──最初に、ソロアーティストとして「I wish」(2023年5月リリース)でデビューしてから1年半を迎えた現在の心境から聞かせてください。
「2023年1月に発表させていただいた時は不安の方が大きかったです。自分の気持ちよりも先に、ずっと応援してくださっていたファンの皆さんや、アニソン好きの皆さん、アニメ業界の方々から“どう見られるんだろう?”って、不安でした。何事も地雷を踏まないようにビクビクして動いてることが多かったんですけど、時間が経つと、自分の中で“こういうことがしたい!”とか、“こういう曲が歌いたい”とか、自分から発信して気持ちを伝えることもすごく増えてきました。まだまだソロイベントでは緊張するんですけど、その緊張も楽しめるようになってきたというか…。最初は“失敗したくない”とか、“失敗するのが怖い”とか、そういう感情が大きかったんですけど、今は、“まず、自分が楽しいって思わないと、お客さんにその楽しさが伝わらない”と思って、自分が楽しんでステージに立って、歌を唄うことができるようになりました」
──この1年半で一番印象に残っている出来事を挙げるとすると?
「ちょうど1年前、去年の10月に開催したワンマンライブ『Happy Lucky Party』です。それまでグループ活動をしていたので、1人でステージに立って、お客様の前で2時間のパフォーマンスをするっていう経験がなかったので…。体力面はもちろん、ステージには一人しかいないので、いろんな見せ方をしていかないと、見てくださっている側も何時間も耐えるのはきついじゃないですか。ワンマンライブに向けて、いろんな表情や歌い方を試行錯誤していた時期だったんですけど、それも楽しかったです」
──そこで見つかったことって何かありますか?
「ワンマンライブのタイミングで、ステージに立つ恐怖よりも楽しいが勝つようになりました。応援してくださる方もたくさん来てくださるようなになってきて…。イベントだと自己紹介というか、まずは知ってもらうことの方が重要ですけど、ワンマンライブは自分のことを知ってくださってる方がチケットを買って遊びに来てくださるので。“応援してくれているみんなとライブを楽しもう!“って考えたら、気持ちがかなり楽になりました」
──楽しめるようになったのが大きいんですね。
「はい。それまではずっと、ステージに立って歌うというお仕事をメインでやらせてもらっていて。ある意味、ステージが全てという意識がありました。“このステージをミスっちゃったらどうしよう?”という気持ちが強かったんですけど、お芝居のお仕事をさせてもらえるようになった中で、少しずつ自分のウィークポイントがわかるようになりました。どこが弱点で、どこが自分の強みなのかを楽しみながら見つけられるようになったことが、個人的にはすごく良かったです。自分の中で“自分”というものがしっかり持てるようになったかな?と思います」
──そして、今回、3枚目のシングル「わっちゅあね?」がリリースされますが、これまでの2作と同じくアニメのタイアップがついていることはどう感じていますか?
「すごく嬉しいですし、光栄なことだと思っています。アニメのタイアップ曲では、何よりも原作の雰囲気を大事にしたくて…作品やキャラクターの意向を汲み取るのはとても難しいですが、それもすごく面白いなって思います」
──ちなみにTVアニメ『歴史に残る悪女になるぞ』は前作「Believer」の『転生したらスライムだった件』に続いて、転生ものですけど、来栖さんは転生したら何になりたいですか?
「転生しても自分になりたいです!」
──そうなんですね!
「ふふふ。最近になって、いろいろと挑戦することが楽しいと感じるようになっていて。いろんな新しいことをやっている時期ってすごく面白いじゃないですか。まだまだ回収しきれないものがたくさんあると思うので、ぜひ2周目も自分に生まれ変わって、いろいろと回収したいです」
──“地雷を踏まないようにビクビクしていた”とありましたが、今はリスクを恐れずに新しいことに飛び込んでいくチャレンジ精神に溢れているんですね。
「私、15歳からグループ活動をしていたので、活動歴そのものは長くて。でも、ずっとメンバーに甘えがちだったので。なんでもかんでもメンバーがやってくれて、私はずっと後ろをついていくだけでよかったんです。でも、ソロアーティストとして1人になると、自分が意見しなきゃいけない場面もたくさんあるし、逆に我慢しなきゃいけないところもあったり…甘えたままでは通らない部分があって。そういう壁にぶつかることもたくさんあった中で、“一人じゃ何もできないな…”って、落ち込んじゃうことも多かったんです。ずっと複数人の活動をしていたので、1人の無力さみたいなものをすごく感じていたんですけど、マインドを持ち直した瞬間があって」
──どう変わったんですか?
「時期がいつかはちょっと覚えていないんですけど、友人に甘えられるようになったんです。以前は全部、人にやってもらっていたし、甘えられるのはメンバーだけでした。“一人じゃ戦えない…”みたいになっていたんですけど、お互いに全く違う仕事をしている友達と意見交換をしたときに、“なんか考えすぎてたな”と気づいたんです。楽観的な友達が多いので、いつの間にか私も楽観的過ぎるぐらい楽観的になっちゃって(笑)。良くも悪くも“どんなダメージにもこたえなくなったな“って。”気にしなさ過ぎ“になったんですけど、自分的には今、すごく楽にやれているかな?って思います。ちょっと馬鹿になっちゃった感じはしますけど(笑)」
──あはははは。確固たる自分の軸を持って、周りの意見や評価を気にしなくなることは、馬鹿ではないと思いますよ。
──新しく入った声優の世界はどんなものでしたか?
「飛び込んでみて最初に感じたのは、想像していた以上に、何倍もやることが多いお仕事だなっていうことでした。モニターの前に立って、監督さんの指示が流れてきて…マイク前の動きは1回で覚えなきゃいけないし、どこで入ればいいのかを聞けないときもあったりします。大御所の方ばかりで、端っこで小さくなって、”どうしよう…どうしよう…“ってなっていたこともありました。全く知らなかったことを一気に吸収しているから、びっくりしている部分もあるんですけど、皆さん、聞いて、立って、移動して、見て、タイミングみて、タイムも読んでお芝居をして…5つくらいを同時にやっているんです。しかも、台本に書きこみながらやってらっしゃる方もいて。そういう方を見ていると、もっともっと鍛えないとついていけないなって感じています」
──デビュー曲「I wish」にはずっと胸の奥に抱えていた夢を叶えたいという願いが込められていましたが、声優の世界は、夢見た通りの世界でしたか?
「すごく面白いですけど、改めて、“面白いだけでやれないな”って思いました。わかっていたつもりだったんですけど、努力しないと生きていけないなっていうことを本当に痛感しています」
──TVアニメ『歴史に残る悪女になるぞ』のエンディングテーマ「わっちゅあね?」は来栖さんのソロではお馴染みの作家陣(作詞・作曲:Junxix./編曲:kazuboy.)ですが、楽曲を受け取ってどう感じましたか?
「“甘くふわふわした感じで歌ってほしい”ってオーダーがあったので、そこはもう完全に振り切っちゃいました。“素の来栖りんで表現してほしい”って曲と、“もうお芝居に近いくらいやっちゃっていいよ”って曲があるんですけど、「わっちゅあね?」はどっちかっていうとキャラソンっぽく歌っています。“声をつくちゃっていいよ!”って感じでした」
──歌詞はどう捉えましたか?
「恋愛ソングですよね。まだ恋心に気づいてないピュアな女の子。これが“好き”っていう気持ちなんだろうなっていうのに気づくちょっと前というか…“なんなんだこれ?”って、ふわふわしているピュアな子をイメージしました」
──レコーディングはどんなアプローチで望みましたか?
「私の歌い方と、“もっとこうした方がいい”っていう意向が一致していたので、あまり意見がぶつからずにスムーズにレコーディングできました。ちょっとウィスパーっぽい声で歌ったり、ラップ調みたいなところがあったり。この緩急も楽しみながら、ガヤもたくさん録りました」
──<ちくっ>とか<うわ〜ん>とか、<ぱくっ>とか。
「Junxix.さんがその場でいろんなリクエストを出してくれるんですよ。“これ、入れてみる?”って言われて、ちょっとふざけてやったことが意外とOKテイクになって使われたりもしていて。“これはちょっとやりすぎだろう”とか、“これは面白いんじゃない?”とか言いながら、すごく楽しくやっていました」
──アニメのED絵についたものを見てどう感じましたか?
「可愛かったです。楽曲にリンクして作ってくださっている部分がすごく多かったので、エンディング映像を見ると改めて、エンディングを歌わせていただく楽しさが沸々と出てきました。可愛らしい楽曲なので、エンディングの映像と合わせて見て聴いて欲しいですし、ちょっとシリアスな回もあると思うんですけど、このふわっとした可愛らしい曲でちょっと中和できたらいいなと思います」
──カップリング曲についても聞かせてください。「ドタバタ☆クリスマス」は初のクリスマスソングですね。
「これまで歌ってきた冬の楽曲は失恋ソングが多かったんですが、「ドタバタ☆クリスマス」は、クリスマスの日におうちでパーティーの準備をしている女の子の歌で。明るいクリスマスの曲はあまりなかったからシンプルに嬉しかったです」
──クリスマスの思い出は何かありますか?
「小学校のときは、サンタさんが、おうちのいろんなところにメモ帳みたいなものにメッセージを残してくれていました。小さいプレゼントがいろんなところに置いてくれていて、それを見つけると、そこにまた次のプレゼントのヒントが書いてあって。最終的にはランドセルの中に一番欲しかったプレゼントが入っているっていう、宝探し形式になっていて」
──謎解きゲームみたいですね。
「そうなんです、そういうことをしてくれていたっていうのもあって、私、いろんな行事の中でもクリスマスが一番好きなイベントなんです。すごく小さい頃の思い出って覚えていないようで、意外と“すごく楽しかったな”とか、漠然と感覚的には残っているので、いつか自分に子供ができたら同じようにいい思い出にしてあげたいです」
──クリスマスプレゼントで何か覚えているものはありますか?
「最後にランドセルから出てきたのがダッフィーのぬいぐるみだったことがあります。でも、本当にプレゼントそのものよりも、見つけていく過程が楽しかったんです。何をもらったかはあまり覚えていないですけど、1つ1つがすごく嬉しいものを置いてくれていたな…ということはしっかり覚えていて。逆に私が大人になってからは、枕元に置き返していました。お母さんにアイマッサージャーとか、お父さんに革の小銭入れとか。そういう思い出もあります」
──3曲目にはさらに賑やかな「Wanted!」が収録されています。
「カップリング曲の2曲は同時にレコーディングしたので、ちょっとバタバタしていたんですけど、どちらもアッパーな曲なので楽しく録らせてもらいました。「Wanted!」は楽しいキラキラした曲調なので、自分の声感はそのままに、“前のめりになってウキウキしている気持ちを伝えたい“って思いながら、強めに歌っています」
──この曲の歌詞はどう捉えました?
「私がゲーム好きっていうのを、<ハードモード>とか、<バースト撃ちは得意>とか、<ゲームオーバー>とかの歌詞で拾ってくれています。この曲もJunxix.さんが歌詞を書いてくださっているんですけど、私のことを知っている方が書いてくれた歌詞っていう感じがします。だから、すごく等身大というか…」
──Junnix.さんの歌詞は、来栖さんのキャリアの歩みと重なっている感じがするんです。この曲は、<夢見てた憧れの世界へGo way>から始まりますし、「I wish」から1年半後を描いているんじゃないかって。
「確かに私の今の心情を読み取って書いてくれたんだろうなって思います。だから、「I wish」の頃よりも私の楽観的な部分が<人生何でもありじゃん>とか、<トキメキだけじゃもの足りないよ>っていう歌詞に出ているんじゃないかな?って感じていています。当時は“一歩一歩、ゆっくりと踏みしめて”っていう感じだったけど、元々は破天荒で、何も考えずに好きなことやりたいみたいなタイプなんですよ(笑)。“楽しんだらいいんじゃない?”っていう私の本来の性格が歌詞に出ているなって思います」
──この歌詞にある<君がお宝だ>の“君”っていうのは?
「応援してくれてる方です。みんながいないとできないことがほとんどなので」
──ファンの方々は来栖さんにとってどんな存在になっていますか?
「感覚的には、“マジで友達!”だと思っています。リリースイベントなどで身近に話せる機会があるんですけど、初めてだからってすごく緊張している方もいますし、本当に好きなゲームの話をして帰っていく方もいて。私は、自分が憧れている人とお話する機会があったときに、親しみを感じられたらすごく嬉しくなるタイプなんです。だから、応援してくれてるいみんなにもあまり身構えずにいて欲しくて。素の私を好きになってもらえることが一番嬉しいので、最初から本当に友達のように関わるようにはしていますし、“友達”だと思ってもらいたいです」
──ちなみに来栖さんの憧れの存在は誰なんですか?
「水瀬いのりさんです。一番最初に声優さんで調べた方です。アニメ『ごちうさ』(『ご注文はうさぎですか?』)を見て、“チノちゃんの声の人、誰なんだろう?”って検索かけて、ヒットした方だったんです」
──まだお会いしていないんですか?
「いえ、ちょこちょこお会いしていて。すごくよくしてくださって、“今度会ったら連絡先交換しよう”って言ってくださっています」
──声優業界での人間関係も広がっていってるんですね。
──3曲揃って3枚目のシングルとなりますが、ご自身にとってはどんな1枚になりましたか?
「これまでは私らしいシングルやミニアルバムとかをリリースさせてもらったんですけど、これは一つの作品みたいな感じです。「わっちゅあね?」の世界観もそうですけど、等身大というよりかは、“こういうイメージで見てくれたらいいな”って想像しながら作ったので、新しい一面を楽しんでいただけたらと思います」
──“こういうイメージ”とは? ジャケットと同じ、今日の衣装のイメージなんでしょうか?
「そうですね。私、グループの時のイメージカラーが青だったんです。だから、ソロになってからは青のドレスをあえて着ていなくて。でも、今回は“可愛い”に全振りしているので、今までになかった青とピンクの世界観を楽しんで欲しいです」
──これからはどう考えてますか?
「人生ですか?」
──(笑)まず、声優アーティストとしての今後の目標を聞かせてください。
「今はすごくバタバタしているので…このタイミングでいろんなものを並行してやれるか?っていうと、ちょっと難しいかも。だから、少し落ち着いたタイミングで、お芝居とかもっといろんなところにやれるといいなって思います」
──人生としてはどう考えていますか?
「沖縄に住みたいです!」
──どうして沖縄なんですか? 日差し大丈夫ですか?
「表に出なくなったら日焼けしていいと思っています。私、海ぶどうが好きなので、海ぶどうをいっぱい食べたくて。あと、白子も好きだし、あん肝も食べたいので、海に近いところに住んだらもっと好きなものをいっぱい食べれるかな?って。お仕事とは別のことだとそんなことを考えちゃいます」
──ジャケット写真はマカロンやマシュマロ、ケーキというイメージですが…。
「マカロンも好きですよ! じゃあ、マカロンと白子とあん肝にしますね!」
──すごい組み合わせですね(苦笑)。ありがとうございました!
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
写真/中村功