●バンド×ラブソングのブームとセカンドバッカーの関係性

 ポップス、ロック、フォーク、パンク、ジャズなど、どんな音楽ジャンルにも存在する“ラブソング”。21世紀以降も様々な恋の名曲が生まれ、特に日本のロックバンドのそれは多感な若者を中心に多くのムーブメントを起こしてきた。

なぜここまでロックバンドのラブソングが多くの人の心を掴んだのか。その最大の理由は「心の内側に踏み込んだ生々しい歌詞」だろう。2000年代には当時10代のRADWIMPSによる瑞々しく等身大でありながらもユーモラスかつ独特な筆致の詞世界が多くの支持を集めた。2010年代に入ると、募る思いはもちろん自身の情けなさまでをもありありと綴ったback numberが、幅広い層の共感を獲得した。

TikTokの隆盛によりこの数年でSNSを通じて様々な若手バンドのラブソングがヒットしてきたが、心の機微を的確に捉えていること、リアリティに富んでいることは共通項だろう。そして2025年現在、その最右翼とも言えるのが、2023年に活動を開始したセカンドバッカーだ。

 “セカンドバッカー=2番目の後援者”というバンド名に込められたのは「愛してやまない人から一番の愛情を捧げられなくても、たとえ自分が2番目の存在であろうとも、その人のことを大切に思うことこそが愛である」という精神である。大切に思う相手と愛し合える未来を求めるラブソングが多いなか、セカンドバッカーは見返りを求めない。時に相手から与えてもらった小さな幸せに目を向け、時に恋愛感情が募りすぎたことで相手を傷つけてしまったことや、思いを伝えられなかったことへの後悔を綴る。「ただあなたを好きで、大切で仕方がない」。その思いを喜怒哀楽のすべてで素直に表現し、自分の心のなかに存在する“あなた”と“あなたに向ける愛情”を切実に楽曲へと落とし込んでいるのだ。


●バズでは終わらない 「犬とバカ猫」はなぜ心に刺さるのか

そんなセカンドバッカーの楽曲「犬とバカ猫」が、現在過去最大のバズを引き起こしている。UGC再生数はTikTokで11億回を、InstagramとFacebookでは8,700万回を超えており、TikTok音楽チャートは2冠を達成。オリコンTikTok週間チャートも3週連続で1位を記録した。

その着火剤となったのが、セカンドバッカーのドラマー・まさみが8月上旬にTikTokにアップした“肘打ち動画”である。「○○で今これ」というテロップとともに、サビに合わせてカメラへと肘打ちをするまさみの動画に、インフルエンサーのMINAMIやヤングスキニーのかやゆーが便乗すると、そのフォーマットはたちまちミームと化し「#肘打ち界隈」として広まった。ちょっと傷ついたり、図星を突かれてぐうの音も出ないことなどを、コミカルかつ手軽に鬱憤晴らしできることも、ついつい気持ちを吐露してしまうSNSというツールに打ってつけである。そんなバズ動画を作り出すまさみの手腕やセンスもさることながら、ここまでのブームは楽曲との相乗効果があってこそ成し遂げられたものだろう。

「犬とバカ猫」はセカンドバッカーのEP『言えなかったことばっかりだった。』の先行配信シングルとして、2025年7月にリリースされた。これまでの彼らの楽曲の中で言葉数が多く、小気味よいドラムのビートとロマンチックでユーモラスなベースラインが効いた、非常に軽快でキャッチーな、歌詞通り“子犬みたい”に人懐っこい楽曲である。サビに入る前の助走から爆発力のあるサビへとつながる高揚感、字余りでつんのめるような譜割りがもたらす衝動性が、行き場のない気持ちを肘打ちで表現するという痛快さと合致したこともバズの要因だろう。

 だが「犬とバカ猫」はただノリが良い楽曲というわけではない。歌詞を読み解いていくと、“君”にひたすら恋焦がれる“私”が主人公の、ほろ苦い青春ソングだ。君のことが好きで好きでたまらないがゆえに自分の感情が先走ってしまい、愛しい君が律儀に話してくれてもどこか上の空で、わからなくなっていくうちにどうでもよくなってしまう。そんな自分の衝動的な感情と、それに振り回されたがゆえの自己嫌悪、「(君のことを)もっとちゃんと考えてあげたかった」という母性や後悔が切々と綴られている。


●不器用で、どこまでも素直なこうへいの詞世界

「犬とバカ猫」をはじめ、セカンドバッカーのギターボーカル兼ソングライター・こうへいの綴る歌詞は、心や頭の中に渦巻いている感情や混乱する思考をそのまま表に出した筆致が多い。それは泣きながら自分の思いを吐露したときの、整理整頓されていない言葉たちのようでもある。つまり“隠す”や“取り繕う”という概念がないほどに、どこまでも素直なのだ。

彼の書いた歌詞に着目すると、気取ったり見栄を張るような描写はほぼ見当たらず、「告白」という楽曲には「ちょっとキモイか」とセルフツッコミをする歌詞すらある。そんな不器用で体当たりな純粋さと、後悔や失敗から学んだであろう達観した目線がない交ぜになった言葉たちは、同じような経験をした人の心を直感的に揺さぶるのだ。それは代表曲のひとつである2023年リリースの「君とのこと」も例外ではない。同曲は「犬とバカ猫」のプロトタイプかと思うほどに歌詞の共通点が多く、さらにはバンドの骨子である“君を愛する気持ち”が端的な言葉で綴られている。無骨なギターの音色で奏でられるポップなフレーズも言葉を際立たせており、同じような経験をしている若者から多数の共感を呼んだ。

詞世界を鮮やかに彩るアレンジもこのバンドの強みだろう。たとえば2024年リリースの「リンゴ」には美しいピアノやシンセストリングスが用いられており、君のそばにいられることの尊さをスケール大きく伝える。『恋フレ~恋人未満がちょうどいい』のEDテーマに起用され、彼らにとって初のドラマタイアップとなった「嵐の夜に」も、まっすぐな愛情を捧げながらも「あなたに好きとは言えない」という複雑な思いを多彩な音色で包み、切なくもあたたかいバラードとして着地させている。こうへいが歌詞で描く物語によって、今後もセカンドバッカーの音楽性は広がっていくだろう。それもメンバーがふたりであり、こうへいがリスナーに伝えたい確固たる思いを持っていること、まさみもそれをできる限り丁寧に届けたいと思っているからこそ、この自由なサウンドデザインが実現可能なのだ。

先述のドラマタイアップだけでなく、「犬とバカ猫」はサンスターのオーラルビューティーケアブランド「Ora²(オーラツー)」とABEMA『今日、好きになりました。』がタッグを組んだWEB CM「ハニーレモンは恋の味」のCMソングに起用されたり、ヒットを受けて音楽番組の出演が決定するなど、SNSのブームを飛び出してさらに躍進している。そして現在彼らは初の全国ツアー『言えなかったことばっかりだった。』を開催中で、精力的なライブ活動によりバンドとしての強度やパフォーマンスの腕も着々と上げている。バンド始動3年足らずでツアーファイナルのLIQUIDROOM ebisuワンマンが完売目前なのも、彼らが注目と期待を向けられている証だ。強く純粋な信念と、未知なる伸びしろを持ち合わせるセカンドバッカー。彼らの音楽は今後も大きく健やかに、その枝葉を広げてゆくだろう。


文:沖さわこ

【セカンドバッカー「犬とバカ猫」】


Music Video:https://youtu.be/8yqzI4KcoZY
Streaming&Download:https://secondbacker.lnk.to/inutobakaneko
TikTok:https://vt.tiktok.com/ZSHtXrpU2YTEY-JvXYc/

【セカンドバッカー「嵐の夜に」】


Streaming&Download:https://secondbacker.lnk.to/arashi_no_yoruni

MBSドラマフィル「恋フレ ~恋人未満がちょうどいい~」主題歌
2025年10月2日(木)より放送スタート!
公式HP:https://www.mbs.jp/koifure/

【セカンドバッカー EPリリースツアー「言えなかったことばっかりだった。」】


▼2025年10月05日(日) 新潟CLUB RIVERST(SOLD OUT)
 開場17:00/開演17:30
 w/アンと私

▼2025年10月18日(土) 札幌Bessie Hall(SOLD OUT)
 開場17:00/開演17:30
 w/KOHAKU

▼2025年10月21日(火) 恵比寿LIQUIDROOM
 開場18:00/開演19:00
 ワンマン

チケット:前売り3,900円(ドリンク代別)
一般発売中:https://w.pia.jp/t/secondbacker-tour/

セカンドバッカー オフィシャルHP

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