国立新美術館では、企画展示室1Eにおいて「生誕100年 森英恵 ヴァイタル・タイプ」を開催する。1950年代にキャリアを開始した森英恵は、当初、映画衣装の制作を通じてその才能を現した。戦後の高度経済成長期、家庭を持ちながら社会の第一線で活躍する彼女の姿は、新しい女性像の先駆者として大きな注目を集めた。

「生誕100年 森英恵 ヴァイタル・タイプ」展示風景 島根県立石見美術館 撮影:小川真輝
「生誕100年 森英恵 ヴァイタル・タイプ」展示風景 島根県立石見美術館 撮影:小川真輝

1961年、森は雑誌『装苑(ソウエン)』にて「ヴァイタル・タイプ(Vital Type)」という人物像を提唱した。生き生きとして生命力に溢れ、一生懸命になれる仕事を持ち、努力を惜しまない活動的な女性を指す。この概念は、森自身の生き方そのものだった。1965年のニューヨークコレクションデビューを経て、彼女は晩年まで世界を舞台に活動を続けた。本展では、オートクチュールドレスや初公開作品を含む膨大な資料から、森英恵のものづくりの全貌を明らかにする。

「ひよしや」開店の頃 1950年代半ば 撮影:石井幸之助 提供:森英恵事務所
森英恵《赤い花柄の男性用アロハシャツ(映画『狂った果実』衣装)》1956年 島根県立石見美術館 撮影:小川真輝

展示の大きな見どころの一つは、1977年から27年間にわたり発表されたオートクチュールコレクション。高品質な素材と卓越した技術を駆使した一点物の作品群からは、森の深い美意識を体感できる。彼女がこだわり抜いた日本産の布地に焦点が当てられているのも本展の特徴。着物文化を背景とした帯地や絹織物に鮮やかなプリントを施したオリジナルのテキスタイルは、世界で「日本的美の表現」として絶賛された。新たに発見された布の原画や試し刷りも展示する。

森英恵《ブランドラベル、帯地のコート》1964年 ハナヱ・モリ 島根県立石見美術館 撮影:小川真輝
右近テキスタイル デザインハウス テキスタイル「晩夏に咲く」四季ファブリックハウス 1972年 森英恵事務所

さらに、ニューヨークのメトロポリタン美術館に収蔵されているドレス4点が、東京展のために日本初公開される。その中には、日本美術コレクターのメアリー・グリッグス・バークが、伊藤若冲の《月下白梅図》に着想を得て特注したドレスも含まれる。これまであまり紹介されてこなかったアメリカ時代の活動を網羅的に伝える構成だ。

森英恵《イヴニングアンサンブル》1974年 ハナヱ・モリ メトロポリタン美術館、ニューヨーク 1996年メアリー・グリッグス・バーク氏寄贈(1996. 130. 6a, b) ©The Metropolitan Museum of Art. Image source: Art Resource, NY
森英恵《イヴニングアンサンブル》1968年 ハナヱ・モリ メトロポリタン美術館、ニューヨーク 1975年 森英恵氏寄贈(1975. 86. 1a-c) ©The Metropolitan Museum of Art. Image source: Art Resource, NY

森英恵は、ファッションを単なる流行ではなく「文化」として定着させるために、情報発信にも力を注いだ。1966年には情報誌『森英恵流行通信』を発行し、後に日本を代表するファッション誌『流行通信』へと発展させた。また、1978年には表参道にハナヱ・モリビルを竣工し、東京のファッション動向の拠点とした。1985年に放送を開始したテレビ番組「ファッション通信」など、メディアを通じてファッションの地位向上に貢献した彼女の先駆的な取り組みを紹介する。

  • アートディレクション:江島任 『森英恵流行通信』10号、1966年9月3日 ファッションハウス 森英恵 島根県立石見美術館
  • ダイジェスト版「ファッション通信」2025年編集 提供:インファス・ドットコム
  • 設計:丹下健三、撮影:村井修 ハナヱ・モリビル 1978年 画像提供:村井久美(村井修 写真アーカイヴス)

森のクリエイションは、多くのアーティストとの協業からも生まれている。モデルの松本弘子や写真家の奈良原一高、グラフィックデザイナーの田中一光、そして女優の黒柳徹子らとの交流を、本人所蔵の衣装や資料を通じて振り返る。また、日本航空の制服やオリンピック選手団の公式服装など、彼女が手がけた「制服」の仕事にも注目する。集団の中に生まれる「集団美」を尊び、服の力で人々の暮らしを支えようとした思想を辿る。

アートディレクション:横尾忠則『流行通信』No.195、1980年4月 株式会社流行通信 島根県立石見美術館

エピローグでは、映像作家の志村信裕による撮り下ろし映像を上映する。森星や森泉ら、彼女の近くにいた家族や友人へのインタビューを通じ、多角的に森の素顔に迫る。彼女が育んだ美意識が、次世代へとどのように受け継がれていくのかを提示する。

森泉《エピローグ》より 2025年 志村信裕

展覧会名:生誕100年 森英恵 ヴァイタル‧タイプ
会期:2026年4月15日〜7月6日
休館日:毎週火曜日(ただし、5月5日は開館)
開館時間:10:00~18:00 ※毎週金‧土曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館 企画展示室1E 〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
観覧料(税込):
(前売券)一般:2000円 大学生:1600円 高校生:1200円
(当日券)一般:2200円 大学生:1800円 高校生:1400円
※中学生以下は入場無料
※障害者手帳をご持参の方(付添の方1名を含む)は入場無料
※4月17日〜19日は高校生無料観覧日(学生証の提示が必要)

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