──映画『アオショー!』で映画初主演となるRANさんと、同じく映画初出演となる山川さんですが、2021年に上演された舞台『SING!!!』でも今回と同じ役どころで共演されています。4年ぶりにタッグを組むことになって、お互いの変化を感じられたりしましたか?
RAN「舞台のときは僕もこの業界に入ったばかりで、『SING!!!』が初めてのお仕事だったんです。『SING!』シリーズはすでに回を重ねていて、山川さんもずっと出演されていたので、僕が参加させていただくことになって、作品について、舞台について、いろいろ教えていただきました」
山川ひろみ「えっ!? 逆に私のほうが教えてもらっていましたよ!」
RAN「いやいや! やめてください、そんなことないので(笑)。本当に右も左もわからないときに優しく接していただいた記憶しかありません。そこから時を経て、映画『アオショー!』での共演になるんですが、僕も山川さんも映画出演が初めてで。『SING!!!』で舞台は経験しているものの、映画と舞台との違いでいろいろ悩んでいたときに、“ここはどうしたらいいんでしょう?”とか、相談させていただいたりしていました。作品に対する思い入れがお互い強いので、そういった部分で助け合いながら撮影していきました」
山川「私も最初は映画と舞台との違いに悩んだというか…目の前にいるお客さんたちに所作で観ていただく舞台の演じ方に囚われてしまって。だから、過剰に大きな所作で演じてしまうところがあったんですけど、それをRANくんに相談したら、“舞台は一旦忘れましょう”って。映画用に全部切り替えて、“その場で生まれた気持ちを大事にしよう“ということを教えてもらいました」
RAN「なんだか少し偉そうな感じで恥ずかしいですが…(苦笑)。映画って、舞台に比べると行動や表情でちょっとした心情を繊細に描く部分があるような気がして。特に僕が演じる(飯田)悉平と山川さんが演じる(波島)沫乃の掛け合いのシーンは、物語が進むにつれてその距離感も変わってくるので、その時々での“話し方とか距離感とかってどうなんだろう?”って、お互いに話し合って、舞台のときにはなかった感情の埋め合わせのようなところを丁寧にやっていきました」

──そして、moon dropのみなさんも映画の主題歌を担当するのは今作が初めてです。「ブルーフィッシュ」は映像を観てから書き下ろされたそうですが、楽曲のテイストや歌詞の内容などは4人でどのように決めていったんですか?
浜口飛雄也(Vo&Gt)「今回は歌詞の微調整にかける時間がとても多かったです。これまでは僕の実体験だったり、僕がイメージしている物語をそのまま曲に落とし込む形でした。でも、今回は全員がまず映画を観て、そこから曲作りを始めたので。多分、そういうところが歌詞についてディスカッションすることにつながったのかな?って思います」
清水琢聖(Gt)「初めて歌詞に口出ししたかもしれないです」
RAN「へぇ〜! すごい」
浜口「なんていうか…この映画にも通ずるんですけど、“みんなで歌ってる、みんなで作った曲だな“って感じます」
──メンバーのみなさんは歌詞のどんなところを話し合ったか覚えてますか?
清水「ニュアンス的なところなんですけど、“耳に入ってきて気持ちいい言葉かどうか?“とか。それくらい細かい部分なんですけど、“俺はこう思う”って伝えました。だからこそ、曲が完成して、アレンジャーさんと話したときに“今までで一番(バンド)一丸で作れた気がします”って会話をした覚えがあります」
坂知哉(Ba&Cho)「他にも、例えば“Bメロが変わったらAメロのここが気になるよね“みたい部分がかなり出てきたりして。あるとき、飛雄也が迷いすぎて、レコーディングの途中で“みんな! 初恋の気持ちを教えてくれ!”って言い出したときがあって(笑)」
浜口「ほんとうにそうで(笑)。“まず知哉から教えてくれ!”って言って(笑)」
坂「“そんなことある!?”と思って(笑)」
浜口「“今からボーカルをレコーディングしてくるから、戻ってくるまでに(原)一樹、考えといてね”って言って歌録りに行きました」
原一樹(Dr)「でも、結局、聞かれませんでした(笑)」
浜口「歌ったらスッキリしちゃって(笑)」
──そうだったんですね(笑)。

──また、歌詞以外のアレンジや演奏の部分でも、映画館で流れることを意識したものになっていたりするんですか?
浜口「曲の入りの部分はすごく意識しました。冒頭に出てくるピアノのメロディは、自分の中でなんとなくイメージがあったんです。というのも、この「ブルーフィッシュ」という曲自体はもちろんなんですけど、映画を思い出すときに最初に流れるメロディでありたいと思って。イントロを聴いただけで“「ブルーフィッシュ」だ”ってわかるように意識して作りました」
清水「ギターで言うと、ギター録りが一通り終わって片付けをしようとしていたタイミングで、飛雄也が“サビの頭にバシャッてバケツの水を撒くような音が欲しい”って言い出して。その場にいる全員が、“ほぅ…”ってなりました(笑)」
浜口「そうそう、“身体全体を使ってバケツで塩水をバッて撒いた音なんですよ”って言った(笑)」
清水「とりあえず一旦みんなでごはんを食べて(笑)。食べ終わってからエンジニアさんとブースに入って、“このアンプどうですか?”とか、“この弾き方はどうですか?”とか、1音ずついろんな音を出してみて…」
浜口「そしたらちょっとずつ近づいてきて、“あ、今ちょっと水しぶきが上がった!”みたいな(笑)」
清水「とても怖かったです(笑)」
──1音単位で調整していったんですね! ドラムやベースの音はどうですか?
原「ドラムではないんですけど、今回、バイオリンを生で録ったんです。いつもは打ち込みだったりするのが生演奏になったことで、映画館のスピーカーを通して流れたときにどういうふうに聴こえるのかがすごく楽しみです」
坂「僕はいつも通り弾かせていただきました(笑)」
浜口「いつも通りも大事です(笑)」
──そんなこだわりの主題歌をRANさんと山川さんはどのタイミングで聴かれたのでしょう? 完成した映画はまだご覧になれていないとのことでしたが(※取材時)。
RAN「実は昨日(※取材日は7月上旬)、聴かせていただきました。moon dropのみなさんのお話を聞いて、早く(映画の)映像と一緒に聴きたくなっています…映像と一緒に観た感想を語れないのが悔しいくらいです。でも、さきほど浜口さんがおっしゃっていたように、イントロからワクワクする感じというか…映画『アオショー!』の雰囲気が漂ってきますし、物語とリンクする部分も多くて、本当にこの作品にピッタリだと思いました」
山川「私は最初に歌が入る前のインストゥルメンタルバージョンを聴かせていただいてたんですけど、その時点で背筋が伸びるというか…“清くありたい”と思いました。夏っぽい曲なんですけど暑さを感じる灼熱の夏ではなくて、ひんやり涼しい夏…。なんだか、清涼飲料水を飲みながら海で泳いでるみたいな、すごく爽やかな曲だと思いました」
moon drop「ありがとうございます!」
──まだ完成映像を観ていないRANさんと山川さんへ、moon dropのみなさんからおすすめのシーンを教えるとしたら、メンバーのみなさんはどのシーンを挙げますか?
浜口「逆に僕たちから、ですか!?(笑) ありすぎるんですけど!」
RAN「ぜひ教えていただきたいです!」
浜口「そうですね…僕は(伊苅)雷音丸くん(小泉光咲/原因は自分にある。)の漁師のお父さん(伊苅辰臣/演:徳重聡)が最初に出てきたときです。そこで“再現度がすごく高い!”と思ったのが、漁師さんってすごく声が大きいんです。その声の大きさが本当に再現度高いと思いました。(清水に向かって)な?」
清水「そう。僕、離島出身で、父が漁師なんですけど、本当にみんな声が大きいです」
浜口「多分、船に乗っているとエンジン音とか、波や風の音とかで、普通にしゃべっても聞こえないんですよ。そういうところから普段の声も大きくなっていくと思うんですけど、その再現度が、“これ! これ!”と思って(笑)。本当にすごかったです」
RAN「最初に悉平が雷音丸のお父さんに話しかけられるところですよね。あのシーン、実際にすごく遠かったんですよ。たぶん100m近く離れたところでお芝居をしていたんですけど、すごく聞こえるんですよ。“島中の鳥が全部飛んでいった”って監督が言っていました(笑)」
──その声をぜひ映画館の大音量で聞いてもらいたいですね(笑)。では、清水さんがおすすめするシーンは?
清水「僕は、沫乃さんが悉平たちの通う折高(折後島高等学校)に合唱を教えに来て、みんなが楽しそうに試行錯誤しながら練習するのを見て、すごく寂しそうな表情を浮かべるシーンです。そこが一番印象に残っていて、大好きなシーンです」
山川「ありがとうございます。そのときの気持ちは覚えていますけど、どんな表情をしていたかまでは覚えていなくて…。でも、折高のみんなが楽しそうに歌っている姿を見て、“自分の通う学校はそうじゃない”とか、いろんなモヤモヤを抱えながらのシーンだったと思うので、そういう表情の細かいところまで観ていただけてうれしいです」
──坂さんはいかがですか?
坂「僕も沫乃さんのシーンで、合唱コンクールが終わったあとに部長(小山慶一郎)が言った一言にスパッと返すじゃないですか。それまでの沫乃さんって可憐なイメージだったんですけど、そのシーンのギャップがすごく面白くて」
山川「ありがとうございます。でも、実はあそこで言った一言ってアドリブなんですよ。小山さんが話しかけてくださるのもアドリブで。“どうしよう…”ってなっていたら、その一言をRANくんが考えてくれたんです」
坂「そうだったんですね! チームプレーで」
山川「そうなんです」
浜口「でも、あのタイム感で来るっていうのは、たぶんお二人はまだ観ていないからわからないはず…」
坂「確かに。絶妙な間合いなので楽しみにしていてください!」
RAN・山川「わかりました!」
──それでは、原さんからもおすすめのシーンを教えてもらえればと思います。
原「僕、雷音丸くんのお父さんがマグロを釣って帰ってくるシーンがすごく印象的でした。重さ的に片手で持つってありえないんですよね(笑)。でも、あのシーンがすごく印象に残りました」
浜口「僕、もう一ついいですか?」
──もちろんです。
浜口「後半に(沢潟)育くん(福崎那由他)と悉平くんが歌うシーンがあるじゃないですか。僕はあのシーンを観て、“音楽には言葉を飛び越える力がすごくある”と思って…。ネタバレになるといけないから詳しくは言えないんですけど、あのシーンはこの映画の意味というか、歌に対する想いが表れた部分だと思って、すごく好きです」
RAN「ありがとうございます。実際の映画でどんな編集になっているかはわからないですけど、あのシーンは悉平的にも一番気持ちが葛藤してるときで、そんなタイミングで育くんと音楽で会話したというか…。歌の強さだったり、音楽の力を悉平自身も感じたシーンだったと思います」

──映画の中でも重要な役割を果たしている音楽。RANさんと山川さんにとって、音楽とはどういう存在ですか?
山川「この中で唯一音楽人ではない私が言っていいのかわからないですけど…この映画の悉平くんって、言葉で伝えるより、行動とか、それこそ音楽を使って気持ちを伝えるのが得意なタイプだと思うんです。それは私自身もそうで、私も言葉で伝えることがあまり得意ではないので、自分の中のモヤモヤを、音楽を聴いて“今の自分ってこういう気持ちなんだ”とわかったり、逆にこの映画を通して自分の気持ちを音楽で伝えたり。私みたいな言葉で伝えるのが苦手な人間にとって、音楽は気持ちを伝える手段にもなるので素敵だなって思います」
──RANさんはご自身が音楽を伝える立場でもありますね。
RAN「そうですね。でも、僕も山川さんと似たようなところがあって。やっぱり言葉だけじゃ伝わらないところを、歌詞やメロディが補ってくれるところもあるというか…。僕もかなり感情表現が苦手だったので、そういうときに音楽に救われて、自分もアーティストを目指すようになったんです。音楽とか歌の力によってみんなが一つになれるっていう音楽の偉大さみたいなところに、僕はすごく惹かれています。『アオショー!』も歌によってどんどんストーリーが紡がれていくので、そこに自分の気持ちとリンクする部分もあって、改めて“音楽って素敵だな”って思いました」
── moon dropのみなさんは音楽を生業としていますが、今回の『アオショー!』という作品をどう感じましたか?
浜口「“初心に返る“じゃないですけど、”やっぱり1人で歌っているんじゃないんだ”ってことを再確認できました。僕たちはバンドで、ボーカルは僕ですけど4人で奏でるからこそ歌にパワーが生まれるんだっていう、そういう大事な部分を見つめ直せた機会でした。それと、“人数ってそんなに関係ないんだな”って思いました。人が多いとか少ないとかではなく、“一緒に歌っている”という感覚をどれだけ意識できるかっていうのが、合唱にとってもバンドにとっても大事なんだと思いました」
──そろそろお時間が迫ってきたのですが、最後にお互いに“聞いておきたい!”ということがあれば…。
清水「あります! さっきの部長と沫乃さんの話とは別で、“このシーン、実はアドリブだよ”っていうのがあったら教えてもらいたいです」
山川「アドリブは結構ありますよね?」
RAN「ありましたっけ‥?」
(監督から“ぼやきがいっぱいある”と言われ)
RAN「あ、そこは少しだけ意識したというか…。悉平って好奇心旺盛でもあるので、ちょっとしたものに反応したりとか、会話している中での表情の変化だったりは、台本に書いてなくてもやろうと思っていました。“実際に会話していたらこうなるだろうな“ってことは、あくまでも自然な形で見えるように入れてみたりしましたね」
清水「すごい…!」
RAN「それがどこまで(映像で)使われてるかわからないですけど、ぼやきに注目してもらえたらと思います(笑)」
(さらに監督から“海で歩いているシーンなど、悉平と沫乃の2人のシーンは自由にやってもらっているところが結構あります”と追加情報)
RAN「確かに! 今回の映画では少なかったですけど、舞台では無茶ぶりみたいなところもあったりして…」
山川「そうそう。10分くらいアドリブのシーンがあって、毎公演違うっていうのがあって」
RAN「とんでもない回もありましたよね(笑)」
山川「その中でファンの方がすごい好きな悉平くんのアドリブのシーンがあって。“悉平くんが人魚になる”っていうアドリブがあったんですけど、そのときに鱗をペリペリって取るところがファンの方が気に入っていて。今回の「ブルーフィッシュ」の歌詞にも<鱗>って出てくるじゃないですか。(アドリブの話を)知っていて書かれたんですか?」
浜口「いや、それは知らなかったですね…」
RAN「そこまで知ってたら逆にコアファンですよ(笑)」
山川「確かに(笑)。でも、ファンの方は、そこを“リンクしている!”と感じる方もいらっしゃるかも…」
浜口「書いてよかった…!」
清水「次からそう言おう(笑)」
浜口「これからそう言わせていただきます!(笑)」

(おわり)
取材・文/片貝久美子
写真/野﨑 慧嗣
INFORMATION

映画『アオショー!』
9月5日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
<キャスト>
RAN(MAZZEL) 山川ひろみ
小山慶一郎(特別出演)
飯島寛騎 小泉光咲(原因は自分にある。) 三浦獠太 福崎那由他 大川泰雅
堤下敦 (インパルス) 田畑智子 徳重聡 渡辺いっけい 川上麻衣子 佐野史郎 ほか
<監督>
山口 喬司
<主題歌>
moon drop「ブルーフィッシュ」
配給:ギグリーボックス 2025年度作品
Ⓒ2025映画『アオショー!』製作委員会