ブランドのDNAを発信するファサードのブランドカラー
ケイト・スペード ニューヨーク」は、アメリカのファッション誌でアクセサリー分野のエディターとしてキャリアを積んだケイト・スペードが1993年、夫や友人たちと共にスタートさせたハンドバッグブランドが始まり。鮮やかなカラー使い、シンプルなデザインとディテールへのこだわりが生み出す洗練されたスタイルを特徴とし、実用的で耐久性も備えたそのハンドバッグは幅広い世代にファンを獲得した。その後、バッグのバリエーションを増やす一方、ライフスタイルに対応してアパレルやジュエリー、シューズ、フレグランス、アイウェアなどへと領域を拡大。店舗もグローバルに展開し、トータルファッションブランド、さらにライフスタイルブランドとして成長を遂げた。日本には96年に上陸し、旗艦店として2014年に誕生したのが銀座店だ。3層からなる店舗の品揃えはアジア最大規模。ケイト・スペード ニューヨークが初めて海外に出店した旗艦店だった。
10年が経ってのリニューアルは、ブランドのこれからを共に歩む若い世代を含め、より客層を広げ、より多様なファン作りを目指す新たなブランディング戦略に沿ったもの。実現へ向けて、「ブランドの世界観を体現する旗艦店の空間デザインや商品の見せ方を一新し、百貨店などに展開している店舗にも波及させていく」と、日本でケイト・スペード ニューヨークを運営するタペストリー・ジャパンのリーテイルクリエイティブサービス部VMDシニアマネジャー小林文吾さんは話す。

象徴的なのはファサード。ボウを象った格子が建物の正面全体を覆う構造は生かし、カラーを白にゴールドからケイト・スペード グリーン1色へと刷新することで、フレッシュでインパクトのある外観を出現させた。エネルギーと新鮮さを感じさせるグリーンは創業時から大切に扱ってきた、ブランドのDNAともいえるカラー。ケイト・スペード ニューヨークのヘリテージであり、未来に向けたスタートの象徴としてグリーンに着目し、ブランド設立30周年を迎えた23年2月、世界的な色見本帳メーカーPANTONE(パントン)社と共同開発した「ケイト・スペード グリーン」を新たなブランドカラーとしてローンチした。銀座店はこのグリーンを目にすることから、一人ひとりにとってのケイト・スペード ニューヨークでのショッピング体験が始まる。


ニューヨークのアップタウンとダウンタウンの要素を融合
新たな銀座店はそれまでと同じ3層を使い、売り場総面積は約260㎡。内装はブランドのコアカラーであるケイト・スペード グリーン、ブラック、クリームを基調に、ブランドが誕生したニューヨークのアップタウンとダウンタウンの要素をミックスし、アーバンな華やかさと閑静なレジデンスのムードを共存させた。モノクロのダイヤ柄の床やケイト・スペード グリーンを取り入れたラグ、フィッティングルームの真っ赤なカーテンなどがクラシカルモダンな空間を演出し、本国のクリエイティブチームがセレクトしたアート作品も随所に飾られ、アパートメントの部屋のような心地良い空気感を醸し出している。
特に印象的なのは、1階のエントランスに配置されたケイト・スペード グリーンのグランドピアノ。このピアノは世界の旗艦店のみに置かれ、銀座店では「ダウンタウンのジャズバーのような雰囲気とアップタウンのレジデンシャルな雰囲気が交わる象徴的なインテリア」だ。平時はシーズンコレクションからピックアップしたアイテムのディスプレイに用い、店内イベントの開催時にはライブ演奏にも使用する。オープニングレセプションではポップスピアニストのハラミちゃんがライブを行い、招待客のリクエストに応える即興演奏で盛り上げた。
この店舗空間で展開されるのは、改装前と同様、アジア最大規模の品揃え。シーズンコレクションはフルラインナップを集積する。1階ではバッグの新作をメインに、アパレルのシーズナルコレクション、フレグランスやアイウェアなども扱う。「特にハンドバックはブランドの主軸のアイテムであり、グローバルでさらなる強化を進めています。ケイト・スペードといえばコレというコアバッグを育てながら、認知を広げていきたい」と小林さん。ブランドの本質をしっかりと伝えていくため、「売り場は明るく、什器の色も主張しないトーンを選び、商品が主役になることを第一に考えた」という。
1点1点をしっかりと見せる「商品が主役」のディスプレイ
1階フロアでは新作ウェアとバッグのコーディネートも提案
ジュエリーやフレグランスなども揃う
今シーズン、強くプッシュしているのは、24年秋コレクションで新たなコアスタイルとして発表したハンドバッググループ「Deco(デコ)」。ミニマルで彫刻的なデザイン、ブランドのイニシャルである「K」を幾何学的にデザインした留め具が特徴で、レザーやスエード、ツイードを使い、ブランド独自のカラーパレットで表現している。ファーストコレクションでは、ハンドバッグはラージショルダー、ミディアムクロスボディトート、サッチェル、チェーンショルダー、ミニフラップ チェーンクロスボディの5スタイルを揃えた。いずれもデイリーなお出掛けから特別なオケージョンまで、シーンに応じてスタイリングできることから、銀座店のオープン以来、トップセラーを続けている。25年春コレクションでは新色や型抜きなど新たなデザインも登場予定だ。
スムースレザーに縦のキルティングをあしらった「デコ キルテッド チェーン ショルダー バッグ」
写真左から「デコ キルテッド チェーン ショルダー バッグ」、「デコ カラーブロック チェーン ショルダー バッグ」、「デコ チェーン ショルダー バッグ」
写真左から「デコ キルテッド チェーン ショルダー バッグ」、「デコ カラーブロック チェーン ショルダー バッグ」、「デコ チェーン ショルダー バッグ」
2階では、中央部にソファも備えたシューズサロンを設け、アパレルコレクション、ハンドバッグの定番モデルや銀座店限定アイテムも展開する。通勤においてもスニーカースタイルが定着する中で、ケイト・スペード ニューヨークでも人気のスニーカーと春夏に向けたサンダルの強化を戦略に据え、今春からプロモーションを本格化する。「たくさんのモデルを企画するのではなく、絞り込んだモデルのカラーバリエーションを充実」させ、ハンドバッグと共に提案していく。すでに新定番として人気なのは「K アズ イン ケイト スニーカー」。メッシュのトリミング入りのレザーに象徴的なKロゴをあしらったスポーティーでクラシカルな一足だ。カジュアルな装いはもとより、フェミニンなスタイリングにも品良くマッチする。
ラグとカーテンが印象的な2階フロア。取材時はバレンタインコレクションを提案
2階フロアの中央にはシューズサロン。写真は「シグネチャースニーカー」
今春夏はサンダルにも力を入れる。写真は存在感のあるボウをあしらった「ルー ブリージー ドット スリングバック パンプス」と「ルー ブリージー ドット サンダル」
リニューアルオープンを記念して発売された銀座店限定の「NY CITY カプセルコレクション」は、ニューヨークにインスピレーションを得た遊び心溢れるアイテムが揃う。カットしたピザの形をしたクロスボディバッグは、ビーズやスパンコールを散りばめ、装飾を効かせた一品。ホールピザの箱をイメージしたハンドバッグもあり、「KATE SPADE PIZZERIA」のプリントもユニークだ。NYCのアイコン「イエローキャブ」をモチーフにしたトートバッグやフラットシューズは、タクシーのダウンタウンなイメージを捉えながらケイト・スペードらしいエレガンスに収斂した。
銀座店で先行発売した「ハローキティ」との限定カプセルコレクションも話題を呼んだ。銀座店のリニューアルオープンとハローキティの生誕50周年を記念したもの。バッグやスモールレザーグッズ、アパレル、ジュエリー、スマートフォンケースなど多様なアイテムを展開し、販売初日から人気を博した。


銀座店ならではのギフト提案、イベントも開催
3階は、1階・2階よりも照度をグッと下げ、ニューヨークのアパートメントの一室のようなムードを色濃く演出している。階段を昇って3階フロアに着くと、バーカウンターを備えた待合室のようなスペースがあり、寛ぐことができる。このスペースに続くのは、扉を開けて入るちょっと特別な空間。シーズナルなギフトをパーソナルなラッピングサービスと共に提供するギフティングルームだ。歳時や季節性に合わせてテーマを設定し、品揃えしたプロダクトを提案していく。例えば、1月下旬からは「バレンタイン」、3月には「新生活」、春から夏に向けてはフレグランスやサングラスなど、ほぼ毎月、テーマに応じてフォーカスする商品が入れ替わる。「ラッピングペーパーやリボンも様々な種類のものを用意し、お客様がチョイスして組み合わせることができるようにしています。スタッフによるパーソナルな接客とサービスによって、ギフトといえばケイト・スペードを思い浮かべていただけるようにしていきたい」という。
ケイト・スペード グリーンのソファで寛げる3階フロア
バーカウンターも設置
ギフティングルームでは、2月にはバレンタインデーをテーマにギフト提案
銀座旗艦店ではインストアイベントも開催する考えだ。直近では「国際女性デー」(3月8日)に合わせ、国連が設定した25年のテーマ「すべての女性と少女のために:権利、平等、エンパワーメントを」に基づき、専門家を招いたトークセッションと学生を招いたワークショップを3月1日に実施する。
ケイト・スペード ニューヨークは「Joy Colors Life(喜びが人生を彩る)」をブランドパーパスとして、メンタルヘルスを軸に女性をエンパワーするソーシャルインパクト活動を13年から継続している。内戦で荒廃したアフリカ・ルワンダのコミュニティーの再生と発展を支援するため、現地の女性職人たちとのパートナーシップ醸成により営利目的の社会的企業を設立し、ハンドメイドによる「On Purpose(オン・パーパス)」コレクションを製造しているのもその一環。メンタルヘルスを起点としたエンパワーメントの取り組みも含め、3階フロアでは独自のイベントを企画していく考えだ。

リニューアル以降は、「20代半ばから30代半ばのお客様が以前よりも多く来店し、『デコ』や銀座店限定のバッグを買い求めるケースが増えた」。銀座エリアらしく訪日外国人客の来店もかなりあり、リニューアルによって新規客の獲得が促進されている。「ケイト・スペード ニューヨークは進化の真っ最中。その『今』を世界観として体現し、『未来』を体感していただける場として銀座店はあります。進化の過程をお客様と一緒に楽しんでいける店にしていきたい」としている。
写真/野﨑慧司、タペストリー・ジャパン提供
取材・文/久保雅裕
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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。