TALK SESSION
──それぞれの出会ったきっかけを教えてください。
沖野修也(以下、沖野)「僕とDJ KAWASAKIはThe Roomのオープニングからですね」
DJ KAWASAKI「93年のThe Roomのオープニングパーティに遊びに行って、しばらくしてスタッフとして働くようになったので、約29年です」
沖野「The Roomは来年で30周年です!」
DJ KAWASAKI「吉永くんも昔からThe Roomに来てたよね?“ゴツい人がいる!”って見ていたので(笑)」
吉永祐介(以下、吉永)「Small Circle of Friendsのアルバム『PLATFORM5』のリリースパーティを見に行ってまして、あれが二十歳前くらいの頃なので24年くらい前からです」
沖野「立派に育ってる(笑)!僕が最初にデザインを頼んだのって、何だった(笑)?」
吉永「Kyoto Jazz Sextetですね」
──意外と最近なんですね。
沖野「吉永くんといえば須永(辰緒)さんのデザインのイメージが強かった事もあって、ジャズシーン内で被らない方がいいかなと。Kyoto Jazz Sextetの時は、新しいプロジェクトということもあり、今までお願いしたことのないデザイナーにということで吉永くんに。彼も僕も似たジャンルの本を集めていたり、タイポグラフィが好きという共通言語もあって、話がとにかく早いんですよ」
吉永「“アレのアレですね”という感じですよね」
沖野「驚異的に仕事が早い!」
DJ KAWASAKI「レスも早いです。締切ギリギリまで曲づくりをやって、“デザインが間に合うかな?”って不安な時でも、すぐにレスを返してくれるので安心して作業ができます。」
沖野「どれくらいの早さかと言うと、去年「Stylin’」という焼酎をプロデュースした時に、撮影から入稿まで2時間以内で出来てましたから(笑)。NAYUTAHのジャケットデザインも早かったよね?」
DJ KAWASAKI「アイディアをメールしたら、すぐに“こういうイメージですか?”って返信が来て、しかもその時点ですでにOKなんですよ。」
沖野「例えば、撮影すると写真を選ぶのですが、すでに写真を選んでいて文字も組んでる」
DJ KAWASAKI「結局、選んでもらった物が一番良いのですが」
吉永「撮っている時に、すでに文字の位置も決めて撮っているんです」
沖野「吉永くんとDJ KAWASAKIは、最初はミックスCDの時?」
吉永「もう10年くらい前ですね」
沖野「レーベル“KAWASAKI RECORDS”のロゴもそうでしょ?」
DJ KAWASAKI「ロゴから何からすべてやっていただきました。」
──ロゴのデザインはどのように話を進めたのでしょうか?
DJ KAWASAKI「海外レーベルの“マーキュリー・レコード”のロゴが、街の風景をベースにアーティスト名だけ変わっていくというフォーマットで、そのスタイルでアーティストによってバックを都庁とかパークハイアットとか、丹下健三さんがデザインされた日本を代表する建造物にしているんです。"日本を代表する音楽を世界に発信する"というコンセプトなので、日本を代表する建築の写真にしようという事になりました」
吉永「打ち合わせの時に“あのフォーマットが良いよね”となって、“マーキュリー・レコード”の日本バージョンになりました」
──DJ KAWASAKIさんの最新アルバム『ONE WORLD』のデザインも吉永さんですが、どのように話が進んだのでしょうか?
吉永「あれは皆さんで話ながら進んだ感じです。最初、写真を撮る時にはまだそれほど固まっていなかったので、何パターンかを作りましたよね」
沖野「NAYUTAHもKyoto Jazz Sextetも早かったけど、あのアルバムだけは珍しくデザインに時間が掛かったんです」
DJ KAWASAKI「僕自身の中で明確になっていなくて、音の雰囲気で色々考えていたんですね。今回は、すべて生音でのレコーディングだったので、"男っぽくしたかった"というイメージはありましたが、そこから“自分自身がジャケットに出るのか?”という迷いもあり、最終的にあのデザインに落ち着いたという感じです」
沖野「吉永くんは、撮影時のポージングのディレクションが良いよね。とにかく写真が良い!」
吉永「DJ KAWASAKIさんは元が良いですから(笑)」
DJ KAWASAKI「そうやって盛り上げてくれるんですよ(笑)!」
沖野「スタイリングは僕で、DJ KAWASAKIは本人が出るとか色々ネタを考えていて、それを吉永くんがまとめていく。みんな役割が違うんです」
吉永「衣装もかなりパターンがありましたよね」
沖野「衣装はDJ KAWASAKIと一緒に買いに行きました(笑)」
吉永「恒例ですよね」
DJ KAWASAKI「あれ、いつも楽しみなんですよ(笑)。でも、好きな洋服のラインが近かったり、3人ともDJをやっているというのも話が早い理由のひとつですよね」
沖野「例えば、僕が好きなレコードジャケットのタイポグラフィが、吉永くんの頭にも入っているから文字選びにもストックがある。これがレコードを集めていないグラフィックデザイナーでは分からないですよ」
DJ KAWASAKI「とにかく引き出しがすごく多い!」
──吉永さんは、2021年10月23日からTHE ROOM COFFEE&BARで個展をやりますが、どのようにお話が進んだのでしょうか?
沖野「いまTHE ROOM COFFEE&BARの壁面は、半分がTHE ROOM店長の富永陽介、半分が僕なのですが、このディスププレイを“吉永くんが全部やったらどうなるのかな?”と思ったのがきっかけで、“展覧会をやったら?”と持ち掛けました」
吉永「会社を立ち上げてちょうど15年、デザインをやり始めて20年目の節目でもあったので、何かをやりたかったところに、沖野さんにお声を掛けていただいたんです。重い腰を上げられない僕に鶴の一声でした(笑)」
──LPレコード作品だけ飾る予定ですか?
吉永「CDだと1000枚以上あるので(笑)。LPと7インチでも100枚くらいの作品があるから、期間中の各週末に出演していただけるDJ、MUROさん、須永さん、小西(康陽)さん、沖野さんの雰囲気の選盤にして、各週で展示を変えたら面白いかなと。ちなみに、プレオープンのDJはgrooveman Spotさんです」
沖野「この場所をフル活用出来る人はいないですよ。ビジュアルも音も、さらにドーナッツも(笑)」
──個展には「HIGUMA Doughnuts」もポップアップショップとして出店されますよね。
沖野「元々のデザインはどこから始めたの?写真?文字?」
吉永「中学生の時に、美術でタイポグラフィを描く授業があって、それでノートの表紙に『国語』とか『英語』とかの文字を描いてました。ただ、描くだけで満足して勉強しなかったタイプです(笑)」
沖野「文字なんだ!」
吉永「高校時代は写真を撮っていましたね。初めてグラフィックデザインをしたのは、99年に開催していた自分のDJイベントのフライヤーです」
──特にデザイン学校を出た訳ではなく?
吉永「大学が建築学科だったので、一応建築のデザインは学びました。だから、建築の写真集が好きなんです」
──それで丹下健三さんの建築の話が繋がりました!
吉永「高校の時に池袋にあったセゾン美術館でBauhaus(バウハウス)展をやっていて、それに影響を受けて建築科に行ったのですが、在学中はレコード掘りが中心でした(笑)。それでDJイベントを始めて、そのフライヤーを友人の家で写真集をスキャンしてデザインしていたんです。そのころ辰緒さんと小西さんと『レコード番長』というDJイベントをやることになって、そのままレディメイドに入ったという経緯です」
沖野「人に歴史ありだね」
吉永「最初はデザイン以外の様々な事をやっていたのですが、そのうち自社でフライヤーを作るようになり、それで初めて須永辰緒さんのユニットSunaga t ExperienceのCD『NO REASON NO RHYME』を作らせていただきました。そこからLPや写真集など、社内でデザインをやるようになったんです」
──良いタイミングで今回の個展をやる事になりましたね。
沖野「以前から、ここの空間との親和性は高いと思っていて、彼が集めている本とかポスターとかをディスプレイしたら面白いかなと」
吉永「沖野さん、DJ KAWASAKIさんはじめ、皆さんのアーティスト写真も撮っているので、それを展示するのも面白いかもしれませんね」
沖野「テーブルに貼って、テーブルが全部誰かのアーティスト写真になっているとか(笑)」
DJ KAWASAKI「ドリンクが置きづらいです(笑)」
──さて、2021年11月20日に、7年ぶりに新木場ageHaで『Tokyo Crossover/Jazz Festival 2021 | TCJF 2021(以下、TCJF)』が開催されますね。
沖野「あれもビジュアルは吉永くんです」
吉永「あの写真は、ビジュアルのお話をいただいた時に、ageHaが2022年1月にクローズすることが発表されて、あの看板のイメージが強いこともあって、コートニー・パインの作品でああいう感じのジャケットアートがあったから、“そんな感じでどうでしょうか?”と聞いたらOKだったので、わざわざageHaさんに看板の文字を変えていただいたんです」
沖野「それも驚異的に早かった(笑)」
吉永「新木場まで写真を撮りに行って、その日の夜にお送りしました(笑)」
──どのような内容ですか?
沖野「じつは昨年、TCJF復活の話があったのですが、結局コロナの影響で無くなり。今年5月に代官山UNITでDJ KAWASAKIのアルバム『ONE WORLD』のリリースパーティを開催したのですが、それは“TCJFが復活できたら”との思いもあり、TCJFプレゼンツにしたんです。期待感も高まるかなって。DJ KAWASAKIのライブはリリースパーティ後はビルボード東京で考えていたんです。だけど、夏の感染拡大の影響もあって、TCJFでやる事にしました。ただUNITとageHaで一緒のセットだとすでに見た人もいるので、今回は“KAWASAKI RECORDS”からDJ KAWASAKIプロデュースで11月にリリースする新ユニットMIOMATICの曲をフィーチャリングして、UNITとは差別化を図ります。MIOMATICは、DJ KAWASAKI BANDのトロンボーン奏者でもある藤村美緒によるソロプロジェクトなんですよ」
DJ KAWASAKI「セットと内容を変えてお届けします!」
沖野「吉永くんにはビジュアルももちろんですが、『夜ジャズ』チームのDJとしても参加してもらいますよ。先日、ちょうど須永さんと櫻井(喜次郎)さん、そして吉永くんの3人バージョン『夜ジャズ』のDJ配信があって、それを見た時に“この企画でやれたらいいかな”と」
吉永「そういえば、今回はなぜおふたりはDJをやらないんですか?」
DJ KAWASAKI「今回、僕はLive Setで出演するので。それにDJの時間が足りないんです」
沖野「出演DJが50人くらいいるから、やる時間がないですよ(笑)。ちなみに、DJ KAWASAKIのライブは、今度、7インチでMUROくんのエディットを出すのですが、それをライブでやるのも面白いよね」
DJ KAWASAKI「僕の曲はMUROさんにエディットしていただいていて、MIOMATICはDJ KOCO a.k.a. SHIMOKITAさんにプロデュースしていただいていて、今回、おふたりが一緒のステージで出演されていて、さらにおふたりのバージョンで2曲をやろうかなと」
沖野「UNITでのリリパライブの進化バージョンですよ」
──という感じで、チーム沖野としては、このまま吉永さんをデザイナーとして起用していくという事で大丈夫でしょうか(笑)?
沖野「忙しくなければ(笑)」
DJ KAWASAKI「“忙しすぎて無理です”と言われるのが怖い(笑)」
沖野「でも、デザインも写真もプロダクトもイベントもって、すべてやれる人はいないですよね。それを出来る幅の広さがあるから、彼に仕事が集中するのは当然ですよ。ちなみに同業でそれくらい出来る知り合いはいる?」
吉永「じつは同業者を知らないんです(笑)。信藤三雄さんくらいですね。カメラマンとしてお仕事をお願いしたので。カメラマンやスタイリスト、へメイクは撮影現場で会えますが、アートディレクターはふたりもいらないですから。デザイン会社にもいなかったので同僚や先輩がいる訳でもなく。小西学校卒業生みたいなもので、小西さんと信藤さんがやっていた作業で学んだという感じです。だから、他のアートディレクターの人がどうやって仕事をされているのか分からないんですよ(笑)」
──完全に独学ですね。
吉永「極論を言えば、アプリケーションのイラストレータやフォトショップなどの本も読んだことなく、小西さんに“明日までにこれやっておいて!”と言われて、“明日までにやっておきます!”って一生懸命やっていたのを、毎晩繰り返してやって覚えたという感じです」
(おわり)
取材・文/カネコヒデシ
撮影/いのうえようへい
取材協力/The Room COFFEE & BAR
沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE/KYOTO JAZZ SEXTET)
音楽家/執筆家/クリエイティヴディレクター。KYOTO JAZZ MASSIVE名義でリリースした「ECLIPSE」は、英国国営放送BBCラジオZUBBチャートで3週連続No.1の座を日本人として初めて射止めた。これまでDJ/アーティストとして世界40ヵ国140都市に招聘され、CNNやBILLBOARD誌でも取り上げられるなど世界標準をクリアできる日本人音楽家。音楽で空間の価値を変える"サウンド・ブランディング"の第一人者として、映画館、ホテル、銀行、空港、レストラン、インテリアショップ等の音楽プロデュースも手掛けている。2009年にはインテンショナリーズが設計したユナイテッド・シネマ豊洲の音楽監修でGOOD DESIGN賞を受賞。2019年には店内音楽の選曲を担当した代々木上原のレストランSioが、ミシュランの一つ星を獲得。2013年からは、イラストレーター、グラフィック・デザイナーとしての活動も再開。個展や企業ロゴマークのデザインや、バッグ、シューズから家具といったプロダクト、渋谷ストリーム1FにオープンしたThe Room COFFEE & BARのクリエイティヴ・デレクターでもある。USEN(有線放送)I-12ch.「沖野修也 presents Music in The Room」監修。World Wide FM~WWKyotoレギュラー。GQ Japanオフィシャルブロガー。
DJ KAWASAKI
DJ/リミキサー/サウンドプロデューサー/作曲家。2005年に、King Streetより12インチ・シングルで世界デビュー。これまでにリリースしたシングルが、iTunesダンス・チャートにて通算8曲連続でNo.1を獲得。All Vinylでのプレイに強い拘りを持ち、2018年には、7’’Vinylでのリリースを中心とした自身のレーベル"KAWASAKI RECORDS"を発足。2021年6月にはオリジナルアルバム『One World』をリリース。打ち込みなしの全曲生演奏で、BOOGIEやDISCOのエッセンスを大胆に導入し新境地を見事に切り開いた。近年は、自身の楽曲のリリースだけでなく、新人アーティスト、NAYUTAHの全曲作曲/プロデュースが話題に。シティポップ・レゲエシンガー、ナツ・サマーと、国民的人気ヴォーカルグループ、サーカスのメンバーとして活躍している叶ありさによる女性デュオ、"ナツ・サマー&アーリー・サマー”のプロデュースを手がける等、国内のダンス・ミュージック・シーンにも貢献している。The Room(渋谷)で社長(SOIL& “PIMP” SESSIONS)と共催の月例パーティー"MAGNETiC”を開催中。
吉永祐介(Art Director/Graphic Designer/Photographer/DJ)
小西康陽のレーベル、readymade internationalを経て、2006年、solla株式会社設立。CDジャケットを 中心に、広告、カタログ、パッケージ、エディトリアルなどのアートディレクションからフィニッシュまで トータルで制作。デザインを担当したCDジャケットは1,000枚を超える。DJとしては渋谷Organ barにて20年 以上主催しているイベント"La Verdad" や "Vinyl Junkies Only" with 須永辰緒など、都内を中心に活動中。 2016年からは自社の飲食部門でHIGUMA Doughnutsを立ち上げ、2019年 7inchレコードレーベル DIGUMA Doughnuts、2020年 アパレルブランドGEP (Groove Excavator Production)を立ち上げる。
EVENT INFORMATION
Tokyo Crossover/Jazz Festival 2021 Online Pre-Party
2021年10月21日(木)ageHa@USEN STUDIO COAST(東京)ライブ配信
Shuya Okino & DJ KAWASAKI Back to Back DJ Set!
Emi Tawata, Mio Fujimura (MIOMATIC) PA Live!
※アーカイブ配信は2021年10月24日(日)23:59まで
Yusuke Yoshinaga Exhibition LP JACKET WORKS 2001-2021
2021年10月23日(土)~2021年11月13日(土)11:00-21:00@THE ROOM COFFEE&BAR(東京)
※オープニング・パーティー、DJ パーティー、クロージング・パーティーは15:00-19:00
※プレ・オープニング・パーティーは10月22日(金)16:00-20:00
※入場無料
Tokyo Crossover/Jazz Festival 2021
2021年11月20日(土)ageHa@USEN STUDIO COAST(東京)
ジャズを中心に、ファンク、ディスコ、ヒップ・ホップ、ハウスをクロスオーバーする日本発信のイベントが、7年の沈黙を破って復活! 来年1月にクローズするageHaであの興奮をもう一度。ヘッドライナーは山下洋輔との共演で知られるジャズ・レジェンド、森山威男!世界が羨む MURO、NORI、DJ KOCO a.k.a. SHIMOKITA、松浦俊夫ら 日本を代表するクロスオーバー・ミュージックシーンのDJ &ミュージシャンが結集!
関連リンク
カネコヒデシ
メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。そのほか、紙&ネットをふくめるさまざまな媒体での編集やライター、音楽を中心とするイベント企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、モノづくり、ラジオ番組製作&司会、イベントなどの司会、選曲、クラブやバー、カフェなどでのDJなどなど、活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に掛けめぐる仕掛人。