10月30日、渋谷WWWにてSOMETIME’Sがワンマンライブを開催した。本来、今年6月に東阪ツアーの一環として開催される予定だったライブだが、当時の新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑みて開催延期に。4ヵ月の時を経ての待望の開催となった。この4ヵ月の間に、SOMETIME’Sは1stフルアルバム『CIRCLE&CIRCUS』もリリース。振替ツアーは装い新たに「CIRCLE&CIRCUS Release Tour 2021」と銘打たれ、新曲も増えて、その世界観をより豊潤なものにしたSOMETIME’Sの現在地を伝えるライブが、この日、渋谷WWWでは展開された。
10月30日といえば、ハロウィン前日。そして、今年は衆議院議員総選挙の投票日の前日。東京は緊急事態宣言も解除されたばかりで、なんとなく気持ちの置きどころが定まらない気分の人も多かったであろうこの日、渋谷の街の一角でSOMETIME’Sが生み出したのは、気の置けない仲間たちと音楽を楽しみ、そして語り合うような、親密で温かな空間だった。
彼らが育み続けてきた音楽の輪(CIRCLE)が、その純度を損なうことなく、誰をも疎外することなく、私たち聴き手にも開かれている。そんな優しい温度を、体全体で感じることができる空間。この日のステージに立ったのはSOMETIME’Sの正式メンバーであるSOTA(Vo)とTAKKI(Gt)のふたりに加え、冨田洋之進(Dr、Omoinotake)、佐々木恵太郎(Ba)、清野雄翔(Key)、大泊久栄(Tp)、永田こーせー(Sax)、ぬましょう(Per)、そして、SOMETIME’Sの作品にアレンジで参加している、「第三のメンバー」と言うべき存在の藤田道哉もマニピュレーターとして参加。7人ものサポートメンバーを加え、総勢9人が音を奏でた。
ゆるやかに繋がりながら、寄り添い合いながら、一人ひとりがディティールとして、個を超えた、より大きな音楽を生み出していく……そんなステージ上での彼らの姿を見ていると、SOMETIME’Sという名称はSOTAとTAKKIのふたりを指すと同時に、彼らの周りに集う音楽家たちのコミュニティ全体を指す言葉としても機能するのだ、と思えてくる。SOMETIME’Sとは、人や音の居場所のようなものなのだ。
ステージ上に演奏者たちが集い、TAKKIの「SOMETIME’Sです。よろしくお願いします」という言葉と共にライブはスタート。1曲目は、アルバム『CIRCLE&CIRCUS』収録の「SUNRISE」。煌びやかで躍動感あふれるサウンドが会場を包むと、続く「シンデレラストーリー」では、華やかながら、しっかりと肉体感もあるバンドのアンサンブルが体を揺らす。3曲目「My Love」では、永田はタンバリン、大泊はクラベスにと、ホーン隊がそれぞれ打楽器に持ち替え、細かく、しかし大らかに弾むグルーヴを生み出していく。たくさんの音が鳴っているが、決して装飾過多ではなく、ステージ中央で全身を使い歌うSOTAと、曲によって饒舌に表情を変えていくTAKKIのギターを軸に、しなやかで身体性溢れるサウンドが会場である渋谷WWW全体に響きわたる。
最初のMCでは、SOTAが「今日、皆さんが持っている緑色のそれは……ネケン(ハイネケン)ですよね?お酒が出ていますよ、ライブハウスに!」と言って観客にも拍手を促す。そして続けて、「感慨深いね……帰ってきたね、ライブハウスが」と、しみじみと語る。入場時の検温やマスク着用の徹底、声出し禁止、ソーシャルディスタンスのためにフロアの床に升目が付けられるなど、感染対策は変わらず徹底して行われているが、同時に、緊急事態宣言の解除と共に酒類の販売も再開し、少しずつではあるが、ライブハウスが元の形に戻りつつある……そんな期待も感じさせたこの日。
もちろん、まだ楽観的なことが言える状況ではないが、SOTAは今日という日を迎えることができた喜びと、この先への祈りを噛み締めるように、こう語る。「もちろん、いろいろありますよ。まだ予断は許さないし、全然当たり前の感じではない。皆さんそれなりの覚悟を持って今日は遊びに来てもらったと思います。でも、(メンバーを見渡して)こちらも見ての通り、溜まりに溜まっていますから。今日はいい夜にしましょう!」。そして、バンドは「It’ OK」を奏で始める。穏やかなポップネスが心地いい甘いラブソングだが、この日は、その「It’s OK」という言葉がより大きな勇気と肯定の言葉のようにも感じられた。
ホーンのふたりが一旦ステージを去り、雷雲の轟のような音が会場に響きわたると、始まったのは「Raindrop」。続く「Get in me」、そして「HIPHOPMAN」も含めSEも駆使した演出で、SOMETIME’Sの表現力の豊かさを感じさせる。そして、再びホーン隊も加え9人編成で「Take a chance on yourself」へ。バンドのダイナミックな演奏に観客から溢れる手拍子も重なり巨大なカタルシスを生み出す。曲が終わり、SOTAとTAKKI以外のメンバーがステージを去ると、再びMCタイム。先にも書いたようにこの日は衆議院議員選挙の投票日前日だったが、渋谷WWWでは投票証明書を提示するとドリンクチケットがもらえる「センキョ割」が実施されており、SOTAは「緊急事態宣言明けたてなのに、渋谷WWWさんは最高だなと思います」と、会場への賛辞を伝えた。
TAKKIは0泊3日のバス旅となったというツアー期間を振り返り、「大変だったけど、楽しかったよ」と語る。そして、「いくつになっても泥臭いよなあ……」としみじみしていると、SOTA曰く、この日のライブのモニターPAはSOMETIME’S結成以前から親交のある人物だったらしく、そのPA氏に「お前らはお洒落なことをやろうとしているのかもしれないけど、横浜の泥臭さが抜けきっていないところが最高にいいな」と言われたことを、嬉し恥ずかしそうに語っていた。
彼らの人となりが見える楽しくも緩いMCが終わると、「迎灯」をSOTAとTAKKIのふたりだけで披露。TAKKIが奏でるアコギの繊細な響きとSOTAの声が重なり、SOMETIME’Sの包容力溢れる大らかな音楽世界の源泉が、目の前に現れる。徐々に認知を広げ、スケールを大きくしていくSOMETIME’Sだが、その表現の根幹には、常に「ふたり」というミニマムな関係性がある。未完成で、不器用な、ふたりの人間が、お互いの強さと弱さを受け入れ合う……そうやって生まれたSOMETIME’Sの音楽の根源、SOMETIME’Sの音楽の秘密。ふたりだけの「迎灯」の演奏は、その秘密に素手で触れるような、生々しくて尊い響きがあった。そしてキーボードの清野が加わり、3人で「KAGERO」へ。清野が奏でる美しい旋律が、今この渋谷WWWの場に立つSOTAとTAKKIのふたりを祝福するように包み込む。
「KAGERO」が終わると、再び他のサポートメンバーもステージに戻り、9人編成で「Stand by me」へ。リズム隊のソロ回しもキマり、人と人が音を重ねることの喜びがステージ上から溢れ、会場全体を覆う。
多幸感溢れる「Stand by me」の演奏が終わると、TAKKIが「あと2曲で終わります」と告げる。そして、「2年間くらいコロナですけど、皆さん元気にやれてます? 僕は、あまりメンタルが強い方ではなくて……でも、この人、面白いでしょう?」と言ってSOTAを指さすと、その言葉に同調するように、会場からは大きな拍手が起こる。「隣にこんなに面白いボーカルがいたから、僕はこの状況を乗り越えることができた気がしています。コロナになる前にSOMETIME’Sが始まってよかったです。ふたりだから超えることができたって、本気で思っています。この苦しい世の中で、もし音楽の力を借りたいときに“僕たちは辞めない”という決意の歌を書いてきました」――そんなTAKKIのMCに続いて始まったのは、アルバム『CIRCLE&CIRCUS』の最後を飾る「You and I」。
<You and Iで雨の中もまたSkipではしゃぐ>――TAKKIの綴った生き様が、SOTAの体の抑揚を通して響く。絶頂へと向かって9人のアンサンブルは駆け出し、観客も手拍子でそれに加わる。ひとりがふたりへ、そして「ひとつ」へ。ひとりはひとりぼっちのままだろう。ふたりはふたりぼっちのままだろう。それでも音楽は輪を生み出す。そこにいる人々を繋いで、一体感を生み出していく。
「You and I」の勢いを引き継ぐように、「Honeys」を披露。熱狂の中で本編を終えると、アンコールへ。SOTAは自分たちに関わるすべての人たちに対し、「ふたりだけでは僕らはなにもできないんです。本当にありがとうございます。みんなで1個の輪として、一緒に大きくなっていきましょう」と感謝を告げる。「ふたりだからできたこと」、「みんながいたからできたこと」。この日、ステージ上でTAKKIとSOTAが重ね重ね語ったこれらの言葉が、SOMETIME’Sというバンドがどういうものかを物語っているのだろう。「ひとりじゃ生きられない悲しみ」が、「誰かと共に生きる喜び」へと至る道。その道程こそが、SOMETIME’Sの音楽なのだ。アンコールでは「Slow Dance」と「Morning」を披露。SOMETIME’Sの覚悟、愛嬌、勇気、悲しみ、喜び……すべてが音楽となって響いた夜だった。
(おわり)
取材・文/天野史彬
写真提供/ポニーキャニオン