コロナ禍で強まった顧客との「絆」
プラージュは2013年にデビューし、フレンチベーシックに程よくトレンドを取り入れたスタイリングで人気を得た。18年秋冬からリブランディングを進め、大人の女性に向けたリラックスできる日常着を軸にオリジナルとセレクトを展開。セレクトでも別注に力を入れるなど商品の独自性はもとより、「全11店舗を切り盛りする全員が社員」とスタッフの個性や感性、対応力によって一客一客の信頼を積み重ねてきた。その中でシンプルなベージュはプラージュを象徴するカラーとなり、売り上げ面でも好調を続けてきた。
顧客とのつながりを強める中で、コロナ禍ではEC比率が急伸した。「当時は今よりも店舗数が少なかったので、実店舗に行けない地域のお客様がECを利用することが多かった。コロナ禍で顧客もオンラインを利用するようになり、SNSの強化で新規のお客様のECでの買い上げも増えた」結果だ。実店舗の営業が復活してからはEC比率もコロナ禍前の水準に戻ったが、顧客はもとより、この間増えた新規客が実店舗に来店するようになっている。
「ベイクルーズグループでは公式通販サイトで新作アイテムの予約注文を強化していて、2カ月先までのローンチ予定や現在の在庫状況を確認することができます。これをチェックして先々までの買い物計画を立て、実店舗とECを使い分けているお客様が多い」とプラージュマネージャーの森次まりなさんは話す。結果として、実店舗とECのバランス良い構成比を維持している。
デビュー10周年、感謝とプラージュの「今」を形に
「コロナ禍を通して、お客様が望んでいることを以前よりも自然に考えるようになった」と森次さん。そして迎えた23年は、ブランドがデビューして10周年。「単におめでたいと盛り上げるのではなく、お客様に感謝を伝えることが最優先であることを全員の共通認識にした上で、様々な企画をみんなで考えた」という。
制作会社に依頼してデザインしてもらった、Plageの「P」や10周年の「10」が編み物のように絡み合ったモノグラムは、まさに10周年の象徴。代官山店のエントランスに設置し、日本のブランドとして「和」を大切にしていきたいという思いから松の植栽とともに来店客を迎えている。また、モノグラムをあしらったエコバッグやTシャツ、特注した桐箱入りのロゼ・ダンジュワインをセットにしたノベルティーも制作。ブランドのデビュー月である3月に顧客イベントを開催し、招待した顧客に進呈した。絆を確認し合ったこのパーティーを起点として、様々な企画を打ち出していく。
商品では、ブランドを象徴するベージュカラーに特化したコレクションを展開。プラージュの名に込められた南仏の浜辺のイメージから「ジャクリーン・ケネディが現代でバカンスを過ごすなら…?」を裏テーマに、オリジナルとインポートの別注によるシャツやブラウスなど10型を制作した。ベージュ1色ながら、染、織、編、さらに色別注によってアイテムごとに異なる色味を表現している。
- ベージュコレクションのシアーバンドカラーシャツ(オリジナル)
- シルクワンショルダーキャミソール(オリジナル)
- レーシートップス(オリジナル)
- セーラーカラーのオープンシャツ(オリジナル)
- サッカージャケット(オリジナル)
- パフキャミソールブラウス(オリジナル)
オリジナルアイテムは、赤みのないバターのようなベージュのシアー生地によるバンドカラーシャツ、スペシャル感のあるシルク使いのワンショルダーキャミソール、国内に1台しかない編み機で編んだ綿麻レースのトップス、襟の抜き加減やボタンの留め位置で様々な着こなしが楽しめるセーラーカラーのオープンシャツなど6型。別注では、天然素材に草木染のカラー展開が魅力の「enrica(エンリカ)」に色別注したベアトップブラウス、「GABRIELA COLL GARMENTS(ガブリエラ コール ガーメンツ)」のインラインモデルを英国王室御用達の生地ブランド「トーマスメイソン」に変更したスリーブレスブラウス、「EVA MANN(エヴァマン)」のインラインモデルをベージュの素材に変更したポーラシャツ、フェミニンながらバックスタイルにエッジを効かせた「JANE SMITH(ジェーンスミス)」のバックポイントブラウスの4型が揃う。
これらを含む23年春夏アイテムのルックとイメージムービーは、「各地のお客様が『ここ知ってる!』みたいな感覚で楽しんでいただきたい」と、プラージュの店舗がある東京、名古屋、大阪、福岡の街中で撮影。公式サイトにアップすると、ロケ地巡りを楽しむ顧客も現れるなど好評だ。今後は人気スタッフらが「各地の顧客に会いに行くツアー」も組み、プラージュを一緒に築き上げたお客様とコミュニケーションを図っていく。
モデルによるルックだけでなく、公式サイトでは10人のスタッフがそれぞれ10型、実に100通りのスタイリングを紹介する特集も組んだ。「お客様は自身が好きなスタッフがどう着こなすかを見たいだろうなと思ったんです。アップしたところ、ものすごい反響がありました。お客様は何を求めているのか、どうすれば喜んでいただけるのか。服作りも、買い付けも、販促も、そこに向けて一体になって動いています。そこに若手スタッフも参加することで、これからのプラージュができることを考え、自らが成長していけるきっかけにしてもらえたら」と森次さんは話す。
また、今年3月から12月までの8カ月間限定でユーチューブチャンネルを開設した。初回はスタッフのバッグの中身をテーマに配信し、4月末現在で登録者が約6000人、再生数が11万回と人気を呼んでいる。2回目はスタッフがくじで引き当てたテーマでスタイリングを提案した。今後も順次、趣向を凝らした番組をアップしていく予定。
普遍的な服を進化させ、スタイリングで「プラージュ」を表現
MD面では、3年間途絶えていた海外での買い付けを、23年秋冬物から再開した。コロナ禍で国内ブランドの構成比がかなり高まったが、23年秋冬物ではインポートを40%程度にまで戻している。今後はオリジナルと別注を強化し、それらのスタイリングを引き立てるアクセサリーやバッグなどのグッズを充実させていく。
「お客様は私たちが提案するものをよく見ていてくださり、目が肥えている人が多く、期待値も高いんですね。とはいえ、高価なブランドを入れればいいというものでもない。プラージュだからこそのスタイリングにはまるものを常に探しています。プラージュの服は何に合わせてもいいし、歳月が経っても着られることが魅力。普遍的な服を進化させ、プラージュらしいスタイルを体現したい。オリジナルと共にエクスクルーシブを強化し、グッズを充実させることでスタイリングの魅力を高めていきます」と奈良さんは話す。コロナ禍が明け、旅行やアウトドアなど改めて多様化する着用シーンも想定した品揃えを進めていく。
一般にブランドはシーズンテーマに基づいたコレクションを展開するが、プラージュはシーズンを1テーマで固めるのではなく、顧客の声や自分たちが面白いと感じたことをテーマ化し、モノやコトに落とし込むことに軸足を置いてきた。オリジナル商品は毎月ローンチされるが、「何気なく出た話がテーマになったり。これでいこうとなると一丸となって実現する」と森次さん。そうしたアプローチでMDが展開される中、不定期に差し込まれる独自企画のイベントも魅力となっている。
「時々のニーズやトレンド、お客様の気分に合った企画で『意外性』を入れていきたい」と奈良さん。海外へ買い付けに行った折りに、感銘を受けたり興味を持ったりした場所、その地域で作られている服や雑貨など、自身の体験が出発点になることが多い。「もちろん展示会を回って買い付けはするけれど、新しい何かが始まるきっかけになる場所をいつも探している」という。19年4月に代官山の旗艦店で開催したモロッコに焦点を当てたイベントは象徴的だろう。「マラケシュの夜」をテーマに、店内にテントを張って空間自体をがらりと変えた。メインとしたのは、現地まで行って別注してきたモロッコのブティック「Norya ayroN(ノルヤ アイロン)」のワンピースコレクション。前年に初めて紹介して好評だったことからイベント化し、モロッコ音楽の演奏やモロッコ料理のケータリングなどもミックスし、「ここだけの体験」を提供した。
今年のゴールデンウィークにはグッズをメインにしたイベントを実施予定。「Tシャツを着て出掛けよう」を裏テーマに、Tシャツで遊べるピンバッジや缶バッジ、ストラップなどを集積する。ピンバッジだけでも海外で買い付けた約700個が揃い、「ちょっと遊びに来る」感覚でおしゃれにプラスするアイテムと出会える。
フラッグシップの代官山店では日頃からセレクトや別注で扱っているブランドの世界観を見せる場作りとして、ポップアップの誘致にも積極的だ。アイウェアブランド「EYETHINK(アイシンク)」によるオーダー対応やコラボによるプラージュのオリジナルアイウェアの提案、ビンテージショップ「Witty Vintage(ウィッティ ヴィンテージ)」によるビンテージクローズや協業でアップサイクルしたアイテムなど、ジャンルを超えた取り組み型の展開が目立つ。
今年3月には米国のジュエリーブランド「Gabriela Artigas(ガブリエル アルティガス)」のポップアップを実施した。多様な素材を用いたハンドメイドによるアクセサリーで注目される新鋭ブランドだ。3年振りにデザイナーも来店し、プラージュの10周年に合わせて別注した10粒のダイヤモンドを埋め込んだバングルや、昔のペソ硬貨を使った同ブランドの定番ネックレスを短めに変更した別注品など、スペシャルなアイテムを提案した。
客層は現在、30代後半~50代前半が中心。「『プラージュ愛』の強いお客様が多く、顧客同士も仲良くなり、プラージュの新作などに関する情報をやりとりしている」という。その中で母娘での来店が増え、以前はあまり認知されていなかった20代の購入が増えているのも、この数年間の特徴的な変化だ。大人の女性のファンとの関係を深耕しながら、新たな世代も取り込み始めた。「プラージュらしさ」がどう進化していくのか、今後に注目したい。
写真/野﨑慧嗣、ベイクルーズ提供
取材・文/久保雅裕
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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。