多様なオケージョンに対応する独自の「ラグジュアリー」
コンセプトはずばり、「ラグジュアリー」。表参道ヒルズの本館2階に立地し、ブランド名がLEDライトで発光するスタッズのようなファサードの未来感と、ウインドー越しに垣間見える壁面に連なるアンティークミシンが醸し出す程よいビンテージ感とのコントラストが印象的だ。シンガーやジョーンズのミシンはかつて実際の服作りに使われていたもので、クラフトマンシップへの敬意を表している。英国の本店ではお馴染みのディスプレイで、日本でミシンをプロップとして使用しているのは表参道ヒルズ店のみ。品揃えは、オールセインツを象徴するレザーなどのカジュアルウェアに加え、フォーマルシーンもカバーするテーラードを充実させているのが特徴だ。静かに並ぶアンティークミシンを見ていると、自然と服の背景にあるストーリーに興味が及ぶ。
「オールセインツでは今、週末のお出掛けなどのカジュアルシーンだけでなく、様々なオケージョンで着てもらえるブランドにしていくため、テーラードを強化しています。現在8店舗(アウトレット店舗を含め12店舗)ある日本で、この戦略を初めて体現したのが表参道ヒルズ店。カジュアルニーズの強い原宿の旗艦店と差別化を図り、表参道ヒルズの客層に求められるプレミアム感を伝えていきたい」とオールセインツ ジャパンのプレスを担当するカレン・タングポさんは話す。
オープニングを飾ったのは、1960年代の英国で一大ムーブメントとなったカウンターカルチャー「TEDS(テッズ)」「MODS(モッズ)」をテーマとした2023年オータムコレクション。テッズは、エドワード7世が好んだ細身のシルエットに長丈のジャケットが特徴の「エドワーディアンルック」を労働者階級の不良少年たちがアレンジしたスタイルだ。髪はリーゼントで固め、ファッションを通じて自己表現とともに前時代への反抗を表明した。エドワードの愛称が「テディ」であることからテディボーイズと呼ばれ、略してテッズとなった。モッズは、テッズより洗練された三つボタンの細身のスーツに厚手のブーツ、軍物のコートが象徴的なスタイルで、髪は前に下ろした。ベスパなどの改造スクーターを愛用し、おしゃれはライフスタイルに及んだ。いずれにも共通するのが、既成概念への反抗、ファッションと音楽や映画などサブカルチャーによる自己表現だ。オールセインツがレザーアイテムを軸としながら表現し、社会に投げかけてきたステートメントでもある。
メンズの23年秋物は、60年代のヒット曲「RUNAWAY」をキーワードに、テッズやモッズのカルチャーを象徴する映画や音楽の要素を服に落とし込み、「休日にスクーターでロンドンから逃避行し、リゾートを楽しんだモッズたちのイメージ」などを表現している。定番のレザーバイカージャケット「ARK(アーク)」は、ビンテージ感のあるクラックレザーとアンダートーンのグレーでツートーンに仕上げた。左胸と背にブランドロゴと「トウキョウ アンダーグラウンド」の文字をプリントした人気シリーズ「UNDERGROUND(アンダーグラウンド)」は、チェックシャツが新登場。バイカージャケットとのコーディネートによりエフォートレスで都会的なバイクスタイルを生む。「GOLDBERG(ゴールドバーグ)」は、トロピカルムードのフラワープリントを施したハワイアンシャツ。華やかさに終始しないスタイリッシュなデザインにテッズ、モッズの精神が感じられる
ウィメンズは、60年代を象徴するファッションアイコンたちからインスピレーションを得たウェアを展開し、アイテムには女性の名前を冠している。「今は知られていない女性の名前もあるけれど、だからこそ語れる背景がある」という。「BAYLA BONDED(バイラ ボンデッド)」は、自らのシグネチャーであるレザージャケットを再解釈し、軽やかでミニマルな半袖スタイルを生み出した。「DREA ANITA(ドレア アニータ)」は、トレンドのアニマル柄を大胆に総柄使いしたドレスで、バイラ ボンデッドのレザージャケットとの組み合わせがフェミニンでありながらクールだ。他にも白地の軽やかなビスコース生地にグレーのフラワープリントを施したドレス「EILA AUDREY(エイラ オードリー)」などが揃う。
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表参道店だけの限定アイテムもシーズンごとに投入する。今季は黒のレザーアイテムに焦点を当てた。ウィメンズは、ウエスト回りのひだで女性らしさを強調した「CASSIE LEA(キャシィ レア)」ラッフルドレス、ワイルドに寄りがちなカーゴパンツを品良くスタイリッシュに仕上げた「HARLYN(ハーリン)」レザーパンツ、フリンジを大胆にあしらった「AISHA(アイシャ)」レザースカート、シンプルなシルエットが美しい「JACKIE(ジャッキー)」レザードレスの4型。メンズはレザージャケット2型で、60年代英国のサブカルチャーを背景としたスエード製の「SOVA(ソヴァ)」ジャケット、レザージャケットの代名詞といえるモデルに技術を凝縮した「PRIMA(プリマ)」ボンバージャケットを提案する。
客目線でこまめに変わる店頭、進化する定番
シーズンコレクションを象徴するのが、店頭のウインドーだ。4タイプのスタイリングをディスプレイし、日本市場では女性客のほうが多いことからウィメンズ3体、メンズ1体で構成している。メンズはテーラードに注力する一方、「カジュアルにもフォーマル寄りのスタイリングでも着られるニットウェアをどんどん投入していく」という。取材時に訴求していたのは、「BERKLEY(バークレイ)」カーディガン。ウール・コットン混の糸を編み上げたニットカーディガンは、インターシャでストライプを大胆に表現し、リラックスした着こなしを演出する。ウィメンズでは、今シーズンのメインカラーであるイエローを挿し色にしたアイテムなどをチョイス。「ウインドーの商品はお客様の反応を見ながら、こまめに変えています。入荷した新作はもちろんのこと、本国のVMD担当に状況を説明し、次は何をクローズアップし、どう見せていくかを決める」とカレンさん。店舗ごとに顧客の感じ方に添って打ち出し商品やそのスタイリングを変えることで「一人ひとりが自分の個性を生かす服と出会う接点を作っている」。
店内ではレザージャケットやシャツなどのカジュアルにテーラードアイテムを組み込み、近隣の旗艦店で人気のデニムはワンピースなどフェミニンなアイテムに絞っている。メンズの「RAIDES(レイデス)」ブレザーは、シングルブレストのスキニーなシルエットにクラシカルなフラップポケットやバックベントが特徴。リサイクルポリエステル・ウール混の表地にリサイクルポリエステルの裏地を合わせ、程よいストレッチ性を持たせた。深みと品を兼ね備えたレッドが懐かしくも新しい。ウィメンズの「BEA CHECK(ベア チェック)」ブレザーは、トラッドなプリンス・オブ・ウェールズチェックを用い、スリムながらゆったりと着こなせる1着に仕上げた。スキニーなトラウザーとのセットアップで洗練されたスタイルを楽しめる。「ALEIDA RONNIE(アレイダ ロニー)」ブレザーは、表地・裏地ともリサイクルポリエステルによる軽量な生地を使い、黒地にイエローで表現したメタリックな抽象柄のプリントが魅力。同シリーズのパンツとのセットアップがクールだ。
進化する定番もオールセインツの大きな魅力だろう。ウィメンズの「CURTIS(カーティス)」は、長らく売れ続けているツー・イン・ワンドレスのシリーズ。スリップドレスとニットトップのセットで、スカート部分は絞り染めを施したプリーツになっているのが特徴だ。RWS (責任あるウール規格)認定のウールによるニットとのセットは、「手持ちのトップスとの組み合わせも楽しめるお得感が購入につながっている」。メンズで好評なのは、桜柄のハワイアンシャツ。きものにインスパイアされ、桜の花を大胆にプリントしたシャツは、90年代のバイカージャケットをベースにしたミニマルなデザインの「CORA(コラ)」レザージャケットとの組み合わせが、「ロック感はあるけれど強過ぎない、ニュートラルな着こなしを楽しめる」と人気だ。
- 「RAIDES(レイデス)」ブレザー
- 「BEA CHECK(ベア チェック)」のスタイリング
- 「ALEIDA RONNIE(アレイダ ロニー)」ブレザー
得意とするレザーを使ったバッグにも注目したい。「CELESTE(セレステ)」クロスボディバッグは牛革製で、クラシカルな四角い形状にバックルの付いたフラップという極々シンプルな作りだが、ストラップは長さの調整はもちろん、外すこともできるので様々な使い方ができる。「HALF MOON(ハーフ ムーン)」バッグは、三日月型のコンパクトなシルエット。柔らかいレザーを使用することで、見た目以上の収納性がある。表地にラムレザー、裏地にコットンを使った「EVALINE EYELET(エヴァライン アイレット)」バッグは、いくつもの鳩目のデザインがユニークだ。ここ数年、ミニバッグがトレンドだが、アイフォーン1台を収納できるロック開閉式の「SALOME(サロメ)」クロスボディバッグは、外出時に必携のアイテムだ。
新規客を増やし、顧客層を厚く
オールセインツの店舗は現在、34カ国に280店舗超あり、店作りは全て本国のクリエイティブチームが担っている。MDはもとより、内装、什器、シーズンビジュアル、BGMなど顧客との接点の全てに及ぶ。ただ、国・地域、立地条件によりニーズやウォンツは異なるため、基本的なMDは同じでも打ち出すアイテムを変えるなどしてファンを作ってきた。グルーバル展開する中で今後、伸ばしていく考えなのがアジア圏だ。すでに韓国や台湾には進出し、今年は中国にも出店を果たした。日本では15年にポップアップストアで初上陸し、翌年以降は直営店の出店を重ね、徐々に認知を広めていった。渋谷に始まり、東京から広島まで、アウトレット店舗も含めて十数店舗を出店。コロナ禍後の現在は実店舗が5店、アウトレット店舗が4店となっている。コロナ禍明けの初めての出店が表参道ヒルズ店で、日本でのブランディングを再構築していくきっかけとなる店舗と位置付けている。表参道ヒルズでは21年からポップアップストアで実験販売を重ね、客層やニーズを把握した上で常設店舗としての出店に至った。
「日本はアジアでのシェア拡大に向け、重要なマーケット。体型・サイズが似ていて、服に対する感覚にも共通点があるからです。例えば背中が大胆に開いたドレスは、欧米では好まれても、アジア圏では難しかったりします。そのため、日本向けにローカライズはしていますが、アジアの全ての国でそれぞれに応じたMDを展開しています」とカレンさん。一方、本国側は日本の市場だけでなく、カルチャーもまた重視している。22年春コレクションでは「LOST IN TOKYO」をテーマに、前述した「トウキョウ アンダーグラウンド」のシャツや「百合や桔梗など日本の花々にインスピレーションを得たドレス、壊れた器を修復する金継ぎにインスパイアされたドレスなどデザインのリソースにもなっている」と話す。
このように位置付ける日本で、カジュアルやフォーマル、ジェンダー、世代などの際(きわ)を超えて、スペシャルなショッピング体験を提供する拠点が表参道ヒルズ店だ。「新しいお客様を増やし、プレミアムなアイテムやサービスを通じて顧客化していきたい」とする。顧客への感謝として全店舗で取り組んでいるのが「V.I.P.プログラム」。会員登録すると買い物ごとにポイントが付与され、会員限定キャンペーンや特典などが受けられる。「新規客を増やし、顧客をしっかりケアしながら、ロイヤルカスタマーの層を厚くしていく」考えだ。
写真/遠藤純、オールセインツ ジャパン提供
取材・文/久保雅裕
久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディターウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。