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「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」by SMART USEN



開催1カ月前の時点では、半分ほどがフィジカルになるという噂が流れ、日本の繊維業界紙でも「39ブランドがフィジカルとなる見込み」と掲載された。

筆者はそれを見込んで日本から唯一渡航したのだが、蓋を開けてみたらフィジカルのショーを行ったのはオフスケジュールを含めて7ブランドのみ。

フィジカルのプレゼンテーションと記載されているブランドも20ほどあったが、実質はアポイント制の展示会で、通常のファッションウィークとは程遠いものだった。

思わぬ肩透かしを食らった形だが、それでも行って良かったと断言できる。

ほとんどのショーを生で見られただけではなく、パリの街に生を謳歌するようなポジティブな空気感が満ち溢れていて、それを肌で体感できたからだ。

公式スケジュールでフィジカルショー形式で発表したのは「DIOR(ディオール)」「HERMES(エルメス)」「Officine Generale(オフィシン ジェネラル)」「Cool TM(クールティーエム)」「Bluemarble(ブルーマーブル)」「LGN Louis Gabriel Nouchi(ルイ ガブリエル ノウッチ)」の6ブランド。

全てがパリを拠点とするブランドで、外国勢の参加は物理的に難しかったということだろう。

エルメスはパリのテキスタイルの歴史を紡ぐモビリエ・ナショナルを舞台に、軽やかで上質なカジュアルスタイルを披露した。

会場には5つのモニターが配置され、モデルが歩く様子が様々な角度から写し出される仕組み。

舞台演出家のシリル・テストによる演出で、その様子は全世界へ生中継で配信された。

もっとも話題を集めそうなのは、底面がスケートボードになったビッグサイズのレザーバッグ(ボリード)。

全体的にはストリートの要素も加えたカジュアルな雰囲気が強く、ラグジュアリーの概念が変化しつつあるのを改めて感じた。



ディオール??ディオール



ディオールはアメリカ・テキサスを主題にしたコレクション。

何の脈略もないように感じるが、創設者のムッシュ・ディオールは1947年にアメリカを訪れ、ウエスタン文化が色濃く残るテキサスに感化されたという。

テキサス州出身のトラヴィス・スコットとのコラボレーションは、ディオールとアメリカを繋ぐ現代の象徴という位置付けなのだろう。

ベージュ、ブラウン、乾いたピンクなどテキサスの大地を連想させるコレクションは、これまでのキム・ジョーンズが手がけた中でも有数のストリート色が強いものだった。

パンツは裾幅の広いフレアが中心。東京では見慣れたスタイルだが、多くの若手ブランドも提案しているので、フレアの波が本格的に訪れそうだ。



ブルーマーブル



2019年にスタートしたばかりのブルーマーブルは、マレ地区のフランス国立公文書館の中庭を舞台に、若手とは思えないスケールの大きいショーを発表した。

デザイナーのアンソニー・アルバレスは、父がフィリピン出身なこともあり、ロックダウン中をサーフィンの聖地として知られるフィリピンのシアルガオ島で過ごしたという。

ゆえに(元からヒッピーテイストが持ち味だったが)今シーズンはサーフ&南国テイストがいつも以上に強く、カラフルでハッピーなコレクションとなっている。

サーフショーツのインナーを腰履き風に見せたパンツや、大きな花柄が刺繍されたパンツは必見だ。



ルイ ガブリエル ノウッチ



ルイ ガブリエル ノウッチは、ラフ シモンズ出身のデザイナーが2019年春夏に立ち上げた新鋭ブランド。

色気のある際どいカッティングの下着は既にブレイク中で、2020年春夏からインターナショナルギャラリービームスが取り扱いを開始した注目の若手だ。

今シーズンのインスピレーション源は、フランスの高名な作家の自伝的作品。

敢えて小説名は明かさず、その作品から感じた官能性を表現したという。

コレクションで目立ったのは、バスローブ、パジャマスーツ、サテンのランジェリーなどの「外出できる室内着」。

ビスコースにデジタルプリントしたマーブル模様のシャツとショートパンツのセットアップも目を惹いた。



カサブランカ

カサブランカ



ショーではなくパーティーでブランドの世界観を表現するブランドも散見した。

パリの若手でもっとも勢いのある「CASABLANCA(カサブランカ)」は、超高級ホテルのオテル・リッツ・パリで少人数を招いた豪奢なパーティーを開催。

ブランドの代名詞であるシルクシャツに相応しい場所で、ユーモアとラグジュアリーが同居した唯一無二のコレクションを披露した。

今シーズンは富士山、卓球、暴走族など日本のモチーフが多く、これまで以上に日本と親和性の高いものとなっている。



イザベルマラン



「ISABEL MARANT(イザベルマラン)」は、ブルスにある旧証券取引所でピクニック形式のパーティーを開催した。

80年代のパリとカリフォルニアやアウトドアの要素を融合させたコレクションは、非常に今っぽく80年代好きなら必見。

1994年デビューの中堅だが、再ブレイクの予感が漂っている。

パリ・メンズの初日(6月22日)のフランスのコロナウィルス感染者数は2204人。

それから1ヶ月後の7月21日の感染者数は2万1539人と激増している。

デルタ株の急拡大への対応策としてフランス政府は、8月上旬からレストランや映画館を利用するにはワクチンパスポートかPCR陰性証明書の提示を義務とする政策を打ち出した。

48時間以内のPCR陰性証明書を毎回受けるのは現実的ではないから、実質的にワクチン接種の義務化と言えるだろう。

ショーでも同様の措置が取られるとしたら、海外勢がパリでショーをやるのも見るのも、これまで以上にハードルが高くなるのは避けられない。

メンズ後のオートクチュールはフィジカルショーが予想より多かったので、9月のウィメンズは通常に近い形での開催が期待されたが、まだまだ日常が戻ってくるのは遠い未来の話になりそうだ。

(おわり)

取材・文/増田海治郎





増田海治郎(ますだ かいじろう)
増田海治郎(ますだ かいじろう) ファッションジャーナリスト。雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、コロナ禍前の年間のファッションショーの取材本数は約250本。著書に『渋カジが、わたしを作った。』(講談社)がある。





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