大人っぽく着られ、カジュアルになり過ぎず、買いやすい価格
「MAQWEL(マクウェル)」とは、ディレクターの恵沙織さんによる造語。MAは「manish」、Qは「quest」、WELは「wellbeing」や「well dressed」を表す。恵さん自身がジャケットやスラックス、シャツを使ったメンズライクなスタイルにフェミニンなフォルムや素材感などを融合させるスタイリングを得意とし、インスタグラムでは10万人を超えるフォロワーに支持されてきた。自身の名前の頭文字「M」から始まるブランド名を意図し、マニッシュを意味するMAと重ね、「力強さとしなやかさを併せ持つ現代女性が、自分を探求し続け、良い方向へと進んでいくイメージ」を表現した。読みやすさ、記憶に残りやすさなども意識し、造語でありながら既視感と実在感を備えたワードへと昇華させた。
恵さんは2016年にノーリーズに入社。主力ブランド「ノーリーズ」から派生した「ノーリーズソフィ」で4年間にわたり販売スタッフを務め、コロナ禍のウェブ強化に伴い本部のEC部門に加わった。マクウェルの立ち上げはノーリーズが年に一度行う社内公募がきっかけだったが、応募時点では「ブランド名も無かった」という。「服飾学校で学んだわけでもなく、入社後も商品開発に携わった経験さえありませんでした。ただ、お洋服が好きで、自分が着たいお洋服を作りたかった。私は30代で、4歳の子供がいます。リアルな30代女性が『等身大』で着たいと思う服を提案するブランドを作りたくて、手を挙げました」と話す。その思いが叶い、2025年春夏シーズンにマクウェルをスタートさせた。「インスタグラムのフォロワーがたくさんいたことも後押しになったと思います。また、ノーリーズは創業45年。長く続いている会社だからこそ、新しい風を起こすためにチャンスを与えてくれた」。
ノーリーズはトラッドをベースにトレンドを程よく取り入れたニューベーシックスタイル、ノーリーズソフィは洗練されたアーバンスタイルを提案し、共にオンシーンにも着られるきれいめなテイストを特徴とする。社内には他にもウィメンズブランドがある中で、マクウェルはマニッシュスタイルをベースに、デザインはあくまでベーシックで多様なシーンに着回せ、「難しいテクニックを使わなくても、着るだけで自分らしいスタイルが決まる。大人っぽく着られ、カジュアルになり過ぎないブランド」を目指した。商品のクオリティーと同様にマクウェルで重視したのは価格だ。「安っぽく見えてはいけないので難しいところですが、ノーリーズよりも少し抑えた価格は当初から意識」し、トップスは8000~1万3000円、ボトムス1万~1万4000円、アウター1万5000~2万9000円など買い求めやすい価格帯を中心に据えた。販路はECに特化して25年4月にローンチし、月に数品番のペースで新作をリリース。恵さん自身もSNSでスタイリングを提案し、20代後半~30代の女性を中心に、既存ブランドとは異なる客層にもリーチして共感を広げた。
本格的にコレクションを展開したのは26年春夏シーズンのこと。このタイミングから、今年3月19日には初の直営店を阪急西宮ガーデンズ、半年後の9月17日には同日に開業した自由が丘ミューズスクエアに2店舗目を出店した。いずれも注目の商業施設だけに、新進ブランドだがノーリーズの期待が窺える。「お客様が購入してくださるのはもちろんうれしい。加えて、社内の他ブランドのスタッフがマクウェルの服を買い求めることも多く、私のエネルギーになっています」と恵さんは話す。
今秋冬は「No.17 SIDEWALK HOUSE」をテーマに新作が続々
自由が丘店はミューズスクエアの2階に立地し、店舗面積は西宮ガーデンズ店より広く約100㎡。ノーリーズの売り場がトラッド、ノーリーズソフィが透明感を基調とした空間なのに対して、マクウェルは壁面やレジカウンターにホワイトとグリーンなどのカラータイル、シンプルなフォルムの什器にダークブラウンのウッドを取り入れ、ミッドセンチュリーの空気感を醸し出す。自由が丘店は間口が広く奥行きのある空間を生かし、視界と動線にゆとりを持たせ、回遊性を高めた。オープニングを飾ったのは、今季のテーマ「No.17 SIDEWALK HOUSE(ナンバーセブンティーン サイドウォークハウス)」のコレクションだ。
「サイドウォークハウスという架空のアパートメントの17号室に暮らす一人の女性のクローゼットをイメージしたコレクション」と恵さん。「一人の女性の中にも、カジュアルに過ごしたい気持ちの日もあれば、きれいめに決めたい日もあり、どちらもミックスしたい日もあったりします。そのライフスタイルや気持ちに沿って服を作り、スタイリングを組み立てました」。ルックは一人のモデルで複数のスタイリングを撮影し、女性の生活の一部を切り取った。スタイリングごとにパネルも作製し、売り場に掲示することでコレクションの魅力を分かりやすいビジュアルで発信している。
テーマをストレートに表現したのはスウェットのトップスやパンツ、ロングスリーブTシャツ。フロント胸部にフロッキー加工で上質感を出したROOM No.17のロゴ、バックにアパートメントのグラフィックをプリントした。テーマの英字ロゴを刺繍したローキャップも揃える。
ファーストコレクションで発表した「ウォッシャブルオックスシャツ」は、すでに定番。コットン・ポリエステル混のオックス生地を使い、1枚でも羽織りものとしてレイヤードスタイルも決まり、パンツにもスカートにも合わせやすいオーバーシルエットに仕上げた。袖口裏にはブランドロゴの刺繍を入れ、アクセントに。シャツのカラーによって刺繍のカラーも変えている。シャツでは、「スタンドカラーチェックシャツ」もお薦めだ。普通のシャツとしてはもちろん、襟に付属するタブでスタンドネックにしても着用できる2WAY仕様。ジャケットなどのインナーに、また前を開ければ羽織りとしても活躍する。同柄・同素材のパンツとのセットアップスタイルも提案している。
特に自由が丘店で人気なのは「ナイロンジップブルゾン」。スタンドネックで首回りをすっきりと見せ、程よくスポーティーなデザインの中にゴールドのファスナーを配置することでさりげなく女性らしさをプラスした。ギャザー仕様の袖口はたくし上げやすく、裾のドローコードでシルエットを変えられる。「装飾や加工を極力抑える一方、フォルムにこだわることで、カジュアルになり過ぎず、大人っぽく着こなせる」ことを重視した。同素材のバルーンスカートとのセットアップを含め、マクウェルを知らなかった客層も惹き付けている。
恵さんはこの日、ナイロンジップブルゾンにジャケットとタイトスカートのコーディネートで現れた。「オーバージャケットコート」は、非ウールながら上質なウールのような生地を使った、オーバーシルエットでミドル丈のテーラードジャケット。薄手の肩パッドを入れることでショルダーラインをキープし、総裏仕様なので着脱もスムーズで、防寒性にも優れる。「ウォッシャブルダンボールミニスカート」はダンボールニットを使用。「ハリ感がありながらストレッチ性も効いた素材」と恵さん。ウエストゴム仕様で着用しやすく、内側のドローコードでサイズ調整もできる。シワになりにくく、イージーケアなのもうれしい。
今春発表して人気を呼んだ「スタンドネックコーチジャケット」は、新色のベージュを加えて今秋も継続。表地はハリがあり風を通しにくいナイロン製で、裏地付き。ゆったりとした身頃は、中に着込んでもシルエットを維持し、防寒性もしっかりと確保する。スタンドネックは、立てれば首元まで包み込みトレンド感のある着こなしに、寝かせれば洗練されたスタイルへと変化する。裾のドローコードでシルエットを、袖口は2つのスナップボタンでフィット感を調整できる。「あえて中綿を入れないことでロングシーズン、様々なシーンに着用でき、撥水機能があり、手洗いも可能な点も好評」な一着だ。
ポンチョタイプのトップスもマクウェルらしい。「ポンチョシャツ」は、裾がテントのように広がるルーズシルエット、ヒップラインを自然にカバーする長めの着丈が特徴。着るだけでドレープが生まれ、リラックス感を演出する。チェック柄と無地4色を展開する。「発売当初から人気で、特にチェックは追加が相次いだ」と恵さん。「最近人気が戻りつつある細身のパンツとも合わせやすいアイテム」だ。「Vネックニットポンチョ」は、カットソー感覚で気軽に重ね着ができ、手持ちのトップスやボトムスと合わせるだけでコーディネートが決まる。首元をすっきりと見せるVネックラインは、角度を45度ずらせばアシンメトリーデザインの大人スタイルも楽しめる。「ウォッシャブルオックスシャツと合わせたときのバランスを考えて設計したので、セットで購入するお客様も多い」。
ボトムスは今季、大きなデザインポケットが印象的な「ワークワイドパンツ」、立体感のあるシルエットでカジュアルにもきれいめにも着こなせる「タックコクーンパンツ」、フロントのデザインが特徴的なAラインロング丈の「ドロストタックスカート」など、カジュアルに大人の品をプラスしたアイテムが揃う。「今季は羽織りものを強化してコーディネート性を高めている中で、シャツやポンチョ、コーチジャケットなどはリピート購入するお客様がかなりいます。そうしたアイテムとのコーディネートのバリエーションとして、またブランドの世界観を構成するアイテムとして、今後はパンツの定番を作っていきたい」と話す。
実店舗だからこその体験を重視し、「良い思い出と一緒に在る服」を提案
実店舗では国内外からセレクトしたアイテムも揃え、シーズンコレクションとのコーディネートを補完しつつ、オンラインとは差別化されたMDを構成する。「upper hights(アッパーハイツ)」のジーンズや「ARTESANOS(アルテサノス)」や「MOHI(モヒ)などの革靴やスニーカー、新興ブランド「SHUU(シュウ)」のジュエリーなどを取り扱う。「こういうものがあるならお店に行きたいと私自身が思えるアイテムを仕入れている」と恵さん。今春からは韓国の市場での買い付けを定期的に行い、店舗限定のオリジナルアイテムとして雑貨の充実を進めている。コンパクトサイズのナイロン製バッグやストラップなどがあり、ブランドの世界観へのもう一つの「入り口」となっている。
また、マクウェルでは、シーズンアイテムの予約をオンラインストアで受け、その反応に応じて生産量を調整している。この仕組みを実店舗にも連動させ、春夏・秋冬の各シーズンが立ち上がる直前には、新作コレクションのサンプルによる先行予約会「MAQWEL EXHIBITION(マクウェル エキシビション)」を開催する。SNSで情報発信し、「来店したお客様に予約を付けていただく」。来店客はそのシーズンのコレクションの傾向が感じ取れ、「このアイテムは誰よりも先に自分が見つけた」「私が予約したアイテムがもう完売になっている」など、発見やサプライズ、喜びの体験につながっていく。「服作りをしている私たちにとってはお客様と直接触れ合い、様々な感想を伺える機会。お客様にとっても、私たちにとっても、エキシビションはすごく良い時間になっている」と恵さんは話す。シーズン中にはオンラインで予約の多いアイテムからのセレクションによるプレオーダー会も実施し、入荷前に店舗で試着でき、フリー客も予約できる機会を提供している。服のクオリティーはもちろん大切だが、マクウェルが重視しているのは「良い思い出と一緒に在る服」だ。その起点となる場として実店舗があり、そこでの買い物体験がある。
ブランドとしては4シーズン目、「マクウェルを立ち上げ、実店舗も出店して、ノーリーズやノーリーズソフィが広く認知されているのは長くブランドを持続させてきたからこそで、それは大きな力なのだと強く実感しました。マクウェルはまだまだ、より多くの人たちに知っていただくことが目標」と恵さん。現在展開している自由が丘店と西宮ガーデンズ店は生活圏にあり、地域密着型の施設だ。「地元や近隣に暮らす人たちの来館・来店が多く、それだけにブランドデビュー時からウェブやSNSで発信し続けてきたことは強みだと思うんですね。発信を続けることで、自由が丘店であれば、マクウェルがあるから自由が丘に出掛けよう、ミューズスクエアに行こうという人たちを増やしたい。その輪が広がってコミュニティーができてくるようなブランドを目指しています」と展望する。
写真/遠藤純、ノーリーズ提供
取材・文/久保雅裕

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。