8月31日の札幌公演からスタートした「Superfly Hall Tour 2025 “Amazing Session”」。その最終地点は東京ガーデンシアターだ。2daysのうち、セミファイナルとなった11月5日の公演をレポートしよう。
このツアーはSuperflyにとって約10年ぶりとなる全国ホール・ツアー。各地、およそ2000~3000人キャパのホールが選ばれていたが、東京ガーデンシアターはそのなかでとびぬけて大収容の会場で、志帆によればこの日約7000人の観客が集まっていたようだ。とはいえ、やはりアリーナに比べると遥かに距離の近さが感じられた。それはこの会場がどの席からもステージを見やすい立体的な構造になっていること、同クラスの大ホールよりもステージと席の距離が近くに設定されていることも大きいが、それだけではない。今回のステージ・セットはアトリエをイメージしたものだそうで、観客は志帆とバンドメンバーたちがセッションを楽しんでいるそのアトリエに招かれた感覚を持つことができたからだ。加えて、観客に話しかけるような志帆の自然体のMC。それもあって心理的にも近さが感じられた。それだけに志帆の歌唱表現とメンバーたちの演奏表現、その豊かなアンサンブルを深くダイレクトに味わうことができた。まずそれがよかった。
このツアーは今年6月にリリースされたキャリア初となる邦楽カバー・アルバム『Amazing』を携えてのもので、当然そこに収録されていたカバー楽曲が演奏されるわけだが、それだけでなくSuperflyの代表的なオリジナル楽曲も織り交ぜて構成(アンコール含めた全19曲中、オリジナルは8曲)。しかもそのうちの何曲かはこのツアーだけの新しいアレンジが施され、志帆曰く「セルフカバーするような気持ちで」歌われた。どうアレンジするか。普段なら主にそれは志帆とバンマス兼ギタリストの八橋義幸が話し合って決めるわけだが、今回は新たな方法を導入。メンバーのなかから楽曲ごとにアレンジリーダーを決め、それぞれのアイデアの種をもとにスタジオで膨らませていくというやり方をしたのだ。
例えば、2曲目「フレア」は志帆とドラムスの玉田豊夢とベースの宇野剛史、7曲目「輝く月のように」は志帆と鍵盤の鶴谷崇、12曲目「Charade」は志帆とギターの名越由貴夫、14曲目「Wherever you are」は志帆とコーラスの稲泉りん、アンコールの「楓」は志帆とコーラスの竹本健一がアイデアを出して土台を作り、トータルで八橋義幸がアレンジを見るという形が今回取られた。よって、メンバーそれぞれの好みの傾向だったりセンスだったり個性だったりもそこに反映され、音源とは全然違うこのツアーならではの仕上がりとなっていた。またアレンジのみならず、演奏に関してもメンバーそれぞれの個性が過去のツアーよりも前に出ていて、志帆を含む8人が一体となっての表現であることが強く感じられた(コーラスふたりの貢献度・重要度はとりわけ大きかった)。8人のアンサンブルの美しさと深さ。回を重ねるごとに少しずつ変化するセッションとしての面白さ。それがこのツアーの、ひとつの肝でもあったと思う。
ざっと振り返ろう。弦の爪弾きの音が静かに流れるなかで「Amazing」のロゴが紗幕に描かれ、それが消えるとステージ中央に立っていた志帆にスポットライトが。“世界でひとつの輝く光になれ”。ヒット曲「Beautiful」のサビ部分を志帆がアカペラで歌いだし、その伸びやかな歌声にたちまち心をつかまれた。バンド演奏が入って駆け上がるようなイントロで改めて曲が始まると、観客はみな大きく盛り上がって、1曲目にして既にクライマックスであるかのような状態に。2曲目は「フレア」。以前のアリーナツアーではアンコールに用意されていたこの曲もここで早速歌われ、あたたかな空気が会場を満たした。
ここから『Amazing』収録のカバーを4曲。back numberの「SISTER」、Mr.Childrenの「彩り」、嵐の「果てない空」、玉置浩二の「メロディー」。「彩り」の“ただいま おかえり”の志帆の声が優しかった。また「彩り」ではアトリエの窓がステンドグラスとなってその赤や黄色や緑がステージにも。「果てない空」ではその窓の向こうに青空と雲が見え、この歌の“消えない思い”が確かに伝わった。「メロディー」は小さなくつろぎの場であるかのような高台へと階段をのぼり、椅子に座って歌われた。10代の自分に語り掛けるかのように。
もうひとつの高台へとのぼって歌われた7曲目はSuperflyのオリジナル曲「輝く月のように」だったが、これが震えるほどに素晴らしかった。鶴谷崇のピアノソロに始まったそれは、ブルージーともジャジーとも言える彼のアレンジによって完全に生まれ変わり(志帆曰く「こんなに化けました!」)、志帆は曲に入り込んで実にエモーショナルに歌唱。とりわけこの日は志帆の手応えが強かったようで、「今日、すっごいよかったですよね?! 私もめちゃくちゃ盛り上がっちゃった。7000人のお客様のおかげです」と話していた。実に新鮮かつ感動的なアレンジと歌唱。いつかこのアレンジで再録音してほしいくらいだ。
「感動的な曲が続きましたけど、ここからはあげていきますよ。みんな涙を汗に変えて盛り上がっていきましょう。よろしく!」。その言葉の通り、ここからアップテンポの曲を4曲続けて。「Ashes」「タマシイレボリューション」「Alright!!」、そして星野源の「Crazy Crazy」だ。「タマシイレボリューション」から「Alright!!」の流れは、メスライオンと化すロックな志帆を待っていた人たちはもちろんのこと、みんなが立ち上がって高く挙げた腕を振り、八橋義幸は前に出て熱いギターソロを。曲終わりの玉田豊夢の激しいドラムソロを前に、志帆は飛び跳ねたりクルクル回ったりもしていた。そして「みんな、クレイジーになってる?」「メンバーにも、もっともっとクレイジーになってもらいませんか?!」と煽った上での「Crazy Crazy」。その言葉を受けてメンバー全員がクレイジーなソロ演奏を表現し、スクリーンにはそれぞれのクレイジーな写真も映し出されて楽しさが倍増した。さらにコーラスに向かって志帆が「ネコ!」と指示すると、稲泉りんに合わせて観客みんなが猫声でニャアニャアとシンガロング。本気で笑い出す志帆だった。
そんな楽しいムードから一転、続く「Charade」はこのツアーで初めて演奏された組曲的なシングル曲だ。名越由貴夫のライブアレンジによって、音源よりもサイケデリックな色合いが前面に。妖しくもパワフルなこの「Charade」、ライブでこそ真価を発揮する曲なのだなと実感した。続く小田和正の「たしかなこと」とONE OK ROCKの「Wherever you are」は、“しっとり”と“ドラマチック”という温度の違いこそあれど、どちらも志帆の歌唱表現の豊かさがストレートに前に出たものだった。と同時に、コーラスふたりの(前者は)繊細な表現、(後者は)ダイナミックな表現が効いてもいた。歌の力というものを強く感じた。
「みんなで一緒に歌いましょう」と言って始めた代表曲「愛をこめて花束を」は、この日もあたたかかった。7000人が手を横に振りながら一緒に歌っていた。そして本編最後の曲はMrs. GREEN APPLEの「僕のこと」。内省して自身に問うように静かに歌う部分と、「ああ なんて素敵な日だ」と高らかに歌い上げる部分、その抑揚によっての引き込み力は音源以上だった。
アンコールは志帆も言っていた通り、サプライズな曲が用意されていた。アルバム『Amazing』に収録されていないカバーが2曲あったのだ。ひとつは、以前テレビの音楽番組で秦基博とのデェユットで歌われたスピッツの名バラード「楓」。ライブでは初披露で、しかもここではコーラスのふたり…竹本健一と稲泉りんを大フィーチャー。志帆、竹本、稲泉と順に歌い、そしてその3声が重なったときの美しさといったら! ここで涙した人も多かったのではないだろうか。もう1曲は竹内まりやの「Sweetest Music」。Superflyは2015年発表作『WHITE』の初回限定盤付属ミニアルバムで好きな邦楽曲をカバーしていたが、そのなかの1曲だ。ディスコなノリのこの曲でも竹本と稲泉のコーラスが効いていて、志帆は気持ちよさそうにダンス&シンギン。「今回は『Amazing』に収録されていない曲もいっぱい演奏させてもらって。平日にも関わらず7000人もこの会場に来てくれて、みんなが楽しそうにしてくれている姿を見ると、私もどんどん力が湧いてきて、本当に幸せだなぁと思いました」。さらに「アルバムを制作する前には男性が作った曲をカバーすることに対して、男心というものを自分がちゃんと理解して表現できるのか不安を覚えていました。でも曲とだんだん仲良くなって繋がっていくうちに、男性が書いた曲なのに不思議と母性を感じる曲があったり、自分もこういう大人になっていきたいと思える女性像が見えてくる曲があったりして、音楽って性別とか肩書とかを簡単に超えていくすごいものなんだなと感激することがいっぱいあったんです。孤独な闘いも長かったけど、カバー曲と向き合ったことは私にとってかけがえのない豊かな体験になりました。なんか大きなご褒美をいただいたような気がしています。これからも自分らしく、かっこよく生きていきましょう」 と話し、最後はSUPER BEAVERの「人として」をスマホによる撮影をOKにして歌唱。シンガーとして、人として、かっこよく生きている志帆の姿がそこにあった。
セット、演出、照明、音響、アンサンブル、アレンジ、歌唱、構成、さらには観客との一体感まで。あらゆる面でホール・ツアーの醍醐味を感じさせたこの“Amazing Session”を通して彼女が得たもの、吸収したものは、とてつもなく大きいはず。それが次の作品にどう反映されるのか、気の早い話ではあるが、今からそれが楽しみだ。
(TEXT:内本順一)
■ 「Superfly Hall Tour 2025 “Amazing Session”」 セットリスト
11月5日(水)東京ガーデンシアター セミファイナル公演
Beautiful
フレア
SISTER <back number>
彩り <Mr.Children>
果てない空 <嵐>
メロディー <玉置浩二>
輝く月のように
Ashes
タマシイレボリューション
Alright!!
Crazy Crazy <星野源>
Charade
たしかなこと <小田和正>
Wherever you are <ONE OK ROCK>
愛をこめて花束を
僕のこと <Mrs. GREEN APPLE>
― Encore ―
楓 <スピッツ>
Sweetest Music <竹内まりや>
人として <SUPER BEAVER>
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