Blood Orange『Essex Honey』/19802944962/Domino Recordings

Blood Orange『Essex Honey』

シンガーソングライター/プロデューサーとしてマルチに活動するアーティスト、Blood Orange(ブラッドオレンジ)ことDev Hynes(デヴ・ハインズ)の7年ぶり5thアルバム。2023年に母を亡くした経験を背景に、郷愁と喪失をテーマにした非常にパーソナルで内省的な作品となっており、エセックスで育ち、未来を思い描いていた少年時代への回帰から生じるドリーミーで幻想的な音像を表出し、母を喪った悲しみを美しい音楽へと昇華させている。また今アルバムには実に多彩なゲストが参加しており、Daniel Caesar(ダニエル・シーザー)、Mustafa(ムスタファ)、Lorde(ロード)、Caroline Polachek(キャロライン・ポラチェック)、Zadie Smith(ゼイディー・スミス)など、ジャンルレスに客演陣を招聘している。彼のアルバムの中でも最もパーソナルで、静かに深く響く作品であり、音そのものが感情と記憶を呼び覚ますような傑作となった。

Late Night Drive Home『As I Watch My Life Online』/880692/Epitaph

Late Night Drive Home『As I Watch My Life Online』

テキサス州エルパソ出身、ラテン系メンバーによる4ピース・インディーロックバンド、late night drive home(レイト・ナイト・ドライヴ・ホーム)。2019年に結成、同年にデビューEP「floral」をリリース、2021年のEP「Am I Sinking Or Am I Swimming?」から「Stress Relief」のヒットを飛ばすなど、インディーロックバンドの新星としてシーンに躍り出た。2023年にEpitaph Recordsと契約し、2025年最新アルバムである今作『As I Watch My Life Online』をリリース。アルバムタイトルにもある「as i watch my life online(オンラインで自分の人生を見ている)」は彼らを取り巻く現代社会への応答であり、ザ・ストロークス、アークティック・モンキーズなど2000年代のガレージロックリバイバルの影響を色濃く反映し、グランジ・オルタナティヴを内包しながら、独自のポップセンスを遺憾なく発揮している。

Big Thief『Double Infinity』/4AD0850CD/4AD

Big Thief『Double Infinity』

2022年のアルバム『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』がグラミー賞ノミネート作品となり、一気にUSのインディーシーンの星となった3ピースバンドBig Thief(ビッグ・シーフ)による6枚目のアルバム。バンドメンバーが自転車でブルックリンとマンハッタンを行き来しながら一日9時間のセッションを3週間続け、演奏を即興的に録音することで躍動感のあるライヴ感ある制作手法をとり、Laraaji(ララージ)、Alena Spanger(アレナ・スパンジャー)、Hannah Cohen(ハンナ・コーエン)などのゲスト参加陣との集団的発見を積み重ねることにより完成していった。ベーシスト・Max Oleartchik(マックス・オレアルチック)が脱退し初めてのアルバムとなる今作だが、深い内省とライブ的即興を基に、変化と連続性、人生の不可逆性などの精神的テーマを表現する。

David Byrne『Who Is The Sky?』/OLE2178CD/Matador Records

David Byrne『Who Is The Sky?』

トーキング・ヘッズのリーダーとして知られるデイヴィッド・バーンが2018年の『American Utopia』以来7年ぶりとなるニューアルバムをMatador Recordsよりリリース。彼にとって昨今の盟友であるセイント・ヴィンセントやThe Smile(ザ・スマイル)のTom Skinner(トム・スキナー)などが参加メンバーに軒を連ね、ニューヨークを拠点とする室内楽アンサンブルGhost Train Orchestra(ゴースト・トレイン・オーケストラ)が全12曲のアレンジを担当。彼曰く、今作にはこれまで以上にストーリー性のある楽曲が多く含まれているそうで、いずれも「個人的な体験に基づいたミニ・ストーリー」のような構成になっているという。 彼は今作を通じて人と人とのつながり、そして混沌とした世界の中における社会的な連帯の可能性を追い求めており、今作を聴くすべての人が自己という「牢獄」を抜け出し超越するための試みである、と語る。

Kassa Overall『Cream』/WARPCD493/Warp Records

Kassa Overall『Cream』

シアトル出身のドラマー、プロデューサー、ラッパー、バンドリーダー、グラミー賞にノミネートされ、ドリスデュークアーティスト賞も受賞しているジャズの開拓者Kassa Overall(カッサ・オーバーオール)による一発録りのインストアルバム。従来のHIP HOP→JAZZの構図を逆転させ。JAZZ→HIP HOPのアプローチを体現した本作では、従来のHIP HOPがJAZZをサンプリングするのではなく、JAZZを通してHiphopを巧妙に再構築している。先行シングルとしてリリースされている「REBIRTH OF SLICK (COOL LIKE DAT)」もDigable Planets(ディゲブル・プラネッツ)のオープニングアクトやドラマーとして1年間ツアーに帯同した経験からこの曲を知り尽くし、アレンジに活かしている。両ジャンルのソウルスピリットに深く入り込み、90年代から受け継がれる両ジャンルの対話を表現した意欲作。

Joya Mooi『What’s Around The Corner』/(Digital)/Nine And A Half

Joya Mooi『What’s Around The Corner』

南アフリカにルーツを持ち、現在はオランダを拠点に活動するJoya Mooi(ジョヤ・モーイ)。南アフリカの文化的背景とアムステルダムの都会的な感性を融合させ、R&Bやインディーポップの影響を新鮮かつ革新的なスタイルで表現している。現代オランダのR&Bシーンを牽引する存在として、Full Crate、SIROJ、Pink Oculus、Jarreau Vandalといった著名アーティストからも高い支持を得ている。 EP『Open Hearts』は、日本を含む7ヵ国のSpotify「New Music Friday」に選出され、エレクトロニックなビートとソウルフルなメロディを融合させた先鋭的なサウンドで注目を集めている。4枚目のスタジオアルバム『What’s Around The Corner』は、より公正な未来に貢献したいというJoya Mooiの願いに突き動かされ、政治的レベルと個人的レベルの両方で社会変革の理論を深く掘り下げている。Joya Mooiの過去と現在の物語に深く影響を受けた、誠実で真摯な作品群であり、繊細なメロディー、ポップトラップ、R&Bなどの探求、そして生楽器とエレクトロニックサウンドが重層的に織り交ぜられている。アルバムはSim Fane、SIROJ、Blazehoven、そしてJoya Mooiがプロデュースし、複数のライブミュージシャンが参加。 「So Stunning」は、「家」へのセンチメンタルな感情と、それがもたらす思い出を探求し、ソウル、オルタナティブR&B、そしてトラップの要素を織り交ぜた霞がかったサウンドスケープが心地よいメッセージをより強く印象付けている。

Tom Rowlands『We Are Nothing/All Night EP』/PH144CV/Phantasy Sound

Tom Rowlands『We Are Nothing/All Night EP』

ケミカル・ブラザーズのトム・ローランズによる最新ソロEP。 彼によるソロリリースは2013年リリースの『Through Me/Nothing But Pleasure』以来。A面の「We Are Nothing」はカナダのアウトサイダー詩人Bill Bissett(ビル・ビセット)の存在主義的フレーズを軸に、アシッドライン、ソウルの断片、アナログエフェクトが交錯しハウス、サイケデリックな音像がレイヤー。B面の「All Night」は反面、テンポを上げUKレイヴ、アシッドハウスなムードのジャングルチューンで90'sの熱気がムンムンの破裂感と疾走感の爆発トラック。自身におけるクラブミュージックの原点を探訪しつつ現代のエレクトロニックミュージックへ昇華する、A面B面と対照的な2曲が流石の完成度の高さを誇る。





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