開演時間が近づくと客席は暗転、スクリーンには在りし日の岡田 徹が映し出される。やがて会場にはキーボードの音が流れ、メンバーが下手より入場。スクリーンにはYAMAHA製のショルダー・キーボードでインプロビゼーション演奏をする岡田 徹の映像が映る。これに合わせてメンバーも各々の楽器で演奏を始める。かつて岡田がいたステージ最下手位置には鈴木慶一が立つ。岡田とメンバーの時空を超えたインプロビゼーション共演は7分弱にも及び、映像が終わると1曲目「涙は悲しさだけで、出来ているんじゃない」に入る。1991年に発表したアルバム『最後の晩餐』に収められた岡田作曲のナンバーで、この夜のライブはスタートする。続く「いとこ同士」も岡田楽曲。鈴木慶一は歌詞の一言一言を噛み締めるように歌う。ここで鈴木慶一から、オーディエンスに向けて来場への感謝を告げ「今日は声出せるから、次の曲は皆さんも手伝って下さい」と「HAPPY/BLUE '95」へ。スカートこと澤部 渡と鈴木慶一が美しいユニゾンを聴かせる。
ムーンライダーズは3月15日に全編インプロビゼーションで構成されたアルバム『Happenings Nine Months Time Ago in June 2022』をリリースした。この夜は、各楽曲のイントロやアウトロ、もしくは間奏で即興演奏を披露。ギターの澤部 渡にキーボードの佐藤優介という盤石なサポートを得て、はちみつぱい時代の「月夜のドライヴ」(1973年)や、「My Name Is Jack」(1978年)、「天罰の雨」(2001年)で自由奔放なインプロビゼーションを聴かせる。懐かしいナンバーが2023年の現在と完全にシンクロし、新しい曲を聴いているように思わせるのがムーンライダーズの魔力。彼らの老練さここに極まれり!といった趣きだ。
「かしぶち哲郎が亡くなって10年になります」と切り出した鈴木慶一は、8月19日にかしぶちの名盤『リラのホテル』40周年を記念したライブの開催を発表。「ここからはかしぶち君の曲やります!」と、「Beep Beep Be オーライ」(1977年)を演奏。続く「Frou Frou」(1985年)は、ムーンライダーズのライブではお馴染みのナンバー。この辺りから静かに聴いていた客席も熱を帯び始め、「駅は今、朝の中」や「駄々こね桜、覚醒」とアップチューン・ナンバーをたたみ込み、盛り上がりも最高潮に。慶一からの「これ、みんな一緒に歌えるよ!」を合図に始まったのは再びの岡田徹曲「ダイナマイトとクールガイ」。照明も灼熱の南国を彷彿させる真っ赤に統一。サビの<ダイナマイトとクールガイ僕たち~愛を試す季節じゃない~>では、メンバーとオーディエンスが一緒に大合唱し、ステージと客席が一体となって岡田 徹を明るく偲んだ。「今日最後の曲です。最初で最後のゲストです!」と鈴木慶一が呼び込んだのは岡田紫苑。岡田 徹の娘でもあり、ユニットlittlle moaで活動するミュージシャンだ。このサプライズゲストに客席も大いに沸き、温かい拍手で迎える。ムーンライダーズと共に歌ったのはアルバム『月面讃歌』(1998年)に収められた原田知世作詞、岡田徹作曲の「幸せの場所」。かつて岡田のソロアルバムにlittlle moaとして参加した紫苑にとっても思い出深い楽曲だ。静謐さの中に、ほのかな熱を感じさせる彼女の歌声に客席も、じっと聴き入る。歌い終えると、深々とお辞儀をしてメンバーと一緒にステージを降りた。

アンコール1曲目は「Days of OPUS」。岡田 徹と白井良明、武川雅寛は立教大学の音楽サークル「OPUS」出身で、このサークル時代に書かれた曲でライブ初披露となる。このOPUSからはちみつぱいを経てムーンライダーズに発展する。いわば彼らの原点だ。ブギ調の豪快なロックン・ロールナンバーで再び客席を熱くさせる。「我々は演奏しますので、皆さんで歌って下さい」とラストは「イスタンブール・マンボ」(1977年)収録の岡田曲「さよならは夜明けの夢に」。スクリーンには歌詞が映し出され、オーディエンスはムーンライダーズの演奏に合わせ歌う。客席からはすすり泣く声も。曲が終わると鈴木慶一がメンバー紹介。最後に「岡田 徹!」と紹介するとスクリーンには岡田の写真が映し出されメンバーは15秒間の黙祷を捧げる。会場に流れたのは2011年の活動休止宣言の際に配信のみで発表された「Last Serenade」。最後、スクリーンに「Ciao=さよなら」と映し出され2時間10分超に及んだ岡田 徹を悼むライブは終了した。
(おわり)
取材・文/石角隆行

moonriders LIVE――2023年6月25日@恵比寿 The Garden HallSET LIST
1. 「涙は悲しさだけで、出来ているんじゃない」 作詞:鈴木慶一 作曲:岡田 徹 『最後の晩餐』(1991年)
2. 「いとこ同士」 作詞:鈴木博文 作曲:岡田 徹――『ヌーベル・バーグ』(1978年)
3. 「HAPPY / BLUE '95」 作詞:鈴木慶一 作曲:白井良明――『ムーンライダーズの夜』(1995年)
4. 「S.A.D」 作詞:鈴木慶一 作曲:武川雅寛、夏秋文尚、佐藤優介――『It's the moooonriders』(2022年)
5. 「天罰の雨」 作詞:鈴木博文 作曲:岡田 徹、白井良明 『Dire Morons TRIBUNE』(2001年)
6. 「無防備都市」 作詞:鈴木博文 作曲:鈴木博文――『カメラ=万年筆』(1980年)
7. 「ぼくは幸せだった」 作詞・作曲:鈴木博文――『月面讃歌』(1998年)
8. 「霧の10㎡」 作詞・作曲:鈴木博文――『青空百景』(1982年)
9. 「月夜のドライヴ」 作詞:山本浩美 補作詞:鈴木慶一 作曲:山本浩美 補作曲:鈴木博文――はちみつぱい『センチメンタル通り』(1973年)
10. 「My Name Is Jack」 作詞・訳詞:鈴木慶一 作曲:John Simon――『ヌーベル・バーグ』(1978年)
11. 「Beep Beep Be オーライ」 作詞・作曲:橿渕哲郎――『イスタンブール・マンボ』(1977年)
12. 「Frou Frou」 作詞・作曲:かしぶち哲郎――『ANIMAL INDEX』(1985年)
13. 「駅は今、朝の中」 作詞・作曲:鈴木博文――『ANIMAL INDEX』(1985年)
14. 「駄々こね桜、覚醒」 作詞・作曲:白井良明――『It's the moooonriders』(2022年)
15. 「ダイナマイトとクールガイ」 作詞:鈴木慶一 作曲:岡田 徹――『A.O.R.』(1992年)
16. 「幸せの場所」 with 岡田紫苑(littlle moa) 作詞:原田知世 作曲:岡田 徹――『月面讃歌』(1998年)
EN17. 「Days of OPUS」 作詞:白井良明、武川雅寛 作曲:岡田 徹、白井良明 ――『架空映画音楽集II―erehwonの麓で』(2012年)
EN18. 「さよならは夜明けの夢に」 作詞:鈴木博文 作曲:岡田 徹――『イスタンブール・マンボ』(1977年)
出演/moonriders(鈴木慶一、武川雅寛、鈴木博文、白井良明、夏秋文尚)、澤部 渡(Skirt)、佐藤優介

DISC INFOmoonriders『moonriders 45th anniversary THE SUPER MOON』
2023年7月26日(水)発売
Blu-ray/COXA-1320/7,700円(税込)
Columbia

moonriders『moonriders 45th anniversary THE SUPER MOON』
2023年7月26日(水)発売
DVD/COBA-7346/7347/6,600円(税込)
Columbia