「今年から、再スタートした感じがする」

アンコール開けのMCで、ミヤ(Gt)が語った言葉だ。結成から27年となるバンドのリーダーが、そう簡単に口にできる言葉ではない。

その言葉どおり、ベテランとして落ち着くどころか、2024年のMUCCは挑戦を続けている。

3度目のメジャーデビューという新天地はもちろんのこと、初の「昼公演」を含むツアー「MUCC TOUR 2024『Love Together』」では、

ヴィジュアル系シーンの後輩バンド10組をサポートに迎えた。

幅広いジャンルのバンドと共演してきたMUCCだからこそ、ここまで“直系”の後輩たちと交わるツアーはかつてない。

発端には「ヴィジュアル系シーンを盛り上げたい」という想いもあっただろう。

しかし、各公演でセッションを盛り込むなど密に交わった結果、後輩たちが抱く野心とシーンへの愛、

彼らに影響を与えてきたMUCCへの愛をたっぷり感じ、想定していた以上の刺激を受けたはずだ。

メジャーデビューシングル「愛の唄」から始まり、「Love Together」という一見MUCCらしからぬストレートなタイトルが導いた新しい旅。

そのファイナル公演・YOKOHAMA Bay Hallでのワンマンライヴは、ツアーで生まれた想いが結実し、まさに「愛」に満ちたステージとなった。

 

ガンガンに太陽が照りつける外の猛暑に負けじと、期待の熱気が立ちこめるYOKOHAMA Bay Hall。

暗転し、SE「新世界」とともにYUKKE(Ba)、ミヤ、サポートメンバーのAllen(Dr)、最後に逹瑯(Vo)がゆっくりと姿を現した。

黒のサスペンダーに白シャツという統一感のある衣装もすっかり馴染み、4人が並ぶだけで空気が変わる。

ミヤが爪弾く不穏なフレーズを合図に、「星に願いを」で早速ヘヴィな音の塊が解き放たれた。

逹瑯は骸骨マイクを装備した短いマイクスタンドをステッキのように操りながら獰猛にシャウトし、

YUKKEが地響きのような低音でアンサンブルを牽引する。

「懺把乱」でさらなる闇に引きずり込み、「サイコ」ではオーディエンスのシンガロングも加わって室温はどんどん上昇。

ベイホールは客席エリアがステージを取り囲む構造のため、オーディエンスとの距離がかなり近い。

メンバーも身を乗り出して煽り、あっという間に灼熱の空間を作り上げた。

 

赤い照明に照らされてサイレンが鳴り響き、「サイレン」へ。重くタイトなリズムで踊らせ、激しいだけでなく妖艶なムードが充満していく。

最後の一節を「♪さぁ今すぐに目を潰して“愛の唄”を」とアレンジし、そのまま「愛の唄」になだれこんだ。

表情や指の先まで使い、時に跪きながら、歌詞に描かれた歪な愛憎ドラマを表現する逹瑯。

分厚いグルーヴが会場を席巻し、じっとりとまとわりつく色気に飲み込まれる。

ツアー開始当初には新曲としての目新しさがあったこの曲も、ツアーを通して成熟し、世界観がより濃密に仕上がっていた。

改めて、ルーツへのオマージュに“過去”、サウンドアレンジに“現在”、愛のメッセージにMUCCの“未来”が刻まれているようで、

噛めば噛むほど味が変わる奥深い1曲だ。

「愛の唄」が、2024年のMUCCにとっても、「Love Together」ツアーにとっても、重要な起爆剤となったことは間違いない。

 

「『Love Together』ファイナルへようこそ。思いっきり愛しあってくれますか?」(逹瑯)

 

観客の上に逹瑯が背中からダイブした「G.G.」に続き、疾走ナンバー「商業思想狂時代考偲曲」でモッシュやリフト、ダイブが続出。

歌謡ジャズ「1979」でもモッシュの渦が発生し、ステージとフロアの境目がなくなっていく。

ミヤのムーディなギターソロと、アップライトベースで奏でるYUKKEのベースソロの掛け合いには大歓声が上がった。

メンバーの生誕年を意味する「1979」に、メンバーの青春である90年代モチーフがちりばめられた「Violet」を繋ぐ展開にはニヤリとさせられた。

曲調も歌詞もまったく違うけれど、自らの歴史を自らの手法で料理するところに、

MUCCの変わらぬ核がある。歩いてきた道程はすべて、彼らの糧となっているのだ。

 

きらびやかな90年代から一転、「別世界」でタイトルどおり異次元に飛ばされた。

モノトーンの照明の下、淡々と刻むリズム隊に浮遊感溢れる逹瑯のヴォーカルが乗り、

ミヤが掻き鳴らす情熱的なギターソロも相まってサイケデリックな世界が繰り広げられる。

曲が終わると、さきほどまでの熱狂が嘘のように無音の空間が残った。この落差がMUCCのライヴの醍醐味だ。

その無音を切り裂いたのは、「流星」の始まりを告げるミヤのアルペジオ。

ドロドロとした情念を一気に浄化し、美しいメロディが夜空の彼方へと誘う。

時空を越え続けたセットリストの先に、どこまでもピュアな愛が胸に宿った。

 

「本当に、めちゃくちゃいいツアーでした。参加してくれたバンド、そして、ライヴに参加してくれたあなたたち。ありがとうございます! 

友だちがたくさんできたツアーでした。君たちにもいい出会いになっていたらいいなと思っております」(逹瑯)

 

逹瑯がツアーの充足感を語ったあと、「睡蓮」でもう一度ギアを上げ、ラストスパートをかける。

声を上げるオーディエンスに、ミヤが「聞こえねえぞ、横浜! もっと!!」と煽り、

逹瑯は客席に半身を預けながら「もっと愛しあおうぜ!」と焚きつける。

「茫然自失」「娼婦」とキラーチューンの連投で、モッシュもダイブもますます加熱していく。

アッパーな「SLAVE」を経て、「ライヴって……生きてるって感じすんね!」と叫んだ逹瑯の言葉に、会場にいた誰しもが深く共感したに違いない。

ポジティブなエネルギーが漲る「My WORLD」でピースフルな雰囲気に包まれたのも束の間、本編ラストに荘厳なアンセム「TONIGHT」が投下された。

渦巻く轟音に揉まれ、メンバーもオーディエンスもすべてを出し切って清々しいエンディングを迎えた。

 

「いいツアーでした。ありがとう。(ツアー中に)45歳になって……恥ずかしいこと言いますけど、一緒に音を鳴らせる仲間っていいなと思いました。

バンドも、二十歳くらいの頃から基本変わってないなと思った。……MUCCって変なバンドだよね」(ミヤ)

 

アンコールの声に応え、いちばんに登場したミヤがツアーを振り返って語った。このあとに、冒頭に引用した「再スタート」という言葉が続くことになる。

新しいことに挑戦にしていく意欲が生まれるのは、その地盤にしっかりとバンド愛があるからこそ。

「変なバンド」という表現に滲む愛情に、夢烏(=ファンの愛称)が温かい拍手を贈った。

 

全員が再び揃うとツアーの思い出話に花が咲き、“拳ヘドバン”や“横モッシュ”といった若手ヴィジュアル系バンドのノリが話題に。

ミヤがYUKKEに「横モッシュの曲作ってよ」と言い出したり、

逹瑯が「俺がお立ち台の上でフリ始めたらどうする?」と茶化したり、いろいろな発見があったことが伝わってきた。

同時に、過去に対バンしてきたパンク/ラウドバンドから今回の若手ヴィジュアル系バンドまで、

あらゆるノリを網羅してきた夢烏はすごい、という結論に至るところに、かけがえのない愛を感じた。

 

11月からの新たなツアー『MUCC TOUR 2024 「Daydream」』の解禁も含め、長尺のフリートークでツアーの余韻を噛み締めたMCタイム。

最後に「Allenは何か言い残したことない?」というミヤのフリから、

話し始めたAllenが突然「いくぞー!」と煽り、3人が慌てて準備するという予想外の展開へ。

Allenとの絆や信頼関係もまた、ツアーを重ねるごとに進化しているようだ。

YUKKEが煽りとベースソロをキメるのがお馴染みの「YOU&I」、

逹瑯がフロアに下り立ちウォール・オブ・デスを起こした「MAD YACK」とアグレッシブなナンバーを畳みかけ、

残りの体力を搾り出させていく。トドメにミヤが「悔いを残すなよ!!」と「蘭鋳」を放ち、狂騒はピークに達した。

 

「これからも一緒に愛し合って、一緒に殺し合って、一緒にくたばっていこうじゃないか! 深い愛を持って……全員死刑!!」(逹瑯)

 

曲間のブレイクで逹瑯からの熱い愛の告白を受け取り、モッシュやヘッドバンギングで圧巻の光景を作り上げた夢烏たち。

ステージにもフロアにも笑顔と汗が溢れる中、「Love Together」は幕を下ろした

 

ツアーは終わったが、9月16日にはアンティック-珈琲店-、キズ、YUKI-Starring Raphael-、lynch.を迎えての

MUCC主催イベント「LuV Together 2024」が控えている。

さらに、発表された『MUCC TOUR 2024 「Daydream」』は全国4ヵ所を回るツアーとなり、

ファイナル・水戸以外の東名阪では昼公演と終演後のトークライヴも開催されるという斬新な内容だ。

シーンの仲間や夢烏との絆を強め、まだまだ攻め続けるMUCCから目が離せない。

MUCC TOUR 2024 「Love Together」 2024年8月11日(日) YOKOHAMA BAY HALL SETLIST

1 星に願いを
2 懺把乱
3 サイコ
4 サイレン
5 愛の唄
6 G.G.
7 商業思想狂時代考偲曲
8 1979 
9 Violet
10 別世界
11 流星
12 睡蓮
13 茫然自失
14 娼婦
15 SLAVE
16 My WORLD
17 TONIGHT
 
En1 You & I
En2 MAD YACK
En3 蘭鋳

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