髙本千晶(たかもと・ちあき)
大学卒業後、某アパレルメーカーにて販売スタッフ・店長を経て2002年よりバイヤーに就任。2021年11月独立。以降、フリーランスとしてバイヤーに携わりながら、ディレクターとして新たな一歩に奮闘中。
生活に役立つファッションや情報を「知恵」として提案する
髙本さんがナノ・ユニバースへ、とても驚きました。その経緯は後で伺うとして、まずはナノ・ユニバースがリブランディングに取り組んだ背景からお話しいただけますか
「私が参画したのはリブランディングが決まってからですが、それまでずっと外からナノ・ユニバースを見てきて、先見の明をもって走り続けてきたセレクトショップという印象を持っていました。オリジナル化やECにも先駆けて取り組み、EC比率は現在、ファッション小売業でかなり高いレベルにあります。でも、50年後も続いているのか。ナノ・ユニバースを継続させていくには、現状のあり方で進むのか、セレクトに原点回帰するのか、新しい答えを探すのか。2021年3月、クリエイティブディレクターに就任した中田浩史さんは、まず全スタッフと面談し、問うたのだそうです。結論として選択したのがリブランディングで、その具体的なあり方として構想されたのが様々なレーベルからなる"マルチレーベルストア"という新たなショップ像でした」
マルチレーベルストアとは、どういうものなのでしょうか
「ナノ・ユニバースを単に商品を集積したショップではなく、ブランドとして捉え直し、事業パーパスを"生活に役立つファッションや情報を"知恵"として提案することを活動とする"こととしました。ブランドを構成するカテゴリーを6つのレーベルで表現しているんです。扱うモノやコトを知恵としてお届けするという観点から、レーベル名にはLibrary(図書館)の略"LB"を付けています。"LB.01 Statement(ステイトメント)"は高品質の素材・縫製技術によるドレスライン、"LB.02 Bibliography(ビブリオグラフィー)"は国内生産による高価格帯のカジュアルライン、"LB.03 Section(セクション)"は既存のナノ・ユニバースをアップデートしたセカンドブランドという位置づけです。これらオリジナル商品を展開する3レーベルを軸として、ライセンスやアウトレット、ECの商品を扱う"LB.04"、TSIが展開しているブランドからの仕入れ・別注品による"LB.05"、外部ブランドからセレクトした服や雑貨、音楽やアート、花などでライフスタイルを提案する"LB.06"があります。今春夏に始動したゴルフライン"beats per minute(ビーツ・パー・ミニット)"を加え、店舗特性に応じて各レーベルの構成比率を変え、個店としての個性を表現していきます」
- これからのナノ・ユニバースブランドを象徴する最高級品質のドレスライン「LB.01 Statement」。生地、デザイン、細部の仕立てまでこだわった新たなオフィシャルを提案
- 「LB.02 Bibliography」はジャパンメイドによるカジュアルライン。ミリタリーやワークウェアのエッセンスを取り入れた商品を展開
- ナノ・ユニバースの既存の顧客層や価格帯を引き継ぎ、従来の商品をアップグレードしたセカンドレーベル「LB.03 Section」。トレンドを反映したデザイン性が魅力
- ライセンス商品やアウトレット、EC用の商品を展開するLB.04
- TSIホールディングス傘下のブランドからのセレクトを中心に揃えるLB.05
- 服に限らず、外部ブランドからのセレクト商品で構成するLB.06。イベントやワークショップも企画
店舗の印象もかなり変わりましたね
「ロゴも刷新し、店舗名を"ナノ・ユニバース トラック・ストア"(リニューアル・新店舗から順に変更)に、公式オンラインストアを"ナノ・ユニバース カタログ"に変えました。実店舗は現在約70店ありますが、このうちのmozoワンダーシティ店を改装し、タカシマヤ ゲートタワーモール店、アミュプラザ博多店とエスパル仙台店に新規出店しました。既存店の内装はクラシカルで重厚な感じですけど、新たな店舗は什器のダークトーンに対して壁面は白で統一し、クリーンとクラシックを融合した空間になっています。什器も画期的で、店舗の立地やレイアウトに応じて組み立て、機能させることができます。ハンガーやトルソー、ショッパー、織ネーム、タグなども地球に優しい素材に一新しました。コンセプトの底流にある環境への配慮が、商品だけでなく、店舗にあるもの全てに行き渡った店作りを意識しています」
- 刷新したロゴ。1ナノ・メートルを表す「10-9m」を図形化し、ナノ・ユニバースが意味する「極小の宇宙」を表現した
- 新イメージのタカシマヤ ゲートタワーモール店は、クラシックとモダンが融合
- 既存店は、シックで落ち着いたイメージの内装
ドレス、カジュアルを再定義し、生地から物作り
髙本さんがディレクションを担当しているのは?
「LB.01とLB.02です。いずれもナノ・ユニバースにはなかったレンジで、価格的には既存のナノ・ユニバースの3倍ぐらいになります。一言で言うとハイエンドのドレスラインとカジュアルラインですが、それを今だったらどう表現し、伝えていくのか。ドレスにしても、今はかつてのようにガチガチのオフィシャルではないですよね。また、これまでドレスを着ていた人が、いきなりカジュアルにはいけなかったりします。じゃあどんな素材感や作り、フォルムが求められ、どんな着用シーンが想定されるのか。そういう目線でドレスを再解釈し、再定義しました。生地作りから始め、縫製にこだわったスーツや、国内シャツメーカーの生地を使ったシャツなどを展開しています」
LB.02も一般的にイメージするカジュアルではないですね
「ミリタリーやワークウェアの要素を取り入れ、国内で生産した商品で構成しています。いずれもテイストはビンテージ。とはいっても、ミリタリーやワークのスタイルを作りたいということだけではないんですね。ビンテージって長く愛され、またリバイバルされますよね。みんなが好きなテイストだったり、好きなディテールだったり、好きな素材など、しっかりとしたルーツがあるから残っているわけです。ただ、そのままでは何十年も前のスタイルになってしまうので、これも再解釈・再定義し、今のトレンドや気分を取り入れて現代にマッチする商品に落とし込んでいます。それがまた愛されて、ネクストビンテージになっていくというストーリーで物作りに取り組んでいます」
それを生地作りから国内で。ナノ・ユニバースはメンズで創業し、メンズでは素材開発もしてきましたが、ウィメンズではあまりしてこなかったのではないですか
「これまでとの明確な違いを出したかったんですね。LB.01とLB.02の大きな特徴の一つとして素材を位置づけ、生産背景も変えました。まだまだこれからですが、一部のニットやプリントからオリジナル素材を作り始めているほか、親和性のあるメンズの素材をウィメンズに使ったりもしています。素材の共通化によってユニセックス感も特徴にしていきたいですね。コロナ禍の影響で海外生産が難しくなっていますが、以前からナノ・ユニバースは国内生産を増やしてきました。その先見性があったからこそ、今、物作りができています。LB.01とLB.02が求めるクオリティーに合う縫製工場さんや生地屋さんなどを全てマッチングさせることは大変ではありますが、もっと現場に入って経験を積んでいきたいです」
培った発想の引出しとマーケット目線を生かす
そもそも、なぜナノ・ユニバースでディレクションをすることに?
「視野を広げたかったというか。これまではモノを買う立場でしたが、その経験を生かしてモノを生み出すことに腰を据えて関わりたい。そんな思いが強まっていたときに声をかけていただいて。特にこの3年間はコロナ禍にあって、以前は普通だったことが普通ではなくなり、生活も仕事も大きく変化しましたよね。その中でセレクトショップは、個店は元気ですが、企業規模が大きくなるほど大胆な変化が難しいタイミングかなあと感じていました。そういう状況下で、思い切ったリブランディングに挑戦する。その志と行動が魅力的で、すごく元気になることだと思ったんですね。また、LB.01とLB.02は国内での物作りです。ドメスティック志向になりたいとは思わないんですけど、自分が居る国の物作りのあり方を自分で見て、感じて、知りたいという思いがありました。日本の物作りを知った上で、その魅力を海外に伝えていきたい。これからまた自由に海外に行けるようになったときに、自分自身も進化していたいと思ったのも大きな理由です。私の中のいろんな思いとタイミングが一致して、昨年11月にメンバーに加わりました」
モノを買う側から生み出す側へ、蓄積してきた経験をどう生かしていく?
「物作りに一から関わるのは初めてなので、まさに挑戦であり、学ぶことがたくさんあります。私はデザイナーではないけれど、たくさんのモノを見続けてきているので、次はこんなムードの商品が求められるとか、こういう商品がターゲットにとってあったらいいなとか、発想の引出しはいろいろ持っています。常に何がお客様にフィットするかを考える立場で得てきた経験は、素材やデザインなどをマーケットの目線で商品に落とし込むことに役立てていけると思っています。ファッション性の追求だけでなく、どうマーケットに着地させていくか、ということですね」
ナノ・ユニバースも髙本さんも新たな一歩を踏み出しました。これからに向けて考えていることを聞かせてください
「まずはLB.01とLB.02の認知を広げていくことですね。それぞれにファンがついてブランドのように認知される、自立したレーベルが有機的に作用し合う場として店がある、というふうに育てていけたらと思っています。レーベルごとのポップアップ展開など、多くの人が興味を持っている場とのコラボも考えています。また、LB.05ではTSIのブランドからのセレクト商品や別注商品を組み込んでいきますが、LB.01とLB.02でもグループ内の多様なリソースを生かして、お客様にとってのナノ・ユニバースというブランドの価値を高めるディレクションを手掛けられるようになりたい。逆に、LB.01やLB.02も社内の他ブランドが仕入れたくなるレーベルにしていきたいですね。その先には、海外への販売も想定されます。そうなっていくためにも、物作りをどこまで突き詰められるかが課題と捉えています」
写真/遠藤純、ナノ・ユニバース提供
取材・文/久保雅裕
久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。