コンパクトな空間でハウスブランドを軸にセレクトをアソート
「エストネーション」は2001年にサザビー(現サザビーリーグ)が大人のためのスペシャリティーストアとして立ち上げ、国内外でセレクト・発掘したブランドやオリジナルブランドのウェアをはじめ、アクセサリーや雑貨、インテリア、コスメなどライフスタイルを網羅したラインナップを展開する。セレクトショップとしては後発だが、高感度・高品質なアイテムの幅広く深い品揃えとパーソナルな接客によるスタイル提案で20~40代の働く男性・女性を中心とするファンを獲得してきた。24年4月にはサザビーリーグの持ち株会社への移行に伴い、エストネーションの事業は新規法人として設立された株式会社エストネーションが引き継いだ。新体制のエストネーションが中長期の成長戦略で目指すのは「既存事業の収益性の確立」と「新規事業開発による収益力の強化」。その一環として新規事業開発部を新設し、新業態として開発されたのが「アッセンブル エストネーション」だ。

「assemble(アッセンブル)」は「集める」「組み立てる」の意。エストネーションが20余年にわたり追求してきた「The Essence of Luxury」を集め、培ってきた「編集提案力」によって新たなラグジュアリーへと収斂させていくことが、アッセンブル エストネーションの役割となる。業態開発に至ったのは、百貨店や商業施設のディベロッパーからの声がきっかけだった。「エストネーションが取り扱うブランドやアイテムの、この部分だけを切り取って売り場を作ってほしい」「このブランドと他のブランドを組み合わせた店はできないか」といった要望を多く受けていた。
「幅広いラインナップを展開してきたからこそ期待していただけたのだと思う。商業施設が集客や館内での買い回りなど様々な課題を抱える中で、その解決へ向けてエストネーションの提案の幅を生かしていきたい」と新規事業開発部の畠中智哉部長。1000㎡、2000㎡を超える大型店舗で品揃えの幅と奥行きを表現してきたが、アッセンブル エストネーションでは約100㎡までのコンパクトな空間で、立地条件や客層に応じたテーマ設定によりMDを編集し、オリジナルの可動式什器で見せ方も自在に変えていく。

もう一つの特徴は、母体のエストネーションがセレクトを軸とした品揃えなのに対して、アッセンブル エストネーションはハウスブランドを軸にセレクトアイテムをアソートしている点だ。「百貨店でハウスブランドのポップアップストアを展開したときにお客様との親和性を感じ、館が抱える課題に対してエストネーションにできることがあると感じたのが、アッセンブル エストネーションの出発点」と畠中さんは話す。
エストネーションはデビュー時からオリジナルアイテムに力を入れ、ラグジュアリーの本質を体現する「ESSENCEOFLUXURY(エッセンスオブラグジュアリー)」、ベーシックアイテムを追求する「THE COLUMN(コラム)」、メンズウェアの「onegravity(ワングラビティ)」、大人のためのきれいめなデニムスタイルを提案する「Nails(ネイル)」、ジェンダーニュートラルなダウンウェアの「PaDD(パッド)」など、ブランドを拡充している。今年1月には社会で活躍するエグゼクティブな女性に向けたコレクション「ESTNATION THE FIRST(エストネーション ザ ファースト)」をローンチした。「個性をしっかりと打ち出すと共に、ハウスブランドを育てていく場」としても、アッセンブル エストネーションを生かしていく考えだ。


ギンザ シックス店は「モダンガール」のテーマをMD化
アッセンブル エストネーションは百貨店や都市部のSCでのポップアップストアで実績を積み、単独出店をスタートさせた。4月12日に出店したギンザ シックス店は、白を基調に明るく開放的な印象を与える。正面のエントランス左側に木で設えた空間は、試着室を備えたウインドー兼VIPルーム。試着室は同素材の木を用いて店奥にも設置され、高級感とホスピタリティーを生んでいる。売り場中央に店のテーマを言葉で表現したボードを配しているのも特徴的だ。「シーズンのキービジュアルやルックで店内を演出するのが一般的ですが、お客様の記憶に残してもらえる店にしたいと文字で店の在り方を表現した」という。


ギンザ シックス店のテーマは「モダンガール」。1920年代の銀座で起こり浸透したカルチャーをキーワードに、アッセンブル エストネーションとして伝えていくライフスタイルを「モダンガールの心得」として打ち出した。「白シャツをこよなく愛している」「引き算メイクには自信がある」「次の旅行先はまだ行ったことのない場所と決めている」「赤いリップは何色か使い分けている」など20の心得が散りばめられ、「アッセンブル エストネーション」の朱い押印がアクセントになったビジュアルだ。「五感を刺激することが店作りのテーマ」と畠中さん。心得のボードや商品、空間、スタッフのスタイリングは視覚、ギンザ シックス店のために制作したBGMは聴覚に通じる。コンセプトに沿って調香師がセレクトしたフレグランス(非売品)もそこはかとなく香らせ、嗅覚を通じてギンザ シックス店のイメージを伝え、心地良い緊張感のある買い物体験へ誘う。

MDは館のニーズを踏まえ、エストネーションが重視する「Society(社会性)」「Sensitivity(高感度)」「Specialty(専門性)」を軸に、ウィメンズのウェアを中心にバッグやシューズ、サングラス、ジュエリーなどのスタイリングアイテムで構成した。
ウェアは、銀座エリアの立地特性や客層からハウスブランドを高感度と社会性の2軸で据え、セレクトは英国のファッションブランド「VICTORIA BECKHAM(ヴィクトリアベッカム)」などを展開する。高感度の観点で揃えたのは、エストネーションのプレシャスラインである「ESSENCEOFLUXURY(エッセンスオブラグジュアリー)」。生地、パターン、縫製の全てにこだわり、ラグジュアリーの本質を追求したタイムレスでクリーンなスタイル、着用時のシルエットの美しさと着心地の良さが信条のコレクションだ。社会性の観点からは「ESTNATION THE FIRST(エストネーション ザ ファースト)」のアイテムを店奥に設けたVIPなスペースで提案する。価格帯は両ブランドともインポートのラグジュアリーブランドとドメスティックブランドの中間に当たるブリッジゾーンを軸にしているのも特徴だ。

エッセンスオブラグジュアリーでは、「ヘビーチェーン リブニットタンクトップ」が動いている。エジプト綿をシルケット加工したシルクのような光沢感とハリ・コシを備えたリブニットで、ネックラインに配したチェーンは存在感がありながら軽量かつ個性が光る。暑い夏にも1枚でスタイリングが完成し、アクセサリー要らずなのも受けている。くるぶしが出る短めの丈と大胆なフレアラインが特徴の定番アイテム「ストレッチフレアパンツ」とのセットアップが好評だ。「プリント ドレス」は全体に施した細かなプリーツと大胆なアートプリントが目を惹くモダンでゴージャスな一着。肩の共ベルトとゴールドパーツで着丈を調節できる。同素材・同柄のワイドパンツも魅力。
「ヘビーチェーン リブニットタンクトップ」と「ストレッチフレアパンツ」
「プリント ドレス」
「プリント ワイドパンツ」
エストネーション ザ ファーストの人気アイテムは、ケープスリーブのデザインがエレガントな「ケープジャケット」。トリアセテート混のポリエステル糸を二重織りした生地は光沢とドレープ感を備え、ストレッチ性に富む。白と黒の2色を展開し、ギンザ シックス店ではブランドがイメージする凛とした女性像を表現した濁りの無いホワイトカラーが好評だ。同素材でワイドシルエットの「センターシームパンツ」とのセットアップは、フォーマル過ぎず、女性らしいエレガントな印象を与える。「シアーシャツ」は、ラグジュアリーな光沢感とふんわりとしたシルエットが特徴。オーガンジーシルク糸と極細ポリエステル糸で織った生地はドライタッチで心地良く、シワにもなりにくい。同素材の「シアー タイトスカート」と合わせればフェミニンに、パンツと合わせればスタイリッシュに着こなせる。
特別感のある空間で提案する「エストネーション ザ ファースト」
「ケープジャケット」と「センターシームパンツ」
「シアーシャツ」と「シアー タイトスカート」
2店舗目はターミナル立地、アトレ恵比寿に出店
ギンザ シックス店はオープン以降、30~40代を中心にその前後世代も含め幅広い客層を獲得している。エストネーションは01年に1号店を有楽町に出店して以降、銀座でも数年前まで店舗を運営してきただけに顧客の来店も多く、館の顧客層や訪日外国人客なども加わり、好調なスタートを切った。原材料費や物流費などの高騰や為替の変動などでラグジュアリーブランドの値上げが進む中で、「上下で20万円程度のものが手に取りやすいという声がお客様から聞かれる」と、ブリッジゾーンの提案が奏功しているようだ。約1カ月が経過した時点で売上高に占めるインバウンド構成比は40%程度。「欧米やアジア圏など多種多様な国・地域の方々にお買い上げいただいている」という。

今後はシーズンの新作を毎月ドロップする一方、店頭でのポップアップストアやイベントにも取り組む。6月には英国のシューズブランド「PAUL ANDREW(ポールアンドリュー)」にフィーチャーし、「今の女性」の気持ちやライフスタイルに寄り添う洗練されたコレクションを展開。ジュエリーなどのオーダー会や、「モダンガールの心得」につながるレッスン的なイベントも企画していく。

ギンザ シックス店の出店から間もなく、6月下旬にはアトレ恵比寿にアッセンブル エストネーションの出店が計画されている。銀座とは異なるターミナル立地で、エストネーションが初めて出店するエリア。「ハウスブランドの構成を大きく変え、ラグジュアリーだけど気軽に立ち寄れ、気の利いたプロダクトと出会える場を作りたい。『ラグジュアリーなコンビニ』のような空間を構想している」と畠中さん。新業態の新たなモデルも注目だ。
今後も出店については、百貨店やディベロッパーなどの要望や課題に応じて、メンズの単独業態やウィメンズとのミクスチャーなど柔軟に編集していく考え。アッセンブル エストネーションでは「MDはもとより、最重視しているのはコミュニケーション。エストネーションと同様、お客様に寄り添って接客するスタイルは大事にし、スタッフにはお客様の心をしっかりとつかんでもらいたい。人、物、事、器のどれも大事だけれど、人は最初にくる最も大事な要素」としている。

写真/野﨑慧司、エストネーション提供
取材・文/久保雅裕
関連リンク

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。