2025年2月1日、Kroiが初のアリーナワンマンライブをぴあアリーナMMで開催した。このライブは「Kroi Live Tour 2024-2025 "Unspoil" at PIA ARENA MM」と題されている通り、昨年6月リリースの最新アルバム『Unspoil』を携えたツアーの一環かつ本編とは若干切り離されたものだ。ニューシングル「Jewel」のインタビューではツアー中盤には「いい意味で飽きてきた」「慣れて余裕が出てきた」という発言も目にしたが、まさにその“飽き”に自ら緊張感を加えるかのようにツアー本編とは異なるセットリストで挑みつつ緩急の効いたプレイで興奮をそそる。やりたいことをやって聴く人を増やしていきたいKroi流のバランス感覚があらゆる面で実現したライブだったのだ。
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暗転したステージに入場SEもなく登場した5人はいきなりインストセッションでスタート。初っ端からいい緊張感を自ら楽しんでいる。フュージョン調のセッションから自然に「HORN」に突入した。ユニークなのが内田怜央(Vo/Gt/Perc)のボーカルが入っても照明が明転するわけでもなくメンバーはシルエット状態のままだ。一瞬のブレイクにフロアの歓声の大きさを知り、アリーナの巨大さを実感する。シームレスに「Psychokinesis」、「Network」と時代を跨いだ選曲で届けられ、序盤から長谷部悠生(Gt)はステージ前方に出てソロを弾き、内田のシャウトが熱を帯びる。ほとんどメドレーと化した構成と明確にライブアレンジに変化した演奏に度肝を抜かれていると、「Balmy Life」のイントロが。ファンキーなギターリフに歓声のボリュームが上がり、千葉大樹(Key)お馴染みのトークボックスでのソロプレイは後半に新たなアレンジも追加され、曲中何度もピークポイントを作っていた。一気にフロアの熱量が上がったところにコアファンすら驚いたであろう「dart」を投入、ハードロックとグラムと90sのUKロックが混在したミクスチャー感で景色を変え、関将典(Ba)のスラップ、千葉のオルガンと短いソロ回しでも大いに湧かせた。
Photo by Daiki Miura
内田の「引くほど人がいる」とか、メンバーが口々に言いたいことを言うのはいつも通り。演奏とのギャップが凄まじく、MC明けはアルバムのモードを象徴するミディアムのグルーヴィな「Green Flash」で新たなセクションに突入する。全ての楽器がパーカッシヴな演奏でフィジカルに訴えかけてくる。そして3rd EP『STRUCTURE DECK』収録の「Finch」から引用した“ハッハッ・へッヘッ・フッフッ・ホホホ!”と声を合わせるイントロから「Monster Play」へ[1]。以前のツアーでもあった[2]益田英知(Dr)のギターソロがアリーナで復活した。「今日はみんなにギターを見せるため、人間から鬼になってここにやってきました」と、ホワイトブルース感満載のソロを弾きまくる。ドラムは元々ドラマーだった内田が担当する。何でもブルース好きな少年だった益田は当時は話しが合う友達はいなかったんだとか。ジョニー・ウィンターの魂を憑依させたギターソロでリベンジできただろうか。しかし若い、しかもこの日が初見のオーディエンスにとっては本当にこのバンドはなんでもアリなんだと感じたかもしれない。そこからのフォーキーさをまとった「明滅」のイントロへの移行もまた大いなるギャップを生んでいた。
再びのMCでは結成当初はTシャツを自らプリントしていたがグッズでスウェット上下を作るに至ったと長谷部が感慨深そうにしたものの、プライスが高額過ぎると価千葉が指摘。どうしてもメンバー同士の会話になることに「アリーナでもこのテンションで喋るからね」と内田が苦笑していた。
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驚くべき体感時間の速さで中盤に差し掛かると、再びセッション要素の濃いライブアレンジで「sanso」を披露。続くちょっと意外な選曲「Pass Out」は音数を研ぎ澄ましたアレンジで内田のラップとボーカルが際立ち、少し前までは本編ラストにセットされることも多かった初期のナンバー「Shincha」が、グッと艶っぽい演奏に進化し、後半にはムーディ千葉のピアノもフィーチャー、ラグジュアリーなエンディングに思わずため息が漏れた。かと思えば何の前振りもなく内田が“ぴあアリ”を連呼するショートチューンを挟み、何事もなかったように切なさと暖かさが迫る「帰路」を情感たっぷりに披露する。一見唐突なライブの運びも演奏の豊かさでアリにしてしまうのが現在のKroiなんだと妙に腑に落ちた。
それまで演奏とギャップの大きいMCをしてきた内田がようやくこのアリーナライブについて触れる。2月3日には結成7周年を迎える彼らに拍手が送られた後、アリーナでワンマンライブができることを「面白いことが起こっている」と表現。そしてオーディエンスに「その面白いことに加担してもらってありがとうございます」と、まるで他人事のようでいてここにいる人全てを当事者として巻き込む内田のスタンスにニヤついてしまった。MCの後半は益田に疲れが見えるなど、再びメンバー内の会話に戻ったが、そのテンションからラテン調のリズムにアレンジされた「侵攻」がライブならではのサプライズに。内田のスチールパンに似たエフェクトがほどこされたギターリフも耳を惹き、関がノワールな渋いベースフレーズでアウトロを彩った。5人の生音の抜き差しの醍醐味は次の「selva」でも際立ち、関と長谷部のソロの応酬でも大いに湧かせた。『LENS』からの3曲が今のアンサンブルの屈強さを明快にわからせてくれた部分もある。
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長めのインストがプログレっぽい荘厳さを醸す中、「Open your cave」のコーラスから「Sesame」に突入するスリルもすごい。熱を増す内田のボーカルに自然とフロアの興奮も増し、アウトロからそのまま「Amber」に繋げていく。琥珀をイメージしたアブストラクトな映像がラテンに止まらないこの曲のアレンジと混ざり未知の感覚に出会う。次も新作『Unspoiled』から「Hyper」を選曲。今回のセットリストの中でまとまったセクションになっていたが、むしろこのアルバムでの音を詰めすぎることなく緩急で聴かせるスタンスが新旧の曲のアレンジに波及していることを実感したのだ。今、メンバー5人が感じていることがビビッドに反映した演奏は何よりKroiのライブの醍醐味だ。後半、長谷部のレスポールの色気のあるソロを挟み、ますます熱を帯びる演奏と内田のシャウト。“ややこいややこいからほっとこう”のコーラス部分でオーディエンスにマイクを向けた内田は返ってきたボリュームに感嘆していた。白バックにステージ上がシルエットで浮かび上がったエンディングはこれ以上ないソリッドなカッコよさを演出しており、想像を超える目眩く場面に大きな拍手にアリーナが包まれる。
Photo by Kaito Ono
ずっといつものテンションでMCをしてきた内田が本編ラスト前に改めてKroiのスタンスを話す。曰く「やりたいことをやってKroiの音楽を聴く人を増やしたい。今後ともKroiをよろしくお願いします」と明言。思わず体が揺れるグルーヴ、ラップとエモーショナルなサビメロを持つKroiの特徴を音楽好きに知らしめた「Fire Brain」をチョイスしたのも熱い。曲中に内田は再び意思表明的に話し始め、「毎度言っておりますが、Kroiは行けるとこまで行きます。メンバー、スタッフ、そして来てくれるみんな、支えてくれてありがとうございます」と言った後、さらに踏み込んで「子どもの頃、死ぬのが怖くてそのことを考える時間が長くて、この世に分身を残そうと曲を書いていたんですよ。なので、聴く人が増えるのはマジで幸福なんですよ」と、ソングライターの本音を吐露。何かが弾けたように一心不乱にギターを弾き、最後にはうつ伏せで歯弾きまで見せ、止まらなくなった情動を解き放っているようだった。
アンコールではまさにこの日のライブを目撃した人冥利に尽きる、『Unspoiled』のシークレットトラック「トレンド」の初披露も。3Dされたモデリングメンバー画像が膨らんで破裂するなかなか怖い映像が目に焼きついた人も多いのでは。さらにフォーキーな側面や歌の表現が新鮮な新曲「Jewel」もこの先を予感させてくれた。大ラスは「Juden」でソロパートもふんだんに盛り込み、ラストも冒頭同様、メンバーのプレイヤビリティを発揮するセッションで締め括った。
なお、この日、2026年に開催される初のアリーナツアーも発表。昨年の武道館公演での「ここから行けるとこまで行く」発言が俄然具体性を帯びてきた。
(おわり)
取材・文/石角友香
写真/Daiki Miura、Kaito Ono
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Kroi Live Tour 2024-2025 "Unspoil" at PIA ARENA MM(U-NEXT)MEDIA INFO
見逃し配信/2025年2月9日(日)23:59まで
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Kroi『Unspoiled』DISC INFO
2024年6月19日(水)発売
CD+Blu-ray/PCCA-6293/6,050円(税込)
CD+DVD/PCCA-6294/6,050円(税込)
CD/PCCA-6295/3,080円(税込)
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