――俳優デビュー、おめでとうございます。
「ありがとうございます」
――そもそも演技には、興味があったのですか?
「東京に出てくる時点で、興味はありました。もちろん、音楽をやりたくて上京したんですけど、演技もやってみたいし、CMの曲も手がけてみたいし、そこに自分で出演もしてみたいし、本も出してみたいしっていう。福山雅治さんみたいになりたかったんですよ。もちろん一番は音楽なんですけど、自分の中のゴールというか、最終的に目指すべきは、福山さんのような存在になることなので」
――大きな一歩を踏み出せましたね。
「そうですね、ちょっとだけ(笑)」
――明るく爽やかで、チャラくも見えるけど、頭脳明晰で実は気骨のある青年役を好演されていますが、本人はどう振り返りますか?
「僕が演じた河原優也は、東大卒のエリートなんですよね、いちおう。だけど映画の中で唯一、心の奥底を見せない人で。だからヘラヘラしているし、ちょっとチャラく見える。でも実際は真面目で、相手のことをすごくよく見ている人。そこをあまり出さないようにしたいという演技プランが、監督さんにあって、わざとチャラく見せるようにしているんです。演技は初めてだし、見え隠れするその心情を表現するのが“ムズっ!”と思いました(笑)。でも、そういう人って実際いるし、自分がうまく演じられるかどうかとは別の話なんですけど、自分なりに考えながら演じさせてもらいました」
――歌ではなく演技でカメラを向けられるというのは、別の緊張感があるものですか?
「緊張しましたね、すごく。音楽の現場でも緊張するんですけど、音楽番組とかって、結局は自分じゃないですか。僕が歌わなかったら放送事故だし、間違えたとしても責任は僕だし。だけど、演技の場合はそうはいかないんですよね。相手のセリフがあって、監督さんがいて助監督さんがいて、演出家さん、照明さん、音声さんがいてっていう、いろんな方の力があって初めて成り立つものだと思うから。100パーセントの正解というものを、僕じゃなくていろんな人が持っているっていう現場は初めてだったので、難しかったですね」
――表現は表現でも、歌と演技は別もの?
「ああ……そうですね、別といえば別なんですよ。でも“よーい、スタート”って言われてからカットがかかるまでの、あの集中力と緊張感っていうのは、音楽の生放送みたいなものなので、共通する部分はありますね。僕らミュージシャンは、生放送では“よーい、スタート”から“OK”までの3分間で、自分のマックスを叩き出さないといけなくて、失敗は許されない。止まったら終わり、間違ったら終わり。その状況で、聴いてくれる人なり、プロデューサーさんなりに刺さるパフォーマンスをしないといけないので。まあ映画は生放送とは違いますけど、でも自分が止まったらカットがかかって、もう1回ってなるわけで。しかも女優の皆さん……黒木 瞳さんも桜井日奈子ちゃんもいる。迷惑をかけられないっていう意味では、似ているかもしれませんね」
――音楽にはない楽しさや、面白さはありましたか?
「やっぱりそれは、共演者の皆さんとのコミュニケーションじゃないですか。音楽の現場では、ほかのミュージシャンとひとつの部屋に集められて、“1時間空きです”って言われるようなことはないですから。みんなで一緒に待機した後に、“ではどうぞ!”みたいな(笑)……映画ではそれが普通なので、不思議ではありますけど、コミュニケーションの時間になりますね。音楽番組で、あいみょんに“どうやって曲書いているんですか?”とか聞かないじゃないですか(笑)。それが映画の現場では、それが普通に起こるんですよ。“あそこ、どういうふうに話しているの?”とか確かめ合ったり、実際にセリフを合わせてみたり。すごいことだと思いました」
――そして、主題歌の「オレンジ」です。書き下ろしですから、映画の世界観をふまえて制作したんですよね?
「もちろんです。脚本の自分のセリフと恵麻のセリフを、何回も何回も読んで、それぞれが何をどう考えているのかを理解したうえで、かつ現場の空気や、恵麻の表情、それを演じる日奈子ちゃんの様子とかを見て、いわゆる前室でギターを持って曲を書きました。大会議室みたいな部屋で、みんなが待機している中、“うるさかったらすみません”って(笑)。撮影の時の雰囲気や空気感も、楽曲に落とし込まないといけないと思ったので」
――周囲の方々は、それが主題歌になると知っていたんですか?
「日奈子ちゃんは知っていましたね。もともと彼女は、僕の曲を聴いてくれていたので、“おー!歌ってるじゃん鷹也くん”“これ、主題歌を作ってるんだよ”“今!? へー、ここで書くんだ?”みたいな(笑)」
――シュールな光景ですね(笑)。「オレンジ」はとても明快で爽快なポップチューンに仕上がっていますが、映画のイメージから自然にこの曲調になったのですか?
「そうですね。作っている時点では、どんなカット割りで終わって、どんなエンドロールが流れるかわからなかったので、勝手に想像して、曲がこう始まったらカッコいいなと思うものにしようと思いました。それが、アカペラでのスタートだったんですよ。たぶん、カット・アウトで映画が終わるんじゃないかって想像したんです。誰かが何かセリフを言って、ぱっと終わってエンドロールが流れるっていう。だから、インパクトがある前奏っていうよりは、声だけのほうがいいなと思って作ったら、本当にその通りのエンディングになっていました(笑)」
――監督さんからのリクエストもあったのでしょうか?
「監督さんがどういう曲を求めているのか知りたかったから、誰目線で、誰に向けた曲にすればいいのかを、ディスカッションしました。そしたら、“河原目線の恵麻の曲”ということだったので」
――では、歌詞の“キミ”というのは、恵麻なんですね。
「そうです、100パーセント。髪がなびくとか、香りとか、ひたむきさや無邪気さ、ちょっと子供っぽいところとか。でも仕事に対しては大真面目で、真っすぐな性格でっていう。実際は恵麻というか日奈子ちゃんを見て、ああなるほどと思いながら書きましたね。じゃあ河原は、彼女をどんなふうに思っているのかを意識しながら」
――驚くくらいに、曲が流れる場面にぴったりですね。
「そうなんですよ。よかったです。ライヴの1曲目にもピッタリですし、映画の主題歌としてだけではなくて、僕の音楽のレパートリーの中でも特別な1曲になりましたね」
――どんなリアクションを期待しますか?
「爽やかな楽曲に仕上がっているし、映画の世界観に合わせているので、スパイスというか、映像に花を添えるひとつのツールになったと思います。聴くことで、より映画を楽しく感じていただけたらいいですね。プラス、働く女性に向けた映画でもあるので、“また明日から頑張ろう”とか“明日は今日より1回だけ多く笑ってみよう”とか、思ってもらえるような楽曲になってくれたらと」
――ニューアルバムの『ぬくもり』は、どんな内容になりましたか?
「全編バンドアレンジのアルバムで、これまでリリースしている楽曲のリアレンジもしています。全体を通して、人と人とのぬくもりが感じられるアルバムにしたかったんですよね。大切な家族や好きな人に会うことできない時期があった中で、電話1本で声を聞くだけで幸せな気持ちになれる。僕は、それこそがぬくもりだと思ったんです。だから、タイトル曲は電話をモチーフとした、そういう世界観の楽曲になっています。人のやわらかい部分というか、「オレンジ」もそうですけど、あったかい部分というか、そういうものを凝縮した作品になったと思っています」
――最後に『魔女の香水』の見どころと、主題歌「オレンジ」のセルフライナーをお願いします。
「『魔女の香水』のいちばんの見どころは、やっぱり恵麻の成長だと思います。映画の終わりに向けて成長していくわけですけど、でも彼女は最初から向上心がある子なんですよ。真っすぐで、自分に嘘はつきたくなくて、ひたむきで頑固で。ただ、最初は頑張り方を知らないんですよね。その彼女が、自分自身の表現の仕方と周囲との戦い方を覚えて、ゴールに向けて成長していくところを見てほしいですね。また、その恵麻を河原が、いい距離感で見守っているっていう構図も見どころかなと。ふたりの関係性みたいなものも、楽しんでいただけたらうれしいです。そして、「オレンジ」という楽曲は、河原から見た恵麻の曲なので、そこを理解して聴いていただけると、印象も変わってくると思います。“あのメガネの茶髪の東大卒(笑)は、こういうふうに恵麻のことを見ていたんだ”って考えながら聴いていただければ」
(おわり)
取材・文/鈴木宏和
写真/平野哲郎
ヘアメイク/髙徳洋史(LYON)
MEDIA INFO『魔女の香水』2023年6月16日(金)全国ロードショー
キャスト/黒木 瞳、桜井日奈子、平岡祐太、水沢エレナ、小出恵介、落合モトキ、川崎鷹也、梅宮万紗子、宮尾俊太郎、小西真奈美
監督・脚本/宮武由衣、製作統括/菅原智美
音楽/小林洋平、主題歌/川崎鷹也「オレンジ」
制作/クロスメディア、配給/アークエンタテインメント
©2023 映画『魔女の香水』製作委員会
DISC INFO川崎鷹也『ぬくもり』
2023月6月14日(水)発売
初回限定盤(CD+Blu-ray)/WPZL-32067/32068/4,200円(税込)
ワーナーミュージック・ジャパン
川崎鷹也『ぬくもり』
2023月6月14日(水)発売
通常盤(CD)/WPCL-13486/2,600円(税込)
ワーナーミュージック・ジャパン