――メジャー2枚目のアルバム『SONG OF LIFE』が完成しました。前作『君に会いに』からは4年ぶりとなりますが、どんな作品にしたいと考えてましたか。

「メジャー1stのときはすごく難産だったんですけど、2ndアルバムは、割とあっという間に10曲が溜まったんですね。だから、テーマを決めて作り始めたというよりは、集まった曲を眺めて、どういう括りにしようかなって考えた感じですね」

――どんなテーマが浮かびましたか。

「アルバムのタイトルにも入っている“LIFE”というキーワードが出てきましたね。むぎは沖縄で洋楽ばかりをかけるラジオをやっているので、英語に触れる機会が多かったんですね。そこで、“LIFE”という言葉を日本語に訳そうとすると、“生活”“命”“人生”――むぎ的にはニャン生ですね(笑)――という三つの意味がある。洋楽の曲の歌詞に出てくる“LIFE”は、“生活”なのか、“命”なのか、“人生”なのか。どう訳したらいいのかなと思ってたんですけど、もしかしたら日本語で三つの意味に分けて考えることが違ってるんじゃないかなって思って。“生活” “命”“人生”という言葉は、元々は概念として同じものなんじゃないかなって思い始めたんですね。それがすごく面白いなと感じて」

――なるほど

「“命”には、“持ち物”というか、“モノ”みたいなイメージがあったんですけど、そこに、生まれてから死ぬまでの“時間”というのが含まれるなっていうことに気づいて。そう考えると、英語でこの三つの言葉が一つの言葉で表されてるのがよくわかるなと思ったんですよ。“命”に、“生活”や“人生”という言葉が持ってる“時”の概念が加わって、より大切なものだなって思えるようになったし、“生活”や“命”、“人生”というそれぞれの言葉のきらめきが増した気がして、“LIFE”ってすごくいい言葉だなと思ったんです」

――そのテーマに辿り着いたのは、2022年3月から2023年2月にかけて配信リリースされた「歌うはるなつあきふゆプロジェクト」が終わってからですか?

「そうです。あのプロジェクトは、むぎは曲を書くのが遅いので(笑)、レーベルの方から“こういう企画をやってみない?”って言われたことがきっかけで動き出したものだったんですね。思わぬところからの後押しを得てはじめてみることも面白いなと思ったので、苦しかったこともあるけど、楽しくやれましたね」

――それぞれの季節に向き合ってみてどうでしたか。

「むぎは猫ですけど、人によって季節に思い入れが違うなと思ったのが一番ですね。だから、みんなにヒットするっていうよりは、その季節にあんまり思い入れがない人に対して響くようにっていうふうに考えて作っていて。ネガティブからのポジティブに変えられるようなイメージ。“あ、この季節、これでいいんだ”って思えるような曲になったらいいなと思いながら作りました」

――アルバムのタイトル曲「song of life」にも四季が入ってますよね。

「この曲はアルバムとしてまとめるっていうのを決めた後に作り始めたので、去年歌った四季の歌も、みんなの人生の彩る四つの季節っていう意味で、歌の中に盛り込みました」

――“life”だけではなく、“song”がついてます。

「むぎは普段から、みんなが自分の命や人生を楽しんで欲しいなと思ってるんですけど、人生の中で幸せを感じる瞬間って、何かを好きになったときだなと思うんですよ。自分の中の好きな音楽……音楽に限らずですけど、好きな何かを見つけてほしいなという気持ちを込めていて。だから、“この歌をみんなに聞いてほしい”のではなくて、みんながそれぞれのソング・オブ・ライフを歌ってほしい、聞いてほしいという気持ちで作った曲になってますね」

――ちなみに、むぎ(猫)さんにとってのソング・オブ・ライフって?

「ザ・ハイロウズの「夏の地図」っていう曲が大好きですね」

――本作に「夏の絵日記」という曲がありますが、オマージュ的な意味もあるんですか。

「いや、ザ・ハイロウズの方はバイク乗りの曲で、むぎも、カイヌシのゆうさくちゃんもバイクに乗らないんですよ。だから、バイク乗りへの憧れみたいなところが、その曲で消化できてるんじゃないかなと思うんです。雰囲気もなんかわかんないけど、ああ、いいなって感じるんですよね。なんていうんだろうな……届かないところにあるのかな。<お化けが出そうな夜の教室で/目的地までの正確な地図をノートに書いた>っていう歌い出しなんですけど、哀愁が漂ってるんですよね。何か言葉で説明できない部分ですごく好きな曲なんですよね、不思議なんですけど」

――先ほど言っていた「人生の中で幸せを感じる瞬間」は、むぎ(猫)さんにとってはやはり歌でしたか?

「音楽はもちろん好きなんですけど、それ以外にもありますね。やっぱり食べ物とか。世の中で何が楽しいかって、食べてるときが一番楽しいですね、むぎは」

――アルバムには、謎の食べ物やサーターアンダギーも出てきますが、何が好きですか。

「近所の沖縄そば屋さんの炙りソーキそばがめちゃくちゃうまいんですよ。今、沖縄では、炙りソーキが入荷できないっていうことが問題になってて。ニュースになってるぐらいなので、そろそろ食べられなくなるんじゃないかっていうことで、そこに通い詰めてます。それが今のニャン生の楽しみですね」

――炙りソーキ、いいですね(笑)。「song of life」はサウンド的には軽やかでポップで可愛いんですが、<本当は大人も子供>という歌い出しからもわかるように、大人になってしまっている苦味も感じるんですよね。

「うんうん!人類みんなに対して歌ってるんですけど、そもそも、むぎがライブを始めたのは、ライブハウスからだったんですよ。子供たちが全然いない現場で歌い始めたので、大人に子供の気持ちを忘れて欲しくないな、子供もその気持ちを忘れず大人になってほしいなっていう気持ちで歌ってて。この歌だけじゃなく、全ての歌をワンイシューというか、同じ気持ちで歌ってますね」

――MVも公開されました。

「「song of life」って日本語には訳せないなと思いながら作ったんだけど、それでも訳すとしたら、“命の歌”や“人生の歌”になると思うんですけど、アルバムの中には「誕生日の歌」があるんですね。誕生日をお祝いする歌こそ、人の命の讃歌になると思うんです。誕生日おめでとうって、その人が生きてる時間を称えるような歌じゃないですか。ソング・オブ・ライフの代表として、誕生日の歌があるなと思ったので、MVの中は誰かの誕生日をお祝いするっていう設定で。家にお友達を呼んで、飾り付けをして、誕生日の準備をしてるっていうミュージックビデオにしてます」

――「三拍子の誕生日」と「お邪魔されまSHOWのテーマ」の要素も入ってるんですね。

「そうなんですよ。実はミュージックビデオの中には「はるなつあきふゆ」のオマージュも隠されてます」

――アルバム全体が「song of life」に集約されてるんですね。2曲目の「春のフラワー」は、「はるなつあきふゆ」プロジェクトの第1弾リリースとなりました。

「2022年の年が明けた1月から春にかけて、すごく気持ちが落ち込んでたんですよ。だけど、四季のプロジェクトをやらないかって言われたときに、すごく勇気が湧いて。自分から現れるものじゃなくて、人からもらったきっかけで、自分の気持ちってこんなに変われるんだと思ったので、曲の中にもそれが入ってて。ひとひらの花びらが手のひらに落ちてきた、それをきっかけにして心が爽やかになったり、その花びらが風でまた天に昇っていく姿を自分に置き換えて、また上がっていけるかもしれないと思ったり。花びらに思いを託した曲になってますね」

――次の「フワフワスター」は一転して、<いいことがありました>っていう歌い出しになってます。

「コロナの間の2021年に「フワフワしたツアー」っていうのをやったんですよ。そのツアーのタイトル曲として、「フワフワツアー」っていう名前で作ってた曲なんですね。ツアーのオープニングでかけて曲をちょっと膨らませて、自分のことを「フワフワスター」って歌う曲にしようと思って。「フワフワしたツアー」のときから同じ出だしなんですけど、浮き足立ってる自分でもいいんじゃないかなと思って。毛がふわふわしてるっていうのと、地に足がついてない自分でも、そのまんまの自分でいいんじゃないかって歌っている曲ですね」

――クラップも入ってるんで、ライブでも盛り上がりそうですね。

「でも、実はすごい爆音から始まるんですね。ツアーでは本当にとんでもない爆音から始めちゃったんで、みんな“ビクッ”ってしてました(笑)」

――あはははは!全然フワフワしてない。むぎ(猫)さんにとって春という季節は?

「普段から沖縄に住んでるので、春の喜びは薄いなと思ったんですけど、季節がないって言われてる沖縄でも、花が多くなったりするし、やっぱり気持ちがウキウキする季節だなと思いましたね。こっからまた何か始まるぞ、みたいな気持ちがしますね、春は」

――そして、「夏の絵日記」はスカになってます。

「元々はパンクロックのエイトビートで歌うつもりだったんですよ。むぎはパンクロック大好きなので、エイトビートの曲を書きがちなんですけど、これもまたスタッフから、“たまにはちょっと違う曲調をやってみたら?”って言われて。試しに、いつか書こうと思ってたスカにしてみたら、めちゃくちゃハマって。ホーン隊も初めてうちに呼んで宅録をして、すごい爽やかになったなと思います」

――歌詞は、最初に言っていたように、みんなとは逆の思い入れを書いてます。

「そうですね。みんなは、“楽しい、わーい”っていう夏だと思うんですけど、むぎは夏を満喫できてない“にゃん生”を送ってきて。あっという間に過ぎてるし、手に入れられない……これは、「届かない夏」でも同じことを言ってますけど、「夏の絵日記」は、その雰囲気を隠しつつも、結構、空回りしてるっていう夏の歌ですね。むぎはカブトムシが取れなかったし、告白も失敗してる。それでも、なんか切ない思い出になる。手に入っても手に入れられなくても、絵になるのが夏だなと思って、「夏の絵日記」というタイトルで書き始めました」

――むぎ(猫)さんといえばマリンバとグロッケンですけど、この曲にはスティールパンが入ってますよね。

「一昨年だったかな……知り合いから“スティールパン、あげるわけじゃないけど、むぎのうちに置かない?”って言われて。沖縄にスティールパンのグループがいるんですけど、その方が持て余してるのがいっぱいあるから、むぎだったらうまく使うんじゃないかって。借りてる状態だけど、うちに置きっぱなしのスティールパンが手に入ったので、夏といえばもうスティールパンだなと思って。「夏の絵日記」のソロはスティールパンを自分で演奏してますし、「届かない夏」もスティールパンが入ってます。すごく難しいんですけど、その音一発で夏感が出るから、ありがたい楽器ですよね」

――「届かない夏」はいつ頃作った曲ですか?

「これは一昨年だったか、去年だったか、配信ライブのときにそのテーマソングとして作った曲だったんです。これはまさに、むぎがいつも思ってること。夏には思い入れがあるけど、みんなとは逆で、夏って手に入らないなっていう。ただ、何てことない夏を過ごしてる自分も、確かにここに生きてることは間違いない。それに価値はあるんだっていう歌ですね。何にも手に入らなくたって、やっぱり生きてることは素晴らしいなってみんなが思ってもらえるように。だから、<生きている僕は今生きてる>っていう終わり方にしてるんですね」

――夏の曲に挟まれた「巣」はちょっと変な曲ですよね。

「ありがとうございます!そう、変な曲なんです。変拍子でね。むぎはインストの曲も聞いたりするし、好きなテイストではあるんですけど、むぎの世界はポップの世界だなと思ってて。あんまりその要素を入れないようにしてたんですけど、アルバムの中の1曲としてはいいんじゃないかなと思って。不思議だけど、原始の心が騒ぐ、なんかゾワゾワするみたいな曲を書きたいなと思ってできました」

――この曲のテーマは?

「衣食住の中の“住”に焦点を当てた曲ですね。誰の巣なんだろうっていう。、みんなには、自分の住まいっていうものに思いをはせてほしいなと思って」

――続く「秋のU.F.O.」はラップソングで、秋をモチーフにしつつ、衣食住の“食”の曲になってます。

「むぎのラップの曲はそれまでに2曲ぐらいあったんですけど、春夏秋冬の中に1曲あってもいいなと思って。春夏と来て、このへんで裏切ろうかっていう。起承転結の転になるような歌を一つ入れたいなと思ったので、異色ですけど、むぎは食べるのが大好きなのでね。食べ物に関した曲だけど、タイトルでちょっと聞いてもらえるような曲にしたいなと思ったので、謎を残したタイトルにして。聞かないとわかんないみたいな感じで、タイトルから考え始めました」

――なんだかわからない食べ物でもとりあえず揚げてみればなんとかなるっていう。

「食への探究心ですね。山菜を取る有名な方がいて。その方が何でも天ぷらにしてたんです。天ぷらにしたら、ほとんどなんでも食べれるなって思ったので、天ぷらの新しい食材を探す曲にして。フライングとフライを入れ替えて、“U.F.O. ”にしました。元々、都市伝説やUFOとかUMAとかの雰囲気が好きなので、ちょっと怪しい感じにしてますね」

――愚問かもしれませんが、むぎ(猫)さんにとって秋はどんなシーズンですか。

「やっぱり食べることがメインだなと思います。何でも美味しいし。それでもまだあるんじゃないかっていう。そういう曲なんですよね。こんなにあるのに、まだあるはずっていう」

――なるほど(笑)。「三拍子の誕生日」は先ほど言っていた誕生日の曲ですよね。

「そうですね。このアルバムの裏テーマみたいなものがここにあるなと思います。でも、この曲もアルバムに入れるために作ったわけではなくて。ファンクラブの方の誕生日をお祝いするためにファンクラブの配信で歌ってた曲なんですね。これを音源化したら、みんなが誕生日をお祝いできるなと思って、ちゃんと録り直したんですけどね」

――生命が継続してること=時間を含めた命を祝福する歌になってます。

「はい。元々むぎは野良猫として飼い主に拾われたので、自分の誕生日がわかんないんですよ。だから、人の誕生日をお祝いするのすごく大好きで。言葉遊びで“三拍子”と“誕生日”が韻を踏めるなと思ったので、三拍子で、誕生日の曲作ったらいいなと思って作り始めて。この曲に関してはゲストプレイヤーを入れずに、むぎと飼い主で演奏してます。ただ、クスッと笑えるように、リコーダーの子がおっちょこちょいんなんです。ワン、ツー、スリーで、先にぴって吹き出しちゃうっていう遊びを入れてます」

――そして、「冬の惑星」はバラードですけど、主人公が昆虫のスカラベになってます。

「春夏秋と経てきて、さあどうしようって感じだったんですよ。それまで割と内面、自分のことを歌ってきてるから、外に飛び出して、ファンタジーにしちゃった方がいいなと思ったので、ストーリーを考えて。雪をどんどん転がしていって、雪の玉が地球より大きくなったら面白いなっていうところから、誰に転がさせようかなと思って考えたのが、スカラベ。ちびっこが大きなことをしでかすみたいな物語を作ったら面白いなと思って考え始めた曲ですね」

――冬っていうのはどんな季節?

「冬は、外が寒くて、みんな家にこもるし、気持ちの上でもうちにこもる季節だなと思います。そういう中でもみんな、健気に生きてるなと思って。その気持ちを虫に託していて。本当は冬に生まれる虫じゃない。例え場違いだとしても、そこにいる自分ができることって何だろうって考えて、雪を転がし始めて、大きなことを達成するみたいな曲になってますね」

――絵本のようですよね。可愛いくもあるし、読み込めば読む込むほど、メッセージ性も感じる。大人でも楽しめちゃう絵本。

「うれしいですね。ありがとうございます」

――そして、最後に「お邪魔されまSHOWのテーマ」が入ってますが。

「これも異色ですね。<お邪魔されまSHOW>っていう配信ライブをやってたんですよ。ゲストを呼んで、トークしながら、お互いに曲を披露するっていう。そのテーマソングを音源化した感じですね」

――ゲストとして、MIYAちゃんが招かれてます。

「配信ライブでは、オープニングとエンディングの曲の歌詞を変えてやってたので、同じように、このアルバムの中でも、そのショウみたいものが展開できたらなと思って。ZAZEN BOYSのベーシストのMIYAちゃんが近所に住んでるので、ゲストとして来てもらいました」

――四季折々があり、衣食住があり、様々な人生、生命、生活がある全10曲が揃って、みんなにはどう聴いて欲しいですか。

「むぎはずっと思ってることがあって。ライブも音源も同じで、優しい気持ちになる曲を作りたいし、優しい気持ちになるライブを作りたいし、優しい気持ちになるアルバムを作りたいんですね。世界のニュースを見てても、いつも思うんです。みんなが少しずつでも優しい気持ちに変われば、ミュージシャンとして、世界に貢献できるんじゃないかなって。だから、優しい気持ちになってほしいですし、気持ちが荒れてるときに聞いてほしいなと思います。そして、このアルバムの中に、みんなのソング・オブ・ライフが見つかったらうれしいですね。もし、この中になかったとしても、好きな歌を見つけようって思ってくれる人が1人でも出てきたらうれしいなと思います」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ

LIVE INFOむぎ(猫)Wonder Nyander Tour 2023~SONG OF LIFE~

6月10日(土)Loft PlusOne West(大阪)
6月24日(土)PLANT(北海道)
7月2日(日) OUTPUT(沖縄)
7月7日(金) 名古屋TOKUZO
7月9日(日) 赤羽ReNY alpha

DISC INFOむぎ(猫)『SONG OF LIFE』

2023年5月17日(水)発売
VICL-65818/3,300円(税込)
SPEEDSTAR

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