもライブをさせていただいて。今年も6月に台湾でライブをやって、10月からは上海、深圳、広州、北京を回る中国ツアーが控えています。海外でのライブが増えているので、“願いが叶ったなぁ“という想いです」
──実際に海外のファンのみなさんの前でライブをして、どんな感想を抱きましたか?
「すごく盛り上がってくれるので楽しいです。日本も盛り上がりますけど、海外の方たちには“歌う文化”があるようで…かなり、みんなが歌ってくれるんです。そういうのをあまり好まないアーティストもいると思うんですけど、私はむしろ“みんな!歌ってくれ! 私の代わりに!”みたいなところがあるので(笑)、楽しいです」
──海外公演が増えて、現地のファンの方と触れ合ったことで、音楽制作に変化や影響はありましたか?
「バチバチにありました!」
──そうなんですね!
「中国のワンマンツアーはもちろんなんですけど、中国・広州で開催された88rising主催の大型フェス『Head In The Clouds 2025』に出演したのが大きくて。個人的には、バンドでの初めてのフェスだったんですけど、テンション的にも上がりましたし、勉強になったことも…例えば、“ここのセクションにこういう曲があったらいいんじゃないか?”とかもあって。いろいろと想像力が膨らんで楽しいですし、今はほんとうにライブのために曲を作っている感じがあります」
──曲作りの話に行く前に、今年4月にデビュー10周年を迎えた心境を聞かせてください。
「 “10年経ったんだな”っていうのはありますけど、10年前はいろいろありすぎたんですよね。デビューだけではなく、いろんなことの節目の年でもあったので、ちょっと語り尽くせない感情といいますか…。“頑張ってきたなぁ”って、自分に言ってあげたいです」
──ひと言では言えないと思いますが、アーティストとしてはどんな10年間でしたか?
「10年前、デビューの年とはいえ、失ったものが多かった年でした。そこから考えると、精神面でも音楽面でも、ライブ面でも成長したと思います。いろんな方に支えられて、ここまでやってこれたというのはひしひしと感じます。お客さんももちろんですけど、周りの人たちの支えがあってこそ今の私がいるんだというのを実感させられます」
──その喪失感や悲しみ、寂しさはアルバムごとに少しずつ乗り越えていってるのでしょうか?
「はい、本当にそうだと思います。永遠に消化できないものだとは思うんですけど、自分の中にいつでも出入りできる部屋…思い出をたくさん詰めてある部屋っていうのかな? それができたのが大きいです。以前は、ふとした時にわって、フラッシュバックみたいに出てしまう時があったんですけど、今はそういうのもどんどん少なくなってきました。“落ち着いたな、やっと”っていう感じがあります。徐々に閉めれるようになってきたというか。隠しておきたいわけではなくて、そういう時間ができた時に、ちゃんと振り返られるような部屋ができました。だから、乗り越えました。乗り越えたのかな?…わからないけど、ちゃんと歩いてはきました」
──そして、今年の6月に新レーベル UNIERA(ユニエラ)に加入しました。移籍した心境はいかがですか?
「あの、毎回失礼なことを言ってしまうんですけど、“お目が高い”といいますか…」
──あははは。
「ほんとうに“お目が高いですね”って思います。ありがたいことですし、仲間が増えるのは、毎回とても楽しいことなので嬉しいです」
──新しい仲間と新しい作品を作るにあたって、次はどういうものをと考えていましたか?
「ライブですね、やっぱり。ライブを大前提として考えているので、“ライブでどういう曲が欲しいか?”をまず考えました」

──先程、海外公演の影響の話も出ましたが、新曲たちは想像よりもテンションが高くて驚きました。
「そうなんですよ。一番テンションが高い「ロカ」は、初めて中国のフェスに出演した時のインスピレーションで書いた曲だったので。なんていうか…あのうれしさが忘れられなくて。今まで、日本のフェスにはアコースティックでしか出演していなかったんですけど、中国のフェスではバンドで、しかも、すごく素敵な時間に出させていただいて。お客さんからも“好きになったよ”という声をたくさんいただきました。すごくいい経験をして、それをちゃんと曲に昇華したいと思って書いた曲です」
──四つ打ちで狂ったキツネダンスのようなハイテンションです。
「あははは。ずっと一緒にやっているバンドメンバーの人たちとフェスのステージに立ったんですけど、そこでお客さんの反応を見て、“次は4つ打ちで、majikoちゃんの歌がガーン!って出るような曲を作ろう”という抽象的な話をしていました。その抽象的な話をまとめると、“こういうことだろう“というのが「ロカ」です」
──ハードなEDMですけど、裏にちょっとラテンっぽい要素もありますね。
「そこは私の好みですね。シンプルにライブで盛り上がりそうですし、私も“テンションが上がりそう!”って曲になりました。まだライブではやっていないので、どんな反応があるかは分からないですけど…私は楽しく歌えそうですし、“こういうものです!”って自己紹介になる感じというか。次にフェスに出演させていただける機会があったとしたら、“何者だ?”みたいな感じにはなれるのかなぁって。短い時間の中で、好き嫌いが分かりやすい曲になった方がいいと思ったので」
──冒頭は<じゃあねじゃあね>から始まりますね。何に手を振って別れてるイメージですか?
「歌詞を書いている時って、メロディと一緒に何かが降りてきている状態で書いているんですけど、その時のテンションは何かを振り切りたかったのかな?…別に具体的に何かがあったわけじゃないんですけど、過去とか、嫌なものを全部、“振り切る”っていう意味での<じゃあね>だと思うんです。だから、自分的にはかなりポジティブで明るい曲だと思っていて(笑)。みんな、“暗い”って言うんですけど、そういうことです」
──テンションをあげて、無理矢理振り切っている感もありますよね。タイトルはどうして「ロカ」なんでしょうか?
「ロカ、ロカっていうのが頭にあって…」
──ロカにはスペイン語で“狂った”という意味もありますよね。中国のフェスで受けたインスピレーションで作った曲に<LOCA>や<HOLA>というラテンの言葉が入っていて…。
「どうしてでしょうね(笑)。お祭りが大好きなので、カーニバルみたいなテンションだったんだと思います。日本語タイトルだとカタカナの「ロカ」なんですけど、英語タイトルだと、“フィルタレーション”で、“何かを濾過する”という意味でつけたので」
──“濾過”なんですね。何を濾過しているんですか?
「“全てを愛に濾過する“というイメージで書いています。嫌なこととか、嘲笑や風潮とか…”全部を愛に濾過できないかな?“ってテンションですけど、そんなに深くないと思います」
──サウンド的には何も考えずに踊りたい曲ですけど、歌詞は前作『愛、編む』の流れを組んでいて、“結局、愛しかないでしょ!”というシンプルさが素敵ですね。
──その次に作った曲はどの曲なんでしょうか?
「ほとんど移籍前に作っていた曲なんですけど、順番的には「NA TTE NAI」です。私、筋トレが好きで」
──続いているんですね。前回のインタビューで、“筋トレを始めてから曲が変わった宣言”をしていました。
「続いています。筋トレでよくフォンク(Phonk)を聴くんですけど、“自分でもやってみたい“と思って作り始めたのがきっかけです」
──フォンクというのは、EDMとトラップミュージックの融合と言えばいいのでしょうか?
「うまく説明できないんですけど…とにかく歪んでいて、カウベルとか上物が鳴っていて、“筋トレに合う”っていうことしかわからないです(笑)。でも、超好きですし、ほんとうに筋トレしながらよく聴いています」
──筋トレのどんなトレーニングに合うんですか? リフティングには合わなそうですけど…。
「いや、それが合うんですよ。“リズムに合わせる”というよりか、ベースや歪んだキックの凶悪さであげています。もしかするとスピード、リズムであげる人もいると思うんですけど、私はその凶悪さで自分が“ふははは〜”みたいな感じであげている節があります。デッドリフト、ブルガリアスクワット、バーベルスクワットをするときに“いいぞ、いいぞ”みたいな感じで聴くフォンクを参考にして作りました」
──歌詞はそこからどうやって作っていったんでしょうか?
「この曲に関しては、後ろのオケがかっこよかったら、何でもいいと思ってました。<成ってない>というフレーズが降りてきたので、“じゃあ、なってないことはないんだ?”みたいな感じで組み立てていきました」
──大人に成ってないということですか?
「その“なってない”ではなくて、“お前はなっとらん!”の“なってない”です。すべてに対してなってない。これも“愛が足らないじゃないか? お前はなってない!”みたいな感じで作った曲です」
──MVではEDM系のダンスではなく、ロボットダンスとベリーダンスがフィーチャーされていました。
「監督が合うんじゃないかって。そこは多分、センス、才能なんだと思って。アラビアンな雰囲気もあったので、そういう滑らかな柔らかい曲線の動きから、硬いロボットダンスっていうコントラストが素晴らしいと思いました」
──「ロカ」、「NA TTE NAI」はEDM寄りですけど、今はそういうモードなんでしょうか?
「“ライブで盛り上がる“ってなるとそっちになるんですよね」
──ロックっぽい曲じゃなくってことですよね?
「私はフェスってバンドものだと思っていたんですけど、88risingのフェスはトラップやヒップホップが多かったんです。逆に 「声」や「ワンダーランド」のようなバンドものの曲が浮いちゃったりしました。中国でのワンマンライブでも、もちろんロックな曲もやるんですけど、打ち込みの曲の反応が良くて。“じゃあ、そっちをもっと突き詰めてみよう、私もまだそこら辺はもっと勉強のしがいがあるし“って思って作りました。もちろんバンドものも好きなんですけど、いろんな選択肢があった方がいいですから」
──一方の「なんで?」は生楽器がベースになっています。
「ディレクターから“アコースティックの曲を作ってみない?”という提案があって。「パラノイア」(メジャー1stシングル『ひび割れた世界』のカップリングに収録)を経て、“もう一回、ジャズっぽい感じをやってみよう”っていう。ただ、歌詞はあまり暗くしすぎたくなかったので、ちょっと笑えるぐらいの軽いのものにしようと思っていました」
──<僕だけ宇宙人/僕以外宇宙人>という違和感を日々、感じている人は多いと思います。
「そうだと思います。“なんで?”ということが多くて、私も自分が宇宙人だと思っているので。たまに“政府に記憶を消された宇宙人なんだろうな”って、思うんです。パーソナルな部分なんですけど、この歩んできた道で、“何でこうなってるんだ?”みたいなこともあります。もちろん、本気で宇宙人だとは思ってないですよ」
──この曲では、周りにいた大切な人がだんだんといなくなっていっていますね。
「そうなんです。私、昔から最初の印象だけがいいんですよ。で、関わっていくうちにどんどんみんなが離れていくので、“なんで?”って」
──感情的には?
「“笑っちゃう”みたいな感じかな。悲しみや怒りは別にないんです。もうわけがわからなすぎて笑っちゃくぐらいのテンションです。だから、別にそんなに私も重く受け止めていないし…」
──続く「ピエロ」でも、<どうしてなんで>というフレーズが出てきます。
「出てきますね。でも、あまり考えてないです。“サーカスみたいな曲を作ってみたい“ってずっと思っていたんです。それで、挑戦してみました。これまで、ブラック遊園地みたいな曲を作ってみたいと思っては、できず…。こういう曲はギターが絶対に欲しいと思っていたんですけど、ほんとうに浮かばなくて。思ってはできずって感じだったんですけど、やっとできました。曲作りって、ほんと、その机にいないとできないので。やってないとできないっていうか…」
──あははは。
「名曲が生まれる可能性は毎日あると思うんです。だから、ずっとピアノの前にいたから作れたと思います。あの日、ピアノに向かっていなかったらできなかったです。日々、曲ガチャみたいな感じです」
──ジンタっぽい物悲しさもありますし、トラップビートやラップも入っていますね。
「好きなものをいっぱい詰め込んだ曲です。気分の変動のようなものを入れたくて、一瞬だけメジャーコードになったりしています。歌詞に関しても、“嫌い、嫌いだけど可愛い”みたいな。歌詞と一緒に展開を作りました」
──この<君>と<僕>はどんなイメージですか?
「なんでもいいんですけど…<僕>は多分、好かれてなかったんだろうな。そう思います。実はあまり細かく決めていなくて。でも<僕>の立ち位置は、好かれてなくて、その女の子に踊らされていた。今まで真面目に生きてきたのに。だからこそ、“闇落ち”。それだけは決めて書いた曲です」
──そして、最後の曲「Welcome to Hell」はいきなりのローファイR&Bです。
「私も好きなので、なんとなく書いていたら…」
──それにしても突然じゃないですか?
「そうなんですよ(笑)。最初、それも物議になりました。“これはみんなが風邪引いちゃうんじゃない?”って。でも、最終的には「Welcome to Hell」を入れたからEPが締まったし、ウケるし。そう思って収録しました。あまり深くは考えてないかもしれないです。ドランクビートに、ちょっと揺らしたピアノとギターが入ってるぐらいです。ふわふわっとした時によく癖で思っちゃうことをただ書いただけっていうゆるさです。“お酒を飲みながら聴けたらなぁ”っていう曲になりました」
──Heaven(天国)ではなく、Hell(地獄)なんですね?
「お酒を飲んだ後って、すごく気持ちが悪くなったり、記憶をなくしたりするので、“それって地獄だよな”って。時には吐いちゃうので、まあ、Hellですね。でも気持ちよくチルって欲しいです」
──全5曲を収録したEPには『GOLDEN JUNKIE』というタイトルがついています。
「“GOLDEN”っていうのは、まぶしいものとか、愛すべき何か…“中毒的にどうしても求めてしまうこと“を意味しています。そういうテーマ、そういう感情をより好んで、より揃えて入れたEPです。…でも、ほんとうは、響きが”カッコよければいい“と思って」
──あははは。響き、カッコいいですよね。majikoさんにとって、どうしても求めてしまう“GOLDEN”というのは何ですか?
「筋トレかな?…筋トレジャンキーではあるんですけど。そういうものを求めてしまう枯渇さが私にもあって。でも、きっと各々にあると思うんです。聴く人たちにとっての“GOLDEN”って何だろうね?って、各々にしか分からない答えがあると思います」
──12月にはワンマンライブの開催も控えていますが、どんなライブになりそうですか?
「10年経ったからこそ、いろんな曲ができたらいいですね。歌っていなかった曲とか、懐かしい曲とかももしかしたらやるかもしれないです。“懐かしいね、これからもよろしくね!”みたいなライブで、みんなで楽しみたいです」
──アニバーサリーイヤーの特別企画のようなことは何か考えていますか?
「そこまであまり大々的に何かしたいとは思っていないです。テンション低いように見られてしまうんですけど、そういう意味ではなくて。“まだまだいけるから、10年でわって盛り上がる感じでもないよね”というのがあって。なんとなくですけど、祭りはもう少し先なんじゃないかな?って思っています。みんなはもしかしたら盛り上がりたいのかもしれないですけど、“まあ、待て”と(笑)。“しかるべきタイミングがきっと来るから待っていてね“って思っています」

──今後はどう考えていますか?
「日本でも海外でも、たくさんライブをしたいです」
──今、ライブがすごく楽しいということですよね?
「楽しいです。アーティストはライブ好きな人が多いと思うんですけど、私もどんどん好きになっていっています」
──“世界中が全部自分だったら、みんな部屋から出てこないのに”って歌っていますけど…。
「私も基本的には家にいたいんです。あまり外出したくないですし、電車にも乗りたくないです。だから、家を出て、すぐライブハウスだったらいいのになって思います(笑)。とにかく、“ライブには出てこい“、と。あとは別に家にいていいから、”ライブは来なよ!“ってことですね」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
写真/中村功
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION

majiko Presents“GOLDEN JUNKIE” Release Party"金光燦燦"
2025年12月14日(日) 東京 SHIBUYA WWW X

majiko Presents“GOLDEN JUNKIE” Release China Tour "金光閃閃"
2025年10月23日(木) 上海 MODERNSKY LAB
2025年10月25日(土) 深圳 nubond air
2025年10月26日(日) 広州 太空间 live
2025年10月28日(火) 北京 1919 live