オープニングナンバーは、ゴルペルクワイアによるコーラスとオルガンの響きが印象的な「Purpose」だった。オレンジのライトをバックにしたFuruiのソウルフルな歌声とドラムとベースが織りなすファンキーでファットなグルーヴに自然とクラップが湧き起こった。彼女の「TOKYO!」というシャウトを合図に、クラップのヴォリュームはさらに大きくなり、メロウなラップパートではオーディエンスの手が一斉に上がり、最後のバースでは高く掲げた手を左右に揺らすワイパーで、いきなりフロアがひとつとなった。 続く、「PSYCHO」ではFuruiが「叫べ!騒げ!」と呼びかけるとフロアの熱狂が一段と高まり、コール&レスポンスも発生。スリリングでミステリアスなサウンドに合わせて照明の色が目まぐるしく変わっていく「ウソモホント」でもオーディエンスの手が上がりっぱなしで、ライブの序盤から一体感に溢れた空間を生み出していた。
最初のMCで全5公演のチケットがソールドアウトしたことを報告すると、オーディエンスから温かく大きな拍手が送られた。オーディエンスの身体を心地よく揺らした90’sR&B「Candle Light」を歌い終えた後のMCでは、フルバンドでのワンマンライブが初めてであることに触れ、「このバンドが本当に最高で。初めてリハで音を合わせたときに、これだ、私の求めていたものは!って泣いちゃった」と告白していたが、言い換えれば、Furui Rihoライブパフォーマーとしての本来の姿を観客に見せたのもこの日が初めてということ。生のドラムとベースをバックにした彼女のパフォーマンスはまるでファンクシンガーのようで、音源には入らないフレーズとフレーズの間の短いシャウトやフェイクを駆使しながらバンド全体のグルーヴを牽引していた。
そして、語るように歌った「Do What Makes You Happy」では、ドラムとギターのソロをフューチャーし、インストだけでオーディエンスを踊らせる場面もあった。「12月の公演でやっていたクリスマスの曲だけど、盛り上がるからやっていいですか?」と呼びかけた「Silent Night」では、実妹でコーラスを務める“まーちゃん”とのアカペラ合唱も披露。フロアをふたつに分けてのパート練習を経て、ジャムセッションのようなシンガロングも実現。「おしゃべり」というツアータイトル通り、まるで友達のように話しながら一緒に歌うことで、ステージとフロアの距離をグッと縮めてみせた。
「抱きしめられたい人いますか?愛が欲しい人いますか?」と呼びかけ、「今日はみんなを抱きしめたいと思います。愛を届けたいと思います」という言葉に導かれた「ABCでガッチャン」ではハート型のクッションをフロアに投げ込み、「でこぼこ」は一転してハンドマイクでしっとりと歌い上げながら、<僕ら同じじゃだめだから/ほらでこぼこでちょうどいい>というフレーズを共有。心の声をこぼすかのように自身のコンプレックスを曝け出していく「嫌い」では<同じものなんていらない>という気づきに辿り着き、「ピンクの髪」では私だけの色を獲得し、気鋭のトラックメイカーであるShin Sakiuraの楽曲で、フィーチャリングヴォーカルとして参加したインディR&B「n.o.y.b」へ。 “None of your business”=「余計なお世話!」の頭文字を取ったタイトルの曲がここに並んでいることからも分かる通り、人生の目的を見直す「Purpose」から始まったライブは、この中盤で、社会や世間の声に惑わされずに“自分の好きなこと”を追求し、他者と自分を比べることもなく、“ありのままの自分”を愛せるようになるまでの葛藤や苦悩が描かれていたように感じた。
「先日、ブルーノ・マーズのライブに行ってきて。めちゃくちゃ良かったのよ。今日、内なる“フルイノ・マーズ”が暴れ出しちゃって。なんか、降りてきてる、フルイノが」と笑わせた後、観客に「Furui Rihoにやって欲しいこと」を募集。「アルバムを出してほしい」「フェスに出てほしい」「オールナイトイベント」などの声が上がる中で、韓国のファンから「韓国でもライブをやって欲しい」というリクエストが飛び出すと、「韓国が大好きなんですよ。実は今、韓国語を勉強してて。韓国語でも曲を書いてみたいし、いつかTWICEさんと共演したい」という夢を明かし、“いつか私は私を好きになって、私が私のスーパースターになる”という想いを込めたファンクポップ「Super Star」から、観客一人一人の目を見つめ、指さしながら、あなたはもうひとりじゃないというメッセージを届けた「We are」というアップチューンを続けてフロアの熱気を上げ、ライブはクライマックスへと突入していく。
ラストナンバーを前にFuruiは再び、満員の観客に感謝の気持ちを述べると、フロアからは大歓声と温かい拍手が湧き上がった。「泣かせないでよ。ふふ、泣かないよ。Zeppに行ったら泣くって決めてるんだ」という言葉に、「ついていくよ!」という声が上がる中で、「私が音楽をやっている理由は、有名になりたいとか、歌を見せたいとか、そういうことではなくて。みんなと一緒に目の前で繋がって、音楽で愛を届けあったりすることなんだなって、今日、改めて思いました」と「Purpose」から「Super Star」と連なる“歌う目的”を明確に語り、四つうちのR&B「I’m free」で<無邪気なままの私>で<だから歌う/I’ll give you my love>と音楽を通してたくさんの愛を送り、「今日はありがとう。またみなさんに会えますように」という言葉を残してステージを後にした。
アンコールは2022年3月にリリースした1stアルバム『GREEN LIGHT』のタイトル曲で、Yaffleプロデュースの「青信号」でスタートした。ボルチモアクラブ~ガールクラッシュ~R&Bと多彩なジャンルを横断した楽曲でバンドメンバーもオーデェエンスも一緒になってジャンプして盛り上がると、Furuiは<in TOKYO/ここにいた/やっと自分を見つけた>と歌詞を変えて歌唱。MCでは、4月3日にポニーキャニオンから2ndアルバム『Love One Another』のリリースと5月から全国5大都市でのワンマンツアーの開催を発表。「今年は愛がたくさん溢れる年になればいいなと思って。お互いに愛し合うという意味のタイトルをつけました」と解説した後、ライブの前日に、売り上げの全額を能登半島地震の被災者への寄付にあてる「Friends」のリリックビデオを公開したことを報告。「私にできることはやっぱり音楽しかないないと思いまして。この曲は、大人になると友達になかなか会えなくなるじゃないですか。そんな友達と年末年始に会って、すごい幸せだなと思ったんです。いろんなことが起こる中で、いつ会えなくなるかわからないじゃないですか。だからこそ、一緒に過ごす時間が尊いし、大切にしようと思った」と話し、アコースティックR&B「Friends」を目の前の友達に語りかけるようなニュアンスで歌い、フロアを温かいムードで満たし、「いつもありがとう」と心を込めて伝えた。
最後の曲は、人を愛するには、まず自分を愛さないといけないというメッセージが込められたゴスペルナンバー「LOA」。コンプレックスを抱えていた妹のために描いた楽曲だ。「変わらず、愛を忘れずに、自分を大切にして、みんなをたくさん愛して、みんなで支え合って。そんな2024年にしましょう」と呼びかけたFuruiは、この曲だけは、クラップを打ち鳴らす観客に背を向け、コーラスとしてバンドに入っている妹の方に振り返って歌い始めた。フ妹と目を合わせら彼女は、<空は晴れてるかな>の“かな”で声が詰まり、一瞬だが、歌えなくなるシーンがあったが、二人の間にはどんな思いが巡っていたのか。やがて、Furuiは涙を堪えながら前を向き、<きっともう大丈夫/一緒にNow/一緒にNow>と観客に向けて歌いかけ、彼女に自由でありのままのフェイクによって多幸感と開放的な空気が広がる中で、ライブはエンディングを迎えた。自分の弱さを知り、認めて愛することで、他人を愛することにつながるという「LOA」=「Love One Another」を冠にした次のアルバムが今からもう楽しみでならない。
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
写真/tatsuki nakata