色とりどりのビニール傘がまるでアーチのように、ステージ上空で弧を描いている。その可愛らしくファンタジックな飾り付けは、グランドキャバレーを改装して作られた会場の、昭和の洋館的な佇まいと絶妙にマッチし、非日常空間を開演前から演出していた。
シンガー・ソングライター/ギタリストのReiの自主イベント「Reiny Friday -Rei&Friends - Vol.15」が、10月27日、東京キネマ倶楽部で開催された。15回目を数える今回は、シンガー・ソングライターの吉澤嘉代子がゲスト。プライベートでも親交の深い2人による終始和やかな一夜となった。
定刻となり、客電が落ちると同時にどこからともなく雨音がしとしとと聞こえてくる。すると、メインステージ左側に設置されたサブステージから、カラフルなビニール傘を指した赤いワンピース姿のReiがギターケースを抱えて登場。客席から大きな拍手が巻き起こる中、あいにくの雨に困った表情を吐く打って見せたReiは、階段を降りてメインステージへと移動する。ケースからアコギを取り出しおもむろに爪弾きながら、「こんばんは、Reiです」と挨拶をすると、再び拍手と歓声が会場内に響き渡った。
「今日も大好きな音楽仲間が遊びに来てくれます。最後まで楽しんでいってください」と言って、まずはイベントのテーマソングでもある「Rainy Monday Blues」を弾き語りでしっとりと、かつブルージーに歌い上げる。続いてバンドメンバーの伊藤大地(Dr.)、真船勝博(Ba.)とともに、2018年の1stアルバム『Rei』に収録された、自身のマニフェストともいうべきナンバー「My Name is Rei」を演奏した。ジェームス・ブラウン仕込み、フラット9thのファンキーなカッティングに導かれて百戦錬磨のリズム隊がタイトなグルーヴを繰り出した瞬間、体が自然と踊り出す。<投げ出したくなるけどめげないで そうさ夢を叶えるまで>という、彼女の決意表明でもありオーディエンスへのエールでもある歌詞が胸に熱く染み渡った。
スライ&ファミリー・ストーンの「Dance To The Music」、あるいはプライマル・スクリームの「Rocks」もかくやと言わんばかりのファンキーチューン「MOSHI MOSHI」は、ダイヤル式の電話をかけるジェスチャーがユーモラスで可愛らしい。しかし演奏のボルテージは上がっていく一方で、自己紹介がてらメンバー各々がキレッキレのソロを順番に披露し早くもライブは最初のピークを迎えた。
ラッパーのRyohuとのコラボ曲「QUILT」は、リズムが縦横無尽に変化していくプログレファンクチューン。ソリッドなギターカッティングをしながら高速ラップも同時に披露する超絶テクニックには、ただただ圧倒されるばかり。さらに、ビートルズ「Birthday」のカバーでは、赤いリッケンバッカーを抱えたReiが、歌詞に出てくる<Birthday>というフレーズを<Friday>に替えて歌ったり、コーラスパートのシンガロングをオーディエンスにうながしたりと、持ち前のサービス精神を遺憾なく発揮していた。
するとサブステージから、Reiと同じく赤いワンピース姿の吉澤嘉代子がビニール傘を指して姿を現した。<夢で逢えたってしょうがないでしょう>と歌われる、吉澤の存在を世に広く知らしめた名曲「未成年の主張」をReiバンドを率いて歌う吉澤。ギブソンのアコギをかき鳴らし、Reiとともにぴょんぴょん飛び跳ねながら楽しそうに歌う彼女の姿にオーディエンスの頬も緩む。
「私たち、長らく友達で……」とReiが照れ臭そうに吉澤の顔を見ると、「私が泣きべそをかきながらReiちゃんに電話をしたら、スイカを持って終電で家まで来てくれたこともあったよね。あの時はありがとう」と、ほっこりするようなエピソードが吉澤の口から語られた。また、もともとは「とある映画のオーディション」でReiが吉澤に声をかけたのが最初の出会いだったこと。その時に吉澤が「勇気を出して」連絡先を書いた紙をReiに渡すも、それ以来全く連絡がなかったことなど、出会ってからの馴れ初めをユーモラスに語り合い、客席の笑顔を誘っていた。
「そんな私たちは、好きなものも似ていて。この曲も大好きだよね。みなさんも知っていると思うので、ぜひ一緒に口ずさんでください」とReiが言って披露したのは、松任谷由実「ルージュの伝言」。Reiが「アン、ドゥ、トロワ」とフランス語でカウント、ポール・アンカを彷彿とさせるオールディーズ風のバンドサウンドがノスタルジックな気分を誘う。ファルセットと地声を巧みに使い分け、時おり「しゃくり」を入れた吉澤のキュートな歌声は、この曲の雰囲気にぴったりだ。
「友だちとライブするの、楽しいね」吉澤が笑顔でそう言うと会場からは大きな拍手が。「いつもはクールぶってるんだけど、今日はデレデレしてます」と、Reiも満面の笑みで明かす。確かに今日は、普段のライブとは違ったReiの表情を垣間見る瞬間が多かった。そんなReiが吉澤から「作家」として影響を受け、吉澤もReiのレパートリーの中で特にお気に入りだという「Categorizing Me」をここで演奏。〈女の子ってだけで弱虫扱い〉〈いつかきっと肩書きにまみれ しぼんで消えてしまうidentity〉と歌われるこの曲は、性別や肩書き、年齢などで一方的にレッテルを貼られてしまうことへの悲しみや失望を、美しくメロウなサウンドに乗せて歌いつつ、〈その色眼鏡はずしてみたら この世界は想像以上にbeauty〉とその先の一縷の希望も指し示すReiの最高傑作の一つだ。
雨の中で立ち往生する吉澤を、「Reiちゃんタクシー」なるタクシー会社の運転手Reiが拾いにくる……という微笑ましい寸劇のあとは、吉澤の人気曲「地獄タクシー」を披露。昭和ジャズなアレンジは、東京キネマ倶楽部との相性も抜群だ。伊藤のタイトなドラムと真船のウォーキングベースが一糸乱れぬリズムセクションでグイグイと楽曲をひっぱり、吉澤は抜けるようなハイトーンボイスから、凄みのある地声まで表現力豊かに使い分ける。そして、Reiの火を吹くようなギターソロが空気を切り裂くと、会場は熱狂の渦に包み込まれた。
ここからは再びReiと伊藤、真船のスリーピースに。「失ってからではないと気づかない、目の前にある大切なものに気づくためのリマインダーになったら」という思いで作った新曲「Sunflower」は、Reiが山下達郎や大滝詠一らに影響を受けながら作り上げた、これまでになくポップな曲だ。そして藤原さくらとコラボした「Smile !」を、会場にいるオーディエンス一人ひとりに笑いかけ、語りかけるように披露した。
グレッチの白いギターを振り回しながら「ORIGINALS」を熱唱し、ライブはいよいよラストスパートへ。イントロが鳴らされた瞬間に会場がわいたスリリングなブルース曲「Lonely Dance Club」、コール&レスポンスで会場と一体になった「JUMPIN’ JACK JIVE」、そしてファンキーな「COCOA」と立て続けに演奏。本編ラストは「What Do You Want ?」で締めくくった。
「今日はみなさんの表情や歓声をいっぱい受け止めて、勇気と元気をいただきました。こういう、音楽と笑顔があふれた健やかな時間ってすごく尊いものだと思っています。みなさん、それぞれに人生や生活、現実があって、誰にも打ち明けられない悩みやイライラ、怒り、悲しみを、毎日ちょっとずつ捨てながらなんとか生きているんじゃないかなと思うんです。もちろん、そんな人ばっかりじゃなくて、毎日ハッピーっていう人もいると思う。それはもちろん素晴らしいことだけどね。ともかく、それぞれが何かを抱えて生きているからこそ、ここではそれを全部手放して、みんなで笑顔になることが超尊いことだと思うんです。今日は感動しました。ありがとうございました」
鳴り止まぬアンコールに応え、再び登場したReiがそう挨拶すると、会場からはあたたかい拍手が。そして、吉澤と二人で「東京絶景」を歌い、最後にバンドメンバーも呼び込み全員で「BLACK BANANA」を演奏してこの日のライブに幕を下ろした。
プライベートでも交流があり、作家としてもリスペクトし合う二人が、ふだんあまり人前で見せることのない、お互いの魅力を引き出し合う。今日の「Reiny Friday -Rei&Friends - vol.15」は、Reiと吉澤のプライベートトークに特別に招待されたような、そんな優しく親密なひと時だった。
(おわり)
取材・文/黒田隆憲
写真/垂水佳菜
Rei presents "JAM! JAM! JAM!" 2023LIVE INFO
2023年11月29日(水)ビルボードライブ大阪(1st/2nd)
2023年12月9日(土)ブルーノート東京(1st/2nd)
LINE UP/Rei(Vo./Gt.)、三浦淳悟(Ba.)、吉田佳史(Dr.、TRICERATOPS)、TAIHEI (Key.、Suchmos、賽)
Rei『VOICE』
2023年11月29日(水)発売
Deluxe Edition/UCCJ-9247/5,080円(税込)
Standard Edition/UCCJ-2231/2,530円(税込)
Reiny Records / ユニバーサルミュージック