3回にわたってお送りしたチェット・ベイカー特集、最後を飾るのは他のミュージシャンとの共演アルバムだ。チェット・ベイカーは個性的なトランペッターではあるが決して協調性に欠けることはなく、デビューしたウエストコースト・ミュージシャンたちとは言うまでもなく、第1回目にお聴きいただいた『チェット・ベイカー・イン・ニューヨーク』(Riverside)のように、黒人ジャズマンと渡り合ってもまったく違和感がない。

冒頭の『プレイボーイズ』(Pacific Jazz)はウエストコーストのもう一方の雄、アート・ペッパーとの双頭アルバム。テナーのフィル・アーソを加えた3管セクステットは、ウエストコースト・ジャズの典型ともいうべき、アンサンブルの心地よさと各人のソロが巧みに融和した傑作だ。名曲《フォー・マイナーズ・オンリー》の決定版が堪能できる。

2枚目のアルバム『ジェリー・マリガン・カルテット』(Pacific Jazz)もウエストコースト・ジャズの名を高めた名盤。チェット・ベイカーのトランペットとジェリー・マリガンのバリトン・サックスという意表を突く組み合わせに加え、50年代には珍しかったピアノレス・カルテットというフォーマットが話題を呼んだ。このアルバムも巧みなアレンジとソロの有機的な結びつきが聴き所だ。

1970年代のヒット・アルバム、ジム・ホールの『アランフェス協奏曲』(CTI)では、リーダー、ジム・ホールのソフトなギター・サウンドと、これまたメローな音色が特徴のアルト・サックス奏者、ポール・デスモンドに寄り添うようにトランペットを吹くチェットが聴ける。サイドマンではあるがまさにチェットは適役だ。タイトル曲が有名だが、アナログ時代A面に収録されていた《ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ》も名演。

タイトルでも明らかなように、『コニッツ・ミーツ・マリガン』(Pacific Jazz)では、チェットはマリガンのサイドマンという格好での登場なので、どうしても聴き所はリー・コニッツとジェリー・マリガンになってしまうが、コニッツのような硬質なプレイヤーとも共演できるところを知っていただきたいと思い、ご紹介した。地味だが聴き応えのある作品だ。

『シングス・ア・ソング・ウイズ・マリガン』(Pacific Jazz)も、伴奏者であるマリガンのお供のような形なので、どうしても耳は個性的なアニ―・ロスの歌声に行ってしまうが、時折現れるトランペットの音色がチェットらしさを感じさせる。ちなみにアニー・ロスはマンハッタン・トランスファーがお手本とした男女3人のヴォーカル・グループ、ランバート、ヘンドリクス、アンド、ロスの一員としても有名。

最後にご紹介するのはチェットと同じく白人ジャズマンの代表格、ビル・エヴァンスとの共演作、『チェット』(Riverside)である。アルバム・コンセプトやプロデュースの問題もあるのか、期待するような丁々発止の交換はないが、しっとりとした落ち着いた仕上がりになっている。

こうして聴いてみると、チェット・ベイカーは晩年の作品に見られるように、ちょっとしたニュアンスで深い表情を表現できると同時に、さまざまなタイプ、コンセプトの作品においても共演者たちと融合できる柔軟さを具えた、非常に懐の深いプレイヤーであることが実感できたのではないでしょうか。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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