「ストリート」を軸にハイファッションまでミックス

「自分たちが着たいと思えるブランドとファッションと機能性を併せ持つウェアを取り揃えること。クラシックにひねりを加えることで、退屈にならないアイテムを選ぶこと」――「ユニオン」が1989年の創業以来、貫いてきたコンセプトだ。同年にオープンさせたニューヨーク・ソーホーの店舗は、サーフブランドだった「STÜSSY(ステューシー)」や、後に創業者のジェームス・ジェビアが立ち上げた「シュプリーム」をはじめ、当時の新進ストリートブランドを独自の目利きでキュレーションし、瞬く間に人気を集めた。91年にロサンゼルスに出店して以降は、「RAF SIMONS(ラフ シモンズ)」や「Thom Browne(トムブラウン)」、「MARNI(マルニ)」、「Comme des Garçons(コム デ ギャルソン)」などハイエンドブランドも導入。アップカミングなストリートファッションとハイファッションをミックスしたセレクトショップのパイオニアとしてポジションを築いた。

91年に出店した「ユニオンLA」

NYストアは2009年にクローズし伝説となったが、NY時代の96年からユニオンのMDを手掛けているのが現オーナーでディレクターのクリス・ギブズだ。03年からLAストアのバイイングに携わり、ローカルのストリートブランドを発掘する一方、著名ブランドとの協業も活発に展開し、ユニオンの存在感を強めた。その視線が日本のブランドにも注がれた。「NEIGHBORHOOD(ネイバーフッド)」や「WTAPS(ダブルタップス)」、「visvim(ビズビム)」なども積極的に導入し、裏原系を中心に日本のデザイナーブランドとのコミュニティーを醸成。17年秋冬シーズンからはプライベートブランド「UNION ORIGINAL(ユニオン オリジナル)」もスタートした。ボーダーレスなミクスチャーMDの厚みを増した18年4月、初の海外店舗として出店したのがユニオン トーキョーだった。

入り口近くから見た「ユニオン トーキョー」の店内

店舗は神宮前2丁目、原宿の賑わいから離れた商店街の一画にある。約170㎡の空間は鉄骨とコンクリートの構造を生かしつつ、壁面やレジにウッドを用いることで、無骨でありながら自然な温かみを感じさせる。エントランスを入るとポップアップスペースが広がり、その背後にはくつろげるラウンジがあり、隣接してセレクトやコラボ、オリジナルのウェアをラック掛けした売り場が開けている。
内装デザインは「AESOP(イソップ)」や「CIBONE(シボネ)」などの店舗を手掛けたケース・リアルの二俣公一が担当した。インテリアは、壁紙に1700年代のハーレムをモチーフにしたシルクスクリーンのクロス材を用いたり、木製のアンティーク家具にアフリカンファブリックを施したりと、ブラックカルチャーの要素を散りばめた。これはNY発のファッションブランド「NOAH(ノア)」の創業者ブレンドン・バベンジンの妻エステルによるスタイリングで、ユニオンの「ミックス感」を空間に表現している。売り場にはモニターも設置され、映像監督で作家のカリル・ジョセフが手掛ける映像作品でありニュースメディアの「BLACK NEWS(ブラックニューズ)」を配信。通りを歩いてきてアイキャッチとなるウインドーの植栽は、福岡を拠点に蘭とアート作品を取り扱う「プラセールワークショップ」の内田洋一郎による。

二面モニターでは「ブラックニューズ」を配信
アフリカンファブリックを使ったアンティーク家具のあるラウンジスペース

気鋭と新進がボーダーレスに混在するから輝くブランドの個性

ユニオンのパートナーとして日本国内でユニオン トーキョーを運営するのは、TSIホールディングス傘下のジャック。ユニオンと縁の深い「STÜSSY(ステューシー)」をはじめ、「HUF(ハフ)」などのブランドを手掛けてきた。世界中からセレクトしたストリートブランドとハイブランド、それらとのコラボアイテム、さらにユニオンのプライベートブランドを展開しているのは、LAストアと同様だ。

多様なブランドが並列にラック掛けされている売り場

その中で、日本のデザイナーブランドを多く揃えているのは、東京ストアの特徴の一つだろう。「nanamica(ナナミカ)」や「THE NORTH FACE Purple Label(ザ ノース フェイス パープル レーベル)」、「NEEDLES(ニードルス)」、「DIGAWEL(ディガウェル)」、「WACKO MARIA(ワコマリア)」、「NEIGHBORHOOD(ネイバーフッド)」など充実している。これらと並列で新進ブランドもラック掛けされ、発見する楽しみのあるミクスチャーだ。
「BoTT(ボット)」は、グラフィックデザイナーのTEITO(テイト)が19年に立ち上げた東京のストリートブランド。ポップでクラシックなブランドロゴ、エッジの効いたグラフィックを特徴とし、リラックスしたストリートスタイルは国内外から注目を集めている。「FAF(エフエーエフ)」は、クリエイティブユニット「YouthQuake(ユースクエイク)」の荒井一帆と高林司によるユニセックスブランド。「肥大していく都市と自然のコントラスト」「ものづくりの可能性の追求」をコンセプトに、「THENEWCOMMUNE(理想郷)への逃避」をサブテーマとして、プロダクトを製作する。ワークやミリタリー、スポーツウェアをベースに素材と加工を駆使してオリジナルのスタイルを生み出す。今季はインドの伝統的な刺し子生地「カンタキルト」を素材としてユーズド感を表現したセットアップなどを提案する。

「ニードルス」とコラボしたヘリンボーンを使った今季のジャケット
「ナナミカ」や「ザ ノース フェイス パープル レーベル」なども揃う
ロゴが印象的な「ボット」のフ―ディー
「ワコマリア」がワーク&ミリタリー専門メーカー「スピワック」と組んだフライトジャケットと、映画「パルプフィクション」のシーンをプリントしたTシャツ
カンタキルトを使った「FAF」のジャケット

海外ブランドも気鋭が揃う。「MONTMARTRE NEW YORK(モンマルトル ニューヨーク)」は、トップストリートブランドで経験を積んだデザイナーの八木佑樹とデジタルプロデューサーのヘイリー・シャンポーが16年に立ち上げた。ひと目見たら忘れないインパクトのあるグラフィックデザインをジャカード織で表現したマフラーをシグネチャーとする。絵画のようなグラフィックには遊び心と社会問題に対するメッセージが内包され、ストリートマインドが溢れる。表裏で異なるデザインを表現し、スタイリングによって使い分けられるのも魅力だ。高機能かつ高品質なストリートカジュアルを提案するのは「Bricks & Wood(ブリックス&ウッド)」。14年にケイシー・リンチが創設したブランドで、LAのサウスセントラルを拠点とし、日常生活で得たインスピレーションをもとに一点一点にストーリーのあるプロダクトを作ることを信条とする。「NEW BALANCE(ニューバランス)など著名ブランドとのコラボも話題の、旬のLAスタイルを感じられるブランドだ。

一点一点にストーリーの通うプロダクトを届ける「ブリックス&ウッド」
「モンマルトルニューヨーク」のマフラー

ユニオンと言えばアメリカ、特にLAのローカルブランドのイメージが強いが、世界中のブランドを扱い、フレッシュな印象を与える。スウェーデン発の「OUR LEGACY(アワーレガシー)」は、様々な地域の生地を再利用し、独自のシルエット、ディテールを追求したコレクションで世界にファンを持つ。インディペンデントブランドを貫くそのスタイルもユニオンの精神性に通じる。チェック柄のイタリア製生地による「HAVEN JACKET(ヘイブンジャケット)」と、イタリアンデニムをブリーチ加工した「THIRD CUT(サードカット)」シリーズのジーンズなど、こだわりをリラックス感に収斂した。ミラノのメゾンブランド「MARNI(マルニ)」はユニオンの草創期からラインナップしてきた。今季はオーガニックコットンサテン製の長袖シャツ「COMPACT ORGANIC COTTON MOLESKIN SHIRTS(コンパクトオーガニックコットンモールスキンシャツ)」と同素材のカーゴパンツを推す。

「マルニ」のオーガニックコットン製のセットアップ
「アワーレガシー」の「ヘイブンジャケット」と「サードカット」ジーンズ

オリジナルアイテムは売り場中央で展開され、バラエティー豊かだ。「BYRD SWEATER(バードセーター)」は、3GGのヘビーゲージの糸で編み上げたニットウェア。複数の異なる編み目に編んだパッチを一体化したデザインは温かみがあり、オーバーサイズのフィット感が心地良い。かぎ針編みによる正方形の編地「グラニースクエア」が特徴的な「WHEATLEY CARDIGAN(ウィートリーカーディガン)」は、オーバーサイズのクロップド丈でゆったりと着こなせる。「STRODE LS WOVEN(ストロード ロングスリーブ ウーヴン)」は、ベーシックなワークシャツをベースに、大きなダブルパッチポケットとスプリットヘムで変化をつけた。袖やヨークのイエローステッチがさりげなくモダンなアクセントを添える。

  • 異なる編み目をパッチワークのように一体化した「バードセーター」
  • 背にグラニースクエアを配した「ウィートリーカーディガン」
  • ワークシャツをベースにした「ストロード ロングスリーブ ウーヴン」

オールドスクールのヒップホップを象徴するトラックジャケットから着想したのは「DORHAM JACKET(ドーハムジャケット)」。オーバーサイズながら腰丈のシルエットでバランス良く仕上げ、トラックジャケットの代名詞である袖のテーピングは手編みのニットに仕様変更し、袖と身頃脇に配した。同素材の「MACEO PANT(マセオパンツ)」とのセットアップもお薦め。「HAYDEN BOMBER JACKET(ヘイデンボマージャケット)」は、リサイクルナイロン糸と太番手の綿糸によるグログラン生地、中綿にはシンサレートを使い、丈夫で保温性にも優れる。ユニオン流のフライトジャケットだ。

ユニオンのMA-1と位置づける「ヘイデンボマージャケット」
「ドーハムジャケット」と「マセオパンツ」のセットアップ

コラボ、ポップアップでブランドの魅力を高める

多様なブランドとのコラボレーションも、ユニオンならでは。24-25年秋冬シーズンは、「BIRKENSTOCK(ビルケンシュトック)」との協業による「Bimshire(ビムシャイア)」を推す。ユニオンのギブズが愛好するビルケンシュトックのアイコンモデル、「Boston(ボストン)」と「Zurich(チューリッヒ)」のシルエットを組み合わせたハイブリッドクロッグシューズだ。つま先部にはスエード、ストラップにはナチュラルレザーとキャンバス地と3つの素材を使い、質感の異なる同系色でエレガントに仕上げた。フットベッドはナッパレザーで覆い、ユニオンを象徴するオレンジが鮮やかだ。
24年末には吉田カバンのライフスタイルブランド「POTR(ピー・オー・ティー・アール)」と共に作り込んだヘルメットバッグとショルダーバッグも発表し、人気を呼んだ。柔道着の素材や製法にインスパイアされて製作されたバッグは、表地には帆布やギャバジン、裏地にはナイロンツイルを使い、異なる質感の素材をバイオストーンウォッシュ加工で表情豊かに仕上げたメイド・イン・ジャパンのプロダクト。柔道着から着想したステッチなどのディテールにユニオンの柔軟な発想と吉田カバンによる技術の追求が伺える。

「POTR」とコラボしたヘルメットバッグとショルダーバッグ
ビルケンシュトックとコラボした「ビムシャイア」

24年12月には新たなコラボコレクションをローンチした。一つは、LA・ベニス出身でギャングスターとして活動していたスパントと、グラフィックデザイナーのアレックス/2トーンによるブランド「BORN X RAISED(ボーン アンド レイズド)」との「BORN GENTS(ボーンジェンツ)」コレクション。同ブランドはユニオンのLAストアで13年にデビューし、コラボを重ねてきた。今回はブランドにとって盟友であるグラフィックデザイナーのアレクシス・ロスによるグラフィックや、「GENTS OF DESIRE」(色男)のフレーズをプリントしたシリーズ、ユニオンらしいアワードジャケットやオーバーサイズのカーティガン、総柄のオープンカラーシャツなどを揃えた。LAカルチャーの色濃いブランドだけに、ユニオンファンは必見だ。

「ボーン アンド レイズド」との「GENTS OF DESIRE LETTERMAN JACKET」

もう一つは、NY・ロングアイランド出身のヒップホップグループ「De La Soul(デ・ラ・ソウル)」とのカプセルコレクション。デ・ラ・ソウルはギャングスター系ラップの全盛にあった89年、サンプリングを多用し、日常を描写するユーモラスなラップでヒップホップの新たな可能性を拓いた名盤「3 Feet High and Rising」でデビューした。同年、同じNYで創業したのがユニオンだ。今回のコレクションは、同じルーツを持つ両者がタッグを組み、「3 Feet High and Rising」の35周年を記念してリリースした。同アルバムのアートワークやヒットシングルの曲目をモチーフにしたプリンタブルやアクセサリー、老舗工場に特注した限定のアワードジャケットなどスペシャルなアイテムを揃えた。

「デ・ラ・ソウル」とのスタジアムジャンパー「DE LA UNION VARSITY」

また、店内で展開するブランドのポップアップもユニオン トーキョーの魅力だ。「まだユニオンだけでしか出会えないブランド」を中心に企画し、取材時には山形県寒河江市の紡績・ニットメーカー佐藤繊維のブランド「lugly(ラグリー)」にフィーチャーしていた。ラグリーは前身となる「WEARABLEARTS(ウェアラブルアーツ)」を名称変更し、23年秋冬シーズンに再始動したブランドで、職人による伝統的な物作りとストリートカルチャーを融合した新しいニットウェアを目指している。ポップアップは毎月、コンテンツが変わるので、ぜひチェックしたい。

店頭で展開されるポップアップ。取材時は「ラグリー」をクローズアップしていた

ユニオンは22年に大阪市堀江にも出店し、現在はLA、東京と合わせ3つの拠点を持つ。「ユニオン大阪」は様々な人気ショップが並ぶ南堀江の「オレンジストリート」に立地し、こちらのオープニングでは大阪ストア限定のアイテムも展開、店作りも植栽を据えるなど日本にフォーカスしている。
現在もユニオンは3店舗展開で、意外と店舗数は少ないが、ストアブランドとしての影響力は強く、20代後半から30代後半を中心とする目的客が多いのが特徴だ。特に東京ストアは最寄り駅から離れているだけに、訪日外国人客も含め「目掛けて来店するお客様が多い」という。界隈のショップも巡って、最後にユニオン トーキョーに訪れ、お気に入りを購入するケースも多い。品揃えはメンズ服が中心だが、オーバーサイズのトレンドが広がる中でユニセックス提案を強化し、ここ数年は女性客も増えている。一方、日本の新進ブランドにとってユニオン トーキョーは、LAを中心とした海外マーケットと直結する場でもある。次代を拓くデザイナーのインキュベーションの場としても注目したい。

写真/野﨑慧司、ジャック提供
取材・文/久保雅裕

関連リンク

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

Journal Cubocci

一覧へ戻る