機能美を生むミニマリズムと環境にポジティブな影響を与える服作り
「アドルフォ・ドミンゲス」は1976年、スペイン・ガリシア地方のオウレンセに創業。テーラード紳士服の専門店としてスタートし、79年に自らのコレクションを立ち上げ、ファッションブランドへと転身した。このときに掲げたのが、「Lasrruga es bella(しわは美しい)」という考え方だった。動くたびに揺れる光と影の美しさを追求し、絶妙なボリューム感とカッティング、厳選された生地によって流れるようなライン、リラックスしたシルエットを生み出す。その革新性は当時のスペインファッション界に衝撃を与えた。85年にはウィメンズコレクションも立ち上げ、パリで発表。ヨーロッパはもとより、アジアや中南米を中心に海外市場へ進出し、グローバルブランドへと成長した。


服作りは初代アドルフォ・ドミンゲスのフィロソフィーを引き継ぎながら、時代と共に進化を遂げてきた。2019年にはブランド内にクリエイティブラボラトリー「Ágora(アゴラ/広場の意)」を設け、シーズンごとのコンセプトに基づき、様々な実験を繰り返しながら機能美を極めたミニマルなデザイン、さらにサステイナビリティーも強く意識した服作りを追求している。「服は肌の一部のようなもので、自分自身を世界に向けて表現する手段と考えています」とアーキテクチャディレクターのAnabel Rúa(アナベル・ルア)氏。「私たちの服には二つの重要な役割があります。一つは見た目を美しく引き立てる美的効果、もう一つは地球環境にポジティブな影響を与えること」と話す。
素材ひとつとっても、環境に配慮されていることを前提に、リネンやコットン、ウール、シルクなど上質な自然由来の素材から、ビスコースやマイクロファイバー、ポリフェザー、ALフェザーなど革新的な素材まで幅広い。それら素材を自在に使い、服はこうあるべきというファッションの定説にとらわれない観点で実験を繰り返し、タイムレスに愛用できる服を生み出し、ブランド特有の洗練されたスタイルを創出している。


一方、29カ国に376店舗を展開する現在も重視しているのが、一人ひとりの顧客に合わせたパーソナライズされた接客サービスだ。作り込んだ服をパーソナルなスタイルへと変換していくには、顧客との対話が欠かせない。それだけに、アドルフォ・ドミンゲスではコミュニケーションの起点となる実店舗の在り方にこだわってきた。
生まれ変わった新宿店のスタートは「RENACER」のコレクション
アドルフォ・ドミンゲスが日本市場に進出したのは80年代後半のこと。40年余りにわたって展開し続けてきただけに、「日本市場はブランドにとって重要な位置を占め、日本のお客様とは特別な関係で結ばれていると感じている」とルア氏。現在、日本の直営店は北海道から九州まで17店舗あり、特に東京を中心とした関東エリア、大阪、神戸に集中して出店している。
直営店を展開した最初期の店舗の一つが新宿店だ。新宿駅東口から程ない好立地の路面店は出店して20年以上が経つ。今回のリニューアルは21年から取り組んでいる新しいショップモデルへの転換の一環。内装には自然素材や、その国・地域にある素材を使うことを推進している。新宿店は地上1階と2階の2フロアが吹き抜け構造で構成され、豊かな自然光を取り込むアトリウムのように開放的な空間。この構造を生かしながら、自然素材の良さを最大限に引き出すことに力を注いだ。栗の木やガラス、天然鉄などの伝統的なマテリアルが融合した空間に、日本の稲田石をイメージさせるグレーの花崗岩のオブジェを配置し、店内に静けさと調和をもたらした。開店に際しては季節性を表現し、2フロアを見渡せるウインドーに桜の花を大胆に配し、明るく華やかな空間を演出した。


オープニングを飾ったのは25年春夏コレクション。スペイン語で「再生」「革新」を意味する「RENACER(レナセール)」をテーマに、従来のデザインに新たなアプローチを加えることで衣服の再創造に挑んだプロダクトが揃う。「アゴラから生まれた10番目のコンセプトコレクション」だ。これからの季節にぴったりの軽やかなリネン素材のアウターやトップ、ボトム、爽やかなリーフ柄のプリントアイテムやニットウェア、定番のプリーツやフリルも健在だ。シンプルだが一枚で華やかな着こなしができるデザインがこのブランドらしい。




また、トレンチコートやニットには自由にアレンジできるショール型のパーツが付いたアイテムもあり、好みや気分に合わせてスタイリングの変化を楽しめる。ストレートシルエットの「ナイロン ショールピース トレンチコート」は、ラペルが上品で、フロントを重ねてボタンで閉じても、開けても、ウエスト部のベルトでスタイルをアレンジできる。右袖に付いたショール型のパーツでさらに着こなしの幅が広がる。フリンジを施したジャカード素材のケープ型ニットや、ライナーを表地とアシンメトリーに重ねた「オーバーレイツートンブレザー」や「オーバーレイトップ」も面白い。
コレクションは環境に配慮された製法や素材使いがベース。農薬や化学肥料を使用せずに栽培されたコットンや、持続可能な方法で管理されている森林で栽培された木や植物に由来するレスポンシブルレーヨンのニットなど、ファッションとサステイナビリティーを両立させたプロダクトを今季も提案していく。




リニューアルオープンを記念した新作のバッグシリーズ「LUNA(ルナ)」も注目。月をイメージした形状をシボ感のあるノン・レザー素材で仕上げた。チューブ型のストラップが付き、手持ちでも肩掛けでもシーンを問わず使用できる。ショルダーバッグやホーボーバッグが揃う。


ブランドのクリエイションの本質を磨き、日本での存在感を強化
「新宿店のリニューアルによって、日本におけるアドルフォ・ドミンゲスの存在感がさらに強化されました。この地でのブランドの成長がこれからも楽しみです」とルア氏。今後は顧客とブランドがより親密な関係を醸成していけるよう、店舗を活用したイベントもシーズンごとに企画し、特別な体験を提供していくという。そのベースとして、日頃からのパーソナライズされた接客に一層力を入れる。
「日本のお客様は長年にわたり、世界でも特にブランドのファンが多い国です。私たちのクリエイションの本質を大切にしてくれ、第二の故郷のように感じています。これからもタイムレスなデザインによってお客様に愛され、長く着続けられる服をお届けしたい。日本におけるブランドの存在感をさらに高めていくことを目指します」としている。

写真/アドルフォ・ドミンゲスジャパン提供
取材・文/久保雅裕
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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。