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――encore初登場の三浦祐太朗さんですが、デビューは2008年、Peaky SALTの「イトシセツナナミダ」ということですから、アーティストとしてのキャリアはちょうど10年になります。

「はい、そうですね」

――ご自身で10年を振り返ってみて、アーティストとしてのターニングポイントになった出来事ってなんでしょう?

「やっぱりPeaky SALTの活動休止ですね。この10年で言えば、ここがすごくキーになった出来事だったし、バンド活動は1年半くらい……結成は大学生時代なのでデビュー前から数えると5年くらいですが。それが世に出て、全然売れなくて、バンド内の方向性もバラバラになって、うまく機能しなくなって活動を休止するわけなんですが、ああいう失敗―――自分のなかでは失敗とは思いたくないんですが―――を繰り返したくないという後悔が大きかったので、そういう気持ちでいまのソロ活動もやっていますね」

――Peaky SALTを休止して、また別のバンドをという考えはありませんでしたか?

「選択肢としたはあったんですけど、やっぱりもう一度バンドを組むということへの怖さもありましたね。それだったら、ソロのほうが自由にできるし、その裏返しで、やったことの責任も自分ひとりで背負わなくてはならいないという状況が性にあっていると思ったんです」

――そうして2013年、1st『AND YOU』でソロデビューするわけですが、その判断は正しかった?

「正しかったと思いますね。まず何といってもすごくやりがいがある。4人のバンドだったら、たとえば100パーセントやり切るためには、ひとりが25パーセントずつがんばればいいわけで、ソロだったらそれをひとりで100パーセント背負わなくちゃならない。そういうハラハラ感というか、緊張感が(笑)」

――さて、2014年リリースの2nd『DAISY CHAIN』から4年ぶりのオリジナルアルバムということになった最新作『FLOWERS』ですが、タイトルの由来は?

「そうですね、コンセプトなしにアラカルトで詰め込んだ花束というか……今回は、特にアルバムのコンセプトを設けていなくって、この4年間の自分の経験とか足跡――舞台だったり、TVでちょっとしたお芝居をやらせていただいたり、ラジオでパーソナリティをやらせていただいて帯番組を持ったり――そういう経験を踏まえて出来上がったアルバムだと思ってるんです。たとえばアニメのタイアップのお話なんかは、ラジオでアニソンが好きだってことを発信して曲をかけたりしていたからこそいただけたんだと思いますし。そうやってひとつひとつ個性の強い全8曲を詰め込んで花束にして届けたいという感覚があったので『FLOWERS』というタイトルになりました」

――アニソンの話題が出たところで、まずは「Home Sweet Home!」の話から伺いたいのですが、作曲はヒャダインこと前山田健一さんということで“らしい”曲ではありますが、逆に、曲調もBPMも三浦さんらしからぬ、というか……

「ははは!皆さんそうおっしゃいます。原作コミックスの「邪神ちゃんドロップキック」は10巻まで出ているんですが、それを全部読んで、ストーリーに則した詞を書いたんですよ。ある意味、こうやって職業作詞家的な立ち位置で詞を書いたのは初めてですね。僕としては、完全にアニメ作品の一部になってやろう!作品に同化しよう!いう気持ちで取り組みました」

――ユニクロのウェブCMで流れていた「ハタラクワタシヘ」以来のヒャダインさんとタッグを組んだわけですが。

「「ハタラクワタシヘ」で初めてヒャダインさんとごいっしょしまして、それが約2年前なんですが、今回、誰に曲を書いてもらおうかなと考えて、そうだ、ヒャダインさんに頼もう!ということになって、快く引き受けていただいて。打ち合わせで、ヒャダインさんに“どんなイメージ?”って聞かれて、僕がいくつかアニソンのタイトルを挙げていったら、“ああ、なるほど。もう浮かびました”って(笑)。あれはすごかったですね。ヒャダインさん、さすがだなと思いました」

――その光景が目に浮かびますよ「ハタラクワタシヘ」は、どちらかというと、ヒャダインさんが三浦さんのイメージに寄せていった曲だったと思うんですが、今回は?

「今回の「Home Sweet Home!」に関しては、もう完全にヒャダインさん印ですよね。むしろそれ以外の何者でもないというか……曲が上がってきたときも、僕が歌う、歌わないという話は置いておいて、“これ、めっちゃ「邪神ちゃんドロップキック」に合うわ!”と思いましたね。で、“あ、これ歌うの俺か!”って我に返りましたから(笑)」

――今回のタイアップって、アニメ好きで知られる三浦さんとしては相当にうれしいんだろうなと想像するのですが?

「めちゃくちゃうれしいですね。自分のラジオで、アニメ好きってキャラクターをこそっとアピールしてたんですけど、それがちゃんと仕事に繋がったんだなと」

――先日もNACK5の「キラスタ」を聴いていたんですが、三浦さんのアニメ好きってキャラ、全然隠れてませんでしたけど(笑)。

「あ、出ちゃってました?」

――出ちゃってますよ。まずアニメ/アニソン系のナレッジがすごいじゃないですか。リリースされたばっかりの藍井エイルさんの新曲を掛けてたりとか。

「ああ!「流星」ですね。「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」の。それは、まあ、いちはやく掛けたいなと思ってたので」

――そうやって、好きってことを言い続けることで新たな出会いが生まれるってことですね。

「そうですね。「邪神ちゃん」と「Home Sweet Home!」に関しては、すごくいい方に転がったと思いますね」

――とはいえ、『FLOWERS』というアルバムの中の1曲という意味では、「Home Sweet Home!」の置き場所はとても難しいんじゃないですか?

「それはすごく悩みましたね。収録曲のミックスを並べて、それを自分で聴いてみて決めました。“あ、こういう曲順なんだ?”みたいな皆さんの感想をぜひ聞かせて欲しいですね」

――この「Home Sweet Home !」だったり、「ハタラクワタシヘ」がリード曲的な位置づけになるかと思いますが、三浦さん自身がアルバムのキーになり得ると感じる曲は?

「んー……「月と木星の距離」かな。これはPeaky SALT時代の未発表曲がなんですが、それをこうやって世に出せるのはすごく幸せなことだなと思いますね。実は、当時ちゃんとレコーディングも終わっていたんですが、それが世に出る前にバンドが解散してしまったので」

――「月と木星の距離」と、「WITH (10 years after Ver.)」はPeaky SALTのKosen(古銭友一郎)さんの作曲です。

「そうですね。この2曲は、ソロになってからもライブで歌っていたりして、Kosenもそのことを知っていてくれていたので、今回アルバムに入れようと思ってるんだって話をしたときも“いいよ!いいよ!”って喜んでくれて」

――「月と木星の距離」はバンドサウンドらしさがあって、“バイバイじゃあね 君に手を振る”あたりの譜割りもかっこいいですよね。

「確かにバンドらしい音ですよね。オリジナルとはアレンジも全然変わっているんですが、そういう原曲の瑞々しさみたいなものは失われていないと思いますし」

――キーになるという意味では、阿木耀子さん作詞、宇崎竜童さん作曲による「菩提樹」にも触れないわけにはいけません。

「つい先日歌入れしまして、現場には阿木さんもいらっしゃってたんですが、「菩提樹」の“また逢いましょう/約束しよう”という詞は、「さよならの向こう側」の“約束なしの お別れです”という詞にリンクしているんだっておっしゃっていて。そういう輪廻転生的なニュアンスも感じられるし、まるで映画を見ているようなすごく壮大なテーマで描かれている曲ですよね」

――三浦さんのボーカルも、すごく大切に大切に歌っているなという印象でした。

「ああいうテンポの、白玉が続くようなワルツって初めてだったので。すごく難しいんですよ。それをなんとか歌い切ることができたので、アルバムが完成して皆さんに聴いていただくのが楽しみですね」

――「菩提樹」という曲からは、『I'm HOME』のイメージを引き継ぎながら、新しい扉を開こうとする三浦さんの意志が感じられました。

「そうですね。『I'm HOME』で僕を初めて知ったという人たちを、「菩提樹」で裏切ることができたらいいなと――もちろんいい意味で――思っているので。“あ、こんな曲もあるんだ!”っていう振り幅の広さを出せたらいいなと。逆に『FLOWERS』で初めて僕を知る人には、過去の曲をバックデートして聴いてもらうきっかけになればいいとも思いますし」

――個人的には「凍てつく太陽」も裏切りソングでしたね。詞のワンフレーズ、ワンフレーズが刺さってくる感じで。何ていうか、三浦さんの歌って、基本的にポジティブに運ぶ曲に目が行きがちじゃないですか。

「「凍てつく太陽」は、退廃的というか、毒を含んだ曲ですよね。僕もこの曲がとても気に入っているので、そう感じてもらえるとうれしいですね」

――「優しさを排泄しよう」、「価値のない愛の歌」って詞がすごく投げやりというか、痛々しいですよね。

「アルバムを通して表裏一体でありたいので。明るいだけのアルバムは面白くないなと思ったんです。やっぱり人間なので、僕という人間のなかにも表裏があって、それをきちんと表現したいなと」

――なるほど、三浦祐太朗という人間の等身大ということですね。さて、ちょっと時計の針を巻き戻しましょう。Peaky SALTの「イトシセツナナミダ」のカップリングでブラーの「ゼアズ・ノー・アザー・ウェイ」をカバーしていますが、三浦さんにとって、青春時代のルーツミュージックってそのあたりのブリットポップも含まれていますか?

「90年代のブリティッシュロックは好きでしたね。ブラーとかオアシス、ちょっと遡ってストーン・ローゼズとかも。バンドをやっていたころ聴いていたのはCHAGE and ASKA、THE YELLOW MONKEYですね。あとはパンク、メロコアの全盛期だったので、ハイスタ、SNAIL RAMP、BRAHMANも聴いていました」

――ソロになってから三浦さんを知ったというリスナーにはちょっと意外に感じるかもしれない名前が並びましたね。ちなみにTHE YELLOW MONKEYのどういう部分が三浦さんに刺さったんでしょう?

「バリバリのグラムロックなのに、歌謡曲的なキャッチーなメロディが乗っているところ。そのふたつの要素って融合できるんだ!って思いました。あと、なんといっても吉井和哉さんがエロい!グラマラスって言ったほうがいいですかね(笑)。つい先日も吉井さんのソロを見に行ったり、いまでも大好きです。EMMAさんのbrainchild’sもすごくロックでかっこいいですよね」

――めちゃくちゃロック少年じゃないですか(笑)。やっぱり好きな音楽って変わらないですよね。

「そうですね。ラジオの仕事もやっていますし、ゲストで来てくれた最近のアーティストさんの曲も聴きますし、ライブにも行きますけど、やっぱり思春期に聴いていた音楽って自然と口ずさんでしまうし、一生聴き続けるんだろうなって思いますね」

――そうか、ラジオをやっていると結構な数のアーティストさんとの出会いがありますもんね。じゃあ、現在進行形で、三浦さんのアンテナに引っかかっているアーティストさんてどのあたりですか?

「うーん……たくさんいますけど、Official髭男dismとかすごい好きですね。あと、吉澤嘉代子さんもアーティストとしてすごいなと思いますね。そういう人たちからも刺激をもらいますね。音の使い方もそうですし、歌詞の性質もそう。みんな単純にかっこいいんですよね」

――そうやって分け隔てなくさまざまな音楽に耳を傾けられるって素晴らしいことですよね。ラジオのお仕事は楽しいですか?

「NACK5の「キラスタ」はいま4年目かな?水木の週2でやらせていただいているんですが、めちゃくちゃ楽しいです。ずっとやっていたいくらい(笑)」

――とはいえ、アコースティックワンマンライブの予定も年末までけっこうぎっしり入っていますよ。もはやツアーと呼んでいいのでは?

「ツアーと言っていませんが、実質ツアーですね(笑)。いや、ありがたいことですね。こうやって全国いろんなところへ行かせてもらって、生で三浦祐太朗の歌を聴いてもらう機会が与えられているって幸せなことだなと思います」

――『I'm HOME』関連のツアーをフィニッシュしてまだ数ヵ月といったところですが、ここで『FLOWERS』へとスイッチを入れ替える感じでしょうか?

「やはり前作の『I'm HOME』で僕のことを知ってくださったファンのかたがたくさんいて、僕自身その反響の大きさに驚きましたし、この1年ずっと『I'm HOME』を歌い続けてきたわけですが、『FLOWERS』をリリースしたからソロ作品で、と区切りをつけるのではなく、もしかしたら、それらを並行してやっていくことが重要なんじゃないかなと思い始めているところです。たぶんそうであることがいまの三浦祐太朗らしさなんじゃないかな」

(おわり)

取材・文/encore編集部





三浦祐太朗『FLOWERS』
2018年8月1日(水)発売
TYCT-60118/2,315円(税別)
Virgin




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