越智友紀(おち・ゆうき)リーバイ・ストラウス ジャパン マネージャー、ブランドエクスペリエンス

アメリカンアパレルブランドにてリテールVMDとして勤務後、2011年8月リーバイ・ストラウスジャパンにリテール ビジュアルマーチャンダイザーとして入社。
ホールセールのビジュアルマーチャンダイザーを兼任後、現職のブランドエクスペリエンス マネージャーに就任。
ブランドストアやホールセールストアのVMD以外に、ポップアップストアやPR展示会、イベントなどブランディングにかかわるクリエーションを監修。
また現在は、ストアデザイン、リテールオペレーションと協業しグローバルのニューフォーマットストアを新宿、ららぽーと福岡、エキスポシティに出店。

ジーンズの代名詞と言っても過言ではない501®シリーズでお馴染みのアメリカのジーンズブランド、「Levi's®(リーバイス®)」。

2023年で150年もの長い歴史を持つ、デニム業界を代表するインターナショナルブランドのひとつだ。

店内には、スタイリングで見せるVMDを各階で展開している。こういった見せ方自体が新しい方法だそう。

そんなリーバイス®が、2019年7月にいままでのイメージを一新するアジア最大級のフラッグシップストア、リーバイス® 原宿 フラッグシップストアをキャットストリートにオープンさせた。

「ヘッド トゥ トォ」で提案するVMDに変化したことで、各所にマネキンによる全身コーディネートでの提案が目立つ。
大きなジーンズの棚はなく、明るく開放感のある店内デザイン。

アメリカではファッションブランドというよりはもともと日常着のイメージが強く、日本でも古着ブームにおけるブランドの土壌があるとはいえ、ファッションブランドというよりは、やはりデニムブランドのイメージが強いリーバイス®。

「2018年を機に、ライフスタイルファッションブランドとして、お客様には"ヘッド トゥ トォ"で提案するという改革が行われました。それにともなってストアデザインもすべて変わり、店内VMDの手法も大きく変化したんです」と、リーバイ・ストラウス ジャパンでVMDを手がけるブランドエクスペリエンスの越智さん。

それまでのストアデザインはグレーやブラックにナチュラルなウッドカラーをベースとしており、温かみはあるが暗い印象のデザインで、そこにインディゴカラーのデニムウォールが設置されていました。

「リーバイス®としては、ブランドビジネスの部分をより強化させて、成長させていく方向へと改革したんです。その一環として、2018年11月にアメリカ ニューヨークのタイムズスクエアに、新しいストアデザインフォーマットをローンチしました。その後、2019年7月にそのフォーマットで原宿の旗艦店をオープンさせたんです」。

タイムズスクエアのストアオープン時には、日本のVMDチームとして越智さんも現地に向かった。

「ヨーロッパをはじめとするさまざまな国のVMDチームも参加していました。その際に、それまでのデニムのカラーのバリエーションを強く見せる展開から、シーズナルのトップスを合わせるコーディネートで見せていく方法のレクチャーがありました」と、VMDとしてブランドの見せ方の大きな変革があったという。

現在のリーバイ・ストラウス ジャパンにおいては、全体的な部分をグローバルが見ているが、「ローカルとグローバルの間にリージョンがある」と越智さん。

「アジア全体を統括しているのがシンガポールチームなんです。VMDに関してもシンガポールに私の上司がいて、そこからのフィードバックを受けています」。

2021年にリバイバルしたリーバイス®レッド。今のトレンドを落とし込み、以前のスタイルからアップデートさせて復活させたライン。

VMDにおけるローカライズに関しては、「基本的には、最低限のルールがグローバル及びリージョンから共有されています。例えばスタイリングであれば、MDがマストでバイイングするプロダクトがあり、そこですでにコーディネート自体は組まれています。また壁面の商品展開方法や、テーブルに設置するポップのデザイン、デコレーションするビジュアルはグローバルからダウンロードされるツールキットをベースにローカルでアジャストを行っています。ただ国ごとのトレンドや買い付けている商品の違い、お店の規模など、全てがグローバルやリージョンからダウンロードされる内容にマッチするわけではないので、"商品をどのように展開するか?"というVMD自体は、日本独自で行っています」とのこと。

また、ブランドストアにおけるVMDは、ブランドストア担当者が営業チームと事前のミーティングを行い指示書を作って、全店に配信している。

ちなみに新店オープンの際は、事前に細かいVMD資料を制作して、シンガポールチームに確認を取っているという。

「実際にセットアップしている最中にもラインでディスカッションしながら作業を行っています。細かいルールブックが無いが故に、そういった形で細かいフィードバックがあります」と、店舗制作中にもシンガポールのVMDチームとの密なやり取りがあることを語った。

今季は、リーバイス® フレッシュ コレクションがVMDのポイントとなっている。

「1970年代に"フレッシュプロデュース"というラインがあり、そこからのインスパイアを受けているコレクションで、環境汚染への配慮として化学物質を極力使わない染色で作っているプロダクトなのですが、当時と同様のキャロットタグを使用しています。何年かに一度、このようなポップなカラーデニムをリリースしていますが、とても反響の良いコレクションなんですよ」と、本コレクションが過去のアーカイブのインスピレーションから生まれていると話す。

「カラーに押されがちなブランドストアの中で、マネキンのスタイリングや商品の出し方、そしてカラーのバランス、今季は全体的なカラーのまとめ方がポイントになっています」と、VMDのポイントについて続けた。

さらに「リーバイス®はトレンドに合わせたデザインだけではなく、約150年の歴史を持つ中でアーカイブからのインスパイアでプロダクトが作れるというのは強さだと思いますね。例えば、昨年、リーバイス®レッドが当時のデザインを一部踏襲しつつ今のトレンドを落とし込みリバイバルしたのですが、当時のレッドを知る30代後半から50代の方であれば、その製品についての会話が出来ますし、リバイバルによって歴史的なコレクションを当時のことを知らない新たな若い層にも届けることができます。ライフスタイルファッションブランドになろうとしている方向性のなかでは、すごく大きなことだと感じています」と、長い歴史を持つリーバイス®のプロダクト製作の強さについて話す。

環境汚染への配慮として化学物質を極力使わない染色で作っているプロダクトで、当時と同様のキャロットタグを使用。
今季のVMDのポイントとなっている「リーバイス® フレッシュ コレクション」は、1970年代にあった『フレッシュプロデュース』からインスパイアを受けているコレクション。

ちなみに、展開中のVMDは2週間ごとにアップデートを試みているそうだ。

「ローンチのタイミングでは、展開するコレクションをより分かりやすく、そして伝わりやすくしていますが、その後の売れ行きを見ながら、お客様が求めているものと、ブランドが伝えたいもののバランスを見るようにしています」。

越智さんは、1週間に1度、クロスファンクショナルミーティングというセールスチームとのミーティングを必ず持つようにしている。

「自分の約20年のVMD人生の中で感じたのは、ブランドとビジネスのバランスが大事だということですね。つねに最適なバランスがどこにあるのかを見定めることが、一番重要なポイントです」と、自身のVMDとしての考えを語る。

「ビジネスマインドの強いVMDでは、売れるかもしれませんがブランドの伝えたいものがお客様に伝わらないですし、ブランドマインドが強すぎて売れなければ会社は傾く。いかにバランスを取れるかが重要なポイントですね」と続けた。

ブランドストアだけではなく、卸におけるリーバイス®ブランドの環境整備、マーケティングチームによるイベントのブランドとしての装飾など、幅広くVMDを担当している越智さん。

しかし、リーバイ・ストラウス ジャパン入社前は、VMDも本国の縛りがガチガチなイメージで「何もできないかもしれない」と思っていたという。

「150年もの歴史があるブランドなのに、意外と好きにやらせてもらえている、という思いがあります。それって、何をやってもリーバイス®はリーバイス®として受け入れられるブランドの強さなのかもしれませんし、すごく魅力的な会社だと思いますね」と、リーバイス®というブランドの魅力について話す。

フィット別、カラー別に手に取りやすく平置きで並べられている。
メンズラインもトータルスタイリングで提案。

次シーズンは、リーバイス®の代名詞的なデニムである501®を展開する予定だ。

「1873年5月20日に衣料品にリベットを打つ補強の特許を取りまして、それがジーンズの原型なんです。そこで我々は5月20日を"ジーンズの誕生日"と語っています。実際に501®が出来たのは1890年なのですが」。

2023年で150周年を迎えるというリーバイス®のジーンズ。

「150年という節目の年を迎えるにあたり、さまざまなアクティベーションや商品をローンチしていきます。まずは5月20日に向けた、501®のウィンドーが立ち上がる予定です」。

その一環として、ウィメンズでは、90'sスタイルの501®も展開する。

「90年代の501®にインスパイアを受けたプロダクトです。501®のアンバサダーであるヘイリー・ビーバーが、それを今っぽく着こなしています」。

ポイントとなる年代ごとに仕様やフィットが変化していることを示すタイムライン。

越智さんによれば、501®はずっと変わり続けているという。

「90年当時にリリースされていた501®と、現在の501®はフィット感が違うんです。1993年に変わっていて、その後は2013年。それこそ1944年、1947年、1955年、1966年というタイムラインというのがあり、すべてのフィットが違うんです。それは、その時代のセンター オブ ジーンズといって、ジーンズのど真ん中が501®という、リーバイス®の強いこだわりがあるんです」。

王道でありながらも、常に進化しているという501®。

「501®は、アメリカでは日常着として、もちろん他の国でも様々な形で根づいていますが、日本ではやはり古着カルチャーからの501®の価値を高く認知している国ですので、本国でも日本での501®の動向はすごく気に掛けています。だからこそ、日本での150周年企画を成功させることは我々にとってはとても大きな使命だと思っています」と、来年の150年に向けての意気込みを語る。

さらに、2022年春のコレクションには、Renewcell(リニューセル)という衣料廃棄物から作った生地と、オーガニックコットンを混ぜて制作されるサステイナブルな501®を展開しているそうだ。

企業としてのサステイナブルな動きに関しても、「VMDの中ではすでに始まっています」と越智さん。

「原宿店や新しいストアデザイン店舗で使用しているマネキンは、グローバルで制作した再利用素材を使ったマネキンなんです」。

さらにヨーロッパでは在庫を利用したアップサイクル製品なども動きはじめているそう。

「リーバイス® ビンテージ クロージング」ライン。こちらも過去のアーカイブからインスパイア受けたものとのこと。

お客様が店舗に来る意味をどう提案できるかが「今後の課題だ」と語る。

「世の中がデジタル社会に移行し、かつこのコロナ禍で外出すること自体が減少した中で、店舗に来て買い物をしたいと思ってもらえること、そして"もう一度、あのお店に行きたい"と思ってもらえるために、我々VMDに携わる人間として、そこを"どう提案できるか"が一番の課題ですね。VMDを評価してもらうためには、残念ながらVMDチームだけでは成り立たず、そこに店舗スタッフがいて、ビジネス、そしてサービス、すべてが連動しないとただの自己満足になってしまうと思うんです」と越智さん。

そして「早いターンで実績を求められている中で、みんなが素敵と思える環境で実際に"売れる"こと。そこまでがVMDであり、やはりそこは重要だと思っています」と、あらためて自身のVMDにおける考えを語って締めた。

ゆったりとしたフィッティングルーム。
店内には、イラストレーターとのコラボレーションのイラストも。

インターナショナルブランドとして成長し続けているリーバイス®。

メーカーからブランドへ、つねに変わり続け、挑戦し続けながらも、過去のアーカイブを大事にする。

それがブランドとして長く歴史を刻むことにつながっているのかもしれない。

写真/野﨑慧嗣
取材/久保雅裕(くぼ まさひろ)
取材・文/カネコヒデシ

リーバイス® 原宿 フラッグシップストア

住所:東京都渋谷区神宮前6-16-12 神宮前グリーンテラス
TEL:03-6427-6107
営業時間:11:00-19:00

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

Journal Cubocci

カネコヒデシ

メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。そのほか、紙&ネットをふくめるさまざまな媒体での編集やライター、音楽を中心とするイベント企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、モノづくり、ラジオ番組製作&司会、イベントなどの司会、選曲、クラブやバー、カフェなどでのDJなどなど、活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に掛けめぐる仕掛人。

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