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「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」by SMART USEN



結論から言うと、そのシーズンのファッションを見せる方式として、フィジカル(リアル)のファッションショーに代わるものはないと思う。ロンドン、パリ、ミラノの全てのデジタルショー、プレゼンテーションを見て、そう確信した。それでも、フィジカルでは不可能なデジタルならではの見せ方が多く見られたし、今後はさらに進化していくのは間違いない。ロックダウンの最中にクリエーションを止めず、前例のない取り組みに果敢に挑戦したデザイナーたちに改めて敬意を評したい。



カサブランカ

ダブレット21年春夏コレクション動画より



今回のコロナ禍は、世界共通の危機である。多くのブランドがロックダウンの影響でサンプル生産に苦労したようだが、映像やコレクションに前向きなメッセージを込めたブランドが多く見られた。「AFTER THE RAIN COMES THE RAINBOW(雨の後には虹が昇る)」をテーマに、思いっきり気障で華やかなリゾートスタイルを提案したのは、パリの新進ブランド「カサブランカ」。世界的に注目されている日本の「ダブレット」は、カギ編みのニットを着た熊が、ロックダウンで塞ぎ込んでいる人たちにプレゼントを贈るハートウォーミングなストーリーを映像で披露。インスタグラムやツイッターでは世界中からポジティブな反応があり、笑顔と笑いは国境を越えると感じた。



ディオール ?JACKIE NICKERSON

ボッター

MSGM



Black lives matter(BLM)に端を発した人種差別問題の根絶を訴えるブランドも多かった。ルシェミー・ボッターとリジー・ヘレブラーのデザインデュオが手掛ける「ボッター」は、映像で全人種への暴力とレイシズムへの反対を力強く訴えた。リサイクル素材やハンドの技術を多用した手作り感のあるコレクションは、今という時代に完璧にシンクロしている。様々な人種、カップルの友情と愛の形を描いた「MSGM」のハッピーな映像も、感情に訴えかけるものがあった。

BLMについて直接的な言及はしていないが、「ディオール」はガーナ出身のアーティスト、アモアコ・ボアフォとコラボレーション。黒人のマスキュリニティへの認識を探るアモアコの作品を、オートクチュールの技法と歴史を雄弁に物語る衣服に落とし込んだ圧巻のコレクションを発表した。アモアコのインタビューの後に登場したモデルは全て黒人。幼少期をアフリカで過ごしたキム・ジョーンズならではの強いメッセージ性を感じずにはいられなかった。



フィップス

エルメネジルド ゼニア

ジャックムス



サステイナブル、自然回帰の提案も多く見られた。アメリカ人のスペンサー・フィップスが手掛ける「フィップス」は、ネイティブ・アメリカン的な土臭いウエスタン、ワークスタイルを提案。「エルメネジルド ゼニア」は拠点であるイタリア北部の小さな町、トリベロの自然と工場をランウェイに見立て、自然と服の共生を映像で訴えた。サンディカの公式スケジュールではないものの、客席の間隔を空けた麦畑でフィジカルショーを行ったのは、今もっともパリで勢いのあるブランド「ジャックムス」。「ラムール(愛)」をテーマにしたナチュラルで健康的なコレクションは、一見では普通っぽく見えるけれど圧倒的に新しい。



ピガール21年春夏コレクション動画より

エチュード

ファセッタズム

チルドレン オブ ザ ディスコーダンス



行き過ぎたグローバリズムからローカリズムへの回帰も、キーワードのひとつに挙げられる。パリの歓楽街、ピガールをベースに活動する「ピガール」は、今年で10周年。これまでのファッションショーを回顧する映像で、最後はピガール広場の前で仲間内で10周年を盛大に祝った。パリ発の「エチュード」は、アトリエを構えるパリ20区の街並みをランウェイに見立て、ロックダウン後のパリのリアルを映像で描いた。日本の「ファセッタズム」は、いかにも東京らしい地下駐車場とホテルのプールで、イギリスのストリートカルチャー「カジュアルズ」からインスパイアされたコレクションを披露。「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」は、東京の夜の街をスケートボードで駆け抜ける疾走感あふれる映像を見せた。



カラー

ホワイトマウンテニアリング



その他の日本勢も健闘した。映像の制作は洋服とは違った技術と人脈、感性が必要となるが、ほとんどのブランドは平均点をクリアし、世界的に見ても高い水準のブランドも多かった。なかでも話題を集めたのが、久しぶりのパリコレ復帰となった「カラー」。アングルを動かしたい方向にカメラを順番に連続撮影していくバレットタイム(タイムスライスとも言う)という手法を用いた斬新な映像は、世界中の業界関係者の間で話題となった。「ホワイトマウンテニアリング」はライゾマティクスの真鍋大度の演出による映像を披露。パターンに焦点を当てたモダンな映像は、ブランドイメージと完璧にマッチしていた。



メゾン ミハラヤスヒロ

ヨシオクボ



パリコレの華やかで悲哀に満ちた群像劇を、パペット人形劇とリアルなファッションショーを組み合わせて見せたのは「メゾン ミハラヤスヒロ」。ここ数シーズン、和へのアプローチを強めている「ヨシオクボ」は、能楽堂で和と洋をミックスしたコレクションを披露した。

9~10月に開催されるロンドン、ミラノ、パリのウィメンズは、マスクの着用やソーシャルディスタンスを確保した上でのフィジカルショーと、デジタルショーが共存する形になるだろう。残念ながらコロナ禍は長引きそうなので、しばらくは「フィジカル+デジタル」なファッションウィークが続くのではないだろうか。

(おわり)

取材・文/増田海治郎
増田海治郎(ますだ かいじろう) ファッションジャーナリスト。雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める“デフィレ中毒”で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。著書に『渋カジが、わたしを作った。』(講談社)がある。



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