かつてセロニアス・モンクを評して「ユニーク」という言い方がされました。確かにモンクの音楽はメロディといい「間」のとり方といい、一風変わっています。しかし誰が聴いても「ジャズ」であることはわかります。

しかし、周縁ジャンルの音楽を貪欲に取り入れ変化するジャズは、「エッ、こんなのもジャズなの?」と思わせるような作品を次々に生み出して今日に至っています。『一生モノ~』では、「拡散するジャズの到達点」とサブタイトルが付けられた「ユニーク・ジャズ」のグループには、極めて魅力的ながら、ジャズファンのイメージを心地よく裏切るような風変わりな音楽が集められています。

1950年代末にフリー・ジャズの旗手として華々しくシーンに登場したオーネット・コールマンは、1970年代以降さらに変貌を遂げ、1988年に録音された『ヴァージン・ビューティ』(Epic)では、ロック界のスター・プレイヤー、ジェリー・ガルシアをゲストに迎え、フリー・ジャズのイメージを刷新するポップで魅力的な演奏を繰り広げています。

そのオーネット・コールマンのサイドマンだったジェームス・ブラッド・ウルマーの傑作が、『アー・ユー・グラッド・トゥ・ビー・イン・アメリカ?』(Rough Trade)です。独自のチューニングを行ったギターから繰り出されるウルマーの、歪んだ様な異様なサウンドにからんで、リズム・アンド・ブルースを彷彿させる実に躍動感に富んだホーン陣が咆哮します。

そして同じくオーネットの共演者、ドン・チェリーが80年代に吹き込んだ『ホーム・ボーイ・シスター・アウト』(Barclay)は、レゲエあり、ラップありの楽しい演奏で、これもまた従来のフリー・ジャズ・ミュージシャンの枠を大きく超えた柔軟な作品です。

シンセサイザーが作り出す機械的でノイジーなサウンドに、マシュー・シップのアコースティック・ピアノがからむと、SF的というか近未来的というか想像力を刺激する世界が現出します。ありそうでなかったユニークな発想のアルバムと言って良いでしょう。

70年代にロフト・ジャズ・ミュージシャンとして知られた、アルト・サックスのヘンリー・スレッギルが、フレンチ・ホルンやチューバとエレクトリック・サウンドを合体させたグループ「ヴェリー・ヴェリー・サーカス」で90年年代に吹き込んだ傑作が『トゥー・マッチ・シュガー・フォー・ア・ダイム』(Axiom)です。綿密に書かれたスコアに添って展開される、ちょっと怪獣映画のBGMを思わせる異様な世界は、一度聴いたら忘れられなくなりそうです。

アコーディオンでジャズというと少しばかり戸惑われるかも知れませんが、演奏を聴けば納得でしょう。リシャール・ガリアーノの『ニュー・ヨーク・タンゴ』(Dreyfus)は、アストル・ピアソラの名曲《ヴェルヴォ・アル・スール》はじめ、自作のタイトル曲も哀感とダイナミックスを巧みに表現できる、アコーディオンの特質を生かしきった素晴らしい演奏となっています。

一度に複数のサックスを吹くことで知られたローランド・カーク晩年の傑作が『カーカトロン』(Warner Bros.)です。コーラスを巧みに使い、ちょっと懐かしいような不思議な世界に聴き手を誘ってくれます。ポップな仕立てながら、じっくり聴くと、カークの豊かで想像力に富んだ音楽が聴き手の心に染み通ってくる名演です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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