2024年8月10日(土)京都藝劇 2024
@京都・KBSホール
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Hakubi主催『京都藝劇 2024』、過去最大で最高な宴に盟友集結「ここにいたことを絶対に誇りにさせてみせるから」

Hakubiが主催するライブイベント『京都藝劇 2024』が、8月10日に京都・KBSホールで開催された。

2019年に始まり通算5回目となる今年は、右近ステージにHakubi、神はサイコロを振らない、SHE'S、Maki、yutori、左近ステージにクレナズム、35.7、TETORA、hananashi、Brown Basketと、過去最大の計10組が出演。昨年は地下にあった左近ステージが地上に移動するなどレイアウトが変更され規模感もアップ。イベント前日には片桐(Vo.Gt)がXで、「先輩たちの背中を追いかけて同じことじゃなくてHakubiらしいイベントを作ろうと考えてきた一年でした。大好きで、少しうらやましくて、尊敬している最高のバンド、アーティストを京都に迎えての京都藝劇。この時代を刻みたいと思います」と意気込むなど気合十分で、左近ステージのhananashiから年に一度の宴が幕を開けた。


■hananashi
これぞスリーピースロックバンドな飾らないサウンドで「明日は」をかき鳴らし、「毎年恒例のHakubiからの手紙にマツイ(ユウキ・Dr)が、「hananashiのライブを見るとクゥ~!ってなる」って書いてあったんで、その「クゥ~!」をみんなに味わわせて帰ります(笑)」(木村健人・Vo.Gt、以下同)と宣言したhananashi。言葉の一つ一つが胸に飛び込んでくる「セイタカアワダチソウ」「ナイトクルージング」でも、有言実行のグッドメロディを響かせる。

「『京都藝劇』は華やかなバンドも熱苦しいライブも見ることができるし、いろんなバンドとか音楽の可能性を感じられるイベントやと思います。俺たちの思うその最高の瞬間を届けて帰れたらと思うのでよろしくお願いします!」

2022年以来2年ぶりという時間は爆発力だけではない説得力を「Guitar」に備えさせ、「同じ京都の仲間として、ライバルとして、俺たちやBrown Basketを呼んでくれたり、毎回TETORAを呼んでるところとか、すごく人間らしいバンドやと思ってます。最後にあいつが歌うとき、上手な歌じゃなくて、感情が高ぶってブレブレになってる歌が聴ければ……俺たちでそういう日にしたいと思ってます!」と宣戦布告したオルタナティブな「染める」、絶叫しながら疾走する「少し先から」、「クゥ~ってなりました? それを感じたい人はまたライブハウスに来てください」と再会を約束した「ato」まで全7曲。前回同様トッパーを担いながら、そこで鳴る音はすごみと重みを格段に増していた。


●yutori
いきなりHakubiの「光芒」をワンフレーズ歌い上げるドラマチックなオープニングで、佐藤古都子(Vo.Gt)の圧倒的な歌力に爆上がり。またたく間にKBSホールを掌握したyutoriは、キレのある演奏としなやかなボーカルが一体となり、「安眠剤」「君と癖」とこれがyutoriの真骨頂と言わんばかりの世界観を築いていく。

「『京都藝劇』に呼んでくれてありがとう! 私は生まれが京都で、古都=京都で生まれた子と書いて古都子という名前なんです。京都でライブをするのは初めてなんですけど、すごく意味のある日だと思っています。今日をいい日にできるように、最後までよろしくお願いします!」(佐藤、以下同)

スリリングかつポップなビートで攻め立てる「有耶無耶」、壮絶なグルーヴの渦に引きずり込む「ワンルーム」、エッジとポピュラリティを併せ持つ「ヒメイドディストーション」と、楽曲の多彩さとクオリティにうなるばかりだ。

「人と人の縁って簡単に消えちゃうものだから、私はあなたと何回でも同じ音を共有したいです。また私たちと会ってくれますか? 『京都藝劇』、初めて京都でライブする日がこの日で良かったです。いろいろなことがある世の中だけど、生きていればどうにかなるから」

ラストは「煙より」「巡ル」の2連発で一気に駆け抜け、プレイヤーとしての華とバンドとしてのケミストリーを証明した、yutoriの京都初ライブだった。


■35.7
現役大学生4人組ロックバンド、通称ゴーテンナナこと35.7は、冒頭の「うそうそほんと」「Hurtful」から溢れ出す衝動を音楽に変えて突っ走る! たかはしゆう(Vo.Gt)のあどけなさとかれんさが共存する声質とキャッチーなメロディ、かみのはら(Gt)の耳を引くフレージングは、「すももドロップ」やバイラルヒットした「祝日天国」でも抜群に機能。初出演×初京都にしてまるで物おじしない姿は、シーンの注目度が高まる理由を示している。

「Hakubiは女の子でもカッコいいというのを忘れないでいさせてくれるバンドで大好きなんですけど、誰に何を言われるのかが大事だと思うんです。Hakubiには「35.7はいいね」と言ってもらえたんですけど、今日は行動でそう言ってもらえたようでうれしくて。それに応えられるように最後まで頑張ります」(たかはし)

「しあわせ」「バッドリピートエンド」で切々と思いを歌にしていく光景は、それだけで訴え掛けてくるものがある。最後は「eighteen candle」で飛んだり跳ねたりの大盛り上がり! 与えられたチャンス=京都での初舞台を、見事にやり切ってみせた35.7だった。


●Maki
「俺たちはつい15分前に着いたんですけど(笑)、このスピードに乗ったままやらせていただきます!」とは山本響(Vo.Ba)。激情のスリーピースロックバンドの看板に偽りなしの音魂をぶちまけたMakiは、SEを流す時間がもったいないと缶ビールを開ける音で代行し(笑)、初っぱなの「ストレンジ」から全力疾走! 「ライブハウス最前線でやってます!」(山本、以下同)と語るのも納得でバンドマンイズムで熱狂するフロアを気遣いながら、「虎」では「一生懸命はカッコいいぜ!」と大合唱を導き出す頼もしさ。「斜陽」の曲間に何度もオーディエンスに呼び掛けるさまからも、愛するライブという空間でとにかく楽しんでほしいという情熱がにじみ出る。

「Hakubiと出会った当初によくやっていた曲」と放った「文才の果て」はエモさ満開で、「俺らは『京都藝劇』に出るのは2回目で。みんなHakubiが好きで、音楽が好きでここに来たってことでしょ? 横にいるヤツもそうだと思うぜ。他人じゃない。音楽好きしかいないこの空間、一緒に楽しもうぜ」といざなったのは「Lucky」。ゆったりとしたBPMのパワーポップに突き上げた拳が揺れる。

「片桐はすごい真面目なのよ、酒を飲むと結構ヤバいけど(笑)。ヤスカワアル(Ba)くんは酒を飲んでも変わらずカッコいい。マツイはゴミです(笑)。そんな風に言えちゃう友達でありライバルで。この後も死ぬほど楽しんで、笑って、いい音楽を聴いて帰ってください!」

「憧憬へ」「シモツキ」と一心不乱に突き進み、「あの日の歌を、ずっとライブハウスで歌ってます」と言い残し舞台を降りたMaki最強!


■Brown Basket
近年はTETORAに次いで『京都藝劇』に名を連ねるBrown Basketは、まさにHakubiの盟友という関係性。同じ京都のバンドとして、年に一度の大勝負に何を残すのか? 「もうひと頑張り」から血管ブチ切れの熱演で、間髪入れずに「何者」をぶっ放し、「去年に引き続き3回目の『京都藝劇』、いこうぜ!」(岸本和憲・Vo.Gt、以下同)と「ROLLING」へ。思わずシンガロングしたくなるメロディラインがBrown Basketたるゆえんで、「こころのこり」でもその魅力を存分に発揮する。

「年に一回の『京都藝劇』、久しぶりに会うからこそ分かるカッコ良くなってる部分とかブレてないところ、Hakubiのそういう芯のあるところが大好きです。Hakubiが、ライブハウスが好きな、今日という日を楽しみにしてきた君たちに」と捧げた「星になるまで」でも、一ミリたりとも余力を残さない熱量で己を燃焼させるBrown Basket。

「いつもあいつらは俺たちの少し先を行ってる。いろんなことがうらやましいなんて思わされる。でも、その影できっとあいつらは、たくさん努力をしたり、苦悩を乗り越えて、こうやってまた再会できた。お互い生き続けてきたから今日がある。やらなきゃならない状況になったら女も男も年齢も関係ねぇ。大切なのは己がやるべきときにぶちかませることだ。今日も負けたくないと思わせてくれてありがとう!」

クライマックスは「BY MY SIDE」「切に願う」と鉄板の2曲を投入。過去最高の拳の数に支えられたBrown Basketの、意地と前進を刻んだ強烈なステージだった。


●SHEʼS
ここからの3組は再び初出演のアーティストが続く。SHE’Sもその1組ながら、1曲目の「追い風」から自ずとクラップが沸き立つなど、『京都藝劇』との親和性は高い。海外の音楽シーンのトレンドをバンドに落とし込む手腕は一級品で、井上竜馬(Vo.Key)の奏でる鍵盤や同期も駆使し、ライブでも過不足なく楽曲を表現。躍動するアーバンなダンスチューン「Raided」や浮遊感漂うチルな「No Gravity」では『京都藝劇』の民を心地良く踊らせ、長丁場のイベントも半ばに差し掛かった時間帯にフィットしたパフォーマンスを展開。毎年、Hakubiのセレクトするラインナップの妙には感心させられるが、SHE’Sもその最たる例だろう。

「京都の皆さんSHE’Sです、初めまして! 今日は誘われてうれしい気持ちと、若手がいっぱいで俺らが最年長か……いやいや年齢なんてただの数字っていう(笑)。こうやって積み重ねていく中で、先輩後輩関係なく巻き込んで、いつかもっとデカいところで『京都藝劇』をやるんやろうなって思うし、その歴史の一ページに関われたことを誇りに思ってます。年上は年上らしく、音楽で語って帰ろうかと」(井上、以下同)

後半戦も、壮大で多幸感に満ちた「Kick Out」を皮切りに、促さずともハンズアップがKBSホールを包み込んだ「Grow Old With Me」、「『京都藝劇』のみんな、まだまだ元気は残ってますか? 最後に一つになろうぜ!」とトドメは祝祭の「Dance With Me」ともう完璧! 自らの役割をきっちり果たし、しっかり楽しませる匠の技で魅せたSHE’S、さすがです。


■クレナズム
My Bloody Valentineの「Only Shallow」のSEを切り裂くフィードバックノイズという飛び切りクールな始まりで度肝を抜いたのが、福岡発のクレナズム。すさまじい轟音の中、萌映(Vo.Gt)のはかない歌声がメランコリーを呼び寄せる「ふたりの傷跡」、神々しさすら感じる圧巻の名曲「花弁」には鳥肌が止まらない。かと思えば、「ホーム」の躍動感とダイナミズムでクレナズムのポップネスを提示。汗だくのモッシュ&ダイブもライブの楽しみ方の一つだが、ただ立ち尽くし音を浴びるのもまたライブ。さまざまな音楽性のバンドがHakubiの名の下になら一堂に会するのも、『京都藝劇』の醍醐味であり求心力と言えるだろう。

「私たちは初めて京都でライブをします。大好きなHakubiのおかげです。呼んでくれて、来てくれて、ありがとうございます! ここからお客さんの一人一人の顔をじっと見ていたら、ものすごくいい顔でライブを楽しんでるなと思って……」と『京都藝劇』の印象にも触れ、公開されたばかりの映画『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』主題歌となった新曲「リベリオン」を惜しみなく披露する。

「秒夏」では機材トラブルが発生するものの、「毎年この時期にSNSを見てると『京都藝劇』の話題で盛り上がっていて、クレナズムも出たいなと思ってたんです。これを機にHakubiとはズブズブになりたいなと(笑)。一緒に夏の思い出を作っていきましょう!」と萌映がナイスフォロー。かえって一体感が生まれた状態で仕切り直し、フィニッシュは「ひとり残らず睨みつけて」! その音で、人で、見る者をとりこにしたクレナズムだった。


●神はサイコロを振らない
柳田周作(Vo)のシャウト一発、強烈なギターリフとともに始まった「修羅の巷」から、歴戦のロックバンドとしての風格があった神はサイコロを振らない。KBSホールを揺さぶる重低音から一転、メロウでドリーミングな「What's Pop?」のもたらす無条件のハピネスに、「揺らめいて候」の体が動かさずにはいられないエクスタシーに満たされる。そう、ものの3曲で神サイに心臓を射抜かれ、彼らの名を世に知らしめたきっかけの一曲「夜永唄」の、どこまでも深く落ちていくファンタジックなサウンドスケープにグッと息をのむ。

「Hakubiとは長い付き合いで、OSAKA MUSEでライブをしたとき、終演後にCDを渡してくれた若いバンドがHakubiでした。僕らもHakubiもどこにも属さないバンドだなと思っていて、歴とかは関係なく戦友でありライバルだなと。満を持して『京都藝劇』に神サイを呼んでくれてありがとうございます。後輩がこんなに大きなイベントを作ってるのを見て、心の底から尊敬してるし、これからも末永く共に戦っていけたらと思います」(柳田)

「秋明菊」からシームレスに溶け込んだ「夜間飛行」。楽曲単体の世界観はもちろんこと、一連のセットリストで毎回別の景色を見せる神サイの二度とないライブが、『京都藝劇』に忘れられないワンシーンを刻み付けた。


■TETORA
毎年、新たな音楽との出会いを提供してくれる『京都藝劇』において、4年連続の出演となったTETORAの存在が『京都藝劇』にとって、Hakubiにとって、どれだけ大きいかは明白だ。「戦友と対バンしに来ました、大阪TETORAです。よろしくお願いします!」(上野羽有音・Vo.Gt、以下同)と告げ、「レイリー」から一聴して何者か分かるハスキーボイスとソリッドなバンドサウンドの黄金配合で、各月にまつわる記憶を表現した最新アルバム『13ヶ月』の「7月」「6月」や、「嘘ばっかり」などマッシブな楽曲群でとことん畳み掛ける!

「今年も混ぜてもらいました、ホンマにありがとう! 正直ちょっと大変なスケジュールではあったけど、Hakubi が本気やったから出演を決めさせてもらいました。今日出演することによって、TETORAが武道館前に見る最後のライブがHakubiになる。最後に対バンするのがHakubiになる。この次、すごいライブを期待してるHakubi!」

わずか2日後に初の日本武道館公演を控えていたにも関わらず駆け付け、「イーストヒルズ」「言葉のレントゲン」「素直」「わざわざ」と曲を重ねるごとに高揚感が増していくのは何ともエモーショナル。「来年も呼んで、何があっても絶対に出るから!」と叫び、昨年はトップバッター、そして今年はトリ前でバチバチの刺激を注入したTETORAが、左近ステージのクローザーとしてHakubiにバトンを渡した。


●Hakubi
開演から約6時間。『京都藝劇』というドラマをつないできた9組の思いを背負って、一人また一人と右近ステージへと現れたHakubiのメンバーを、ひときわ大きな拍手が出迎える。

「『京都藝劇 2024』、楽しんでくれましたか? 来てくれたみんな、本当に本当にありがとう。京都Hakubiです、どうぞよろしく」(片桐、以下同)

じっくりと時間を掛けてHakubiが培ってきた信念に共鳴するように、KBSホールで聴く「光芒」は今や『京都藝劇』のテーマソングのごとく心に染みわたる。「ハジマリ」でも、皆がこの瞬間を待っていたのが場の空気から伝わってくる。満場の観衆がジャンプした「Eye」が、互いの目の前に広がる絶景にさらに彩りを添えていく。

ここで、「大嫌いな地元を出て、京都にやってきました。そうしたら独りぼっちは寂しくて、怖くて。でも、ここで出会えた人、出会えた音楽があって。だからこそ京都でやる意味があります」と当時の心情を描写した「Intro」を奏で、「音楽に支えられて、救われて、大切な人に、目の前のあなたに出会って……歌ってくれるかい?」と呼び掛けるや、会場から巻き起こった「夢の続き」の大合唱。それを片桐が歌い継ぎ、共に音楽にしていく。こんな感動的な情景が生まれるのがライブで、『京都藝劇』で。

「最高です、ありがとう!」と充実した表情で突入したのは「Decadance」。スリーピースバンドというフォーマットながら絶えず自身の音楽をアップデートしていくHakubiだからこそ到達した、新境地のダンスナンバーがKBSホールを揺らす!

「hananashiから始まって、どんどんみんながいいライブをしてくれて、気付いたら自分たちの番でした。でも、緊張じゃなくてめっちゃワクワクしてた。私たちにとって一年が経ったと気付かせてくれるのが『京都藝劇』で。今日は「久しぶり」、「また会えたね」って言えるバンドがいて、改めて「また」があることは素敵なことだな、当たり前じゃないんだなと思いました。だからこそ、「また」を必ずかなえていきたい。「また今度」と言って、もう会えなくなってしまった人へ、後悔の歌を」

そんな片桐のMCを受けた「拝啓」をはじめ、Hakubiの音楽は、時に悲しいのに美しく、静かなのに熱い。続く「Heart Beat」しかり、決して一方的ではない感情が行き来する。だからこそ――。

「全部を分かり合えることはできない。でも、どこかで少しでもつながって、支え合って、歩いていきましょう。また会おうね。幸せでした」

KBSホールの巨大なステンドグラスを背に、魂のアンセム「悲しいほどに毎日は」が鳴り響く。そこにいる全ての人が目いっぱい手を振ったこの時間が、また次の一年への力になる。

「ここにいたことを、絶対に誇りにさせてみせるから。ありがとう、最初から最後まで最高でした。そして『京都藝劇 2025』、やります絶対!」

最後の最後に頼もしい約束を交わした『京都藝劇 2024』、これにて終幕! なお、この日の模様は、ライブストリーミングプラットフォームTwitchのAmazonMusicJPチャンネルで、後日配信予定。


取材・文:奥“ボウイ”昌史(@oku_boy)
撮影:翼、(@na283be) 滋賀作そら(@shiga_saku_sora)

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