服を直し、長く大切に着る日本の文化を生かす

ReMUJIの取り組みは、2010年に始まった「FUKU-FUKUプロジェクト」(現BRING)への参画がきっかけだった。それ以前から良品計画では循環型社会の実現へ向けた活動を進めてきたが、自社が販売した衣料を中心とする繊維製品に特化した回収・リサイクルにも取り組んだ。この時点では、店頭で回収した服を資源として、無印良品の服などを作る原料へと再生させることが目的。回収拠点を全国の店舗に設置し、5年間で約60トンの繊維製品を原料に再生させ、この活動は現在も継続している。
ただ、回収した繊維製品の中には、まだまだ着用可能な衣料品も多くあった。「もったいない」と、着目したのがリユースだった。「日本人には昔から、着古して色の褪せたきものを染め直したり、破れた部分に刺し子を施して補強するなどして、長く大切に着るという文化があります。そうした先人の知恵を生かそうという発想が始まり」とReMUJIを担当する良品計画の戸村幸太さん(産地開発部 素材開発担当)。回収した衣料品を状態に応じて選別し、着られないものは原料へのリサイクルに回し、手を加えれば着られるものをリユース、つまり染め直して再販するプロジェクトとして「ReMUJI」を15年にスタートさせた。
染め直しに選んだのは、古来より日本人に親しまれ、海外からはジャパンブルーと評されてきた「藍色」。濃淡で3色の藍色(※現在は1色)を、色落ちを抑えるため現代の技術を使って染め直しをする。回収した衣料品は素材や色、服としての状態も異なるため、染め上がりの色も異なるが、購入客にとっては世界で一つの服になる。この「染めなおした服」を同年に新規出店した福岡県の「無印良品 天神大名」の限定商品として販売した。

2015年、無印良品 天神大名で展開した「染めなおした服」(当時)

「染めなおした服」は好評を呼び、展開する店舗を徐々に増やした。大きく取り組みを前進させたのは21年のこと。良品計画は新宿エリアの「MUJI新宿」と「無印良品 新宿」をリニューアルし、2店舗を軸とした新たなライフスタイル提案を始めた。環境や地域、アートなどに関わる商品・サービスを集積したのがMUJI新宿。そのMDの核の一つとして、「ReMUJI」を、これまでで最大規模となる売り場で展開した。一方、衣料品は全店舗で回収していたものの、「どこに持ち込めばいいのか戸惑うお客様も少なくなかった」ことから、全店舗に回収ボックスを導入して視認性を高めた。結果、回収量も再販商品も増加し、現在は21店舗でReMUJIを展開するに至っている。

2021年、MUJI新宿の「ReMUJI」売り場(当時)

新たな価値を生み、次に着る人へとつなぐ

ReMUJIが回収の対象としているのは、無印良品の下着を除く衣料品全般とタオル・シーツ・カバー類。全店舗で回収したそれらを1点1点検査し、衣料品へとアップサイクルする「リユース」向けと、無印良品の服などのアイテムに使う原料へと再生する「リサイクル」向けに仕分ける。「ダメージが激しく、加工しても着られないものは原料へとリサイクルしています。」と戸村さん。現在は原料にするものも多いが、ポリエステルや綿の製品は出来る限りリユースに回していく考えだ。

売り場で展開しているのは、前述の「染めなおした服」と、MUJI新宿のオープン時に加えた「つながる服」と「洗いなおした服」。染めなおした服は藍色と黒の2色展開に絞った。国内の工場で予備洗い後、仕上がりの色を想定して窯ごとに微調整した染料で染色し、乾燥、1点1点を職人がプレス仕上げ、検査し、店頭に届けられる。シャツやカットソー、ボトムなどがあり、価格はいずれも何と1990円。「つながる服」は、ほつれや破れなどのダメージがない部分を使ってリメイクしたもの。柄が異なる複数枚の服のパーツをつないで新しいデザインを生み、次に着る人へとつなぐ。バッグが3990円、ポーチは2990円、他にもシャツやロングシャツなども展開していた。洗いなおした服は、染め直しができない素材や色の服に洗いをかけ、再販するもの。いわば無印良品の古着で、全アイテムを990円で販売している。3シリーズとも商品点数が限られる上、とくに染めなおした服とつながる服は1点物で、選ぶ楽しさが魅力だ。

「つながる服」のシャツ
藍と黒に仕上げた「染めなおした服」
「洗いなおした服」のフーディーとシャツ
つながる服」のデニムバッグ

今でこそ回収も軌道に乗ってきたが、ReMUJIは一定枚数の衣類が集まらないと商品化できない取り組みでもある。「お客様が衣類を持ち込まれるのは、衣替えの時期が多いんですね。暑くなると冬物の回収量が増え、寒くなると夏物の回収量が増え、販売シーズンに合わせるのが難しいことが課題」と戸村さん。また、無印良品では天竺編みのTシャツが夏物として、そしてインナーとしても好評だが、これまでに回収量も増えたことから、今回「染めなおした服 Tシャツ」シリーズを企画し、夏季・数量限定のアイテムとして6月から19店舗で販売。半袖シャツの選択肢の一つとして好評だという。
今後は生産時のB品の活用も検討中という。「工場で発生したB品にアップリケを施すなど繕(つくろ)うことで、数量限定の商品として販売しているものもあります。ReMUJIを生産する過程で発生するB品も活用したい。」としている。

今年初めて投入した「染めなおした服 Tシャツ」

日常生活の中に「ReMUJI」を取り入れやすく

無印良品の中で最も大きな売り場でReMUJIを展開している店舗の一つが、22年11月にオープンした「無印良品 板橋南町22」だ。有明店と銀座店に次ぐ関東最大級の売り場面積を持ち、「生活の基本」となる衣食住全般のMDやサービスを展開しながら、包括連携協定を結んだ板橋区、近隣地域と共に地域課題の解決へ向け取り組んでいる。空き容器の削減を目的とした洗剤とヘアケア用品の量り売り、食品のロスを生まないためのドライフルーツやパスタの量り売り、板橋区が認定した地元で愛され続けている「板橋のいっぴん」の販売、板橋区との連携による無印良品以外の繊維製品の資源回収、フードドライブなど、活動は多岐にわたる。本やCD、DVDを回収し、連携する古本買取会社の査定額分の絵本を地域の幼稚園や保育施設に寄付する取り組みも行っている。また、プラスチック収納用品などの自社製品の回収も行う。
商品面でも、無印良品は周知の通り、環境負荷の低い素材使いに注力してきた。衣料品ではオーガニックコットンをベースに、シーズンに応じて天然素材を取り入れている。今春、着目したのはカポック。農薬や肥料、水をほとんど使わず栽培でき、繊維の原料となる実も幹を伐採することなく収穫できる。その繊維は吸湿放湿に優れ、生地にすると軽く柔らかい。これまで限定店舗で展開していたが、今季は全店舗で展開している。夏場はリネンを定番的に揃えるほか、ここ数年はヘンプにも力を入れている。「ジュートマイバッグ」は、インドで穀物袋に使われていたジュートをバッグに転用したもの。19年の発売以来、ヒットを続け、現地にはその物作りに携わる村が産地を形成している。
多様な取り組みの中で、自社繊維製品を循環させる仕組みとしてReMUJIは位置付けられている。

洗剤の量り売りコーナー
「無印良品 板橋南町22」
「ジュートマイバッグ」はインドで穀物袋に使われていたジュートを使い現地生産
板橋区と取り組む資源回収ステーション
無印良品全店舗でハンガーは紙製を使用
夏の衣料では環境への負荷が少ないヘンプにフォーカス

板橋南町22の店舗は4層構造で、1階は地域のおすすめの店舗を記したマップやイベントなどに活用し、2~4階が売り場。ReMUJIは3階の衣料品のフロアで展開している。「染めなおした服」、「つながる服」、「洗いなおした服」と共に目に飛び込んでくるのは、売り場中央に設置された透明なアクリルボックス。右は来店客が持ち込んだ服の回収ボックスになっている。背後の壁面の棚半分には再生された服がぎっしりと陳列され、もう半分では工場で服が再生されるプロセスを撮影・編集した動画がモニターに映し出されている。「服がどう循環して売り場に戻ってきたのか、どんな服がどう生まれ変わっていくのかを、工場で再生に携わる職人さんたちの仕事と共にビジュアルで伝えています」と、リユースまでの背景をしっかりと伝えることを重視している。動画は無印良品のサイトでも閲覧できる。

服の循環をビジュアルで伝える

スーパーマーケットに隣接する板橋南町22の幅広い客層に準じ、ReMUJIの利用客も様々だ。「お客様もリユースは環境に良いからReMUJIの服を買うというよりは、その時期に欲しいもの、サイズもまちまちなので自分の体型に合うものを探すのを楽しんでいる」という。サステイナビリティーへの意識の高まりやリユース市場の拡大と共に古着に対する抵抗感もなくなってきたこともあるだろう。その中で、「購入も服の持ち込みも気軽に参加する感覚でよくて、その結果として環境に良いことをしていたんだなあと気づく。そういう自然な流れを生んでいけるよう、日常生活の中にReMUJIという仕組みを取り入れやすくしていきたい」としている。

写真/遠藤純、良品計画提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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