──kiceさんが音楽を志したきっかけから教えてください。
kice「高校生の頃に将来のことを考えていたときに、音楽を聴くのが好きなのでやってみたいなと思って…」
──それまで音楽活動や芸能活動などは?
kice「全然やっていませんでした。普通の学生でした」
──音楽を聴くのが好きだったということですが、どのようなものを聴いていたのでしょうか?
kice「子供の頃はJ-POPばかり聴いていました。西野カナさんとか嵐さんとか。でもあるときキングギドラの「公開処刑」を聴いて、“すごくストレートにいろんなことを言うんだ”」と衝撃を受けて…そこから“やってみたい”という気持ちがどんどん大きく、現実的になっていきました」
──世代的に「公開処刑」のリリースはリアルタイムではないですよね? 何がきっかけでこの曲と出会ったのでしょうか?
kice「確かYouTubeのおすすめか何かで出てきました。そこからどんどんヒップホップを聴くようになりました」

──そして2023年にボーイズグループの一員として活動を始め、2026年3月に1st. Digital EP「Starlight」でソロ活動を始動させました。ソロで音楽活動をしようと思ったのはどうしてだったのでしょうか?
kice「グループはグループでそれぞれの個性があるから面白いんですが、自分のやりたいことだけができる場所がほしくて。そこでスタッフさんに相談したらSASさんを教えていただいて、“ちょっと一緒にやってみようか?”と曲を作り始めていたらいつのまにか今に至るという感じです」
──SASさんはkiceさんがソロでやりたいということで紹介されたとのことですが、最初にその話を聞いたときはどう思いましたか?
SAS「“やりましょう!”と(笑)」
kice「懐かしいですよね、渋谷のカフェで。3年前くらいでしたっけ?」
──3年前!?
kice「そうなんです。リリースは今年ですけど、曲自体は3年前くらいから作っていました」
──当時SASさんはkiceさんに対してどのような印象を抱いていましたか?
SAS「 グループの印象が強かったこともあって、もっとイケイケな子かと思っていました」
kice「イケイケじゃないみたいな言い方!(笑)」
SAS「実際、イケイケではない(笑)。いい意味でね」
kice「もっと尖っているみたいな?」
SAS「そうそう。でも実際に一緒に制作をしてみると、今のティーンに刺さる歌詞を書いていたりして。なんて言うか、もっと“俺はこうだ”みたいな歌詞を書くと思っていたんです。もっとアングラなヒップホップをやりたいのかな?と思っていました。だけど、実際にやりたいのはそうではなくて…それこそさっき話していたようにポップスの要素があって意外でした」

kice「最初に一緒に作った曲が、EP『Starlight』に収録している「ボイスメッセージ」です。僕ももっとバキバキなヒップホップをイメージしていたんですけど、意外と丸くなって…」
SAS「kiceくんの声の質感的に、メロラップをやるよりもメロディを聴かせるほうが合うと思ったんです。声もハイトーンですし、低音のラップよりもこういうほうが活きそうだと思って」
──そもそも「ボイスメッセージ」の制作はどのように進めていったのでしょうか?
SAS「セッションです。うちのスタジオに来てもらって“何やる?”という話から始めました。kiceくんの“こういうのをやりたい”というものを掬い上げて、トラックを作ってから2人でトップラインを考えて、“じゃあ、あとはリリックを書いてね”って。スタジオに来てもらったその日に、リリック以外は完成しました」
──1日で!?
SAS「はい。kiceくんとの曲作りはどの曲もそんな感じです」
──kiceさんは、それまで楽曲制作をしたことは?
kice「ありません! だからSASさんを紹介してもらったんだと思います。“一緒にやる中で学んでいけたらいいんじゃない?”という感じで…。とは言え、まぁ無理ですよね(笑)」
──でも実際は1日で出来たわけですよね?
kice「はい。でも、僕にはこの作業はできないと思いました」
──そこから歌詞を入れていったわけですが、歌詞もSASさんと世界観を話し合って?
SAS「リリックはkiceくんにすべてお任せしました。アーティストなので、そこは自分でやったほうがいいので」
kice「「ボイスメッセージ」に関しては、自分の経験をテーマに、トップラインに合う言葉を当てはめていきました」

──歌詞を書き上げたときはいかがでしたか?
kice「自分で言うのもアレですけど、すごくよかったです。“今までで一番よかったんじゃないのかな?”と思うくらいでした」
──その手応えの良さはどういったところからきているものなのでしょうか?
kice「“初めて作った曲”という思い入れもあると思うんですが、メロと詞のハマり具合が気持ち良いリリックが書けたので」
──SASさんはこの歌詞を読んだときはどう感じましたか?
SAS「ストレートに歌詞を書くタイプの人だと思いましたし、切なくて良い歌詞だと思いました」
kice「なんか…詞だけで読むと恥ずかしくなりますね」
SAS「<夜になっても通知来なくて 聞き直したボイスメッセージ>のところが好きなんですよ」
kice「ありがとうございます」
──実際に初めて曲をゼロから作ってみていかがでしたか?
kice「うれしかったです。インストのトラックに、歌詞を乗せるようなことはしたことがありましたけど、ゼロからというのは初めだったので“自分の曲が1曲できた!”という喜びが大きくて、ずっと聴いていました」
SAS「初めて曲を作ったときに感じたんですが、僕とkiceくんは音楽制作における相性が良いんだと思います。kiceくんとは好きなものが似ていて…カッコいいと思えるものだったり、好きのニュアンスが近くて、同じ方向を向いて曲を作れます」

──お互いの好きな音楽やルーツみたいな話はされているんですか?
kice・SAS「いや…」
──じゃあ、本当に感性が近いんですね。
kice「そうなんだと思います」
SAS「中でも共通しているのはエモーショナルさ…多分、エモーショナルなものにお互い惹かれるんだと思います」
kice「メロディをつけるときも“ここもうちょっとエモーショナルにしたいな”とか言いますよね」
SAS「そうだね」
──エモーショナルなものに惹かれるのはkiceさんがJ-POPを聴いて育ってきたのも影響していそうですよね?
kice「確かに。最近も懐メロをよく聴いていますし…確かにその影響は強いかもしれません」
──懐メロはどんなものを?
kice「加藤ミリヤさんと清水翔太さんの「Love Forever」とか…」
SAS「懐かしい! やっぱり平成の曲ってメロディが良いですよね」
kice「すごくいいですよね! 湘南乃風とかもよく聴いているんですけど、やっぱり良いんですよ。シンプルだけど刺さるんですよね」
──楽曲を制作するようになって音楽の聴き方も変わりましたか?
kice「いえ、変わってはいないと思うんですけど…あっ、でも“こういう曲を作りたいな”という曲を探すようになったかも。“この曲いいな”と思ったらどんどんメモしてプレイリストを作っています。増えすぎたら一回リセットして…」
──お二人は、制作以外で例えば“このアーティストを聴いてみたら?”といった音楽的な話をしたりするんですか?
SAS「いえ、しないです。“今、何してるの?”とか、遊びの誘いばかりしています(笑)」
kice「年末に“何してるの?”って連絡をいただいて…“今、うちで飲んでるから来なよ”と誘ってもらってSASさん家で飲みました(笑)」
──先ほど「Love Forever」の名前が上がったときに“懐かしい”と声が上がっていましたが、SASさんの音楽のルーツは何ですか?
SAS「僕は小学生まではJ-POPを聴いていましたけど、中学生になってギターを始めたので、そこからは海外のラウド系のバンドを聴きあさっていました」
kice「へぇ!」
SAS「ONE OK ROCKから入って、“ONE OK ROCKのメンバーはどんな音楽が好きだったんだろう?”と思って掘っていきました。それこそkiceくんのキングギドラと同じで、それまでJ-POPを聴いていたから、衝撃でした」
──では、kiceさんの楽曲の話に戻りますね。3月4日にリリースされたEP『Starlight』の話も聞かせてください。表題曲「Starlight」は「ボイスメッセージ」とはまた全然違うタイプの楽曲ですが、どのように出来た曲なのでしょうか?
kice「今まで表題曲っぽい曲がなかったので、“表題曲らしい曲を作りたいよね”というところから、“じゃあ、こういうのはどう?”ってセッションしていきました」
SAS「kiceくんのファッションや髪色の感じから、ハイパーポップっぽい曲が似合うと思ったので、ハイパーポップの要素を入れた疾走感のある曲にしました」
──SASさんはkiceさんのファッションからハイパーポップ要素を見出したわけですが、kiceさんは実際、ハイパーポップはよく聴かれるのですか?
kice「聴きます。でもまっすぐなハイパーポップよりは、ヒップホップとかけあわさっているものが多いです」
──セッションを重ねながらトラックが完成したときはいかがでしたか?
kice「僕がSASさんに聴いてもらったリファレンスは、ボーカルチョップがたくさん入っている曲でした。そこを再現してくれたのがすごくうれしくて…ドラムの感じもかなり好みで、最高でした」
──さらに4月1日には「Bye Bye」がリリースされました。この曲はまた「ボイスメッセージ」のような共感性の高いラブソングです。この曲はどのようなところからできた曲ですか?
kice「僕はG-DRAGONが好きなんですけど、G-DRAGONの曲にギターをメインにした曲があって、“こういう曲がほしい”みたいなことを言った気がします」
SAS「そうだったね」
──2番の<更新されてく ストーリーには飲みしかないもん>という歌詞がものすごくリアルですが、歌詞はどのような想いで書いたものですか?
kice「これも実体験です。高校生のときの恋愛なんですけど、僕の中でも印象深い恋愛でした。だからその後も時々思い出したりしていて。当時から数年前までの感情を曲にしました。この曲はかなり気に入っています」
──切なさを誘うボーカルも印象的ですが、歌う上ではどのようなことを意識したのでしょうか?
kice「この曲、キーが絶妙なんです。高くもなく低くもなくという絶妙なキーなので、音がブレないように頑張りました」
──音の高低差でのはっきりした山場がないからこそ、難しそうですよね。
kice「そうなんですよ。かなり練習した記憶があります」
──SASさんはボーカルディレクションも担当されていますが、「Bye Bye」でのkiceさんのボーカルはいかがでしたか?
SAS「メロを作っているのがkiceくんなので、基本的にはニュアンスを“こうしたらいいんじゃない?”と言うくらいでした。テイクもkiceくんの好きなものを選んでもらいました」
──ここまで楽曲について伺ってきましたが、kiceさんがソロで歌いたいことや伝えたい想いはどういうものなのでしょうか?
kice「“絶対にこういうことを歌いたい”というものはないんですが、自分が生きてきた証拠が欲しいというか…“自分が生きていた”ということを音楽で残したいです」
──だから実体験をもとにした恋愛も赤裸々に書くんですね。
kice「僕、恋愛体質なんです。高校生の頃なんて一年中好きな人がいました。だから歌詞を書こうとすると、そのときの感情が出てくることが多いんだと思います」
──心が動く瞬間が、恋愛でのことが多かったんですね。
kice「そうだと思います」
──歌詞を書くにあたって影響を受けたものは何かありますか?
kice「G-DRAGONさんの歌詞が好きなんです。おばあちゃんがBIGBANGの大ファンで小学生か中学生の頃に、G-DRAGONさんの「WHO YOU?」の日本語バージョンを初めて聴いたんですが、その歌詞がすごく好きでした。そこからどんどん好きになっていきました」
──実際にご自身も作詞をするようになって、今、改めて思うG-DRAGONさんの歌詞の魅力やすごさはどのように感じていますか?
kice「表現の仕方です。ストレートな伝え方をするときもありますけど、基本的にはそこまでわかりやすく言うことはなくて。まっすぐに書かなくても伝わるような言葉使いがすごく上手だと思います。いつか僕もチャレンジしてみたいです」
──今のkiceさんのまっすぐな歌詞も、共感性が高くて素敵ですよ。
kice「僕は“背伸びした歌詞を書かない”と決めています。作品なのでもちろんフィクションではあるんですけど、自分の気持ちを伝えたいと思って音楽を始めているので、なるべく自分が伝えたいと思ったことを脚色しすぎないようにしています」
──SASさんは一緒に制作をしていて、kiceさんの魅力をどのように感じていますか?
SAS「ピュアですよね。まっすぐ。それが歌詞にも出ています。何よりも、先ほど話したように音楽に対する相性が良いので、これからも一緒に楽しくやっていきたいです」
──kiceさんはSASさんと一緒に楽曲制作することで気づいたことや、感じた凄さはありますか?
kice「作業の速さです。自分が家で歌詞を書くときも“早くやろう”という気持ちになります」
SAS「いやいや、早くやらなくていいんですよ」
kice「でもそうすると修正も早くできるので。急いで作るということではなくて、早くできると、そこからトライアンドエラーを繰り返せる。それがいいなって」
SAS「確かに」
kice「あとは“こういう曲をやりたいです”と言って渡すと、SASさんの色を加えてくれた上で、ちゃんと僕に合ったものを出してくれます。それがすごくうれしいです」
──「Starlight」もkiceさんのファッションからインスピレーションを受けて作ったとおっしゃっていましたしね。
SAS「ファッションと音楽は通じていると思っていて。その人の好きなものが洋服や髪型などからも見えるので、そこも大事にしたいと思って制作しています」
──ファッションやビジュアルということで、kiceさんが意識しているものはありますか?
kice「人前に立つ仕事なので、あまりダサくはいたくないと思います。人前ではカッコつけて立っていたいです…そこは背伸びしてもいいのかな?と。自分が好きなアーティストもカッコつけていた人だったので、僕も“この人、好きなんだよね”と言ってもらえるアーティストになりたいです」
──応援している人が自慢できるような人に?
kice「はい。そういうアーティストになりたいです」
──先ほど平成の曲の話もありましたが、今の時代における音楽の役割はどのようなものだと考えていますか?
kice「新しいものが次々と出てくる時代ですけど、それにとらわれないでいたいと思っています。それこそ、平成の曲はずっと良い曲だし、流行りが終わっても良い曲は残っていきます。そういう意味では、音楽の役割は、昔と変わらず、誰かの心の拠り所になることだと思います。僕もそういう曲を作っていきたいです」
SAS「“バズろう”ということは僕もあまり考えてなくて…一生愛される曲を作りたいです」
──何よりも、お二人は“ふたりで曲を作ることが楽しくて仕方ない”と言う感じがしますね。
kice「そうですね。ただ楽しくてやっています」
──そんなkiceさんの楽曲を味わえる初主催ライブ『Starlight Parade vol.1』が4月10日に開催されます。
kice「楽しみです。kiceとして初めて立つステージなので、期待と不安がありますけど…。来てもらった人に“楽しい”と思ってもらえるのは第一ですが、他の出演者のファンの方も来ると思うので、集まったみんなが“音楽っていいな”と思えるイベントにしたいです」
SAS「ライブあるの、今知った! 遊びに行きたい!」
kice「来てください!」
──ソロアーティストとしての今後の目標や展望を教えてください。
kice「僕は今年26歳になるんですが、30歳までにアリーナ公演をやりたいです」
SAS「コーチェラ(Coachella Valley Music and Arts Festival)は?」
kice「コーチェラも出たいですねぇ」
──SASさんは、今後のkiceさんに期待することはありますか?
SAS「期待しかないです。頑張ってほしいです」
kice「頑張ります!」
SAS「kiceくんがもっと輝けるように僕も頑張ります!」
(おわり)
取材・文/小林千絵
写真/野﨑 慧嗣



