若い男性、続いて女性ファンが圧倒的に多い会場内。エレクトロニックなアンビエントのSEが流れる暗闇の中、3人が登場するとすかさず立ち上がって拍手するオーディエンス。フロントでファンと対峙する片桐(Vo/Gt)は白いトップスのデザインがどこか羽根のように見えて、伝令を届ける使者のような佇まいだ。淡々と独白するような「悲しいほどに毎日は」でスタートし、ヤスカワアル(Ba)のリフが歌に彩りを加える「Twilight」はHakubiのアンサンブルの根っこにあるマスロックの要素も感じる。耳に入ってくる片桐の言葉は打ち砕かれた夢を前にして、それでも前を向いて歩いていくその先に差し込む「光」を不確かな世界を彩る「希望」として描く。続く「夢の続き」で、時間が逆再生されるように、夢を見ていた幼い自分を踏まえて、実はまだ何も終わっていないことを歌う。“夢”の意味は聴き手によって変化するだろうが、直線最短距離で叶うわけじゃないそれを心の中で反芻してしまう。

タイトル通り「どこにも行けない僕たちは」という歌い出しで走り出すこの曲ではレーザーがステージを突き刺すような演出がどこか鳥籠のように見え、バンドそのものが葛藤する様を可視化しているようだ。エンディングに街の雑踏のSEが重なり、“階段を踏み外した”と歌い出すと、まさに日常の中に放り出された感覚になる「在る日々」。集団生活に馴染めなくて、一瞬の死の誘惑を思わせる箇所もありながら、彼女は他者からの愛に気づいて生きていく。シンプルなコードストロークだけだが、そこに乗る声の切実さが勝るのだ。日記のような独白からなる歌詞はメロディを伴い、そして緩急を心得たリズム隊の歌心とともに効果的に放たれる。

マツイユウキ(Dr)のビートが次の「Friday」へのブリッジとなり、淡々と何のドラマもない毎日を歌う。叫びのような轟音のアンサンブルを突き抜けていける片桐のボーカルの透明度はやはりこのバンドの強みだ。同じところをグルグル回るように感じられる青春の日々をある種、冷静に突きつけることができるからだ。ひと連なりのストーリーを描いてきたような最初のブロックの締めにはHakubi初のラブソングである「あいたがい」をセット。一人じゃないと思えると同時に自分の弱さを思い知る感じだろうか。ほぼMCなしで第1章を描き切った印象だ。

ステージ前方に紗幕がかかり、歌詞の一部が投影され、映画を見ているような演出が効果的な場面では11月30日リリースの新曲「32等星の夜」が披露された。バンド初のクリスマスソングだというが、細かいニュアンスは今後知ることができそうだ。ベースラインとリムショットに誘われるように始まり、片桐のポエトリーが明確に聴こえる「サーチライト」では歌詞ではない文章が投影され、曲の世界を増幅させた。紗幕が開き、変拍子が鋭く鮮やかに響き、眩しすぎる光がフロアを照らす「薄藍」で現実に戻ってきた感覚を得た。穏やかなテンポの「アカツキ」までの新旧入り混じった選曲で、片桐はもちろん、曲に自己投影する聴き手の“ここまで何とか生きてきた”ストーリーが立体的になったように思えた。

「初のホール、楽しんでますか?」と片桐が問いかけ、長い拍手で応えるファン。ホールならではの演出と3人の堂々とした佇まいに感銘を受けずにいられない。バンド然とした演奏を展開してきた後はよっしーこと善岡慧一(Key)を呼び込み、片桐が「栞」を歌う。希望のかけらが見えるようなこの曲でまさに光のような存在感を示すピアノの音。さらに「すごく大切な曲」と前振りをしてピアノの伴奏のみで歌い始めたのは「22」。何にもなれないという焦りと、ある種、自分という存在の証である名前をくれた人への感謝がないまぜになる心情をこのアレンジで届けたことは非常に意義深かった。ちなみにリズム隊の二人はアンコール時のMCで善岡がOfficial髭男dismのサポートなどで活躍していることを今回知り、驚いたと同時にちょっと自慢げだったことを書き足しておこう。片桐はピアノバージョンを「500億倍ぐらいよかった」と言っていたが…。そういう部分に素のHakubiが見えたりして、張り詰めたライブに一瞬の笑いをもたらしていた。

終盤はストレートなバンドサウンドの「ハジマリ」で、片桐のジェンダーレスなヒーロー感を垣間見たり、さらに加速する「フレア」、ポエトリーも強さを増して響く「mirror」。息が続くギリギリのロングトーンで生きていこうと歌い切った片桐、そしてバンドは1曲1曲を積み重ねてここまで到達したようなドキュメントを見せていたのだ。

本編ラストは「その方がこの曲が完成するような気がするから」という理由で、フロアにスマホのバックライトを灯してもらい、これまでのHakubiの曲の中でも最も日常的な描写が胸に迫る「君が言うようにこの世界は」(ドラマ『青春シンデレラ』主題歌)を披露。諦めではなく、現実を受け入れても前に進めるようになった主人公の心境と大きなグルーブを持った3ピースのシンプルな演奏が真っ直ぐ心に落ちてくる。きっとここから自分のままで大人になっていくという、新しい歩みが始まる期待に満ちたエンディングだったのだ。

アンコールではヤスカワが自前のiPadにファンクラブ入会用のQRコードを提示し、客席に回すという信頼あってこそのサービス(!?)に出たが、「それ帰りにもらえるフライヤーに載ってるやん」とあっさり片桐にバラされてしまう場面も。演奏とMCのそんなギャップもありながら、この不思議なバランスを持つバンドは少しずつ成長していくのだろう。ホールというシチュエーションを味方につけた試みはHakubiの可能性を大いに証明して幕を閉じた。

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/翼、

LIVE INFO

■ポルノ超特急2022
12月17日(土)京都パルスプラザ

■FM802 RADIO CRAZY 2022
12月26日(月)INTEX大阪

■Hakubi one-man tour 2023 -Eye to Eye-(イープラス
2023年4月1日(土)福岡 LIVEHOUSE CB
2023年4月2日(日)岡山YEBISU YA PRO
2023年4月7日(金)名古屋ELL
2023年4月8日(土)金沢vanvanV4
2023年4月15日(土)札幌BESSIE HALL
2023年4月23日(日)仙台MACANA
2023年4月27日(木)BIGCAT(大阪)
2023年4月30日(日)LINE CUBE SHIBUYA(東京)

DISC INFOHakubi「32等星の夜」

2022年11月30日(水)配信
ポニーキャニオン

Linkfire

Hakubi 『Eye』

2023年3月15日(水)発売
初回限定盤(CD+DVD)/PCCA-06178/4,000円(税込)
通常盤(CD)/ PCCA-06179/3,000円(税込)
ポニーキャニオン

Linkfire

関連リンク

一覧へ戻る