直営店を相次ぎ出店、店舗ごとの役割を明確に

ブランドを立ち上げて3年目の2022年、「CFCL(シーエフシーエル)」が発表したのは、国内外の名立たるファッションブランドを集積する表参道のGYRE(ジャイル)と、翌春に開業する東京ミッドタウン八重洲への直営店の出店だった。その後、23年3月から東京ミッドタウン六本木で1年間の期間限定店を展開することも明らかにした。それぞれの出店を果たし、今年7月5日には阪急梅田メンズ館と出店が続いている。
「出店は当初からの計画。オファーもたくさんあり、ブランドにとって意味のある場所を見極めていく」と代表でクリエイティブディレクターの高橋悠介は話す。CFCLでは直営店の出店を、①街路から直接入店できる路面店、②商業施設内の路面店、③百貨店のショップ・イン・ショップ、④ポップアップや期間限定店の4段階で構想し、②③④をデビュー3年で実現したことになる。海外からのオファーもあり、「パリへの出店は近い将来の目標。アジアは卸のアカウントも訪日外国人客の購買も増加しているので、早めに仕掛けたい」とし、それらも早々に果たしてしまいそうな勢いを感じる。
現在、旗艦店と位置づけているのが、「CFCL OMOTESANDO(シーエフシーエル オモテサンドウ)」だ。ジャイルの3階に立地し、売り場面積は87.4㎡(床面積119.931㎡のうち)。最新コレクションの全アイテムを面で展開し、アイコニックなアイテムも揃える。床や壁、天井までブランドのシグネチャーカラーであるブルーグレーで統一し、そのテクスチャーは硬質でありながら繊細、CFCLのニットウェアのモダニティーに通じる。建築家の工藤桃子が主宰するMMA inc.が手掛けた。
ミニマルかつマッシブな空間で目を引くのは壁面のビジュアル。表参道店のために制作したもので、展開する服のノイズにならないようルックは使わず、コレクションのテーマをコンセプチュアルな写真で表現している。つまり、コレクションの発表に合わせて、このビジュアルを含め売り場のVMDは大きく変化する。レイアウトを自在に変えていけるよう、什器はスイスのモジュラーシステム家具ブランド「USMハラー」を採用した。「シーズナルなコレクションアイテムに加え、カプセルコレクションやコラボレーションアイテムも展開していく」と高橋はいう。CFCLの進化をまるごとリアル体験できる空間が表参道店だ。

最新のCFCLを体験できる旗艦店「CFCL OMOTESANDO」

一方、「CFCL YAESU(シーエフシーエル ヤエス)」は、東京駅と地下で直結する東京ミッドタウン八重洲の1階エントランスに立地する。空間デザインは表参道店と同様、MMA inc.が担当し、床や壁、什器に至るまでCFCLの世界観を作り込んだ。
売り場は床面積約70㎡の3分の2程度で、変則的な三角形の空間となっている。ウインドーが東京駅側の歩道に面していることから、八重洲店用に撮影したルックによる大型のビジュアルウォールを設置し、CFCLというブランドの認知拡大を図る。というのも、ファッション感度の高い目的客が多い表参道店に比べ、八重洲エリアはフリー客の構成比が高いからだ。「訪日外国人客や地方から新幹線や高速バスで来る人たちにCFCLを知っていただく玄関」と位置づけ、MDは表参道店とは逆に、陶器のような丸みを帯びたシルエットの「POTTERY(ポッタリー)」やギリシャ建築の柱のようなシルエットの「FLUTED(フルーテッド)」などのアイコニックアイテムを軸とし、最新のコレクションはピックアップしたアイテムで構成する。

アイコニックアイテムを軸とする「CFCL YAESU」
「FLUTED(フルーテッド)」シリーズのドレス
アイコニックの「POTTERY(ポッタリー)」シリーズのドレス

売り場は表参道店に比べてコンパクトだが、什器を曲線で構成することで広々と見せ、外光を取り込むことで光のうつろいと服の表情の変化を感じられる空間を出現させた。「無理にラックを置かず、試着室も空間をゆったりとっています。客層が今後どう変わっていくはまだ分からないが、アイコニックを中心にCFCLの本質を伝え、ビジュアルウォールを3カ月ごとに変えることでCFCLの『今』を発信していく」としている。ビジュアルウォールは開閉式で、扉を開けるとストックルームが現れるという造りもユニークだ。

オープニングではアーティスト桑田卓郎のクラフトラインとのコラボによる陶器も提案
ウインドーで展開する大型のビジュアルウォール

「CFCL ROPPONGI(シーエフシーエル ロッポンギ)」は、東京ミッドタウン六本木のガレリア2階にあり、上階はレジデンスフロアで、レストランフロアに隣接している。1年間の期間限定出店のため表参道店や八重洲店ほどの作り込みはしていないが、「界隈を生活圏とするお客様が多いため、その日常に取り入れてもらえるような服を意識」し、CFCLのシーズナルなアイテムを総合的に展開する。ビジュアルは店内のMDと呼応するルックをデジタルサイネージに映し出す。客層は六本木エリアに暮らす富裕層が大半を占め、訪日外国人客も多く訪れる。ビル自体が男性の通行量が多い立地であることから、「男性の顧客比率はまだ低いが、今後は挑戦したいマーケット」とする。

東京ミッドタウン六本木の期間限定店「CFCL ROPPONGI」

顧客の感性を引き出す体験を提供

いずれの店舗にも共通しているのはBGMと香り。音楽はCFCLの日常の店舗用とコレクション用のオリジナル楽曲を採用している。日常の店舗の音楽はサウンドアーティストの細井美裕が手掛ける。自身の声のみを録音・編集したサウンドインスタレーションだ。1本の糸から服という立体を生み出すニットとの親和性が感じられる。コレクションメインのピースが立ち上がるタイミングでは、パリファッションウイークで使用した楽曲を空間に合わせてアレンジして使用している。高橋が追求するコレクションテーマを音に変換し、新たな視聴覚体験を提供する。
香りはCFCLがデビュー時から密かにこだわってきた要素。実店舗がなかった頃から、オンラインストアの購入客に商品を配送する箱にオリジナルの香りをまとわせ届けていた。同じ香りを店舗でも空間用として使用しているほか、この香りをアップデートした香水「EQUIP(エクイップ)」を開発し、4月から販売している。アーティスト和泉侃の監修による、透き通った水を思わせる凛としたボタニカルな香りだ。香水はシグネチャーの香りとしてブランドの世界観を存分に表現した一方、オンラインストアや空間用は服や照明などとの設えとの作用を考慮し、調合する成分をシンプルに抑えている。

今年4月に発売したフレグランスアイテム「EQUIP(エクイップ)」

「ファッションは総合芸術というか、顧客体験もまたブランドの付加価値と捉えています。お客様の感性が引き出されるような豊かな体験を提供していくため、直感に訴えかけるコミュニケーションの場として香りや音楽も含めた店舗空間を作っている」と高橋はいう。直営店の世界観は顧客体験も含んだ価値として設計されているのだ。対して、卸売りは顧客情報は当然ながら卸先が持ち、売り場でも他ブランドと一緒に提案されるため世界観の打ち出しは弱くなるが、「私たちがリーチできないお客様にきちんとアプローチしてくれる」。世界にCFCLを知ってもらうプロモーションとして、卸売りのチャネルを重視している。

「仮縫い」からのコンピュータープログラミング

CFCLの店舗にはコレクションのシーズナルなアイテムだけでなく、前シーズンのアイテムも普通に並ぶ。「消化率は数年かけて100%になればいいという考え方。シーズン中に消化すべき目安はあるけれど、基本的にタイムレスに着られる服を作っているので、残ったアイテムも新しいコレクションと共に売り場に陳列しています」と高橋は話す。生産時に余った糸も廃棄せず、次のコレクションや店舗のエクスクルーシブアイテム、バッグなどの小物・雑貨に生かしていく。デビュー時からこの循環を継続してきたことで、現在は展開しているアイテムの7割が「同じ糸」を使用している。

ニットで作られたバッグはエントリーアイテムとして人気

その糸を構成するのは、ペットボトル由来の再生ポリエステル。コンピュータープログラミングを駆使することで糸から直接、服という立体を生み出し、ニットは裁断や縫製がほぼ必要ないため、生産過程で端材はほとんど出ない。余った糸も前述した新たなプロダクトに使うことで無駄を出さない。さらに、ファーストコレクションからドレス(ポッタリードレス)1着当たりの温室効果ガス排出量を数値化して公表し、これを改善する服作りに向き合ってきた。この積み重ねが日本のアパレルで初の「Bコープ認証」取得につながっている。
というと、機械による生産をストイックに追求しているようだが、服としての美しさや機能の創出にはアナログのプロセスを重視している。「画面上のモデルに服を着せて落ち感などを確認する技術も開発されているのですが、そこは私たちが最も魂を込めているところ。やはり実物のほうが、例えば歩いたときのリアルなドレープ感などが見えてくるので、仮縫いをして検証しながら、一つひとつプログラミングしています」。直営店のVMDもそうだが、カスタマーエクスペリエンス(CX)に通じることには、必ず人の手を介在させる。「経営効率に関わるテクノロジーなどのDXはバックオフィスで、人の感性に関わるCXは自分たちのフィジカルな体験を通じて組み立てていく」のが身上だ。

             
仮縫いをすることで多様な表現を生む

再生糸の技術革新と「地産地消」のビジョン

現状の課題は、国内にポリエステルをリサイクルするプラントが少ないことだという。これは、日本がプラスチックごみを海外に輸出する政策を続けてきたことによる。そのためCFCLも、回収された糸を台湾で原糸にして日本に運び、北陸でストレッチ加工や染色を施し、東京を含む生産工場で服にしている。ブランドの人気の高まりに伴い商品の生産量も増加する中で、再生ポリエステルの供給のひっ迫はCFCLの成長にとってもボトルネックになる。
「再生ポリエステルの技術革新がCFCLを成り立たせています。飲料業界では今、ペットボトルからペットボトルへのリサイクルが進んでいて、このクローズドループが確立されるとアパレルにはなかなか回って来なくなるかもしれません。そうなったときを想定して、政府や商社と連携し、服から服へのリサイクルの推進について話し合っています。ポリエステルの単一素材による服が少ない中で、例えばコットンポリエステルのコットンをリユースに回し、ポリエステルをリサイクルするといったプラントを日本に造る方向へと動いています」
原糸を作るインフラが整備されてくれば、「糸とデザインデータ、ホールガーメント機があれば物理的には同じものを生産できるニットの特性を生かし、日本で売るものは日本で作り、アメリカで売るものはアメリカで作るなど『地産地消』も可能になる。そこが最終的な目標」と高橋は話す。一見、すでに確立されたかに見えるCFCLのビジネスモデルだが、ファッションの未来へとビジョンは広がり、実現に向けて進化を続けている。

写真/遠藤純、CFCL提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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