内田真礼が、21年10月にリリースした3rdアルバム『HIKARI』。そのアルバムを引っ提げての全国ツアー『UCHIDA MAAYA Live Tour 2023 Happy Research! -HIKARI-』が開催された。声が出せる状況になってから、このアルバムを表現したいと、時期が後ろにずれてしまったという事情もあるのだが、今回のツアーは、全国へ『HIKARI』の欠片(アルバムに収録されている楽曲たち)を集めて回るものとなった。
そのため日替わり曲が通常のツアーよりもかなり多く、本人にとってもバンドメンバーにとっても、かなり大変な道を選んでいたのだが、それも内田真礼と彼女の音楽チームの、このツアーに掛ける意気込みの大きさと覚悟の表れだろう。
また、MAAYA BANDの山本陽介(Gt)が体調不良でツアー初日に間に合わないというアクシデントもあったが、代役は立てずに待つという決断し、仙台公演から復活するなど、順風満帆ではなかったからこそ芽生えた大きな絆もあったと思う。みんなの思いが結実したファイナル公演の模様をレポートする。
青い照明とシリアスさを感じるオープニングSE。大きな拍手の中、MAAYA BANDが登場し、アルバム『HIKARI』と同じく「Change the world」からライブが始まる。ピアノの伴奏に乗って、スモークで見えなくなっていたステージ中央にある入口から、歌声だけが聴こえてくる。白いスモークの中でかすかに揺れている人影。〈明けない夜などないよ〉と、優しくも決意を感じる歌声を響かせたあと、内田真礼がステージに姿を現す。
そのまま、激しいバンドサウンドとともに「Never ending symphony」をぶちかます。アルバムと同じ流れに、オーディエンスも一気に激しく動き出す。声優アーティストで、ここまでオールスタンディングのライブハウスの楽しみ方も熟知しているファンを抱えている人がいるだろうか。拳を振り上げ、歓声を上げ、数年間、ライブで声が出せなかったうっぷんを晴らすかのように盛り上がっていた。
ステージセットは、内田が登場した入り口の真上にドラムセットがあったり、立体的にバンドメンバーが並ぶ配置になっていて、ステージ全面から分厚い音がフロアに放たれているようだった。内田は勢いを緩めることなく「youthful beautiful」を歌っていく。山本が奏でる最高のギターリフが胸に熱く響く。真っ白な衣装を着た内田も、ポニーテールを揺らしながら、気持ち良さそう声を伸ばす。やはりこの曲はギターとボーカルの掛け合いが素晴らしい。
「追加公演? 追加はないです! だから今日ここで出し切るしかない! このツアーでは、『HIKARI』の曲を各地で集めてきました。もうほとんどアルバムの曲は演奏してきたんですけど、今日の公演で全部揃います。このツアーで一緒に『HIKARI』を完成させてくれたらと思うので、ぜひたくさん声を出して、楽しんでいってください! いっぱい共鳴できたらいいなと思っています! 最高の思い出を、今日も更新していきましょう!」と伝えると、夏を感じるアゲアゲソング「波乗りキャリーオン」へ! ラップにウェーブ、そしてクラップに声出しと、盛り上がる要素がてんこ盛りの曲でフロアの温度を急上昇させている。
ファイナル公演では、ダンサーも加わり、続く「Smiling Spiral」では、4人のダンサーもパフォーマンスしながら客を煽っていく。斜めウェーブをしたり、〈You can do it! ガ・ン・バ・レ!〉と声を合わせたあと、間髪入れずに始まった「take you take me BANDWAGON」では、ベース、キーボード、ドラムがソロを繋いでいき、内田の「ギター!」の合図で、山本とバンマスの黒須克彦(Ba)が最前に飛び出し、3人で一緒にステップを踏む。そのステップに合わせ、一緒に揺れながら声を出す観客。会場は大きな一体感に包まれていた。尋常じゃない盛り上がりを見せた前半の6曲に、内田真礼チームの本気を見た感じがした。
MCを挟み、花が飾られたスタンドマイクで「c.o.s.m.o.s」を、ダンサー4人の中で揺れながら歌っていく内田。先程までライブハウスだった会場が、一瞬でクラブハウスになったような感じだ。キラキラと銀の紙吹雪が舞う中で歌う景色も美しい。ダンサーなしの「アストラ」は、振りを入れて披露する。かなり低音から入る曲だが、今の彼女は低音も武器である。大人っぽいステージングで魅了すると、続く「ダストテイル」では、大量のスモークのなか、魂のこもった歌声を響かせ、最後は叫びにも近いロングトーンを轟かせると、そのままステージをあとにする。
世界観のある3曲を見事に表現し切ると、今度は彼女ご自慢のバンドタイムだ。真礼楽曲のフレーズを織り交ぜながらのスペシャルなインストをプレイし終えると、ドラムの前に再登場した内田。ナポレオンジャケット風の衣装に着替え、拡声器マイクを片手に「ラウドヘイラー」を叩きつける。スピーディーな楽曲で勢いづけると、「ストロボメモリー」へ。オレンジの光に包まれながら、ノスタルジーに浸れる楽曲を届けると、「セツナ Ring a Bell」を感情的に歌う。この流れは、これまでの公演ではなかったところで、雰囲気がかなり変わった部分だったのだが、直後のMCで、福岡公演のあとに、バンドとチームで話し合って曲順を変更し、この爆発的なセットリストが生まれたのだと説明していた。より良くしていくことができるのは、ツアーの良さだと言えるだろう。
陽気なギターフレーズで始まる「Applause」では、みんなでクラップをしながら楽しむ。ダンサーが加わり、内田も曲間でジャケットを脱ぎ、スポーティな衣装になっていた。みんなが笑顔になる「YA-YA-YAN Happy Climax!」と「ギミー!レボリューション」で、会場中をハッピーにしていく。みんなで踊ったり、掛け合ったり、これぞ内田真礼のライブ!というブロックだった。
「ライブも後半戦、このツアーを経て思ったことがあって。みんなと繋がれている間は絶対に大丈夫だな。この時間が本当に大好きなので、これからも大事な約束がたくさんできるように頑張っていきたいと思います! ここで大事な曲を聴いてください」と、『HIKARI』の収録曲「ノーシナリオ」を歌ったのだが、途中で涙が込み上げてきて歌えなくなってしまう。彼女がいつも笑顔で、太陽でいてくれる裏には、葛藤や悔しさが当然ある。それを越えてきた彼女だから、みんな信じて、ついてきているのだ。だから、彼女が歌えなくなったことも理解していて、すぐさま歌ってサポートするファンに、強い絆ができていることを感じた。
続く「共鳴レゾンデートル」では、〈共鳴したい?(共鳴しよう)〉のコーレスで、互いの気持ちを確かめ合う。そして、みんなで〈Wow wo wow〉と歌い、クラップを重ねるアンセム「LIFE LIVE ALIVE」で、拳を高く突き上げ、心を一つにする。
MCでは「ノーシナリオ」での出来事を振り返り「今日しかやらない『HIKARI』の曲で、泣いちゃいかん」と言うと、その事情を説明していく。世界がコロナ禍になったことで、中止となってしまった横浜アリーナでのライブ。実はそこで歌うために作った曲が「ノーシナリオ」だった。「『HIKARI』というアルバムにおいてすごく大事な曲で、セトリになんとなく最後まで入れられなかった曲なんです」と素直に打ち明けていた。
ここでアルバム曲をこのツアーで全てやり終えた内田。「来年4月に10周年を迎えるんですけど、そこから1年は楽しいことしかないと約束しますので、内田真礼について来てくれますかー!」と伝えて、「Excite the world!」を高らかに歌う。アルバム最後の曲であり、新たな始まりを告げる曲で、みんなと手を左右に振り、“ラララ”と声を合わせ、大きな幸せに包まれながらライブ本編を終えた。
アンコールは、新曲「ラブ・ユー・テンダー!」から。振り付けもかわいらしい。この時点で、まだCDリリース前の曲ではあるのだが、このツアーでも成長をしていったし、さらに成長していくポテンシャルがあるように感じた。続く「Step to Next Star!!」でも、ファンとの掛け合いを楽しみ、声を出せる喜びを改めて確かめ合う。
「歌っているうちに一体感がどんどん増して、ひとつの生命体に見えました。『HIKARI』をテーマにライブを作ってきたから、『ノーシナリオ」を歌っているときに、完成した気持ちと、言葉に表せない“うわー”っていう気持ちがいっぱいになってしまったんですけど、みんなの顔を見たら安心したし、これからもその顔を見せてくれたら嬉しいなと思います。やっとみんなの声が聞けて、こんなにたくさんの人が集まる会場でひとつのものを作れたということは自信にもなったので、また会おうぜ! 頑張った私と頑張ったみんなの曲を歌います」と言って、「Seasons Come, Seasons Go」を、会場のみんなと一緒に大合唱する。ミラーボールによって会場中に広がった光を見て、これまでの彼女の音楽活動を経て生まれた『HIKARI』というアルバムが、観客の心の奥に確実に刻まれたことを感じた。
ライブを終えても鳴り止まない真礼コールの声に応えたダブルアンコールで「Hello, future contact!」 も一緒に歌い、ファイナルを大団円で終えた内田真礼。最後に「今日も私は最高でした! 思い出更新、ありがとう!」と叫び、ステージをあとにした。