「パークス パリ」に続く2号店、「キーライム トーキョー」
「キーライム トーキョー」の店舗があるのは東急東横線の祐天寺駅と学芸大学駅のほぼ中間、三宿通り沿いの五本木交差点近く。アクセス至便とは言えないが、ローカルとシティが合わさったゆるりとした時間の流れが感じられ、ぶらりと散歩がてら訪れるには程よい距離感でもある。もともとこの空間には豆腐店があり、その跡地にメンズセレクトショップ「TF(ティーエフ)」が出店。いつも変わらない良いものがある「街の洋品店」を目指すティーエフのMDのディレクションを担当していたのが関隼平さんだった。21年にティーエフが隣接する建物に移転し、空いた店舗物件で週末限定のショップ「TF Labo(ティーエフ ラボ)」を展開後、その跡地を引き継いで23年9月にオープンさせたのがキーライム トーキョーだ。
「パリを拠点に日本のブランドをフランスに紹介し、フランスのブランドを日本のセレクトショップとつなぐなどファッションインプルーバーとして活動する中で、関がセレクトしているブランドを紹介し、自身が好きなシャツ、デニム、革靴に象徴されるベーシックスタイルを提案する場所を日本にも作りたいと思うようになったことが始まり」と、キーライム トーキョーの久保研店長。その場所としてティーエフの跡地を使えることになり、パークス パリの2号店の出店に向けて動き始めた。ところが、日本で「パークス」はすでに商標登録されていたため、店名はゼロから考え直したという。
ロゴデザインを依頼したグラフィックデザイナーと話しているときに、偶然出てきたのが「keylime」というワードだった。料理や飲料などに使われるライムの一種で、アメリカではキーライムパイの素材として親しまれている。「オープン当初はよくお客様に尋ねられましたが、キーとライムを掛け合わせた造語ではなく、単純に柑橘類の英語の固有名詞なんですよ。keylimeという字面や語感がちょうどよかった。存在しない言葉を作って意味を後付けするのではなく、もともと存在する言葉に店らしさが備わっていくようにしたかった、と関は話していました」。この店名から店舗デザインを発想し、ライムのビビッドなグリーンを外観や内装、什器に配しつつ、木目調の什器や白で統一した床や壁が醸し出すクラシカルな佇まいにモダンな空気感を取り入れた空間を生んだ。エントランスを入ると天井まで伸びる什器が奥へと続き、廊下のような通路を進んで左に曲がると売り場が広がる。商品と出会うまでの間が程よくあることで、気持ちが整うような感じが心地良い。
店作りに際してはクラウドファンディングを活用し、早々に目標額を達成。返礼品としてキーライムで販売するアイテムを先行して製作し、残りを内装費に充てて店舗を完成させた。支援してくれた人たちに向けてはサンクスイベントの開催や支援者専用のクーポン付きサンクスDMの配信など、「ご縁が途絶えないよう、感謝の気持ちを伝え続けている」。
物作りへの敬意をベースに関係性を育んだブランドからセレクト
オープンして丸3年が経過し、30代後半~40代の男性が中心に来店し、リピート客も育ってきている。関さんがディレクションしている店ということで興味を持って来店する人や、取り扱いブランドを目当てに来店する人はもちろんいるが、「店を紹介するユーチューブ動画を観て来てくださるお客様が多い」と久保さん。聞けば、「今の空気感と自分が持っている服が何か噛み合わないと感じていて、気の利いたファッションスタイルをしたいけれど、その思いがどこに行けば叶うのか分からない。そうした方々がユーチューブで見つけてくださって来店する」ことが多いという。
例えばデニムパンツにシャツをタックインして着るなど、ベーシックなスタイルだが自分に似合うものなのかと躊躇している人も意外と多く、動画を観て気分が変わり、店に足を運ぶ。そのニーズに応え、スタイルアップする捻りを効かせたシャツやパンツなど基本アイテムが充実していることは、キーライムの強みだろう。セレクトショップでは取り扱いの少ないブランドやオリジナルアイテムもあり、「発見」を楽しめる品揃えは大きな魅力だ。
「Dhal(ダル)」は名古屋を拠点とするユニセックスブランド。「服は完成形ではなく、着る人とともに形になっていく」ことをフィロソフィーとし、尾州産地の職人と生地から作り込む物作りを追求している。2026年秋冬シーズンも渾身のコレクションが揃う。「Pima Cotton Dress Regular Shirt(ピマコットン ドレスレギュラーシャツ)」は、定番のレギュラーシャツをベースに、襟を大きくし、台襟に高さを持たせた進化版。自然な光沢を持つコットンポプリンを使い、ドレッシーに仕上げた。「Bradford 1930's Algerian Twill / RAF Pants(ブラッドフォード 1930’s アルジェリアン ラフパンツ)」は、1930年代のアルジェリア軍のビンテージウェアの素材感を再現したコットンツイルを使い、スラックスのように穿けるゆったり、すっきりとした印象のチノパンツだ。同じ生地によるトレンチコートなども揃え、好評だ。印象的なのは、「Double Face Jersey Tailored Jacket(ダブルフェースジャージー テーラードジャケット)」。クラシカルなフォルムに、赤でもない、茶でもない独特なトーンの煉瓦色を融合させ、落ち着きと高揚感が共鳴する一着に収斂させた。繊維に空気を含ませたポリエステルウーリー糸を二重織りしたジャージー素材は、軽量かつストレッチ性に優れ、通気性と耐久性も備える。自宅で洗えるのも魅力だ。
ダルと同じく尾州産地で物作りに取り組むのは「holk(ホーク)」。「身近な人々のための服の在り方」を追求し、デザインはもとより、熟練の職人による生地作りと縫製にこだわった長く着られるベーシックな服が幅広い世代に支持されている。キーライムではウールによるプロダクトを中心にセレクト。「Wool Long Sleeve Tee(ウール ロングスリーブティー)」は今季の新作。ウールだからこその生地のとろみと落ち感が醸し出す上品さが大人のムードを感じさせ、裾と袖口にリブを配すことで1枚でも、インナーとしても着用できる。
「ダルもホークも地元に直営店があるのですが、東京には取り扱う店舗が少ないんですね。そのため、直営店などでブランドを知ったお客様が東京に来たときに当店を訪れたり、当店で初めてブランドと出会い、ファンになったり。ダルに関しては、デザイナーの水谷美知さんと関は26年春夏までカットソーブランドを展開し、ポッドキャスト番組を通じて服作りの考え方や背景を発信しています。そうした機会を通じてブランドや店の存在を知り、来店されるケースもあります」と久保さん。物作りへの敬意をベースとするブランドとの関係性は、キーライムの品揃えに奥行きを与えている。
そんな関係性は、「未来のビンテージを作る」ことをコンセプトに古着やビンテージウェアを現代の感性で再構築する「Oblada(オブラダ)」への別注にも窺える。ウィメンズブランドだが、その定番デニムパンツに使われているヘンプ混デニム生地を使い、インラインには無いメンズサイズで別注、柔らかさとハリを両立した細身のテーパードパンツに仕上げた。店舗のオープン時から展開し、カラーはインディゴに始まり、アイボリーも追加、今季はブラックを発表した。オブラダとはキーライムが重視するシャツも共同で製作。オブラダがオリジナルで作るウィメンズシャツの刷毛目生地を使い、程よいゆとりを持たせた身幅、コンパクトな袖口とボリュームのある袖、スプリットヨークなどのクラシックなディテールを備えた、その名も「Authentic Shirt(オーセンティックシャツ)」だ。発売から間もなく完売する人気ぶりで、再生産して8月に販売したが売り切れ、次回の生産が待望されている。オーセンティックシャツは現在、オブラダでもウィメンズサイズが販売され好評だ。
捻りを効かせたベーシックはキーライムの真骨頂だが、遊び心あるデザイン物も差し込まれている。国内外で人気だが卸先は限られ、ECサイトも持たない「SUNSEA(サンシー)」の取り扱いがある数少ないセレクトショップでもある。
こだわりのシャツ、オリジナルのデニムなど作り込んだアイテムが充実
シャツへのこだわりは売り場のラインナップから察せられるが、キーライム トーキョー限定アイテムも揃える。関さんが18年から展開しているシャツブランド「S H(エスエイチ)」だ。卸もしていたが、出店を機にキーライム トーキョーのみの取り扱いに切り替えた。「フランスから見たアメリカ」をテーマに、アメリカを代表する様々な服をベースとしてフランスのエレガンスを加えているのが特徴だ。スタンダードな定番シャツはもちろん、ワークジャケットなど服種の領域を越えて全てシャツ生地で製作し、新しい解釈でシャツの可能性を広げるブランドと位置づけている。
フライトジャケットをシャツ生地で再構築した「Flight Shirt(フライトシャツ)」は、オリジナルの変形オックスフォード生地をベースに、象徴的なマチ付きポケットを大胆に配し、フロントジップをボタンの比翼に変更することでシャツ仕様に。墨で製品染めを施した趣きのある一着だ。ウール・シルク混紡のオリジナル生地によるレギュラーカラーシャツのアーカイブを製品染めによって深みのあるブラックに再構築した、「Wool/Silk Regular Collar Shirt(ウール/シルク レギュラーカラーシャツ)」も魅力だ。
シャツやカットソーに関しては基本的に、店頭に出す前に洗いをかけているという。「関自身が洗いざらしで楽に着られ、カッコつけないシャツスタイルが好きなんですね。また、洗ったときにどういう状態になるのかをお客様に伝える意味でも、洗いをかけることは大切な工程と捉えています。そこまでの安心感を提案できる店でありたい」。
キーライムのオリジナルも注目だ。第1弾として発表したのはデニムパンツ。60年代のテーパードデニムのシルエットと同年代の「巻き縫い」のディテールを掛け合わせたモデルだ。整理加工を施していない生機の12ozブラックデニムを使い、あえて毛羽焼きをせず、縫製後に洗いをかけることで捩れを生み、ビンテージライクな風合いのデニムパンツに仕上げた。「ウエストにドローコードを入れているので、ベルト要らずで穿けます。穿き込むほどに産毛が抜けたり、寝たりしてウールっぽくなったり。変化を楽しみながら、軽快な印象で穿いていただける」。ワンウォッシュしているので、買ってすぐに穿き始められるのも嬉しい。ドローコードとペーパーパッチはライムグリーンでポップなアクセントを添えた。
第2弾では同じ生地でペインターパンツを製作。実用的なスケールポケットや大ぶりのバックポケットは踏襲し、膝部分の生地を二重にてボリュームを持たせることで12ozの軽さでありながら重厚な印象を残す絶妙なバランスを実現した。バックポケットのピスネームがさりげなく覗くのもおしゃれ。第3弾ではパンツと同素材のジャケットを製作し、セットアップでデニムスタイルを楽しめるように。左右の身頃はフロント中央のスナップボタンひとつで留める仕様にし、ステッチも生地と同色で統一。生機の素材感や風合いを主役にしたミニマルなデザインだ。ジャケットやパンツと同じブラックデニムを使った手持ち・肩掛けの2WAYバッグもお薦めの一品。
小物も粒選り。エジプト産のギザコットンを使い、甘撚りした糸をリブ編みした奈良県産のソックスは密かな人気オリジナルアイテム。程よいフィット感でオールシーズン履け、今季は11色とカラーバリエーションも豊富だ。9足を選べるギフトボックスも提案する。
アイウェアの「HÉLÈVE(エレーヴ)」は、今後注目の新進ブランド。デザイナーと関さんが出会ったのは大阪駅のホームで、デザイナーから関さんに声をかけたのだとか。その後、ファーストサンプルを店に持ち込み、自分がブランドを立ち上げたら商品を置いてほしいとアプローチ。25年春のエレーヴのローンチに合わせ、キーライム トーキョーでの取り扱いを始めるや「人気になった」。今季は、50年代のラウンドフレームをベースに、フレームの研磨を重ね、鋲飾りなど細部に至る調整と仕上げにより現代的に再構築した「C. Roussaux(シー ルソー)」などをセレクトしている。
時計は日本の時計ブランド「VAGUE WATCH Co.(ヴァーグ ウォッチ カンパニー)」に別注したキーライム仕様。自動巻きの定番モデル「Every-One Date(エブリワン デイト)」をベースに、文字盤はグリーンに変更し、キーライムのロゴは鮮やかなライムグリーンに。インデックスは12時位置のみを残し、針や日付の小窓はゴールドで引き締めた。ボディとベルトはステンレス仕様をデフォルトとし、レザーベルトが付属。別売りで洗えるナイロン製のベルトも提案する。
この他、店内ではブランドやアイテムに焦点を当てたポップアップイベントも開催する。直近ではカシミヤニットのポップアップを開き、専業ブランド「Cashada.(カシャーダ)」のクルーネックセーターに絞り込んで提案。着心地の良さはもとより、カラーバリエーションも豊富、内モンゴルで採れたカシミヤを近郊の工場で製品化することで価格もリーズナブルと好評を集めた。
10月24~26日には、デザイナーの藤内裕司さんが展開するファッションブランド「TOHNAI(トーナイ)」のポップアップを開催予定。藤内さんは「Y’s for living(ワイズ フォー リビング)」や「MARGARET HOWELL(マーガレットハウエル)」など様々なブランドで商品企画やデザイン、素材開発などに携わり、22年秋冬シーズンに生地の可能性を探求する自身のブランドを立ち上げた。その感性や知見を注いで作り上げたファーストコレクションの「フーデッドコート」は、いまだ服好きにファンが多い。関さんも大好きなアイテムであることから、このコートに絞り込んだオーダー会をキーライム トーキョーの出店以来、毎年行ってきた。「藤内さんが全国の機屋や生地屋を巡り、厳選した生地からお客様に選んでいただき、フーデッドコートを誂えます。納品は12月下旬と、お渡しするまでの期間が短いことも魅力の一つ」と久保さん。このオーダーイベントを目掛けて遠方から来店するケースもあるという。
こだわりの強いブランドを集積するキーライム トーキョー。しかし、「このアイテムがうちには無いからとか、売れている商品だからとか、穴埋め的な理由で買い付けることはない」という。「私たちがお客様に薦めたい理由が無いものは扱わない。バイイングは関が担っていますが、何をセレクトしないかということも軸として大切にしています」。取り扱う理由が鮮明なブランドの一品一品が、キーライムらしいベーシックスタイルを支えている。
写真/遠藤純、キーライム トーキョー提供
取材・文/久保雅裕
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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。