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――あなたが個人名義で発表するものについては慣例的に“ソロ・アルバム”という呼び方をしてしまいがちですけど、最新作の『ブッこわせるぜ!』は、むしろポール・ギルバート・ウィズ・フレンズによるセッション作品のようにも感じられます。自己顕示欲を満たすためのものではなく、あなたが自分の名前を掲げることで仲間たちにこの“場”を提供したというか。

「うん、まさに! とはいえ僕も、最初の頃は何でもかんでも自分でやりたがっていた。『キング・オブ・クラブス』(1997年発表の初ソロ作)では、すべての楽器を自分でプレイしようとしたくらいだから。ドラムの腕前はイマイチだったから、ドラマーだけは雇わなければならなかったけど(笑)。以降のアルバムについても、他のミュージシャンたちに参加してもらう場合でも、あくまで自分最優先というところがあった。細部にまでわたって作り込んだデモをあらかじめ用意していたしね。要するに独裁的だったんだよ(笑)。だけどこのアルバムでは、参加者たちがもっと自由を謳歌できている。すごくいい連中だし、僕自身みんなのことを信頼してるから、ごく自然にそういられるんだと思う。特にトニー(・スピナー)のギターが僕は好きでね。彼はいつも“この曲ではどうして欲しいの?”みたいなことを尋ねてくるんだけど、その質問に対する僕の答えはいつも“自分が気持ちいいようにやってくれればいい”に決まってるんだ。これはこうしてくれ、みたいな指示はしない。ケヴィン(・シャーリー/プロデューサー)が場を取り仕切ってくれているというのも大きいね。ごくまれに細かな変更を求められることもあるけど、大概は僕らのやりたいようにやらせてくれるし、リハーサルで演奏していい感じだったものを何ひとつ変えることなくレコーディングできている。つまり、みんな本能的でいられるんだ」

――自分ができることは何でもやりたがっていた頃とは大きな差がありますよね。音楽を作ることの楽しみ方自体が、あなたのなかで変わってきているのでは?

「そうだね。ソロ活動を始めた頃の僕は、とにかくポップ・ミュージックを開拓したいという気持ちでいっぱいだった。すでに僕はMR.BIGにいて、もちろんそこにもポップな要素はあったし、〈トゥ・ビー・ウィズ・ユー〉(全米No.1に輝いた同バンドのヒット曲)だってポップ・ソング以外の何物でもない。だけど自分としては、もっとパワー・ポップ的なものというのをやってみたかったんだ。初期のビートルズとか、チープ・トリックに通ずるようなね。実際そういう曲もたびたび持ち込もうとしたんだけど、“これはポップ過ぎてこのバンドのスタイルには合わない”と言われることが多かった。MR.BIGでは、もっとブルージーでハード・ロック然としたものを求められる傾向があった。そういう意味では、ある種のフラストレーションも溜まっていたんだと思う。自分が情熱を傾けられるものがバンドに合わない、という現実についてね。それが初期のソロ作品を作るにあたっての動機にもなっていたと思う。ただ、のちには自分なりにブルースに歩み寄ったものも作ってきたし、ブルースを通じてジャズやゴスペルに興味を繋げていくことにもなった。僕自身のブルースについての解釈が、少年期の頃とはまるで違ってきていてね。子供の頃は、ブルースなんて“遅くてシンプルなヘヴィ・メタル”みたいなもんだと思っていた(笑)。だけど今の僕は、ブルースをとても洗練された音楽だと思っている。しかも、とても人間的なものでもある。ポップ・ミュージックやヘヴィ・メタルは打ち込みでも作れるものだし、“設計されるもの”という性質がある。だけどブルースというのは自分の指で描くもの、ヒューマンな側面が強いんだ。ミステイクすらも味になるような部分がね。ポップ・ミュージックにおいて重要なのが作曲のプロセスであるのに対して、ブルースの場合は実際のパフォーマンスが重要だったりするしね」

――どう作るかではなく、どう表現するか、ということですよね。今の話にもありましたが、ブルースを知ったらその向こうにジャズが見えてくるというように、さまざまな音楽には何らかの繋がりがある。そうやって音楽同士が繋がっているからこそ、このアルバムも実にさまざまな要素が混在していながら、散漫にならずにまとまっているのかも。

「そうできていることを願うよ(笑)。表題曲なんかは、まさにピュア・メタル・ソング。“ラヴ・ウィ・ハッド”はハーモニーを多用したポップ・バラードだし、“マイ・シュガー”なんかまるで70年代のグラム・ロック。敢えて言うならスイートとクイーンの中間みたいな(笑)。“ノッキン・オン・ア・ロックド・ドアー”はポップ・パンクだし、“メイク・イット(イフ・ウィ・トライ)”はモータウン調のサウンド。“アイ・ウィル・ビー・リメンバード”は僕的には初期イーグルスっぽい曲だと思っていて、“ウーマン・ストップ”ではスライド・ギターを弾いてたりもする。そういうすべてのスタイルが僕は好きなんだ」
(つづく)



文/増田勇一

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